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小説を書いてみよう!

【番外編】

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小説にはいろいろな形がありますので、少しテイストの違う文章を参照までにどうぞ。
下記の文章は、比喩的表現を用いた、一人称の詩のような書き方になります。
書き方を変えると雰囲気が変わって、全く別の小説のようになりますので、覗いてみてください。



【タイトル:傘】
夕暮れ時、空に広がる雲が厚みを増し、曇天模様。
グランドの運動部が、夕立を警戒して、帰路につく。
しばらくして、ポツリポツリと雨の音。
僕は図書室にいて、雨音が騒音になるまで気がつかなかった。
「……傘、あったかな?」
窓を流れる大量の涙を眺めながら、急いで帰り支度。
思った通り、置き傘が一本あった。
びしょ濡れで帰らなくてよさそうだと、僕は少しだけほっとしながら玄関まで来て、不意に足を止めた。
「ああ、もう! 今日雨降るなんて言ってたっけ?!」
大きな独り言を叫んだクラスメートの女子、桜宮さんが、外を睨んでいるのを見つけた。
みんな帰ってしまったのか、玄関には僕と桜宮さんだけだった。
あまりおしゃべりが得意じゃない僕は、静かに佇んでしまう。
けれど、雨は弱まるどころか、激しくなるばかり。
外を睨んでいた桜宮さんは、玄関先まで出ると、今度は空を見上げる。
「絶対止まない、よね」
鈍より雲から落とされる無数の水滴は、容赦なく大地に注がれ、大きな水溜まりを描く。
しばらく空を眺めていた桜宮さんは、「よしっ!」と、気合いを入れ、スカートを少しだけ持ち上げて見せた。
たぶん、雨の中に出ていくつもりだ。
一呼吸して、桜宮さんは決心したように一歩踏み出して、止まった。
いや、正確には僕が止めた。
桜宮さんに影ができ、雨が弾ける音が響く。
「えっ……」
雨の中に飛び出したのに、雨に触れず、桜宮さんは驚いて振り返った。
「……良かったら、使って」
小さく声を出した僕は、自分の傘を桜宮さんに差し出した。
女の子が持つには地味で、冴えない紺色の傘。
突然差し出された傘に驚いたのか、それとも僕に声をかけられたことにびっくりしたのか、桜宮さんの瞳は、大きく見開いていた。
普段会話なんてしたこともなかったけど、びしょ濡れで帰る女の子を見捨てられるほど、僕は気が強くない。

バサッ

少しだけ強引に差し出した傘を、なんとなく受け取った桜宮さんの隣で、僕は上着を脱ぐ。
無駄だと分かっていても、少しくらい雨を防ぎたい。
脱いだ上着を頭から被り、今度は僕が空を見上げる。
グレーの雲から大量の雨漏り。
空から落ちる水滴は、どうやらまだまだ底には到達しなそうだ。
『行くか……』桜宮さんのように気合いのある声は出ず、僕は心で諦めの決心を決めた。
とにかく走る。
これだけを胸に雨の中へ

―― ポツ、ポツ、ポツ ――

踏み出した僕の頭上に、響く音楽。
「駅まで一緒だよね」
紺色の傘がくるりと回った気がした。
「あ、うん」
「じゃあ、駅まで一緒に帰ろう」
「……いいの?」
「あなたの傘でしょ。……可笑しい」
自分の傘なのに遠慮なんかして、変なのって、桜宮さんは笑った。
僕はなんだか恥ずかしくなって、ちょっとだけ目を伏せてはにかんだ。
どしゃ降りの雨。
僕は傘を受け取り、真ん中に。
二人で雨避けの下を潜ると、壮大な雨音が耳を塞ぐ。
「雨、すごいね」
「そうだね」
「居残りだったの?」
「ううん、本読んでた」
「図書館?」
「そう、夢中になってて、雨に気づかなかったよ」
空が泣きそうだって分かったら、もっと早く帰っていたと、僕は苦笑。
「私は、科学のアレに面倒頼まれてた……」
ちょっとだけ頬を膨らませた桜宮さんは、帰りに科学の先生に捕まって雑用を押し付けられたから、どしゃ降りに遭遇したと不機嫌に話した。
けれど、桜宮さんはすぐに微笑んで、
「でも、そのおかげで濡れずにすんだ。……ねっ」
まるでウインクでもするように、僕を見る。
普通に帰っていたら、今頃駅に着く前にずぶ濡れだったかもと、僕に会えてラッキーだったと話してくれた。
「僕も嬉しい、かな」
女の子と一緒に帰れるなんてね。
傘を少しだけ桜宮さんの方へ寄せて、僕は鼻の頭を軽く掻く。
駅まで700メートル。
僕たちは、雨音を聞きながら、たわいもない雑談を楽しみながら、駅に向かう。

冴えない紺色の傘は、空から降る無数の音符を受け止めて、虹のような雨音メロディーを奏でていた。

おわり



↑いかがでしょうか? 雰囲気も感じ方も全然違いますよね。
ちなみに主人公目線で書かれたのもを、一般的に一人称の小説と呼びます。
会話も二人なので、いちいち誰が何をどう話したかを説明しなくても伝わるため、台詞の前後などで、誰が喋ってるかの説明をわざと省いている箇所があるのが分かりましたでしょうか?

【僕は図書室にいて、雨音が騒音になるまで気がつかなかった。
「……傘、あったかな?」
(僕は独り言を呟く)
窓を流れる大量の涙を眺めながら、急いで帰り支度】
↑主人公視点で話が進むため、わざわざ主人公がしゃべってますとの( )内の説明は不要になります。


それと、比喩的な表現が随所に散りばめられているため、どことなく詩のように捉えることができます。

例えば、
『空から落ちる水滴は、どうやらまだまだ底には到達しなそうだ』
この一文は、まるっと表現を変更してあります。

ただの雨のことなのですが、『空から落ちる水滴』と表現することで、綺麗な響きをもたせ、なんとなく幻想的な香りを漂わせています。
そして、『底には到達しなそうだ』ここは、雨が止みそうもないことを現しています。
こうやって言葉を選ぶことで、普通の出来事が違った感じに伝わります。

つまり、
『空から落ちる水滴は、どうやらまだまだ底には到達しなそうだ』
を普通に書くと、
『雨はしばらく止みそうもない』
となるわけです。

それから、
『空から降る無数の音符を受け止めて~』
の部分は、雨音を音符に例えてあります。後にくる『雨音メロディーを奏でていた』と表現が被らないように、あえて『音符』という表現にして、『メロディー』という言葉に繋げたかった意図があります。

『無数の雨音を受け止めて~、~雨音メロディーを奏でていた』
と書くと、綺麗な流れになりませんよね。
しっとりと書きたいときは、文章の流れに注目してみると、いいかもしれません。


ただし、全体的にこのようにまとめたいときは、全文通して比喩的な表現を用いても構いませんが、長編などで一部分だけ雰囲気を変えるのは、あまり好ましくありません。
難しい言葉や表現もそうですが、比喩的な言葉も、アクセントとして利用するのはとても大切ですが、多用すると一気に分かりにくく、読みにくくなりますので、スパイス程度の利用を気にしてみてください。


小説と言っても、書き方次第では伝わり方も、感じ方も全然変わりますので、自分の書きやすい方式を見つけてみるといいと思います。
投稿サイトなどで、いろいろな文体や構成を見てみると、たくさんの気づきや発見がありますので、いろんな方の小説を覗いてみてください。
自分が一番読みやすいと思った方のを参照すると、書きやすいんじゃないかなと思いますので、書き方などを覗いてみると楽しいですよ。


ここで紹介した書き方は、数ある中の一部でしかありませんので、いろいろな方の書き方を参照してみてくださいね。
きっと、好みの書き方をしている方に巡り合えますし、こんな書き方もあるんだと、勉強にもなります。
小説は自由ですので、思ったように書いて大丈夫です。





【おまけ】
コロコロコロ
ボールが庭を転がってるよ
コロコロコロ
ボールが坂道を転がってるよ
コロコロコロ
ボールが屋根の上を転がってるよ

↑絵本などを書く時は、繰り返しを使用することで、興味が増しますので、小説とはまた違った書き方になります。
深い意味や言い回しなどは使わず、見たまま、感じたままに書くのがいいと思います。

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