6 / 25
5. 猫のあくびと警戒心
しおりを挟む
「圭人くん、ソラくん、またね」
「ありがとうございました」
常連客が笑顔で手を振り、ガラスのドアを押して出ていく。扉が閉まると、にぎやかだった店内に静けさが訪れた。
残ったのは、俺とソラだけ。
「あのお客さん、3時間はいたよね」
「そうだな」
ソラは店の特等席、ヴィンテージソファに寝そべり、俺はカウンターの中でグラスを磨いていた。
「まぁ、この店が居心地いいのはわかるけどね」
ソラが欠伸をしながら言う。
「そういえば、このカフェ、いつからケイがやってるの?聞いたことなかったよね」
「3年くらいかな。前のオーナーから俺が譲り受けたんだ。昔ながらの常連さんが多いから、あんまり雰囲気を変えられない」
カフェは木のテーブルや観葉植物に囲まれ、天然木をたくさん使った温かみのある空間。間接照明が壁のレンガを優しく照らす。
本棚には古い小説やレコードが並び、ほのかなコーヒーの香りが漂う。
誰にとっても居心地がよく、つい長居してしまう――そんな店だとよく言われる。
俺自身、この空間に何度も救われてきた。そして今は、ソラと過ごす場所になっている。
夜の7時を過ぎると、雨が降ってきた。予報では雨は深夜だといっていたはずだった。
「明日のランチの仕込みをするかな」
俺がエプロンを締め直すと、
「僕も手伝うよ」
ソファからソラが飛び起きた。
「なに作るの?」
「ビーフシチュー」
客が少なく時間があるときは、煮込み料理ものんびりできる。
最初は黙々と野菜を切り、炒めたりと手を動かしていたが……、やっぱりソラが長く集中できるわけもなく。
グツグツと鍋が音をたてはじめる頃には、すっかり飽きていた。
「ねぇ、これ味見していい?」
俺が混ぜていたソースに、ソラは勝手にスプーンを差し込んだ。
「おい、まだ完成してないって」
「いいじゃん、僕が最初に食べたい」
いたずらっぽい笑み。
まるで猫がじゃれるように、ソラは俺の集中を軽く奪っていく。
その仕草は子供のように無邪気で、それなのに時おり妙に艶っぽく、俺の理性をかき乱す。
「でも、味見するならケイのほうかな」
カプッと、耳たぶを噛まれた。
背中から伝わる生々しい体温に、全身の神経がソラとの接触面に吸い寄せられていく。
「こら、営業中だろ。いつ客が来るか――」
「誰も来ないよ、こんな寒い雨の日」
ソラは俺の首筋に顔を埋める。夜の店で培った、誘惑の技術だろうか。
「ねぇ、こんなに暇なら、今夜はもう店じまいにしてさ。2人で飲むのはどう?」
ソラは俺の肩にアゴを乗せたまま、ゴロゴロと甘えてくる。
「何が飲みたいんだ?」
「ワイン!クリームチーズとクルミにハチミツかけたの、作ってくれる?」
「……しかたないな」
この気まぐれな猫の誘惑には、抗えない。
俺はCLOSEの看板を出そうとドアへ向かった。
その時――。
「こんばんは」
カランとドアベルが鳴り、澄んだ声が響く。
「お邪魔していい?」
濃紺のタイトスカートにピンヒールを履いた、研ぎ澄まされた美しさを纏う女性。しなやかな肢体のラインを際立たせていた。
「梨夏、久しぶりだな」
「すごい降ってきたわ、タオル貸してくれる?」
黒く艶やかな黒髪の雫をはらう。
「ああ、待ってろ」
その瞬間、カウンターに座って寛いでいたソラから甘い雰囲気がすっと消えた。
まるで、猫が背を丸めて警戒するように見えた。
「ありがとうございました」
常連客が笑顔で手を振り、ガラスのドアを押して出ていく。扉が閉まると、にぎやかだった店内に静けさが訪れた。
残ったのは、俺とソラだけ。
「あのお客さん、3時間はいたよね」
「そうだな」
ソラは店の特等席、ヴィンテージソファに寝そべり、俺はカウンターの中でグラスを磨いていた。
「まぁ、この店が居心地いいのはわかるけどね」
ソラが欠伸をしながら言う。
「そういえば、このカフェ、いつからケイがやってるの?聞いたことなかったよね」
「3年くらいかな。前のオーナーから俺が譲り受けたんだ。昔ながらの常連さんが多いから、あんまり雰囲気を変えられない」
カフェは木のテーブルや観葉植物に囲まれ、天然木をたくさん使った温かみのある空間。間接照明が壁のレンガを優しく照らす。
本棚には古い小説やレコードが並び、ほのかなコーヒーの香りが漂う。
誰にとっても居心地がよく、つい長居してしまう――そんな店だとよく言われる。
俺自身、この空間に何度も救われてきた。そして今は、ソラと過ごす場所になっている。
夜の7時を過ぎると、雨が降ってきた。予報では雨は深夜だといっていたはずだった。
「明日のランチの仕込みをするかな」
俺がエプロンを締め直すと、
「僕も手伝うよ」
ソファからソラが飛び起きた。
「なに作るの?」
「ビーフシチュー」
客が少なく時間があるときは、煮込み料理ものんびりできる。
最初は黙々と野菜を切り、炒めたりと手を動かしていたが……、やっぱりソラが長く集中できるわけもなく。
グツグツと鍋が音をたてはじめる頃には、すっかり飽きていた。
「ねぇ、これ味見していい?」
俺が混ぜていたソースに、ソラは勝手にスプーンを差し込んだ。
「おい、まだ完成してないって」
「いいじゃん、僕が最初に食べたい」
いたずらっぽい笑み。
まるで猫がじゃれるように、ソラは俺の集中を軽く奪っていく。
その仕草は子供のように無邪気で、それなのに時おり妙に艶っぽく、俺の理性をかき乱す。
「でも、味見するならケイのほうかな」
カプッと、耳たぶを噛まれた。
背中から伝わる生々しい体温に、全身の神経がソラとの接触面に吸い寄せられていく。
「こら、営業中だろ。いつ客が来るか――」
「誰も来ないよ、こんな寒い雨の日」
ソラは俺の首筋に顔を埋める。夜の店で培った、誘惑の技術だろうか。
「ねぇ、こんなに暇なら、今夜はもう店じまいにしてさ。2人で飲むのはどう?」
ソラは俺の肩にアゴを乗せたまま、ゴロゴロと甘えてくる。
「何が飲みたいんだ?」
「ワイン!クリームチーズとクルミにハチミツかけたの、作ってくれる?」
「……しかたないな」
この気まぐれな猫の誘惑には、抗えない。
俺はCLOSEの看板を出そうとドアへ向かった。
その時――。
「こんばんは」
カランとドアベルが鳴り、澄んだ声が響く。
「お邪魔していい?」
濃紺のタイトスカートにピンヒールを履いた、研ぎ澄まされた美しさを纏う女性。しなやかな肢体のラインを際立たせていた。
「梨夏、久しぶりだな」
「すごい降ってきたわ、タオル貸してくれる?」
黒く艶やかな黒髪の雫をはらう。
「ああ、待ってろ」
その瞬間、カウンターに座って寛いでいたソラから甘い雰囲気がすっと消えた。
まるで、猫が背を丸めて警戒するように見えた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
彼の想いはちょっと重い
なかあたま
BL
幼少期、心矢に「結婚してほしい」と告げられた優希は「お前が高校生になっても好きな人がいなかったら、考えてやらなくもない」と返事をした。
数年後、高校生になった心矢は優希へ結婚してほしいと申し出る。しかし、約束をすっかり忘れていた優希は二ヶ月だけ猶予をくれ、と告げる。
健全BL
年下×年上
表紙はhttps://www.pixiv.net/artworks/140379292様からお借りしました。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
刺されて始まる恋もある
神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる