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17. 触れたい唇
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開店前、店の看板メニューの一つであるティラミスを作っていた。ボウルにマスカルポーネチーズと卵黄、砂糖を混ぜていく。昨夜のもやもやをかき消すように、泡だて器に力をこめる。
すぐ隣では、ソラがコーヒーメーカーの準備をしている。
まるで何事もなかったかのように、鼻歌まで聞こえてきた。そんなに機嫌がよくなるほど、いい夜だったのだろうか。
「ねぇ、それ、味見してもいい?」
ソラの声。 振り向くより早くソラがボウルに手を伸ばす。
「あ、コラ!」
オレはその手を掴んだ。ソラの指先に白いクリームが付いている。
俺は衝動に負けた。 掴んだその指先に、そっと唇を触れさせた。
「え、ケイ……?」
ソラの指を口に含み、ペロリとクリームを舐めとると、優しい甘さが舌に広がる。
「ちょっと甘すぎたかな」
昨夜はこの指が、梨夏の柔らかな髪や肌に触れたかもしれない。そんな嫉妬が俺の頭を支配した。
驚きに目を見開くソラをよそに、俺は掴んだその手を強く引き寄せた。
「ケイ?」
ソラが目を見開くと、グレーがかった無垢な瞳に、自分の嫉妬に歪んだ顔が写った。
「ご、ごめん」
俺が謝罪すると、ソラは赤くなった頬を抑えながら、笑ってみせた。しかし、その声は微かに震えている。
「なんだ、ケイからのキス、期待したのに。僕、いつだって準備できてるのに」
ソラは、俺の胸キュンな部分を正確に射抜く、無防備な言葉を放った。
「なにいってるんだよ」
だって、おまえは昨日は梨夏と……。
そう心で思って、言葉を飲み込んだ。梨夏とソラが結ばれたという、その問いを口にすることへの恐怖が、俺の口を塞ぐ。
俺はハッと我に返り、ソラから体を離した。そして、自分の無様な嫉妬心を隠すために、無理やり言葉を捻り出した。
ちょうどその時、ドアのベルが鳴る。
「おはようございまーーす!」
段ボールを抱えた配送業者の屈託のない声が、静寂を切り裂いた。
「おつかれさまです」
ソラは受け取った納品書にサインしながら、いつもの調子で話している。
さっきまで赤かった頬も、今はもう平然としているように見えた。
その自然さが、少しだけ悔しい。
ボウルを抱え、仕上げのココアをふりかける。
――ふわりと立ちのぼる、ほろ苦い香り。
舌の奥に残るのは、ティラミスの味か。 それとも、ソラの指先に触れたあの一瞬の、苦くて甘い、恋のはじまりの味かもしれなかった。
すぐ隣では、ソラがコーヒーメーカーの準備をしている。
まるで何事もなかったかのように、鼻歌まで聞こえてきた。そんなに機嫌がよくなるほど、いい夜だったのだろうか。
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「あ、コラ!」
オレはその手を掴んだ。ソラの指先に白いクリームが付いている。
俺は衝動に負けた。 掴んだその指先に、そっと唇を触れさせた。
「え、ケイ……?」
ソラの指を口に含み、ペロリとクリームを舐めとると、優しい甘さが舌に広がる。
「ちょっと甘すぎたかな」
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驚きに目を見開くソラをよそに、俺は掴んだその手を強く引き寄せた。
「ケイ?」
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「ご、ごめん」
俺が謝罪すると、ソラは赤くなった頬を抑えながら、笑ってみせた。しかし、その声は微かに震えている。
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ソラは、俺の胸キュンな部分を正確に射抜く、無防備な言葉を放った。
「なにいってるんだよ」
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ちょうどその時、ドアのベルが鳴る。
「おはようございまーーす!」
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