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結婚生活 1年10ヵ月 ~スノードロップ~
〈前編〉表の花言葉
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「あら、こんなところに可愛い花が」
侯爵家の中庭には、四季折々の花が植えられています。
腕のよい庭師が毎日、丁寧な仕事をしてくれるので、今日も美しい我が家の自慢のお庭です。
「スノードロップね」
小さな雪のような白い花が、たくさん咲いています。
「雪の雫という意味で、別名は『待雪草』、雪解けを待っていたかのように咲く姿に由来しているそうよ」
「よくご存知ですね」
マルス子爵婦人が感心したのうに呟きます。
「庭師のラウに花の本を借りたのよ」
「見た目も名前も愛らしいですね。春を告げる花でしょうか」
「そうね。今日は暖かいから、お庭でお茶をいただきましょうか」
側に控えていたメイドたちが、「かしこまりました」と言って、準備に取りかかってくれます。
我が家のメイドは、みんな仕事が早く、なにより私の求めていることを迅速に察してくれる、優秀な子が多いのです。
「でも、おかしいですね。この花壇はフリージアが植えられていて、もうすぐ咲きそうです。花壇の片隅に、スノードロップが少しだけ紛れているなんて」
マルス子爵夫人が首をかしげています。確かに、庭師が植えたものとは違うようです。
「まぁ、いいわ。可憐な小さな花を、わざわざ摘んでしまうのは可哀想よ」
そのとき――、
「おーい、ルイディア!」
はい、来ました。
脳みそと下半身が一体化しているバカ殿――いえいえ、私の愛しの旦那様です。
「どうかなさいましたか?」
「明日の夜会に着ていくタキシード、どれがいいか見立ててくれない?」
公爵家のご息女のお誕生日会です。本当なら、侯爵である私のお父様とお母様が行かれるべきなのですが……。
「ぎっくり腰って、なかなか治らないんだね。お義父さん、まだ痛くてひーひー言ってるよ」
身体の弱いお母様が一人で参加できるはずもなく、代理で私たち夫婦の出番と相成りました。
「あまり、過度ではないものがよろしいかと。マートル様はそのままで十分、華がありますからね」
マルス子爵夫人が小声でアドバイスしてくれます。
「そうね。ただでさえ旦那様は、見た目だけは良いから、着飾ると目立ってしまうわね」
「ちょっと、ルイディア。見た目だけって酷くない?もっといいところあるよ」
「失礼しました。では、例えばどのような?」
旦那様は顎先に人差し指を当て、うーーん、と悩ましいポーズです。どこかの美術館にあった彫刻に、似たようなものがあった気がします。気のせいでしょうか。
「夜の体力には自信があるよ?」
「旦那様、それは……」
私があとの言葉に詰まると、
「大変よろしゅうございますね」
マルス子爵婦人が笑顔で繋いでくれました。
「あ、キレイに咲いたね!」
突然、旦那様の視線が花壇へ向けられました。
「この白い花、僕が植えたんだよ」
「まぁ、旦那様が、このスノードロップを?」
旦那様は、指先で白い花をツンツンとしながら、
「僕宛てに植木鉢が届いてね。庭師のラウさんに相談したら、ここに植えてあげたら?って言われたんだ」
「どなたからの贈り物です?」
顔がいいだけに、私と結婚しているにも関わらず、女性からの贈り物は定期的に届くのです。
内容を把握するため、すべて私を通すように執事には伝えてあるのに。
「差出人は書いてなくて、僕の部屋に置いてあったんだよ」
「それは、妙ですね」
「気味が悪くありませんか?」
私とマルス子爵夫人が、同時に首をかしげます。
「でも、花には罪がないしね」
「確かにそうですが」
「それじゃあ、あとでタキシード選んでね」
そう言って、旦那様は屋敷の中へ入っていきました。
スノードロップ。確か花言葉は、希望や慰め。
なんだか、嫌な予感がします。
侯爵家の中庭には、四季折々の花が植えられています。
腕のよい庭師が毎日、丁寧な仕事をしてくれるので、今日も美しい我が家の自慢のお庭です。
「スノードロップね」
小さな雪のような白い花が、たくさん咲いています。
「雪の雫という意味で、別名は『待雪草』、雪解けを待っていたかのように咲く姿に由来しているそうよ」
「よくご存知ですね」
マルス子爵婦人が感心したのうに呟きます。
「庭師のラウに花の本を借りたのよ」
「見た目も名前も愛らしいですね。春を告げる花でしょうか」
「そうね。今日は暖かいから、お庭でお茶をいただきましょうか」
側に控えていたメイドたちが、「かしこまりました」と言って、準備に取りかかってくれます。
我が家のメイドは、みんな仕事が早く、なにより私の求めていることを迅速に察してくれる、優秀な子が多いのです。
「でも、おかしいですね。この花壇はフリージアが植えられていて、もうすぐ咲きそうです。花壇の片隅に、スノードロップが少しだけ紛れているなんて」
マルス子爵夫人が首をかしげています。確かに、庭師が植えたものとは違うようです。
「まぁ、いいわ。可憐な小さな花を、わざわざ摘んでしまうのは可哀想よ」
そのとき――、
「おーい、ルイディア!」
はい、来ました。
脳みそと下半身が一体化しているバカ殿――いえいえ、私の愛しの旦那様です。
「どうかなさいましたか?」
「明日の夜会に着ていくタキシード、どれがいいか見立ててくれない?」
公爵家のご息女のお誕生日会です。本当なら、侯爵である私のお父様とお母様が行かれるべきなのですが……。
「ぎっくり腰って、なかなか治らないんだね。お義父さん、まだ痛くてひーひー言ってるよ」
身体の弱いお母様が一人で参加できるはずもなく、代理で私たち夫婦の出番と相成りました。
「あまり、過度ではないものがよろしいかと。マートル様はそのままで十分、華がありますからね」
マルス子爵夫人が小声でアドバイスしてくれます。
「そうね。ただでさえ旦那様は、見た目だけは良いから、着飾ると目立ってしまうわね」
「ちょっと、ルイディア。見た目だけって酷くない?もっといいところあるよ」
「失礼しました。では、例えばどのような?」
旦那様は顎先に人差し指を当て、うーーん、と悩ましいポーズです。どこかの美術館にあった彫刻に、似たようなものがあった気がします。気のせいでしょうか。
「夜の体力には自信があるよ?」
「旦那様、それは……」
私があとの言葉に詰まると、
「大変よろしゅうございますね」
マルス子爵婦人が笑顔で繋いでくれました。
「あ、キレイに咲いたね!」
突然、旦那様の視線が花壇へ向けられました。
「この白い花、僕が植えたんだよ」
「まぁ、旦那様が、このスノードロップを?」
旦那様は、指先で白い花をツンツンとしながら、
「僕宛てに植木鉢が届いてね。庭師のラウさんに相談したら、ここに植えてあげたら?って言われたんだ」
「どなたからの贈り物です?」
顔がいいだけに、私と結婚しているにも関わらず、女性からの贈り物は定期的に届くのです。
内容を把握するため、すべて私を通すように執事には伝えてあるのに。
「差出人は書いてなくて、僕の部屋に置いてあったんだよ」
「それは、妙ですね」
「気味が悪くありませんか?」
私とマルス子爵夫人が、同時に首をかしげます。
「でも、花には罪がないしね」
「確かにそうですが」
「それじゃあ、あとでタキシード選んでね」
そう言って、旦那様は屋敷の中へ入っていきました。
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なんだか、嫌な予感がします。
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