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5. 誘惑と逃避
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「今夜もTOMARIGIの『ことりの羽やすめ』にお付き合いいただきありがとうございましたー!」
生放送が終わった瞬間、スタジオの赤いランプが消える。ヘッドホンを外した伊勢が、大げさに伸びをした。
「桐生さんとのトーク、楽しかったですね!」
「伊勢くんと一緒だと、僕もつい楽しくなって話しすぎちゃうな。またぜひ呼んでください」
桐生さんは笑顔で伊勢と握手を交わしている。
胸ポケットに隠したカードの熱を感じながら、二人のやり取りをぼんやりと見ていた。
すると、急に桐生さんが振り向いた。
「片倉くん、じゃあ、またね」
微笑まれ、思わずドキっとする。
「あ、ありがとうございました」
オレが頭を下げると、桐生さんは静かにスタジオを後にした。
「じゃあ、俺は明日早いんで」
メンバー最年少の蒼真は、スタッフに挨拶を済ませると、すぐに楽屋を出ていった。これは、いつものことだ。
残されたのは、伊勢と、桐生と、そしてマネージャーの湊さん。
「桐生さん、いつお会いしても、大人の色気がありましたね」
湊さんがボソッと呟く。
「心の声が聞こえてる」
顔面に『不満』と書いた伊勢が、湊さんを睨んだ。
「あ、えーーと、僕は事務所に連絡してきますから、伊勢くんと片倉くんは、先に車に行っててくださいね!自宅前まで送りますから」
慌てて楽屋を出て行った。
「桐生さん、前に湊を狙ってたからな」
「え、そうなの?」
「まぁ、どこまてま本岐か分からないけどな」
桐生さんが芸能人だという噂は、業界ではわりと有名人らしいけど。まさか、湊さんみたいなタイプが好きなのか……。伊勢も桐生さんも、好みが似ているんだな。
「さっさと帰ろうぜ。先に片倉の家からでいいよ」
「あ、うん」
それは気遣いではないことを、オレは知っている。
どうせ、オレを送ったあとは湊さんを部屋に誘うのだろう。それで、また、あのラブシーンみたいにーー。
「お待たせ!さぁ、帰りましょう」
移動車で待っていると、湊さんが走ってやって来た。
「走ると転ぶよ」
「子供扱いしないでください。僕はみなさんより年上ですよ」
「ドジすぎて、年上には思えないな」
「桐生さんなら、そんなひどいこと言いませんよ」
「おい!」
車内で繰り返されるやりとり、このままでは、オレの嘘くさい笑顔が崩壊する気がした。
「あ!忘れてた!」
オレの突然の大声に、2人の動きが止まる。
「なんだよ、片倉。どうした?」
「このあと、予定があったんだ。オレはここで失礼するよ」
声がわずかに上擦る。
「めずらしいな。インドアな片倉がこんな時間に?」
「と、友達と会うんだった。急に連絡が来てさ」
根が真面目なだけに、咄嗟の嘘で背中に汗が滲んだ。
「そうか」
伊勢は深く追求せず、納得したようだ。早く湊さんと2人になりたいもんね。そうに決まっている。
「お約束の場所まで、送りましょうか?」
「いや、すぐ近くだから」
オレは荷物を持ち車を降りた。
「片倉くん、明日は午後から新CMの撮影ですから、寝不足には気をつけてくださいね」
「うん、分かった」
「名にかあったら、夜中でも必ずしも連絡してくださいね」
湊さんに優しい笑顔を向けられ、ズキンと心が痛む。
この人は、オレたちのためにいつも一生懸命だ。とても優しくて、温かい心の持ち主だ。
これだって大好きだ。それなのに、こんな嫉妬でもやもやする自分が嫌になる。
「じゃあな、おつかさん」
伊勢が窓を開けて手を振ると、ゆっくりと車は発進した。
地下駐車場から車が見えなくなるのを確認し、オレは胸ポケットからカードを取り出した。
クセのない、読みやすい数字が書かれている。スマホに11桁の番号を打ち込むと、すぐにコール音が鳴り響いた。
2回、3回と鳴る音。そしてーー。
「はい」
つながった。
「あ……、あの、片倉です」
「うん、きっと連絡をくれると思っていたよ」
苦しみから救うような、少し低くて、でもとても柔らかな声だった。
生放送が終わった瞬間、スタジオの赤いランプが消える。ヘッドホンを外した伊勢が、大げさに伸びをした。
「桐生さんとのトーク、楽しかったですね!」
「伊勢くんと一緒だと、僕もつい楽しくなって話しすぎちゃうな。またぜひ呼んでください」
桐生さんは笑顔で伊勢と握手を交わしている。
胸ポケットに隠したカードの熱を感じながら、二人のやり取りをぼんやりと見ていた。
すると、急に桐生さんが振り向いた。
「片倉くん、じゃあ、またね」
微笑まれ、思わずドキっとする。
「あ、ありがとうございました」
オレが頭を下げると、桐生さんは静かにスタジオを後にした。
「じゃあ、俺は明日早いんで」
メンバー最年少の蒼真は、スタッフに挨拶を済ませると、すぐに楽屋を出ていった。これは、いつものことだ。
残されたのは、伊勢と、桐生と、そしてマネージャーの湊さん。
「桐生さん、いつお会いしても、大人の色気がありましたね」
湊さんがボソッと呟く。
「心の声が聞こえてる」
顔面に『不満』と書いた伊勢が、湊さんを睨んだ。
「あ、えーーと、僕は事務所に連絡してきますから、伊勢くんと片倉くんは、先に車に行っててくださいね!自宅前まで送りますから」
慌てて楽屋を出て行った。
「桐生さん、前に湊を狙ってたからな」
「え、そうなの?」
「まぁ、どこまてま本岐か分からないけどな」
桐生さんが芸能人だという噂は、業界ではわりと有名人らしいけど。まさか、湊さんみたいなタイプが好きなのか……。伊勢も桐生さんも、好みが似ているんだな。
「さっさと帰ろうぜ。先に片倉の家からでいいよ」
「あ、うん」
それは気遣いではないことを、オレは知っている。
どうせ、オレを送ったあとは湊さんを部屋に誘うのだろう。それで、また、あのラブシーンみたいにーー。
「お待たせ!さぁ、帰りましょう」
移動車で待っていると、湊さんが走ってやって来た。
「走ると転ぶよ」
「子供扱いしないでください。僕はみなさんより年上ですよ」
「ドジすぎて、年上には思えないな」
「桐生さんなら、そんなひどいこと言いませんよ」
「おい!」
車内で繰り返されるやりとり、このままでは、オレの嘘くさい笑顔が崩壊する気がした。
「あ!忘れてた!」
オレの突然の大声に、2人の動きが止まる。
「なんだよ、片倉。どうした?」
「このあと、予定があったんだ。オレはここで失礼するよ」
声がわずかに上擦る。
「めずらしいな。インドアな片倉がこんな時間に?」
「と、友達と会うんだった。急に連絡が来てさ」
根が真面目なだけに、咄嗟の嘘で背中に汗が滲んだ。
「そうか」
伊勢は深く追求せず、納得したようだ。早く湊さんと2人になりたいもんね。そうに決まっている。
「お約束の場所まで、送りましょうか?」
「いや、すぐ近くだから」
オレは荷物を持ち車を降りた。
「片倉くん、明日は午後から新CMの撮影ですから、寝不足には気をつけてくださいね」
「うん、分かった」
「名にかあったら、夜中でも必ずしも連絡してくださいね」
湊さんに優しい笑顔を向けられ、ズキンと心が痛む。
この人は、オレたちのためにいつも一生懸命だ。とても優しくて、温かい心の持ち主だ。
これだって大好きだ。それなのに、こんな嫉妬でもやもやする自分が嫌になる。
「じゃあな、おつかさん」
伊勢が窓を開けて手を振ると、ゆっくりと車は発進した。
地下駐車場から車が見えなくなるのを確認し、オレは胸ポケットからカードを取り出した。
クセのない、読みやすい数字が書かれている。スマホに11桁の番号を打ち込むと、すぐにコール音が鳴り響いた。
2回、3回と鳴る音。そしてーー。
「はい」
つながった。
「あ……、あの、片倉です」
「うん、きっと連絡をくれると思っていたよ」
苦しみから救うような、少し低くて、でもとても柔らかな声だった。
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