傷つけて、傷つけられて……そうして僕らは、大人になっていく。 ――「本命彼女はモテすぎ注意!」サイドストーリー 佐々木史帆――

玉水ひひな

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球技大会

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「どう⁉ ね、いいでしょ?」
「うーん、どうすっかな……」

 少し悩んでいる様子だったけれど、史帆がもじもじしていると、やがて桐生は頭を掻いて答えた。

「えっと……、須藤来るならいいよ。でも、俺あんまり歌えないけど」

 桐生の返事にほっとして、でも、〈ちょっと強引すぎたかな〉とも思う。
 ……もしかすると、桐生は、断ったりして史帆が気まずく思わないように、気を遣ってくれたのかもしれない。
 悪いことをしてしまっただろうか? ああ、駄目だ。いろんな考えが頭に浮かんで消える。
 そんなことをぐるぐる考える度に自分の気持ちが勝手に大きくなってしまうのを感じて、史帆は慌ててこくこく頷いた。

「小学校とかで流行ったアニソンでいいって。一曲くらい何か歌えるっしょ? ウチも最近の歌とか知らないし、気ぃ遣わないでいいから。じゃ、放課後駅集合ねー!」


 ♢ 〇 ♢


 その日四人で行ったカラオケは結構盛り上がって、須藤とイノちゃんが同じタイミングでトイレに出て、少しだけ二人きりで話したりもして――……。
 やっとのことで手応えを感じてきて、桐生も史帆をいいなと感じてくれているのかなと思えた。
 メッセージの返信速度も、少し速くなってきた感じがある。
 でも、そうなってくると、史帆は焦った。

「あー、どうしよ……。もうクラス替えになっちゃうよ」

 クラス替えが近づくまで時間稼ぎをしていたのは自分なのに、今になって史帆はそう思った。
 いつだって、史帆達はないものねだりだ。
 そんな風にいつも通りに史帆が愚痴を零すと、イノちゃんが肩をすくめた。

「じゃあさ、須藤に訊いてもらうっていうのはどう?」
「何を?」
「だから、桐生が史帆をどう思ってるかってこと。あたし、須藤に頼んでみようか?」

 イノちゃんにアシストを申し出られて、史帆は小首を傾げた。
 確かに、さすがに須藤には、史帆が桐生を好きだともう悟られてしまっている。
 でも、須藤に桐生の気持ちを訊いてもらえれば、……史帆も告白する勇気が出るかもしれない。

「それ、ありかも。お願いしちゃおうかな……」
「いいよ。じゃあ、そのうちタイミング見て須藤に言っとくよ」


 ♢ 〇 ♢


 そんな風にイノちゃんと作戦会議を重ねるうちに、やがて、三学期最後の体育系イベント――球技大会の季節が来た。
 この後は大掃除があって期末テストがあって、クラス替えだ。
 もし桐生と上手くいくなら、ちょっとくらいは同じクラスで過ごせる期間があると楽しい……なんて、都合のいいことを考えて、史帆はわくわくしていた。
 球技大会の種目にバドミントンはなくて、史帆はイノちゃんと一緒にバレーボールのメンバーに入ることにしていた。
 桐生は例の昔から頑張っている競技でメンバーになっているから、その観戦の方が自分のバレーボールより楽しみだ。
 自分の試合のために体育館に行くと、史帆は目を見開いた。

「――な……、何でこんなに男子いんの?」

 まだ一回戦で、注目の一戦でも何でもないのに。
 すると、顔をしかめてイノちゃんが教えてくれた。

「たぶんさ、【日南さん】のこと見に来たんだよ。相手、C組だから」
「日南さんって……。あぁ……」
 
 名前を聞いて、何となく合点した。
 日南ナントカさんは物凄く可愛いと評判の一年の女子で、校内の男子達にたくさん告白されているという話だった。
 でも、お高く留まっているとかで、あんまり性格がよくないという噂もあった。
 向こう側のコートに彼女らしき女の子を見つけて、史帆は目を瞬いた。

(うわぁ……。お人形さんみたい……)

 確かに――、日南さんは凄く綺麗な外見をした女の子だった。
 さらさらの長い髪に、ぱっちりと大きな瞳、色白な肌。
 女の史帆でも、守ってあげたくなってしまうような、肩入れしたくなるような雰囲気がある。
 顔やスタイルの造形が整い過ぎて、まるで、絵か写真に写っている女の子を見ているみたいだ。
 彼女は、確かにそこにいて、息をして動いているのに。
 つい日南さんに見惚れていると、隣でイノちゃんがうんざりした声で呟いた。

「男子って、マジで馬鹿だよね……」

 杉崎先生を吹っ切ってからちょっと男嫌いになりかけているイノちゃんが、嫌そうに首を振る。
 と、試合開始前に、コート脇に同クラの男子達に混じって、桐生が現れた。須藤もいる。
 史帆は、つい顔を赤らめた。

(……もしかして、桐生、応援に来てくれたのかな?)
 
 史帆のために――。
 どぎまぎしているうちに試合が始まると、日南さんがサーブを打つ番になって、応援の声が上がった。

「日南さん、頑張ってー!」

 騒がしいその声は、C組の男子達だ。 
 日南さんは恥ずかしそうにこくこく頷き返して、横打ちで『えいっ』とサーブを打った。
 彼女のサーブがたまたま女子同士の間に落ちてお見合いになってサービスエースになると、C組の男子がうるさいくらいに盛り上がった。

 ……と、目をやれば、須藤まで手を叩いて喜んでいる。
 何だ、あいつは。
 今は、史帆達A組が点を取られたのに。

「……やっぱり須藤はないね」
「うん。ないわ。まあ、あいつは純然たる友達枠ということで」
「ですな。友達としてなら、まあ、面白いしね」

 須藤は桐生に気持ちを訊いてくれるとイノちゃんに約束してくれたそうだが――、史帆を思ってというよりかは、面白がっている感じだった。
 そういうのもあって、イノちゃんと一緒に深く頷き合って、史帆は試合に再び集中した。

 C組女子はそんなに強くなくて、試合には史帆達A組が勝って、史帆はイノちゃんや他のメンバーと手を取り合って喜んだ。
 日南さんのことは、この時限りで忘れてしまった。
 同じクラスでもないし、史帆とは関係ない子だと思っていた。


 ♢ 〇 ♢


 その日は桐生がメンバーになっていた得意のスポーツで驚くくらいに活躍して、史帆はドキドキしっ放しだった。
 あんなに桐生が格好いいなんて、史帆だって知らなかった。
 コートを駆け抜ける彼は、まるで一人だけずっとスポットライトを浴びているみたいだった。
 何というか、華があるのだ。
 彼がそこにいるだけで、輝いてしまうような……。教室で過ごしている時の大人しい桐生とは、大違いだった。

(うわ、うわうわうわ! ウチ、見る目あり過ぎない……⁉ まわりに気づかれる前に桐生に頑張っといてよかったぁ……!)

 A組の女子達も他のクラスの子達も、桐生のあまりの格好良さにびっくりするくらいに盛り上がっている。
 イノちゃんも、隣で何度も史帆の肩を揺すっている。

「桐生、超凄いじゃん! ほら、また点入れたよっ。史帆、見て見て! 目ぇ離しちゃ駄目っ」

 桐生が格好いいことを、イノちゃんが史帆のために喜んでくれている。
 史帆は、イノちゃんのためにいい人を見つけたら絶対絶対紹介してあげようと思った。
 すると、イノちゃんが史帆に耳打ちしてきた。

「……こりゃやばいよ、史帆。桐生のファン、今日で凄い増えた気がする。今日球技大会終わったら打ち上げやるって話だったから、何か動いた方がいいんじゃない?」
「う、うん……」

 まだドキドキと桐生のプレイを見つめながら、史帆は頷いた。
 焦る――ひたすら、焦る。
 一秒でも早くちゃんと気持ちを確認しないと、桐生を誰かに盗られてしまう気がした。

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