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第6章 ◇問題発生⁉の 2nd WEEK
◆17 阿久津Side:「恋」というものの副作用③
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(俺はあの童話が――好きじゃなかったな)
ふっと、そんな感情が甦った。
子供の頃には、この話のどこがいいのか分からないと真剣に憤ったものだ。
王子様にもう一度会いたいと、愛されたいと思い詰めて、これまでの自分の世界を全て捨てて。
何もかもを失って人間になったのに、言いたいことも自由に言えない人魚姫がとても可哀想で。
伝えたいことを伝える自由を、最初から奪われるなんてあんまりだ。たとえフラれて泡になろうが、言いたいことは言ってから死にたいのではないだろうか。
貴方の命を救ったのは彼女なのに、そんなことも分からないで別の女に熱を上げて、暢気に幸せになってるなんて――王子様は酷くないか!?と。
俺が代わりに文句を言ってやりたい、と思った。
何も言えずに死ぬなんて、そんなの、悲しすぎる……と。柄にもなく、メソメソ泣いてしまった。そんな想い出。
……急にあの童話を思い出したのは、司滌の姿が重なったせい、か。
今の俺には、報われなくても構わない想いがあるっていうのは理解できる。
だけど司滌には、最初から諦める前に何かできることがあるんじゃないかって、そう憤ってしまう。
「曖昧だと思うんやったら、もっと真剣に考えて――自分の感じてること、おざなりにせんように大事にせぇよ」
「……!」
俺に触れている身体が、びくりと震える。
――もっと自分の気持ちを大事にしたって構わないんじゃないかって、こいつには言ってやりたかった。
自分のことを透明人間化したがったり、かと思えば急に大胆に振舞ったりする行動が極端すぎて、そういう司滌が俺には危なっかしくて心配なのだ。
……いや、思ったことをすぐ口にして失敗するような、俺が言うことじゃない。それは分かっている。分かっているけど。
「余計なお節介だよな。でも……お前はあの人と別れる時が来ても、最後まで何にも言わず、最初からいなかった人間みたいに――泡みたいに消えてもそれでいいって、思うのか?」
俺の口にした「別れる時」という言葉に、司滌はハッとしたようになって。一瞬、整った笑みが崩れた。
「僕は――………」
司滌はその先の言葉を、続けようとしない。
いや、続けられなかったみたいだ。
ただ押し黙って、俺の胸に額をくっつけていた。
今はまだ、自分の気持ちがはっきりと分からないんだろう。
そんな司滌を、俺はただ黙って……
本当は肩を抱いて安心させたかったが、司滌にとってそれが不快だったら困るから。
そっと、頭を撫でてみる。
嫌がる様子はない。なので、そのままゆっくりと頭を撫で続けた。
そうやって――今はただ、静かに見守ることしか出来なかった。
ふっと、そんな感情が甦った。
子供の頃には、この話のどこがいいのか分からないと真剣に憤ったものだ。
王子様にもう一度会いたいと、愛されたいと思い詰めて、これまでの自分の世界を全て捨てて。
何もかもを失って人間になったのに、言いたいことも自由に言えない人魚姫がとても可哀想で。
伝えたいことを伝える自由を、最初から奪われるなんてあんまりだ。たとえフラれて泡になろうが、言いたいことは言ってから死にたいのではないだろうか。
貴方の命を救ったのは彼女なのに、そんなことも分からないで別の女に熱を上げて、暢気に幸せになってるなんて――王子様は酷くないか!?と。
俺が代わりに文句を言ってやりたい、と思った。
何も言えずに死ぬなんて、そんなの、悲しすぎる……と。柄にもなく、メソメソ泣いてしまった。そんな想い出。
……急にあの童話を思い出したのは、司滌の姿が重なったせい、か。
今の俺には、報われなくても構わない想いがあるっていうのは理解できる。
だけど司滌には、最初から諦める前に何かできることがあるんじゃないかって、そう憤ってしまう。
「曖昧だと思うんやったら、もっと真剣に考えて――自分の感じてること、おざなりにせんように大事にせぇよ」
「……!」
俺に触れている身体が、びくりと震える。
――もっと自分の気持ちを大事にしたって構わないんじゃないかって、こいつには言ってやりたかった。
自分のことを透明人間化したがったり、かと思えば急に大胆に振舞ったりする行動が極端すぎて、そういう司滌が俺には危なっかしくて心配なのだ。
……いや、思ったことをすぐ口にして失敗するような、俺が言うことじゃない。それは分かっている。分かっているけど。
「余計なお節介だよな。でも……お前はあの人と別れる時が来ても、最後まで何にも言わず、最初からいなかった人間みたいに――泡みたいに消えてもそれでいいって、思うのか?」
俺の口にした「別れる時」という言葉に、司滌はハッとしたようになって。一瞬、整った笑みが崩れた。
「僕は――………」
司滌はその先の言葉を、続けようとしない。
いや、続けられなかったみたいだ。
ただ押し黙って、俺の胸に額をくっつけていた。
今はまだ、自分の気持ちがはっきりと分からないんだろう。
そんな司滌を、俺はただ黙って……
本当は肩を抱いて安心させたかったが、司滌にとってそれが不快だったら困るから。
そっと、頭を撫でてみる。
嫌がる様子はない。なので、そのままゆっくりと頭を撫で続けた。
そうやって――今はただ、静かに見守ることしか出来なかった。
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