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cinnamon
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東は車の中で、少し興奮気味にカバンの中から小瓶を取り出した。
カバンの中で、カチャカチャと控えめに鳴るガラスの小瓶は
赤いキャップのついた「うま味調味料」や、食卓におけるサイズのシナモンシュガーなど、
一般的なスーパーマーケットによく売っている一般的な調味料だ。
しかし、既にあの世に籍を移した彼女にとっては、なかなか手に入らない高級食材だ。
あの世への港町「ハテノ街」での末端価格はシナモン一瓶で約二~三万円。
天然の砂糖は一キロ約千円、うまみ調味料は一瓶約五万円。
ハテノ街には現世にない個性的な調味料もあるし、あの世で育ったスパイスもあるのだが、
どうしても現世で育ったスパイスとは少し味が違ってしまう。
観光客やハテノ街、もしくはあの世の生まれの者はハテノ街にあるスパイスで十分満足できるが、
現世生まれの亡霊たちにとって、現世の懐かしい味はとても魅力的に感じるようだ。
だが、現世の食べ物をハテノ街の人間が食べてしまうと、麻薬のような依存性の症状が出ることがある。
「少し、少しだけなら舐めてもいいよね?」
誰もいない車内で東は呟くと、うま味調味料のキャップを開け、少し手に取ってそのまま舐めた。
うま味調味料の粒は東の舌の上からじんわりと広がり、しびれのような、甘いような感覚を見せた。
「そう、これこれ!早く南に料理作ってあげなきゃ。」
まるで覚せい剤を舐めたかのような反応をする東。
目を血走らせ、車のアクセルを踏んだ。
*
「おかえり、東。」
アパートの畳の上で、赤毛を一本の三つ編みにした女性が東にそう言った。
その女性は南という。東の先輩で、あの世の公務員としての教育係をしている。
少々童顔で、アジアのアダルト動画に出るような、控えめかつグラマーな体形をしている。
南は丁度、動画サイトで見た「アレルギー対応のバタースコッチ・シナモンパイ」を
切り分けて一切れ食べているところだった。
「あー、その顔。また調味料もらってきたのね?
いくら買ったものは持って帰れないからって、あんまり貰いすぎたら駄目だよ?
お供えでもらったなら別だけど、ハテノ街のお菓子と交換してるでしょ。」
「いいじゃん少しくらい。」
「一事が万事よ。」
「そのパイ、僕にも分けてくれるかな。」
東は南に軽くキスをして、南が食べかけたパイを手でつかんで食べた。
シナモンのスパイシーで甘い香りに眩暈を覚えながら、恍惚の表情を浮かべる。
「おいしー!!やっぱり現世に来たらシナモンだよね。」
「こら。手づかみで食べないの。……早く手を洗ってらっしゃい。今夜はカレーよ。」
「えー!うれしい!」
なんでもかんでも喜ぶ東に、南は「子犬みたいだな」と思った。
「そうそう。今日はいい飲み物を作ったわ。」
南はそういうと、少し黄味がかった乳白色色の液体で満たされた
ハーフサイズのハンディクーラーをテーブルに置いた。
「これなぁに?」
不思議そうに首をかしげる東の前に、南は氷を4つ入れたグラスを置いた。
「カリガリ式ミルクセーキよ。動画サイトで見つけたの。
卵は一度分けてメレンゲを作ってから、隠し味にラム酒を大匙1とバニラを少し入れるの。
砂糖とシナモンだけでなくナツメグも……。」
そういいながら、なみなみとグラスにミルクセーキを注ぎ、シナモンとナツメグを少々振って「はい、どうぞ」と手で合図する。
「え?何?今日はスケベしないの?」
「どうしてそうなるかな。」
「ほら、サキュバスって枕元に牛乳置いとくとそれ飲んで帰るっていうし」
「そんなにたくさん体液が出たら一大事よ。ミルクはプライベートブランドの牛乳がセール品だったの。」
「うまーい!!」
「聞いてる?」
「今夜は頑張らねばなりませんなあ!」
「何を?」
「スケベなこと!」
笑顔でそういう東に、南は苦笑しながら「先にシャワー浴びてるね」と急いで浴室に行った。
シャワーを浴びて帰ってきたら、東が机に突っ伏して眠っていた。
「ひどい人ね。」
南はそばにあったブランケットをそっと東にかけようとした。
が、その瞬間、東の右手が南の手首を捕まえた。
「寝たふりしてたの?」
「だって寂しいんだもん。」
「Hは食事のあとね。あと東もちゃんとシャワー浴びて。」
「はーい……」
東は残念そうに「いただきます」を言うと、温めたばかりのカレーを一口ほおばった。
「南の料理はほんとにおいしいね」
「あなたのカレーには勝てないわ。」
南がじっと目を見つめるものだから、東は恥ずかしそうに笑った。
四畳半に二人、恋に落ちた夢魔がいる。
カバンの中で、カチャカチャと控えめに鳴るガラスの小瓶は
赤いキャップのついた「うま味調味料」や、食卓におけるサイズのシナモンシュガーなど、
一般的なスーパーマーケットによく売っている一般的な調味料だ。
しかし、既にあの世に籍を移した彼女にとっては、なかなか手に入らない高級食材だ。
あの世への港町「ハテノ街」での末端価格はシナモン一瓶で約二~三万円。
天然の砂糖は一キロ約千円、うまみ調味料は一瓶約五万円。
ハテノ街には現世にない個性的な調味料もあるし、あの世で育ったスパイスもあるのだが、
どうしても現世で育ったスパイスとは少し味が違ってしまう。
観光客やハテノ街、もしくはあの世の生まれの者はハテノ街にあるスパイスで十分満足できるが、
現世生まれの亡霊たちにとって、現世の懐かしい味はとても魅力的に感じるようだ。
だが、現世の食べ物をハテノ街の人間が食べてしまうと、麻薬のような依存性の症状が出ることがある。
「少し、少しだけなら舐めてもいいよね?」
誰もいない車内で東は呟くと、うま味調味料のキャップを開け、少し手に取ってそのまま舐めた。
うま味調味料の粒は東の舌の上からじんわりと広がり、しびれのような、甘いような感覚を見せた。
「そう、これこれ!早く南に料理作ってあげなきゃ。」
まるで覚せい剤を舐めたかのような反応をする東。
目を血走らせ、車のアクセルを踏んだ。
*
「おかえり、東。」
アパートの畳の上で、赤毛を一本の三つ編みにした女性が東にそう言った。
その女性は南という。東の先輩で、あの世の公務員としての教育係をしている。
少々童顔で、アジアのアダルト動画に出るような、控えめかつグラマーな体形をしている。
南は丁度、動画サイトで見た「アレルギー対応のバタースコッチ・シナモンパイ」を
切り分けて一切れ食べているところだった。
「あー、その顔。また調味料もらってきたのね?
いくら買ったものは持って帰れないからって、あんまり貰いすぎたら駄目だよ?
お供えでもらったなら別だけど、ハテノ街のお菓子と交換してるでしょ。」
「いいじゃん少しくらい。」
「一事が万事よ。」
「そのパイ、僕にも分けてくれるかな。」
東は南に軽くキスをして、南が食べかけたパイを手でつかんで食べた。
シナモンのスパイシーで甘い香りに眩暈を覚えながら、恍惚の表情を浮かべる。
「おいしー!!やっぱり現世に来たらシナモンだよね。」
「こら。手づかみで食べないの。……早く手を洗ってらっしゃい。今夜はカレーよ。」
「えー!うれしい!」
なんでもかんでも喜ぶ東に、南は「子犬みたいだな」と思った。
「そうそう。今日はいい飲み物を作ったわ。」
南はそういうと、少し黄味がかった乳白色色の液体で満たされた
ハーフサイズのハンディクーラーをテーブルに置いた。
「これなぁに?」
不思議そうに首をかしげる東の前に、南は氷を4つ入れたグラスを置いた。
「カリガリ式ミルクセーキよ。動画サイトで見つけたの。
卵は一度分けてメレンゲを作ってから、隠し味にラム酒を大匙1とバニラを少し入れるの。
砂糖とシナモンだけでなくナツメグも……。」
そういいながら、なみなみとグラスにミルクセーキを注ぎ、シナモンとナツメグを少々振って「はい、どうぞ」と手で合図する。
「え?何?今日はスケベしないの?」
「どうしてそうなるかな。」
「ほら、サキュバスって枕元に牛乳置いとくとそれ飲んで帰るっていうし」
「そんなにたくさん体液が出たら一大事よ。ミルクはプライベートブランドの牛乳がセール品だったの。」
「うまーい!!」
「聞いてる?」
「今夜は頑張らねばなりませんなあ!」
「何を?」
「スケベなこと!」
笑顔でそういう東に、南は苦笑しながら「先にシャワー浴びてるね」と急いで浴室に行った。
シャワーを浴びて帰ってきたら、東が机に突っ伏して眠っていた。
「ひどい人ね。」
南はそばにあったブランケットをそっと東にかけようとした。
が、その瞬間、東の右手が南の手首を捕まえた。
「寝たふりしてたの?」
「だって寂しいんだもん。」
「Hは食事のあとね。あと東もちゃんとシャワー浴びて。」
「はーい……」
東は残念そうに「いただきます」を言うと、温めたばかりのカレーを一口ほおばった。
「南の料理はほんとにおいしいね」
「あなたのカレーには勝てないわ。」
南がじっと目を見つめるものだから、東は恥ずかしそうに笑った。
四畳半に二人、恋に落ちた夢魔がいる。
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