85 / 120
第6章 ◇問題発生⁉の 2nd WEEK
◆13 阿久津Side:見詰めている想いの先に
しおりを挟む
***
「お前、身の回りで困ったこと、起きてないか?」
「………?」
店の外、人目の届かない裏路地で司滌と向き合い、いきなりそう話し掛けた。
「バンド活動できない」宣言以来、会うのは久しぶりだ。誰もが見惚れてしまう美貌が、困ったような表情で俺を見上げている。
「ホストの『ユキ』が司滌薫夏だって、気付いた人間もきっといるだろ。付き纏われたりとか――」
「………阿久津は」
司滌は、静かな声で俺の言葉を遮って。
「どうして此処に来たの?」
ゆっくりと問いかけた。
「……そう、だよな」
まず、話すならそれだよな。
どうして、と。
俺だって考えた。
”放っておいて欲しい”
普段から、誰に対してもそんな雰囲気を出しまくるお前を、どうしてこんな所まで追いかけて来てしまったんだろう。
今だってお前を困らせてる。
いくら自己中な俺だって、それくらい分かる。
……だけどどうしても、追いかけずにはいられなかった。
いつものんびりしていて、何にも執着していなさそうなお前の。
身を焦がすような必死さが――
何かを伝えようとして点滅する光みたいに、チカチカと瞬いて見えて。
その儚い輝きが俺の目に焼き付いて。
いま、こんな風に俺を動かしてる。
藤田と話したあと、お前の『ユキ』としてのSNSを何度も見た。
自分を売り込むなんて、バンド活動でもやらなかった。綺麗な顔もなるべく見せないようにして、俯いて、ただ曲を聴いて欲しいからと言っていたお前。
理由は色々察しがついた。
お前の親父さんが新しい恋人を作る度に、TVや雑誌にそのニュースが流れて。
そうして、さも当たり前のように司滌家のご家族の状況は、と、お前とお兄さんの写真も流されて。それぞれ母親の違うご兄弟なんですよね、お父様は本当に女性にモテる方で、と。どこか楽しげに話題にされているのを、俺も見たことがあったから。
そのお前が、自分の顔を晒して情報を切り売りするような真似を、あの人の為にしている。
もっと見て、こっちに来てと。
普段とは真逆のシグナルを発信して、人を惹きつけようとしている。
――それが、まるで。
自分で自分を傷つけている、自傷行為みたいに見えて……
バカ、何やってんだよと思った。
俺は見ていて辛かった。止めたくなった。
自分がこの先どうなるかなんて、全く考えていないような。
捨て身で、必死で、献身的な行為。
それは。
その理由は――……
「お前――あの人に、『恋』してるんだな」
「…………恋………?」
ポカンとした顔でこっちを見てくる。
何も分かっていないみたいだった。
透き通ったあどけない瞳。
その目を見ると、やっぱり、胸が苦しい。
「理由は分からないけど――その人から目が離せなくて。その人の言うこととかやることとか、全部気になって。傍にいて、ずっと眺めていたいとか思って。もしも困っているなら全力で助けたい、と思うとか………そんなの、『恋』以外の何物でもないだろうが」
そうだよ。
俺もお前も、同じじゃないのか。
目が離せない。手を伸ばしたい。
自分だけを見て欲しい……
「お前、身の回りで困ったこと、起きてないか?」
「………?」
店の外、人目の届かない裏路地で司滌と向き合い、いきなりそう話し掛けた。
「バンド活動できない」宣言以来、会うのは久しぶりだ。誰もが見惚れてしまう美貌が、困ったような表情で俺を見上げている。
「ホストの『ユキ』が司滌薫夏だって、気付いた人間もきっといるだろ。付き纏われたりとか――」
「………阿久津は」
司滌は、静かな声で俺の言葉を遮って。
「どうして此処に来たの?」
ゆっくりと問いかけた。
「……そう、だよな」
まず、話すならそれだよな。
どうして、と。
俺だって考えた。
”放っておいて欲しい”
普段から、誰に対してもそんな雰囲気を出しまくるお前を、どうしてこんな所まで追いかけて来てしまったんだろう。
今だってお前を困らせてる。
いくら自己中な俺だって、それくらい分かる。
……だけどどうしても、追いかけずにはいられなかった。
いつものんびりしていて、何にも執着していなさそうなお前の。
身を焦がすような必死さが――
何かを伝えようとして点滅する光みたいに、チカチカと瞬いて見えて。
その儚い輝きが俺の目に焼き付いて。
いま、こんな風に俺を動かしてる。
藤田と話したあと、お前の『ユキ』としてのSNSを何度も見た。
自分を売り込むなんて、バンド活動でもやらなかった。綺麗な顔もなるべく見せないようにして、俯いて、ただ曲を聴いて欲しいからと言っていたお前。
理由は色々察しがついた。
お前の親父さんが新しい恋人を作る度に、TVや雑誌にそのニュースが流れて。
そうして、さも当たり前のように司滌家のご家族の状況は、と、お前とお兄さんの写真も流されて。それぞれ母親の違うご兄弟なんですよね、お父様は本当に女性にモテる方で、と。どこか楽しげに話題にされているのを、俺も見たことがあったから。
そのお前が、自分の顔を晒して情報を切り売りするような真似を、あの人の為にしている。
もっと見て、こっちに来てと。
普段とは真逆のシグナルを発信して、人を惹きつけようとしている。
――それが、まるで。
自分で自分を傷つけている、自傷行為みたいに見えて……
バカ、何やってんだよと思った。
俺は見ていて辛かった。止めたくなった。
自分がこの先どうなるかなんて、全く考えていないような。
捨て身で、必死で、献身的な行為。
それは。
その理由は――……
「お前――あの人に、『恋』してるんだな」
「…………恋………?」
ポカンとした顔でこっちを見てくる。
何も分かっていないみたいだった。
透き通ったあどけない瞳。
その目を見ると、やっぱり、胸が苦しい。
「理由は分からないけど――その人から目が離せなくて。その人の言うこととかやることとか、全部気になって。傍にいて、ずっと眺めていたいとか思って。もしも困っているなら全力で助けたい、と思うとか………そんなの、『恋』以外の何物でもないだろうが」
そうだよ。
俺もお前も、同じじゃないのか。
目が離せない。手を伸ばしたい。
自分だけを見て欲しい……
19
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!
虎ノ威きよひ
BL
ぼっち無愛想エリート×ぼっちファッションヤンキー
蓮は会話が苦手すぎて、不良のような格好で周りを牽制している高校生だ。
下校中におじいさんを助けたことをきっかけに、その孫でエリート高校生の大和と出会う。
蓮に負けず劣らず無表情で無愛想な大和とはもう関わることはないと思っていたが、一度認識してしまうと下校中に妙に目に入ってくるようになってしまう。
少しずつ接する内に、大和も蓮と同じく意図的に他人と距離をとっているんだと気づいていく。
ひょんなことから大和の服を着る羽目になったり、一緒にバイトすることになったり、大和の部屋で寝ることになったり。
一進一退を繰り返して、二人が少しずつ落ち着く距離を模索していく。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる