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第8章 ◇波乱の 3rd WEEK
◆16 売られた喧嘩は買わなきゃね
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「いつまで俺を待たせる気ですか?」
「皇様……!」
皇さんの登場に、彼女の顔色がサッと蒼褪めた。
「ごめんなさい、いま行くわ」
彼女はまるで何事も無かったかのように紗良が座っているソファーから離れ、皇さんから伸ばされた手を取り腕を組んで、スルリと寄り添う。
「……ユキと何か?」
「何でもないの、行きましょう」
一瞬、紗良さんに向けられた視線。そこには何か未練があるように見えたが――
「ご機嫌よう」と。腹立たしいくらい淡々とした挨拶を最後に残し、二人はこの場から立ち去ってしまった。
「………なぁにが、『ご機嫌よう』よ!!う~~腹立つ!!ちょっと蓮夜!塩撒きなさい、塩!!」
美南さんが最初に正気に戻って、大きな声で叫んだ。
「分かりやすーく、喧嘩を売られたワケよね。久しぶりに頭に来ちゃったわ♡」
「美彌子ってば――ますます性格が歪んだような……?」
3人の怒りが爆発して、わぁわぁと賑やかな言い合いが始まった。
そんな喧噪の中、俺とユキはお互いに顔を見合わせる。綺麗なライトブルーの瞳が、俺をまっすぐ見詰めている。
ユキの友人が来て、その素性を明かされて。
それからちゃんと話せていなくて。
こうしてユキと顔を合わせるのが、随分久しぶりな気がしてしまった。
相変わらず綺麗で……俺のピンチには手を差し伸べてくれる。
何だか目が離せなくて、じっと見つめ返していたら――ユキが揶揄うように笑いかけてきた。
「あんなお嬢様にやり込められるなんて……『オブリビオンの蓮夜』らしくないんじゃないですか?」
「悪かったな――くそ。だよな、全くその通り。返す言葉もない」
そう、こんな風に。俺にはいつも塩対応の、俺の軍師。最高にカッコ可愛い後輩。
急に肩の力が抜けて、自然と笑ってしまった。
……何だか安心してしまったのだ。いつものユキが俺の目の前にいることに。
俺に厳しい――ズバズバ言いたいことを言ってくるユキ。俺の好きなユキだ。
「ちょっと蓮夜、ユキ!ほのぼの笑ってる場合じゃないわよ……勝負はここからってこと。皆、心の準備はいい?」
促されるように立ち上がり、何故か円陣を組むことになる。美南さんが野生動物のような鋭い視線で、全員をぐるりと見渡した。その緊張感漂う様子に、見られている方も思わず真剣に身構える。
「私はこれまで以上に、同僚とか、仲良くしているお客様に声かけしてみる。小さな子供を抱えてる若いお母さんが多いんだけど……皆、生活にはゆとりがあるし、たまには息抜きしたいと思ってる人、多いと思う」
患者さん、と言わないあたりに美南さんの勤めるクリニックの性質が出ている。
差し入れを持って立ち寄ったことがあるが、入口にはホテルのクロークか?と思うような受付があり、驚かされた。
食事は有名フレンチシェフが監修していて、栄養面も味も最高級という、普通の病院とは何もかも一線を画した別世界だった。
「そうね、私は同僚を自分の遊びのテリトリーに誘うのは好きじゃないけど……蓮夜くんを自慢したいから、最後くらい連れて来ても良いかな。あと狙い目は、ウチのお客様の関係者かしら。若い女の子の社員を喜ばせたい経営者のおじ様って、案外いるのよねぇ~」
舞華さんがうふふと微笑う。その笑みにも、そこはかとなく獲物を狙うハンターの気配が滲む。
「私も大学の友人の他に、中高時代の幼馴染にも声かけてみます。カトリック系の、中高一貫校に通ってた時の友達なんですけど、ホストクラブはきっとまだ未知の世界で……行ってみたい!って思ってる子、案外いるんじゃないかな?オブリビオンなら安心して遊べるからって、胸張って誘えるし」
紗良さんは悪戯っぽく笑い、そう分析していた。
3人のそんな宣言に、俺は胸が熱くなる。
こんなに一生懸命、俺を支えようとしてくれる。
彼女たちも。ユキも。
その気持ちが、とても優しく沁み込んできて。熱くて、ありがたくて、言葉にならない想いが溢れてくる。
俺は恵まれている。
自分勝手な願いを、許してもらって。
こんなにも応援してもらって。
そう、俺はいつの間にかこんなにも、人に恵まれている――……
「皇様……!」
皇さんの登場に、彼女の顔色がサッと蒼褪めた。
「ごめんなさい、いま行くわ」
彼女はまるで何事も無かったかのように紗良が座っているソファーから離れ、皇さんから伸ばされた手を取り腕を組んで、スルリと寄り添う。
「……ユキと何か?」
「何でもないの、行きましょう」
一瞬、紗良さんに向けられた視線。そこには何か未練があるように見えたが――
「ご機嫌よう」と。腹立たしいくらい淡々とした挨拶を最後に残し、二人はこの場から立ち去ってしまった。
「………なぁにが、『ご機嫌よう』よ!!う~~腹立つ!!ちょっと蓮夜!塩撒きなさい、塩!!」
美南さんが最初に正気に戻って、大きな声で叫んだ。
「分かりやすーく、喧嘩を売られたワケよね。久しぶりに頭に来ちゃったわ♡」
「美彌子ってば――ますます性格が歪んだような……?」
3人の怒りが爆発して、わぁわぁと賑やかな言い合いが始まった。
そんな喧噪の中、俺とユキはお互いに顔を見合わせる。綺麗なライトブルーの瞳が、俺をまっすぐ見詰めている。
ユキの友人が来て、その素性を明かされて。
それからちゃんと話せていなくて。
こうしてユキと顔を合わせるのが、随分久しぶりな気がしてしまった。
相変わらず綺麗で……俺のピンチには手を差し伸べてくれる。
何だか目が離せなくて、じっと見つめ返していたら――ユキが揶揄うように笑いかけてきた。
「あんなお嬢様にやり込められるなんて……『オブリビオンの蓮夜』らしくないんじゃないですか?」
「悪かったな――くそ。だよな、全くその通り。返す言葉もない」
そう、こんな風に。俺にはいつも塩対応の、俺の軍師。最高にカッコ可愛い後輩。
急に肩の力が抜けて、自然と笑ってしまった。
……何だか安心してしまったのだ。いつものユキが俺の目の前にいることに。
俺に厳しい――ズバズバ言いたいことを言ってくるユキ。俺の好きなユキだ。
「ちょっと蓮夜、ユキ!ほのぼの笑ってる場合じゃないわよ……勝負はここからってこと。皆、心の準備はいい?」
促されるように立ち上がり、何故か円陣を組むことになる。美南さんが野生動物のような鋭い視線で、全員をぐるりと見渡した。その緊張感漂う様子に、見られている方も思わず真剣に身構える。
「私はこれまで以上に、同僚とか、仲良くしているお客様に声かけしてみる。小さな子供を抱えてる若いお母さんが多いんだけど……皆、生活にはゆとりがあるし、たまには息抜きしたいと思ってる人、多いと思う」
患者さん、と言わないあたりに美南さんの勤めるクリニックの性質が出ている。
差し入れを持って立ち寄ったことがあるが、入口にはホテルのクロークか?と思うような受付があり、驚かされた。
食事は有名フレンチシェフが監修していて、栄養面も味も最高級という、普通の病院とは何もかも一線を画した別世界だった。
「そうね、私は同僚を自分の遊びのテリトリーに誘うのは好きじゃないけど……蓮夜くんを自慢したいから、最後くらい連れて来ても良いかな。あと狙い目は、ウチのお客様の関係者かしら。若い女の子の社員を喜ばせたい経営者のおじ様って、案外いるのよねぇ~」
舞華さんがうふふと微笑う。その笑みにも、そこはかとなく獲物を狙うハンターの気配が滲む。
「私も大学の友人の他に、中高時代の幼馴染にも声かけてみます。カトリック系の、中高一貫校に通ってた時の友達なんですけど、ホストクラブはきっとまだ未知の世界で……行ってみたい!って思ってる子、案外いるんじゃないかな?オブリビオンなら安心して遊べるからって、胸張って誘えるし」
紗良さんは悪戯っぽく笑い、そう分析していた。
3人のそんな宣言に、俺は胸が熱くなる。
こんなに一生懸命、俺を支えようとしてくれる。
彼女たちも。ユキも。
その気持ちが、とても優しく沁み込んできて。熱くて、ありがたくて、言葉にならない想いが溢れてくる。
俺は恵まれている。
自分勝手な願いを、許してもらって。
こんなにも応援してもらって。
そう、俺はいつの間にかこんなにも、人に恵まれている――……
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