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第1章 恋するホストは苦悩する
◆9 守りたいものがある
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緊張感の奔るこの雰囲気の中で、ユキの行動と言葉に感動してしまって涙腺が緩みそうになっている俺とは違い、高城さんは何を思ったのか――
「はは、面白いことを言う」
声を上げて、愉快そうに笑った。
「いつも冷静なお前が、随分と熱くなっているな。どうした?そんなに蓮夜を辞めさせたいか?」
「……貴方のために苦しむ先輩を、見たくないからです」
キッパリと言い放つユキには、迷いも恐れも全く見えなくて、とても堂々としている。俺はそんなユキに驚いてしまうと同時に……そして自分の不甲斐なさが、この無謀な行動の原因なのだと改めて感じていた。
答えを聞いて、高城さんは「成程な」と呟く。
「――ちなみに、俺が特別待遇を許されているのは、店にとって圧倒的な利益をもたらしているからだ、という点は理解しているよな?……だったら、まだ下っ端のお前が連夜に同じ待遇を望むのなら――もっと俺に誠意を見せる必要がある、とは思わないか?」
にっこりと愉しそうに微笑み、優雅に脚を組み替えつつ、高城さんははっきりとした要求を口にしようとしなかった。
まだ足りないと言うその様子に……ユキは、そっと頭を垂れる。
そしてそれだけではなく、床に膝をついた。
その上さらに、綺麗な細い指を膝の前に揃える。
(えっ……?)
「貴方を納得させる結果を出して見せます。どうか許可をください」
「おい、ユキ……っ!?」
ユキが、高城さんに促されるままに、土下座をしている――……
普段、ユキは上下関係も気にしないし、こんな要求を聞けば「パワハラですよね」と平気で言い放つタイプだ。
そのユキがここまでする姿に、俺は……かあっと身体が熱くなった。
「止めろ……!!」
止めてくれ、と思った。
他ならぬ、自分のために。
ユキが、こんならしくないことをする必要なんてない。
なりふり構わない。
そんな様子に俺の胸は痛み、勢いよくソファーから立ち上がった。
俺はユキの腕を掴んで強引に立たせる。やっとこちらを見たその瞳には、屈辱や怒りより何より、俺に対する強い想いが宿っているように見えてハッとする。
”貴方はどうしたいんですか”と、問いかけるような眼差しだった。はっきり応えてください、と――そう言われている気がした。
「ここまでさせなくてもいいでしょう。悪趣味すぎますよ……!」
思わず声を荒げた俺に対して、冷静な声が応じる。
「――原因は、煮え切らないお前だぞ」
「言われなくても……分かってます……!」
テーブルに、バンと音を立てて両手をつき、目の前の高城さんを睨んだ。
ここまでされて……何も感じない訳がない。
ユキが仕掛けたこの勝負に、乗らない選択肢は無かった。
「勿論――俺だって、ユキにここまでされたら黙っていられませんよ。やらせてもらいます。貴方に勝って、誰にも文句を付けられない状態にして……堂々と、ホストを辞めますよ……!」
今度は、俺と高城さんの間に見えない火花が散った。
満足気に笑みを深めるその表情に、俺は了承の意図を受けとる。
「……いいだろう。ただし、この勝負にお前が負けたら、その時は俺の言うことを聞いてもらうぞ?それで構わないなら受けてやる」
「上等です。どうぞご自由に」
「――決まりだな。オーナーには俺から言っておく」
……こうして、思いがけない展開で。
後に店の語り草となる「7月決戦」の火蓋が切って落されることになったのだった。
ユキは俺に向かって小さく頷き……悪戯が成功した子供のように、愉し気に微笑った。
一体どんな想いと策謀を、その胸に秘めているのか……いつも通り謎めいていて。
高城さんとはまた違う意味で、ユキが心の奥で考えていることが、俺には図りきれていなかったが。
だけど不思議な熱を、他ならぬユキから分け与えられて。
俺の胸には、泉水さんへの想いとはまた別の――小さな光が宿ったのだった。
「はは、面白いことを言う」
声を上げて、愉快そうに笑った。
「いつも冷静なお前が、随分と熱くなっているな。どうした?そんなに蓮夜を辞めさせたいか?」
「……貴方のために苦しむ先輩を、見たくないからです」
キッパリと言い放つユキには、迷いも恐れも全く見えなくて、とても堂々としている。俺はそんなユキに驚いてしまうと同時に……そして自分の不甲斐なさが、この無謀な行動の原因なのだと改めて感じていた。
答えを聞いて、高城さんは「成程な」と呟く。
「――ちなみに、俺が特別待遇を許されているのは、店にとって圧倒的な利益をもたらしているからだ、という点は理解しているよな?……だったら、まだ下っ端のお前が連夜に同じ待遇を望むのなら――もっと俺に誠意を見せる必要がある、とは思わないか?」
にっこりと愉しそうに微笑み、優雅に脚を組み替えつつ、高城さんははっきりとした要求を口にしようとしなかった。
まだ足りないと言うその様子に……ユキは、そっと頭を垂れる。
そしてそれだけではなく、床に膝をついた。
その上さらに、綺麗な細い指を膝の前に揃える。
(えっ……?)
「貴方を納得させる結果を出して見せます。どうか許可をください」
「おい、ユキ……っ!?」
ユキが、高城さんに促されるままに、土下座をしている――……
普段、ユキは上下関係も気にしないし、こんな要求を聞けば「パワハラですよね」と平気で言い放つタイプだ。
そのユキがここまでする姿に、俺は……かあっと身体が熱くなった。
「止めろ……!!」
止めてくれ、と思った。
他ならぬ、自分のために。
ユキが、こんならしくないことをする必要なんてない。
なりふり構わない。
そんな様子に俺の胸は痛み、勢いよくソファーから立ち上がった。
俺はユキの腕を掴んで強引に立たせる。やっとこちらを見たその瞳には、屈辱や怒りより何より、俺に対する強い想いが宿っているように見えてハッとする。
”貴方はどうしたいんですか”と、問いかけるような眼差しだった。はっきり応えてください、と――そう言われている気がした。
「ここまでさせなくてもいいでしょう。悪趣味すぎますよ……!」
思わず声を荒げた俺に対して、冷静な声が応じる。
「――原因は、煮え切らないお前だぞ」
「言われなくても……分かってます……!」
テーブルに、バンと音を立てて両手をつき、目の前の高城さんを睨んだ。
ここまでされて……何も感じない訳がない。
ユキが仕掛けたこの勝負に、乗らない選択肢は無かった。
「勿論――俺だって、ユキにここまでされたら黙っていられませんよ。やらせてもらいます。貴方に勝って、誰にも文句を付けられない状態にして……堂々と、ホストを辞めますよ……!」
今度は、俺と高城さんの間に見えない火花が散った。
満足気に笑みを深めるその表情に、俺は了承の意図を受けとる。
「……いいだろう。ただし、この勝負にお前が負けたら、その時は俺の言うことを聞いてもらうぞ?それで構わないなら受けてやる」
「上等です。どうぞご自由に」
「――決まりだな。オーナーには俺から言っておく」
……こうして、思いがけない展開で。
後に店の語り草となる「7月決戦」の火蓋が切って落されることになったのだった。
ユキは俺に向かって小さく頷き……悪戯が成功した子供のように、愉し気に微笑った。
一体どんな想いと策謀を、その胸に秘めているのか……いつも通り謎めいていて。
高城さんとはまた違う意味で、ユキが心の奥で考えていることが、俺には図りきれていなかったが。
だけど不思議な熱を、他ならぬユキから分け与えられて。
俺の胸には、泉水さんへの想いとはまた別の――小さな光が宿ったのだった。
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