【第二部】恋するホストと溺れる人魚と、多分、愛の話

凍星

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第6章 ◇問題発生⁉の 2nd WEEK

◆13 阿久津Side:見詰めている想いの先に

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***


「お前、身の回りで困ったこと、起きてないか?」
「………?」

店の外、人目の届かない裏路地で司滌と向き合い、いきなりそう話し掛けた。
「バンド活動できない」宣言以来、会うのは久しぶりだ。誰もが見惚れてしまう美貌が、困ったような表情で俺を見上げている。

「ホストの『ユキ』が司滌薫夏だって、気付いた人間もきっといるだろ。付き纏われたりとか――」
「………阿久津は」

司滌は、静かな声で俺の言葉を遮って。

「どうして此処に来たの?」

ゆっくりと問いかけた。

「……そう、だよな」

まず、話すならそれだよな。
どうして、と。
俺だって考えた。

”放っておいて欲しい”

普段から、誰に対してもそんな雰囲気を出しまくるお前を、どうしてこんな所まで追いかけて来てしまったんだろう。
今だってお前を困らせてる。
いくら自己中な俺だって、それくらい分かる。

……だけどどうしても、追いかけずにはいられなかった。

いつものんびりしていて、何にも執着していなさそうなお前の。
身を焦がすような必死さが――

何かを伝えようとして点滅する光みたいに、チカチカと瞬いて見えて。
その儚い輝きが俺の目に焼き付いて。
いま、こんな風に俺を動かしてる。

藤田と話したあと、お前の『ユキ』としてのSNSを何度も見た。
自分を売り込むなんて、バンド活動でもやらなかった。綺麗な顔もなるべく見せないようにして、俯いて、ただ曲を聴いて欲しいからと言っていたお前。

理由は色々察しがついた。
お前の親父さんが新しい恋人を作る度に、TVや雑誌にそのニュースが流れて。
そうして、さも当たり前のように司滌家のご家族の状況は、と、お前とお兄さんの写真も流されて。それぞれ母親の違うご兄弟なんですよね、お父様は本当に女性にモテる方で、と。どこか楽しげに話題にされているのを、俺も見たことがあったから。

そのお前が、自分の顔を晒して情報を切り売りするような真似を、あの人の為にしている。

もっと見て、こっちに来てと。

普段とは真逆のシグナルを発信して、人を惹きつけようとしている。

――それが、まるで。
自分で自分を傷つけている、自傷行為みたいに見えて……
バカ、何やってんだよと思った。
俺は見ていて辛かった。止めたくなった。

自分がこの先どうなるかなんて、全く考えていないような。
捨て身で、必死で、献身的な行為。

それは。
その理由は――……



「お前――あの人に、『恋』してるんだな」

「…………恋………?」

ポカンとした顔でこっちを見てくる。
何も分かっていないみたいだった。
透き通ったあどけない瞳。
その目を見ると、やっぱり、胸が苦しい。

「理由は分からないけど――その人から目が離せなくて。その人の言うこととかやることとか、全部気になって。傍にいて、ずっと眺めていたいとか思って。もしも困っているなら全力で助けたい、と思うとか………そんなの、『恋』以外の何物でもないだろうが」

そうだよ。
俺もお前も、同じじゃないのか。
目が離せない。手を伸ばしたい。
自分だけを見て欲しい……


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