【完結】ドジな新人マネージャー♂に振り回される、クールなアイドルの胸キュン現場 <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

文字の大きさ
11 / 20
#1

10. マネージャーではいられない

しおりを挟む
伊勢くんと桐生さんのキスシーンの翌日、TOMARIGIの活動に関する打ち合わせがあった。

資料と飲み物を用意して会議室に入る。中にいたのは伊勢くんだけだった。予定時間より15ふんだんも早いのに。

「湊さん、おはようございます」

「伊勢くん……、早いですね」

パタン、と背後でドアが閉まり、会議室は無音に包まれる。なんだか気まずい。

廊下からは賑やかな声が響いているのに、ここは、世界から僕たち二人だけが切り離されたみたいだった。


「き、昨日は遅かったんですか?」

 自分でも驚くほど声が上ずった。

「いえ。軽く食事してすぐに帰ったから」

「そう、ですか」


思わず『だれと?』と、喉まで出かかった言葉を、必死に飲み込む。プライベートに口出すなんて、できない。

「ドラマの撮影、順調ですね」

「そうですね」


なんとか話題をして、当たり障りのない話を選ぶ。


「桐生さんとは、前々からお知り合いですか?」

「あぁ、3年前にちょい役で出たドラマで共演してから、時々連絡する仲かな。頼れる兄みたいな人だけど――、なんで?桐生さんが気になるわけ?」


伊勢くんの目が、真っ直ぐに僕を射抜く。


「もしかして、昨日は本気で口説かれたと思ってるの?」

「いえ、そんなまさか!ただ、伊勢くんと息が合う演技だったと、そう思っただけです」

必死に笑顔を作った。伊勢くんは、わずかに口元を緩める。

「キスシーンのこと?」


その一言で、再び心臓が跳ね上がった。全身の血が、一気に頬に集まっていくのがわかる。


「見ていて、ドキドキしました」


思わず小さく吐き出す。それは、マネージャーとしてではなく、ファンとしての本音だった。


「キス、したくなった?」

伊勢くんの瞳が、鋭く光る。

「え!いや、そんなことは」

からかうような口調なのに、どこか真剣さが混じっていて、心臓が暴れ出す。彼の本心がわからなくて、ただただ戸惑った。

「湊さん、最後にキスしたのはいつ?」

「ええ!な、ナイショですよ!」

「未経験ってことはないよね」

「まさか、そんなわけないです。多少の経験ならあります」


伊勢くんはが席を立ち、僕の隣の椅子へと座った。

「キスしたい」

「へ?」

「だめ?」

伊勢くんが指先で僕の手の甲に触れた。


「ぼ、僕は、ドラマの練習台ですか?」


思わず裏返った声。伊勢くんは冗談のつもりでも僕の胸の奥はドキドキが止まらない。

「練習台かぁ。確かに、来週は桐生さんとのベッドシーンもあるけど……」


伊勢くんの指先から伝わる熱が、僕の思考をさらに乱す。視線と距離感に、心臓が押し潰されそうだった。

「マネージャーとして、体をはって練習させてくれるなら、ありがたいよね。これまでずっと、ドジでミスばかりだけど、今こそ役に立ってもらおうかな」

「か、からからないでください」

「本気だったら?」

「いえ、ですから」

「俺と桐生さんと、どっちを取る?」


突然、眼差しに寂しさが浮かぶ。なんで、こんなに僕の心を揺さぶるのか。


「ぼ、僕は――」


そのときだった。

「おっはよーーございます」


片倉くんが元気にドアを開けた。一気に明るい空気が広がった。


「おはようございます!」


すぐ後ろからは、落ち着いたトーンの蒼真くん。さらに、チーフマネージャーの泊さんもやって来た。

自然と胸のざわつきが少し落ち着く。伊勢くんもチラリと僕を見ると、既にいつものポーカーフェイスに戻っていた。

僕と彼の間の張りつめた空気は、あっという間に霧散した。

メンバーと泊さん、そして僕で、TOMARIGIの今後について打ち合わせが始まる。

「ファーストアルバム発売と、アリーナツアーが正式決定したぞ!」


泊さんからの朗報に、メンバー総立ちだ。

「やったー!」

「ぶちかますぞ!」

「また忙しくなるな」


それは、伊勢くんも例外ではなく、キラキラとした笑顔で喜ぶ姿に、僕も自然と笑顔になる。この場所にいられることが、ただただ嬉しかった。


「銀テープは出したいよな、あと炎の演出!」

「ついに俺たちのライブでできるのかな」


会場と動員数、セットリスト、衣装。メンバーのおおまかな希望や思いを話し合う。それらを、すべてメモして議事録にまとめるのも、マネージャーである僕の大事な仕事だ。

そして打ち合わせの最後に、泊さんが僕に目を向けた。僕は軽くうなずいた。


「湊は、来週から広報部に戻ることになった」

そう、僕もつい数時間前に聞いたばかりの話だ。

「え、なんで急に?」

片倉くんが声をあげる。

「元々、人手不足の一時的な措置だったからな。TOMARIGIの人気には事務所が期待している。経験豊富な新しくマネージャーに任せた方がいいだろう?ちょうど、いい人がいてな」

横に座っていた蒼真くんが、慌てて口を開いた。


「俺はいやだな、せっかく湊さんに慣れたのに」

片倉くんも続く。

「そうそう。蒼真は人見知りなんだからね。伊勢だって、湊さんのほうがいいよな?」

伊勢くんは視線をスマホに落としたまま、

「まぁ、仕方ない」


え?それだけ?やっぱり、さっきのはからかわれただけ?

スケジュール管理は何度もミスした。余計な負担をかけてばかりだった。なにもかも、完璧にはこなせなかった。クビになるのも当然か。

僕が伊勢くんのマネージャーでいることは、彼にとっても会社にとっても、メリットなんて何一つなかったんだ。

「マネージャーでなくても、これからも、TOMARIGIのファンとして応援します」


泣きそうになるのを、必死でこらえた。この場所からいなくなるなんて、考えたくなかった。

僕は、伊勢くんに必要ないマネージャーだったのだ。そう思うしかなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

オレンジの奇跡~夕と凪、僕らが交わる世界~

けいこ
BL
両親が営む小さな旅館『久我屋』を手伝いながら、BL小説を書いている僕。 穏やかにゆっくりと過ごす日常に満足していたある日、僕の前にとんでもなく魅力的な男性が現れた。 今まで1度も誰かを好きになったことがない僕にとっては、この感情が何なのか理解できない。 複雑に揺れ動く心に逆らえず、今までとは明らかに違う現実に戸惑いながら、僕の心はゆっくり溶かされていく……

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

前世で超有名だったBLゲーに転生してた

明瑠
BL
同性愛も異性愛も当たり前にある世界なのでチラチラとNLやGLも出てくる予定ですがBLメインのお話です 趣味に全振り 忙しい合間にちまちま書き進めていこうと思っています。たまに読み返しておかしな所があったらぼちぼち直していきます。 恋を知ってる青年と、まだ恋をした事がない彼らのお話

Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー

むぎしま
BL
大人気アイドル・櫻井来夢が恋をしたのは、 ライバル事務所のマネージャー・本郷ルカだった。 強く、知的で、頼れる大人の男。 その背中に憧れ、来夢は彼を追いかける。 ──仕事のできる色男・本郷ルカは、女にモテた。 「かっこいい」「頼りたい」「守ってほしい」 そんな言葉には、もう慣れていた。 けれど本当の心は、 守られたい。愛されたい。 そして、可愛いと思われたい。 その本心に気づいてしまった来夢は、 本郷を口説き、甘やかし、溺愛する。 これは、 愛されることを知った男と、 そのすべてを抱きしめたアイドルの、 とても幸せな恋の話。 独占欲強めな年下アイドル (櫻井 来夢)   × 愛に飢えた有能マネージャー (本郷 ルカ) ーー 完結しました! 続編もよろしくお願いいたします〜〜!! (櫻井×本郷要素もあります!!) 番外編も第二章も書きたい!!

処理中です...