【第一部完結】カフェと雪の女王と、多分、恋の話

凍星

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13 突然の衝動

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こちらから意識して触れると泉水は細く長い指をしていることに気付く。肌が少し荒れているように感じるのは水仕事が多いせいだろうか。

(……冷たい)

女性的な指の冷たさを感じ、温めたくなる。ぎゅっと握り込むと――蓮はその手を離せなくなった。

(もう少しだけこうしていられたら、自分の熱を移してあげられるのに)

「――蓮くん?」

その時、急に蓮の中で言葉にできない感情がどっと溢れた。
いつもなら好きになった相手には積極的にスキンシップを仕掛ける蓮だが、泉水への遠慮や橘からの警告もあって自由に動けなくなったせいで、心理的にはかなり負荷がかかっていた。
むやみに近寄らない、触らない。好きと悟られるような行動もちょっと待て、と。
そんな規制と我慢の中で、泉水から触れられてきたことが蓮の忍耐の糸を切ったのかもしれない。

気付けば、蓮はそっと唇を寄せてその指先にキスしていた。

「えっ……?」
「あ」

(……やらかした)

蓮の頭にその5文字が大きく浮かぶ。
我に返って慌てて手を離した。

「――ごめん!何か急に職業病が出ちゃった?みたいな、はは。いや、その、泉水さんの手が冷たかったから、温めてあげたいなーって……」
「え、あ、うん……?」

苦しい言い訳をどう思ったのか、泉水は拒絶反応……というより、何が起きたのか分かっていない顔をしている。

(いや本当に無意識すぎる……自分でもビックリした。何やってんの、俺……っ)

顔が熱くなる。もしかしたら告白より恥ずかしいことをしたかもしれないと思うと、冷汗がどっと噴き出した。

「本当ごめん。嫌ならもう触らないからはっきり言っていいよ……?」

両手で覆って、赤くなった顔を泉水の視線から隠す。思わずそんな風に口にしたが、泉水の反応は意外なものだった。

「別に嫌ではないし……でも」

(でも?)

その先を待っていたら言葉が途切れ、蓮の心臓は早鐘を打つ。後に待つのは拒絶だろうか?
泉水はわざと焦らすような、そんな間を置いてからゆっくりと唇を開いた。

「手にキスなんて生まれて初めてされたけど……蓮くんに落とされる女の子って、こんな気持ちなのかな」

両手の隙間からそっと覗き見ると、否定も拒絶もなく、やんわりと笑う顔があった。

「罪作りだよね」

――瞬間。

心臓をぎゅっと掴まれたような胸の苦しさを覚えた。
ドクン、と自分の鼓動がやけに大きく響く。

(……それって、どういう感情?)

ふっと溢れた吐息のような笑い声が、蓮の耳をくすぐる。
少し首を傾げてこちらに送られる視線は、咎めるようにも揶揄っているようにも見えて。

“別に嫌ではない”――と。

そう言葉にした泉水の真意を、今すぐに問いただしてみたいと思った。
“嫌ではない”と、“好き“はイコールではない、と分かっている。
それでも。

(俺にキスされるのは、嫌じゃないんだ……?それって特別?俺は――貴方の領域の、どこまで入ることを許されてる……?)

いま、泉水の瞳には自分だけが映っている。

(知りたい)

駆け引きは得意な方だと思っていたのに、今の蓮にそんな余裕は全くない。
もう一歩、踏み込もうとしたその時。

「泉水さ……」
「はーい、お待たせしましたー」
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