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ステージ 1.5 〈卒業式のあと〉
2. 最後の制服を脱がすのは…
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都内の一等地。セキュリティ万全のマンション、蒼真先輩はこの高層階に住んでいる。
そして、同じマンションの下層階のワンルームが、今日からオレの新居となる。最安値といっても、ごく普通の大学生の一人暮らしには贅沢すぎる部屋だけど……。
「あれ?予定より早かったですね」
玄関を開けると、湊さんが出迎えてくれた。
「荷物は全部運び終わってますからね」
特待生として事務所が家賃補助をしてくれ、蒼真先輩と同じマンションの別部屋で生活することになった。
「ありがとうございます。すみません、湊さんが入居立ち合いしてくださったなんて」
「ここは事務所の契約物件だから、社員が対応するのは当然だよ。いっそ、TOMARIGIのメンバー全員、このマンションに住んでくれたら、楽なんだけどなぁ」
湊さんがにこりと笑う。そこらのアイドルより可愛い人だよね。なんで芸能事務所のマネージャーなんだろう。
「はい、これ鍵ね。ゴミ出しとか詳しいことは、蒼真くんに聞いた方が早いよね」
「ああ。それより、伊勢のお迎えだろ?」
「あ、そうだね。待たせると機嫌悪くなるから、もう行くね。ツバサくん、諸々の手続きがあるから、明日は事務所に来てね」
湊さんは、慌ただしく出ていった。
「蒼真先輩、前から思ってたけど……」
「なんだ?」
「湊さん、伊勢さんといるとき、なんか可愛いですよね。いえ、年上に言うのも失礼なんだけど」
「逆だろ」
「え?」
「湊さんといると、伊勢が可愛いくなんだろ」
それって――と、尋ねようとしたとき、蒼真先輩は薄いレースのカーテンをサッと閉めた。そして、
「はぁ、やっと本当に二人きりになれたな」
蒼真先輩は、ゆっくりオレの腕を引き寄せる。
「……ツバサ。こっち向いて」
言われるままに振り向くと、次の瞬間、強く抱きしめられた。
「卒業おめでとう」
耳元で低い声。背中を撫でる手。体を預けたらそのまま溶けてしまいそうな熱さ。
「抱きたい」
その瞬間、オレの理性はバラバラと崩れた。
「ま、まだ、明るいですよ?」
「今さらだろ。ツバサの最後の制服は、俺の手で脱がせたい」
スルッとネクタイがほどかれた。そのまま、シャツのボタンに、蒼真先輩の細い指先がひとつ、ふたつと外されていく。
「我慢できない」
唇が触れた瞬間、足が震えた。久しぶりのキスは、最初から深くて、呼吸の隙間すらくれないくらい熱かった。
「会いたかった……ツバサ……」
「はい……オレも……」
キスの合間に言葉が漏れる。腕の中で抱きしめられる感覚が、体の奥まで痺れさせた。
◆◆◆
いつの間にか、窓の外は日が暮れていた。部屋の隅に置かれた段ボールが、すっかり夜の暗がりに沈んでいる。
狭いシングルベッドで抱かれ、まだ余韻に浸るまどろみの中、蒼真先輩が天井を見ながらぽつりと呟いた。
「ツバサ。やっぱり、俺と一緒に住む気はないんだな?」
「それは――」
物件を探すときに、何度も『うちに住めば?』と誘われた。それは、本当に目眩がするほど嬉しい話だ。だけど……。
「俺と一緒にいるのは嫌か?」
「な、違うっ……!」
「じゃあ、なんで?部屋は空いてるし、不自由させないし。俺はツバサと一緒にいれる時間を、一秒でも無駄にしたくない」
胸が苦しくなる。同じ気持ちだけど、言わなきゃ伝わらない。
「オレ、本当は待つの……嫌いなんです」
蒼真先輩が動きを止めた。
「母さんがずっと働いてて……、子供の頃から、夜遅くまで一人でいることもあったから。ずっと、暗い部屋で待つのは辛かった。たぶん、母さんも同じくらい、辛かったと思う」
「ツバサ……」
沈黙。ゆっくりと、蒼真先輩がオレの頬を包む。
「TOMARIGIは、もうすぐツアーが始まるし、先輩はもっと忙しくなるでしょう?」
「待つのも、待たせるのも、どっちも辛い――か」
「うん。だからこそ、先輩に会えた時間を大事にしたい。今日は来てくれて嬉しかった」
「どんな無理してでも、今日だけは……絶対にお前のそばにいたかった」
息が止まるほど甘い声だった。
「それでも、俺は自分のワガママな気持ちを、これからも押さえきれない」
蒼真先輩は、オレの腰を引き寄せ、額をくっつけてきた。
「ツバサには、触れられる距離にいて欲しい」
「先輩……」
額にだけ軽くキスをくれる。
「でもツバサ。覚悟しとけ」
「……なにが?」
「これから一気に忙しくなるのは、俺だけじゃない。ツバサは大学も、レッスンも、デビューの準備もある」
「うん」
蒼真先輩の目が、少しだけ鋭くなった。恋人の顔でもあり、プロとしての顔でもある目。
「次のステージに立つための準備、ですね」
その言葉が、新しい物語の扉を開く鍵みたいに感じた。オレは、小さく息を吸って、微笑んだ。
蒼真先輩は、オレの手を引き寄せ、その甲にキスを落とす。
「根性はある、母親のお墨付きだったな」
「はい」
「期待している。でも――」
甘いのに、逃がさない声。
「今夜は一晩中、俺だけのものでいて」
その瞬間、オレは確信した。
ここから始まる物語は──、恋の続き、そして、夢の始まりだ。
そして、同じマンションの下層階のワンルームが、今日からオレの新居となる。最安値といっても、ごく普通の大学生の一人暮らしには贅沢すぎる部屋だけど……。
「あれ?予定より早かったですね」
玄関を開けると、湊さんが出迎えてくれた。
「荷物は全部運び終わってますからね」
特待生として事務所が家賃補助をしてくれ、蒼真先輩と同じマンションの別部屋で生活することになった。
「ありがとうございます。すみません、湊さんが入居立ち合いしてくださったなんて」
「ここは事務所の契約物件だから、社員が対応するのは当然だよ。いっそ、TOMARIGIのメンバー全員、このマンションに住んでくれたら、楽なんだけどなぁ」
湊さんがにこりと笑う。そこらのアイドルより可愛い人だよね。なんで芸能事務所のマネージャーなんだろう。
「はい、これ鍵ね。ゴミ出しとか詳しいことは、蒼真くんに聞いた方が早いよね」
「ああ。それより、伊勢のお迎えだろ?」
「あ、そうだね。待たせると機嫌悪くなるから、もう行くね。ツバサくん、諸々の手続きがあるから、明日は事務所に来てね」
湊さんは、慌ただしく出ていった。
「蒼真先輩、前から思ってたけど……」
「なんだ?」
「湊さん、伊勢さんといるとき、なんか可愛いですよね。いえ、年上に言うのも失礼なんだけど」
「逆だろ」
「え?」
「湊さんといると、伊勢が可愛いくなんだろ」
それって――と、尋ねようとしたとき、蒼真先輩は薄いレースのカーテンをサッと閉めた。そして、
「はぁ、やっと本当に二人きりになれたな」
蒼真先輩は、ゆっくりオレの腕を引き寄せる。
「……ツバサ。こっち向いて」
言われるままに振り向くと、次の瞬間、強く抱きしめられた。
「卒業おめでとう」
耳元で低い声。背中を撫でる手。体を預けたらそのまま溶けてしまいそうな熱さ。
「抱きたい」
その瞬間、オレの理性はバラバラと崩れた。
「ま、まだ、明るいですよ?」
「今さらだろ。ツバサの最後の制服は、俺の手で脱がせたい」
スルッとネクタイがほどかれた。そのまま、シャツのボタンに、蒼真先輩の細い指先がひとつ、ふたつと外されていく。
「我慢できない」
唇が触れた瞬間、足が震えた。久しぶりのキスは、最初から深くて、呼吸の隙間すらくれないくらい熱かった。
「会いたかった……ツバサ……」
「はい……オレも……」
キスの合間に言葉が漏れる。腕の中で抱きしめられる感覚が、体の奥まで痺れさせた。
◆◆◆
いつの間にか、窓の外は日が暮れていた。部屋の隅に置かれた段ボールが、すっかり夜の暗がりに沈んでいる。
狭いシングルベッドで抱かれ、まだ余韻に浸るまどろみの中、蒼真先輩が天井を見ながらぽつりと呟いた。
「ツバサ。やっぱり、俺と一緒に住む気はないんだな?」
「それは――」
物件を探すときに、何度も『うちに住めば?』と誘われた。それは、本当に目眩がするほど嬉しい話だ。だけど……。
「俺と一緒にいるのは嫌か?」
「な、違うっ……!」
「じゃあ、なんで?部屋は空いてるし、不自由させないし。俺はツバサと一緒にいれる時間を、一秒でも無駄にしたくない」
胸が苦しくなる。同じ気持ちだけど、言わなきゃ伝わらない。
「オレ、本当は待つの……嫌いなんです」
蒼真先輩が動きを止めた。
「母さんがずっと働いてて……、子供の頃から、夜遅くまで一人でいることもあったから。ずっと、暗い部屋で待つのは辛かった。たぶん、母さんも同じくらい、辛かったと思う」
「ツバサ……」
沈黙。ゆっくりと、蒼真先輩がオレの頬を包む。
「TOMARIGIは、もうすぐツアーが始まるし、先輩はもっと忙しくなるでしょう?」
「待つのも、待たせるのも、どっちも辛い――か」
「うん。だからこそ、先輩に会えた時間を大事にしたい。今日は来てくれて嬉しかった」
「どんな無理してでも、今日だけは……絶対にお前のそばにいたかった」
息が止まるほど甘い声だった。
「それでも、俺は自分のワガママな気持ちを、これからも押さえきれない」
蒼真先輩は、オレの腰を引き寄せ、額をくっつけてきた。
「ツバサには、触れられる距離にいて欲しい」
「先輩……」
額にだけ軽くキスをくれる。
「でもツバサ。覚悟しとけ」
「……なにが?」
「これから一気に忙しくなるのは、俺だけじゃない。ツバサは大学も、レッスンも、デビューの準備もある」
「うん」
蒼真先輩の目が、少しだけ鋭くなった。恋人の顔でもあり、プロとしての顔でもある目。
「次のステージに立つための準備、ですね」
その言葉が、新しい物語の扉を開く鍵みたいに感じた。オレは、小さく息を吸って、微笑んだ。
蒼真先輩は、オレの手を引き寄せ、その甲にキスを落とす。
「根性はある、母親のお墨付きだったな」
「はい」
「期待している。でも――」
甘いのに、逃がさない声。
「今夜は一晩中、俺だけのものでいて」
その瞬間、オレは確信した。
ここから始まる物語は──、恋の続き、そして、夢の始まりだ。
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