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女友達と、毎日一緒という罠
しおりを挟む(よしっ。もっと桐生に頑張ってみよう)
何とか機会を見つけては桐生に話しかけ、須藤を始めとしたクラスメイトの男子に『おっ』という顔をされたり、ニヤニヤされたりもしたけれど、気づかない振りをした。
桐生は戸惑っているようにも見えたけれど、……嬉しそうにも見えたから。
だけど……。
「……あーあ、やっぱり駄目なのかなぁ。桐生と……」
高一の二月に入ったその日、学校帰りに寄ったカフェでお喋りしながら、史帆は大きなため息を吐いた。
向かいでメイプルラテを飲みながら、イノちゃんがスマホをポチポチしながら小首を傾げる。
「どうして? 桐生と何かあったの?」
「んー……。何かイマイチ手応えないんだよね」
学校で顔を合わせれば普通に話すし、かなり距離が縮まってきた、とは思う。
メッセージをこちらから入れれば返ってはくるんだけれど……、向こうからは滅多に来ない。
返信スピードは速かったり遅かったり、……まちまちだ。
「イノちゃんは? やっぱり杉崎先生のこと、頑張るの?」
杉崎先生というのは、去年の秋に教育実習で来ていた大学生の先生だ。
二人が一緒に入っているゆるゆるなバドミントン部の担当にもなって、彼はやたらとイノちゃんに話しかけてきていた。
……というのも、ちょっと暑苦しいノリだった杉崎先生は、赴任挨拶早々史帆達一年A組の生徒達をドン引きさせて、浮きまくっていたのだ。
イノちゃんだけは彼に親切に接していて、杉崎先生は大喜びでイノちゃんに懐いていた。
その勢いを見て、猫まっしぐら――なんて言って、史帆とイノちゃんは苦笑し合ったものだった。
それで二人は連絡先を交換して……、でも教習期間が終わると同時に、杉崎先生はイノちゃんに素っ気なくなってしまった。
用済み、って感じに。
その頃には、大学生の彼にイノちゃんはだんだん惹かれていたから、凄く落ち込んでいた。
(大人って、ズルいよなぁ……)
イノちゃんを見ていて、史帆はそう思った。
必要な時にはあんなに気を持たせるみたいに優しくして、必要がなくなったら、途端にポイ、だ。
イノちゃんは――イノちゃんだけは、授業でも部活でも滑り倒していたあいつに、優しかったのに。
だんだん冷たくなってしまった彼の反応にイノちゃんは一喜一憂して振りまわされて、……結局最初から彼女がいたことがわかって。
何だか、彼の楽しい教習の思い出作りに利用されてしまったみたいだった。
イノちゃんはため息を吐いて、肩をすくめた。
「……ううん。もうかなり気持ち落ち着いてきた。よく考えたら、スーツマジックに騙されてたのかもしれないし」
「あ、それはマジであるよ。ていうか、絶対そう! 制服マジックにウチもやられたし」
「やられたよねー。バイト先の先輩でしょ?」
「の、鼻毛!」
「うわ、キッツいなぁ」
「しかも初デートでかまされたからね? マジ、鏡くらい見てこいよって突っ込みたかったし!」
「指摘しないであげた史帆、偉い」
「ウチ、マジで神じゃない?」
くすくす笑って、イノちゃんも頷く。
イノちゃんの笑顔を見てほっとして、史帆は明るく言った。
「ていうかさ! 杉崎ってハゲの気配なかった? あいつ、絶対若ハゲするよ! ウチがハゲ散らかす呪いかけといてあげるから。あんなハゲ、どーでもいいじゃん」
「あはは! だよね」
イノちゃんは、ますます笑った。
笑いながら目の端から切ない涙が零れて、泣き笑いの顔になった。
桐生のことは気になるけれど……、それ以上に今はイノちゃんの失恋の傷が心配だった。
史帆としては、〈自分でも手が届く程度に〉〈格好いい彼氏が欲しい〉から、〈桐生のことが気になる〉のであって、逆ではなかった。
……この時は、まだ。
イノちゃんの恋が駄目になって、〈じゃあとりあえずよく喋る仲だし話も合う須藤はどうなんだ〉という〈須藤問題〉が検討されて却下になって――……。
となると、イノちゃんと史帆の話題は、どんどん桐生のことばかりになっていった。
……だいたい、毎日一緒だっていうのが悪いのだ。
学校生活って、おかしくない?
どんなに仲がいい友達で話が合ったって、こんなに毎日顔を突き合わせていたら、話題なんてなくなる。
同じ話を繰り返さざるを得なくなって、好きでもないドラマだとかアイドルだとかアニメだとかを話題作りのために追いかけてもそう間が持たなくなって……。
最終的に、一番盛り上がる話題――〈恋〉を無理に進展させなきゃいけなくなる。
「桐生ってさ、ウチのこと、あると思う?」
「うーん。脈ありに見えると思うけどな」
「そっかなぁ……」
「桐生って全然積極的なタイプじゃないし、受け身だよね。好きでも自分からいく勇気、ないのかもよ」
杉崎先生でやらかした失敗を忘れて、史帆とイノちゃんの会話はだんだん都合のいい方向に流れていった。
……史帆は振られたことがなかったから、また上手くいくんじゃないかという、都合のいい楽観主義も頭に浮かんでいた。
まだこの時は、自分は結構可愛い方だという自負もあった。
「……よし。じゃあ、今度桐生が練習ない日探り出して、誘ってみっか! イノちゃん、付き合ってくれる?」
「須藤もセットで?」
「そうそう、そういうことです」
史帆がぺこりと頭を下げると、イノちゃんも頷いた。
「史帆のためだ。じゃあ、まずは須藤の予定を確保するか」
そんな感じで桐生を誘うことに決まって、史帆は学校の廊下で一人歩いている彼を呼び止めた。
「――ねえねえ、桐生! 今日確か、練習休みっしょ? 一緒にカラオケ行こうよ。須藤とかイノちゃんとかも行けるって!」
照れ隠しに声をかけるなりそう言ってしまって、史帆は〈しまった〉と思った。
本題に入る前に、もう少しはさり気ない話題でも振ればよかったのに。
実際、急にいろいろ言われて戸惑ったように、桐生が口ごもった。
「……あー……」
困ったように……、でも、唇の端がちょっとだけ微笑んでいる。
駄目なら駄目でいいや――クラス替えが近いという保険もかけていることだし、別にそんなに好きなわけじゃないし。
そう……、好きな振りしているだけ。
今また彼氏がいないし、何となく手持ち無沙汰だし、イノちゃんと盛り上がる話題作りにもなるし。
さっきまではそう思っていたはずなのに、桐生に断られるのが急に怖くなって、史帆は急いで続けた。
「どう⁉ ね、いいでしょ?」
「うーん、どうすっかな……」
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