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第9章 ◇真夏の夜の夢 LAST WEEK
◆3 特別な夜を越えて①
しおりを挟むユキはすでにヘアメイクを終わらせていた。
今日はサイドの低い位置で髪をひとつに結びエクステをプラスして、胸にかかるくらいの長さになっている。髪を束ねている組み紐にはカーネリアンとガーネットの赤い天然石が飾られ、吉祥結びの飾り房と共に和とエスニックの両方の雰囲気を添えていた。
メイクは紅色のアイラインを目尻に長く濃く引き、和のテイストに合わせたくっきりとした華やかメイクだ。
「エクステ似合ってるなー!ちょっと長いの、すげー可愛い。いつもとイメージが変わって凄くいいなぁ」
シルバーっぽい髪色なのが、また目元と組み紐の紅を引き立てる。着物を着たら更に良くなるだろうなと想像し、うん可愛い、うん綺麗、とひとりで悦に入ってニヤニヤしていたら、俺の盛り上がりっぷりにユキは若干引き気味だ。
「先輩………それは親バカと言えるレベルでは?」
「だって本当に似合ってるんだから仕方ないだろ?」
「良い大人は『だって』とか、言いません」
「俺が『良い大人』だと思ってるなら、ユキはまだまだ俺を分かってないなー」
「もう――ああ言えばこう言う、の見本みたいですね」
笑いながら、そんな言葉のやり取りを俺たちは普通に楽しんでいる。そう、普通に会話ができていて……ただそれだけの事が奇跡のような気もする。
お互いの気持ちが、もう少し違う方向にずれてしまっていたら、多分こんな風に元通りにはなれなかったかもしれない。
――あの夜。
ユキは、身を削るような捨て身の想いを、隠していた本当の想いを俺にぶつけてきてくれた。
そして俺も、それに正直な気持ちで応えて。
俺にとって、ユキは特別で大切な存在なんだってこと――それだけはちゃんと伝わったかな、と。
俺の前で涙を溢したユキは、何だかとても素直になった。
もう隠し事が無くなったからだろうか?
今も、俺の褒め言葉に対して口では辛辣なことを言いながら、満更でもない表情を浮かべ嬉しそうにしている。
何もせずに、ただ抱き合って眠った夜。あの後も、俺たちの関係は表面的には変化なく、穏やかだけれど。
……あいつの中には、満たされない心の疵があったんだろうな、と思う。
幼い頃に親が離婚して、母親が出て行ってしまったのだと話してくれた。
父親は仕事に邁進するタイプで家庭を顧みず、いつもお手伝いさんと時間を過ごしていたとか。
その優しかったお手伝いさんも、ある日突然辞めてしまって。
以来、いつの間にか、ひとりで平気だと言うのが口癖になっていたのだと……
俺が、自分を捨てた母親のことをわざと考えないようにしていたのと、どこか似ている。
『自分だけを求めてくれる誰かが欲しい』
同類だけに響く、そんな孤独な感情で俺たちは惹かれあったのかもしれない。
俺はユキを守りたいと思い、ユキは俺の傍にいたいと願った。
傷を舐め合う、と言ったら言葉は悪いかもしれない。でも俺たちはお互いを癒しあった気がする。
傷ついた動物が二匹、ともすれば溺れてしまいそうな暗くて深い海のような――夜の世界の中で。
お互いにそっと手を伸ばし、身を寄せ合った。
とても特別で、不思議な穏やかさに包まれた時間を2人だけで過ごせたことが、ユキの心を変化させたのかもしれない。
今、俺の前で自然に笑うユキはとても綺麗だと、心からそう感じていた……
「――よし!じゃあ早速支度するか」
「はい。あ、これ先輩の分の浴衣なんですけど」
ユキは荷物を解いて、浴衣を出す。
俺とユキは、和装のテーマをあらかじめ2人で決めていて、色違いの浴衣を用意していた。
「――実は」
「ん?」
「僕たちが買った浴衣、うちの実家が懇意にしてる呉服屋の物だったじゃないですか。支払いは品物と引き換えでって事だったので、引き取りに行ったら「代金はすでに頂戴しております」って言われたんですよ」
「んん!?どういうこと?」
老舗のお店だったので、お値段は結構高かったはず。
「支払いを、うちの父がいつの間にか済ませていたらしくて……」
「ええっ!?」
そんなの聞いてない!状態である。
「ユキのお父さん……って。司滌雲竜さん、だよな?華道界の三大流派のひとつ司滌流の家元だっていう――あの?」
「そう、その人です……何勝手なことしちゃってるんですかね?何で僕が浴衣を買ったこと知ってるんだとか、色々言いたいことあるんですけど――相変わらず家にも帰って来ないし、電話でも全然つかまらないんですよ……!!」
おお……!
ユキが、珍しく声を荒げて怒っている。
これもちょっとした変化のような気がした。
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