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第七話 博物館
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翌の昼、キャラバンは次の町に到着した。
西部キャラバンは、ここでの荷下ろしを終え次第、解散するという。キーリは寂しかったが、商人にとってはこれがふつうなのだと聞かされ、名残惜しくもキャラバンの者たちに別れを告げた。フリッツは二人といっしょに行きたがったが、最後の仕事があるらしく、これまでと同じように別行動となった。
この日訪れた町も、最初の町とよく似た雰囲気を持っていた。ユエンとともに市場に出たキーリは、あたりを見回して、唇を噛みしめる。
かわいらしい家々に、さまざまな音、食べものの匂い。あらゆるものがキーリの気を引こうとするが、はじめのときと違い、人間の町がただすてきなだけのものではないことをキーリは学んでいた。キーリはユエンの言いつけを守り、はぐれないよう、ぴったりと彼のそばにくっついて歩いた。こわい思いをするのはいやだったが、それ以上に、自分のために傷つくユエンを見るのがいやだったからだ。
ユエンの方も、今回はきちんと帽子を脱いでいた。ユエンは、小さなキーリが迷子にならないよう気づかいながら、人間の市場とはどんなものなのか教えてくれた。
同時に、バードの立場が弱いということがどういうことなのか、キーリは、この買い物を通して思い知ることになった。バードらしい装いのユエンに対して、ものを売ってくれない店が少なくなかったのだ。店に入ることさえ断られてしまったこともあった。
そんなときのユエンは、いやな顔ひとつすることなく、ただキーリに謝りながら店を出た。ユエンに謝られるたびに、キーリはかなしくなった。
ユエンは、店主たちに何を言われても動じることなく、バードを受け入れてくれる店を根気強く探した。そして、〈しっぽ人〉らしい服装のままでは目立ちすぎてしまうからと、キーリのために、新しく服を買いそろえてくれた。人間ふうの服はなめらかですそが短く、キーリには新鮮な着ごこちだった。
「ありがとう、ユエン。でも、えっと……。いつもこんなふうに、ものを手に入れるのが大変なの?」
「もう、慣れたことさ。キーリは気にしなくていいんだよ。店主たちの方も、私に意地悪をしたいわけではないのだし」
ユエンの〈慣れた〉という言葉は、強がりではなさそうだった。けれどもキーリは、ぞんざいに扱われるのに慣れてしまうなんて、かなしいと思わずにはいられなかった。ねずみのように店から追い出されてまでこんなことを言えるユエンは、きっとやさしすぎるのだ。
「ああ、そうだ。少し、寄りたいところがあるんだ。行ってもかまわないかな? それとも、もうつかれてしまったかい?」
考えごとをしていたキーリは、ユエンに声をかけられて、あわててうなずいた。
そうしてユエンが向かったのは、市場の終端にある、広場つきの大きな建物だった。玄関らしき部分には、いくつもの扉のない出入り口が並び、その間に、人間をかたどった白い石像がすえられている。さらに、屋根はほとんど平べったく、ほとんど役に立っていないだろう飾りのような柱が、建物のあちこちに取りつけられていた。
こんな大きな家なのだから、さぞ大きい人間が住んでいるんだろうと、キーリは思った。それにしても、あんなにたくさん柱を立てて、何に使うのだろう?
たくさんの人がこのおかしな建物に吸いこまれていく中、同じように入ろうとしたユエンは、建物の警備をしていた兵士にとがめられた。ここでも、バードだからと、立ち入りを断られてしまったのだった。
これまでのユエンは、立ち入りを断られると、すぐに受け入れてその場をはなれていた。だが、この建物については、何度も食い下がり、それでもダメだとわかってなお、はなれようとしない。
キーリは、ユエンの隣で、建物に吸いこまれていく人々をながめた。このふしぎな建物は、ユエンにとって、なにか特別な意味を持っているのかもしれない。
「ねえ、この大きい建物はなに? どんな人が住んでいるの?」
「キーリはおもしろいことを考えるなあ。この建物に、人は住んでいないよ。これは博物館といって、価値のある古いものや、めずらしいものを集めて、飾っておくための施設なんだ。集めたものは、こうして人々に公開されるけれど……。なにしろ、私はバードだからね。とくに、税金を使って作られたこういった施設には、立ち入れないことが多いのさ」
ユエンは普段と変わらない調子で答えたが、そのまなざしは、博物館というらしいその建物の方に向けられたままだった。
博物館の前をはなれた二人は、そのあとも市場を見てまわった。たくさんおもしろいものを見て、たくさんおいしいものを食べた。けれども、博物館をはなれてから宿の客室で落ち着くまでの間、ユエンはずっと上の空だった。まるで、心をあの博物館においてきてしまったかのようだった。
◆
宿の客室内で眠っていたキーリは、ベッドの軋む音で目を覚ました。
隣のベッドで、ユエンが動く気配がする。ユエンは、ベッドから立ち上がり、部屋の出入り口へと向かった。ドアが開き、また閉じる音がしたかと思えば、扉をへだててくぐもった足音が、遠くなっていく。
キーリは、そっと体を起こした。夜はしんとして、いやに冷たい。部屋の窓を開け、宿の表通りを見下ろすと、宿を出て、どこかへと向かうユエンの姿があった。キーリを助けにきたときのように、マントをはおって、頭までフードでかくしている。
あんな格好をして、どこに向かうのだろうか。気になったキーリは、薄着の体にシーツを巻き付け、急いで靴をはいた。こっそり追いかければ、気づかれないはずだ。
夜の町は肌寒かった。シーツをかぶったキーリは、気づかれないよう注意を払いながら、ユエンを追いかけた。
ユエンは、キーリに気づくどころか、後ろを振り返ることもなく歩いていく。彼が選ぶのは、街灯のない、狭くて暗い道ばかりだった。誰かに見られることを、ひどくおそれているようだ。
暗い道をたどりながら、キーリは、ウィルと出会ったあの路地を思い出した。猫を追いかけていたキーリは気づかなかったが、あそこもまた、人目につかない場所だった。ユエンにも、なにか後ろめたいところがあるのだろうか。
ユエンを追いかけるうちに、キーリはいつの間にか、博物館のすぐそばに来ていた。キーリはとまどったが、ユエンの考えが知りたくて、なおも彼の背中を追った。
ユエンは、博物館の外周をぐるりと回ると、ひっそりとした裏口を見つけ、立ち止まった。裏口の扉の取っ手を引き、鍵がかかっていることをたしかめた彼は、あわてることなく、扉の前に屈みこんで鍵穴をいじりはじめる。やがて、この静けさの中では大きすぎる音とともに、鍵が開いた。ユエンは迷わず取っ手を引き、今度こそ、博物館の中に消えた。
キーリは、ユエンの姿が見えなくなってから、遅れて扉のほうに向かった。扉の鍵は開いたままになっている。昼間のユエンのようすを思い返したキーリは、彼の心をとりこにするものの正体が知りたくなり、重い扉を両手で引き開けた。
館内に足を踏み入れ、背後の扉を閉めてしまうと、周囲はまっくらになった。とはいえ、少し目が慣れてくると、足元のつやつやとした石の床が、どこかからの光を拾ってかがやいていることがわかった。障害物に注意さえしていれば、じゅうぶん歩き回れる程度の明るさだ。
すでに、あたりにユエンの姿はない。キーリは乾いた唇をなめ、シーツのすそをたくし上げた。
少ない灯火のはなつ光と、石床への反射光をたよりに、キーリは博物館内を調べてまわった。
博物館は、ユエンの言ったとおりの施設だった。暗闇の中に浮き上がる展示台の間を、キーリは注意深く進んだ。昼間であれば、展示物がキーリの目を引いただろう。だが、今のキーリは、それどころではなかった。
ふいに、緊張に研ぎ澄まされていたキーリの聴覚が、だれかの足音をとらえた。足音はじょじょにキーリの方に近づいてくる。ユエンの足音とはまるで違っていることに気づいたユエンの足音とはまるで違っていることに気づいたキーリは、そばにあった展示台のかげにかくれ、息をひそめた。
足音の主は、この博物館の警備兵だった。運悪く、カンテラを手にした警備兵が、かくれていたキーリの目前に現れる。一瞬、キーリを包むシーツが、カンテラの光の下にあらわになった。
けれども、警備兵はキーリの存在には気づかなかったらしく、キーリをとがめることなく、通り過ぎていく。緊張のとけたキーリは、大きなため息をもらした。
警備兵に注意しながらユエンを探し続けていたキーリは、とうとう、ある展示室にユエンの姿を見つけた。キーリは、展示室にしのびこみ、ユエンの近くにあった展示台の裏に身をかくした。
ユエンは、その展示室の中央奥にすえられたケースの前にたたずんでいた。きっと、あのケースの中身こそが、彼がここにやってきた理由なのだろう。そんなユエンのようすをうかがいつつ周囲を見回したキーリは、あたりに飾られている展示物を見て、ぞっとした。
展示ケースの中に並べられているのは、あらゆる種類のしっぽのはく製だった。ここは、しっぽの展示室なのだ。
キーリは、悲鳴を上げそうになった口を押さえ、ユエンの方を見た。ユエンが見つめている展示ケースの中身もまた、しっぽだった。暗いために色はわからないが、長毛の、猫のそれによく似た……。
しっぽの正体に気がついたキーリがユエンに声をかけようとしたとき、廊下からの靴音に、ユエンがびくっと反応した。キーリが見たあの人間かはわからないが、見回りの警備兵がすぐ近くまできているらしい。物陰にかくれたのか、ユエンの姿が見えなくなる。
足音は、二人のいる展示室の中に入ってきて、止まった。カンテラをかかげているのか、足元を濃く照らしていた明かりが、部屋中に広がる。見つかってはいないだろうかと思いながらも、キーリは、しっぽをにぎって息を殺した。
やがて、明かりがまた足元のほうに戻った。だが、警備兵の気配はまだそこにある。
そんな中、ユエンがかくれたあたりから、物音がした。警備兵の注意がそちらに向いたのを、キーリは肌で感じた。
このままだと、ユエンが見つかってしまう。そう思ったキーリは、ほとんど考えもせずに、かくれていた場所から飛び出した。そして、警備兵をユエンのいる展示室から遠ざけようと、来た道を一心不乱に走った。
警備兵が追ってはきたものの、小さくて身軽なキーリは、すぐに警備兵を突き放し、手ごろな展示物の裏へと逃れた。キーリをさがしているうちは、警備兵がしっぽの展示室に戻ることもないだろう。
そうして、しばらく時間をかせいだキーリは、ユエンのことを心配しながらも、入ってきたのと同じ裏口から博物館を出て、宿を目指した。冷えた夜風に吹かれながら、キーリは、あのおそろしい展示室と、しっぽを前にたたずんでいたユエンのことを思った。
◆
宿の客室に戻ったキーリは、ユエンのベッドのすぐそばで白い塊がうごめいているのを見て、ぎょっとした。
おそるおそる近づいてみると、白い塊は、うずくまった状態でシーツに身を包んだユエンであることがわかった。キーリより早く戻っていたらしい。
シーツに包まったユエンは、小さくふるえていた。
「ユエン……?」
「――だから! だからいやだったんだ! こんなところ、くるべきじゃなかった。見るべきじゃなかった! あんな、私の、私の……! ううっ」
突然、ユエンが怒鳴り声を上げる。キーリはびくっとしたが、ユエンの怒声が泣き声に変わってしまうと、さらにおどろいた。キーリは、おとなは泣かないものだと思っていたのだ。
ひどく取り乱したようすのユエンを前に、どうしていいかわからなくなったキーリは、少し迷ってから、泣きじゃくるユエンのとなりに腰を下ろした。そして、子どもがおとなをなぐさめるなんて変だと思いながらも、不慣れな手つきで彼の背中をさすった。
そうしているうちに、だんだんと、ユエンは落ち着きを取り戻していった。やがて彼は、シーツから顔を出した。その頬には、涙のあとが残っていた。
「見苦しいところを見せてしまった。おどろかせて、すまなかった」
ユエンはそう言うと、体を起こし、ベッドのサイドフレームにもたれかかった。普段の明るい彼からは想像もできない、つかれはてたような姿だった。
「私をつけていたんだね、キーリ。なんて危ないことを……。でも、何ごともなくてよかった。いいや、助けてくれてありがとうと言うべきかな。自分がおとりになって、時間をかせごうとしてくれたんだろう。かしこい子だ」
ユエンの言葉はキーリに向けられたものだが、そのまなざしはキーリに向けられることなく、何もない宙をさまよっていた。
キーリは、別人のようなユエンにとまどいながらも、彼に自分のしっぽを差し出した。それが、今のキーリにできる、精いっぱいのことだった。
「しっぽをさわると、ほっとするから……。さわっていいよ」
ユエンは無言のまま、キーリのしっぽを受け取った。ユエンの大きな手のひらが、キーリのしっぽの折れたあたりをなでる。キーリはこそばゆかったが、ユエンが少しでも落ち着くなら、それでよかった。
ユエンは、しばらくそうしてキーリのしっぽをさわっていた。やがて、キーリのしっぽから手をはなした彼は、おもむろにキーリの手を取った。
「さわってごらん、キーリ」
キーリは、ユエンに手を引かれるままに、彼の背中に触れる。すると、彼の背中――ちょうど、しっぽの生えるあたりに、不自然な突起があった。キーリが突起をなでると、突起のまわりのひふが、ぴくりとふるえる。
「これ……。もしかして、しっぽ?」
ユエンはうなずいた。だが、ユエンのしっぽは、キーリのしっぽとは似ても似つかなかった。しっぽと呼べるかどうかもあやしいほど短くて、うっすらとうぶ毛が生えているだけのものなのだ。
キーリは、ユエンが博物館で見ていたしっぽのことを思い出した。ユエンの不自然なしっぽと、あの長毛のしっぽが、キーリの中でつながった。
あれは、ユエンのしっぽだ。ユエンは、〈しっぽ人〉だったのだ。
「旅の途中、この町で〈しっぽ人〉のしっぽが展示されていると、うわさで聞いた。だから、もしかしたらと思ったんだ。目的地がこの町だと聞かされたときから、ずっと、しっぽのことが気にかかっていた。そうして見てみたら、やっぱりあれは私の……」
キーリは、信じられない思いで、首を横に振った。ユエンの体格は、ちっとも〈しっぽ人〉らしくない。
「でも、ユエンは人間みたいに大きいよ」
「大きくなったんだ。しっぽをなくしてから。それに、〈名付け〉の力も使えなくなった。〈しっぽ人〉を〈しっぽ人〉たらしめているのは、しっぽなんだ。〈名付け〉の力も、小さくてじょうぶな体も、しっぽがなくなれば失われる。私がそうだった」
ユエンは、突き放すように言った。
しっぽをなくした〈しっぽ人〉がどうなるかなんて、キーリは聞いたことがなかった。そのために、しっぽを失ったというユエンの苦しみを、想像することもできなかった。ただ、自分がユエンに投げかけた〈ユエンは、ある日とつぜん、しっぽが生えてきたらどう思う?〉という問いを思い出して、後悔におそわれた。
あのとき、ユエンはどんな気持ちで〈想像できないなあ〉と口にしたのだろうか? それすらも、キーリにはわからなかった。
「キーリ、君はどう思う。私は人間かい? それとも、〈しっぽ人〉?」
ユエンの唐突な問いに、キーリは黙りこんだ。
しっぽをなくした〈しっぽ人〉は、〈しっぽ人〉なのだろうか? 考えても不安になるばかりで、答えは出なかった。
「私の体はもうほとんど人間のそれだけれど、ずっと、心では自分のことを〈しっぽ人〉だと思っていた。けれど、故郷に戻ってみれば、しっぽを失った私の居場所はどこにもなかった。長老が……私の父が、〈ここにおまえの居場所はない〉と言うのを聞いたとき、ようやく理解したんだ」
ユエンは自嘲ぎみに笑いながら、ひとりごとのように言った。実際、ひとりごとなのかもしれない。彼は、ぼうっと宙を見つめたまま、言葉を続ける。
「バードという生き方のせいで居場所もなく、ついに帰る場所まで失った。そういう生き方を選んできた自覚はあったけれど、それでも……帰る場所はあると信じていたから、つらかったよ。そんな中で、君に出会った。おどろくほど小さいころの私によく似た、君に」
自分の話が出てくるとは思っていなかったキーリは、おどろいてしまった。一方のユエンは、キーリの反応など期待していないようすで、さらに話し続けた。
「君が集落の外へのあこがれを口にしたとき、私はうれしかった。この子も、同じような苦しみを味わうことになるのかもしれないとね。そうとも、私はひどいやつなんだ。けれど、君が苦しむのを望むのと同じだけ、君が私と同じ苦しみを味わわないでいてくれればいいのにとも思った」
ユエンの言っていることは、難しくてよくわからなかった。困ったキーリは、ユエンの手元に、ふたたびしっぽを差し出した。ユエンは、キーリのしっぽを手に取り、やさしくなでた。慈しむように、やさしく。
「私にも、私の気持ちがわからなかった。そんなとき、君がさらわれて……。自分でもおどろいたよ。私は、君を助けに行くことに、少しの迷いもなかったんだ。君を取り戻したあとも、無事でいてくれてよかったと、心から思えた。私は、私の勝手な事情から、君のことを大切に思っているし、できるかぎり助けたいと思う」
ユエンの視線が、やっとキーリの方に向けられた。キーリを見つめる彼のひとみは、いつものように、おだやかに凪いでいた。
ユエンは申し訳なさそうにほほえむと、一言、こう付けくわえた。
「すまない。こんな話、子どもに聞かせるべきじゃなかったね。いろいろあってとまどっていると思うけれど、今夜はもうおやすみ。私もきっと、明日になればいつも通りにもどれるだろうから」
取り残されたキーリは、ベッドにはい上がるユエンを見ながら、言葉にならない気持ちを抱えていた。
ユエンが〈しっぽ人〉であること、ユエンの苦しみ、しっぽの展示室。一度にたくさんのことを知りすぎて、キーリの頭の中はめちゃくちゃだった。
ベッドに身を横たえたユエンの背中は、大きくてしっぽがない。彼のしっぽは今、ぴんとのばされて、あの展示ケースの中に飾られている。
「ねえ、ユエン。ぼくは、ユエンのしっぽをあそこにおいたままにはしたくないと思う」
ユエンの反応はなかった。もう、眠ってしまったのかもしれない。それでもキーリは、決意をこめて、彼の背中に話しかけた。
「しっぽはぼくの心の一部だって、言ってたよね。それなら、ユエンのしっぽだって、そうでしょう。ぼく、ユエンのしっぽをあのままにしたくない。どうすればいいのかわからないけど、あのままほうっておくのだけは絶対にいやだ」
ユエンは、黙ったままだった。
キーリは自分のしっぽをにぎり、ベッドに入った。あちこちで引きずってしまったシーツは少し汚れていたが、今のキーリにはまったく気にならなかった。
キーリは、それから一晩中、ベッドの中で作戦を練った。もう一度、博物館にしのびこまなくてはならない。なんとかして、ユエンのしっぽを取りもどすのだ。
西部キャラバンは、ここでの荷下ろしを終え次第、解散するという。キーリは寂しかったが、商人にとってはこれがふつうなのだと聞かされ、名残惜しくもキャラバンの者たちに別れを告げた。フリッツは二人といっしょに行きたがったが、最後の仕事があるらしく、これまでと同じように別行動となった。
この日訪れた町も、最初の町とよく似た雰囲気を持っていた。ユエンとともに市場に出たキーリは、あたりを見回して、唇を噛みしめる。
かわいらしい家々に、さまざまな音、食べものの匂い。あらゆるものがキーリの気を引こうとするが、はじめのときと違い、人間の町がただすてきなだけのものではないことをキーリは学んでいた。キーリはユエンの言いつけを守り、はぐれないよう、ぴったりと彼のそばにくっついて歩いた。こわい思いをするのはいやだったが、それ以上に、自分のために傷つくユエンを見るのがいやだったからだ。
ユエンの方も、今回はきちんと帽子を脱いでいた。ユエンは、小さなキーリが迷子にならないよう気づかいながら、人間の市場とはどんなものなのか教えてくれた。
同時に、バードの立場が弱いということがどういうことなのか、キーリは、この買い物を通して思い知ることになった。バードらしい装いのユエンに対して、ものを売ってくれない店が少なくなかったのだ。店に入ることさえ断られてしまったこともあった。
そんなときのユエンは、いやな顔ひとつすることなく、ただキーリに謝りながら店を出た。ユエンに謝られるたびに、キーリはかなしくなった。
ユエンは、店主たちに何を言われても動じることなく、バードを受け入れてくれる店を根気強く探した。そして、〈しっぽ人〉らしい服装のままでは目立ちすぎてしまうからと、キーリのために、新しく服を買いそろえてくれた。人間ふうの服はなめらかですそが短く、キーリには新鮮な着ごこちだった。
「ありがとう、ユエン。でも、えっと……。いつもこんなふうに、ものを手に入れるのが大変なの?」
「もう、慣れたことさ。キーリは気にしなくていいんだよ。店主たちの方も、私に意地悪をしたいわけではないのだし」
ユエンの〈慣れた〉という言葉は、強がりではなさそうだった。けれどもキーリは、ぞんざいに扱われるのに慣れてしまうなんて、かなしいと思わずにはいられなかった。ねずみのように店から追い出されてまでこんなことを言えるユエンは、きっとやさしすぎるのだ。
「ああ、そうだ。少し、寄りたいところがあるんだ。行ってもかまわないかな? それとも、もうつかれてしまったかい?」
考えごとをしていたキーリは、ユエンに声をかけられて、あわててうなずいた。
そうしてユエンが向かったのは、市場の終端にある、広場つきの大きな建物だった。玄関らしき部分には、いくつもの扉のない出入り口が並び、その間に、人間をかたどった白い石像がすえられている。さらに、屋根はほとんど平べったく、ほとんど役に立っていないだろう飾りのような柱が、建物のあちこちに取りつけられていた。
こんな大きな家なのだから、さぞ大きい人間が住んでいるんだろうと、キーリは思った。それにしても、あんなにたくさん柱を立てて、何に使うのだろう?
たくさんの人がこのおかしな建物に吸いこまれていく中、同じように入ろうとしたユエンは、建物の警備をしていた兵士にとがめられた。ここでも、バードだからと、立ち入りを断られてしまったのだった。
これまでのユエンは、立ち入りを断られると、すぐに受け入れてその場をはなれていた。だが、この建物については、何度も食い下がり、それでもダメだとわかってなお、はなれようとしない。
キーリは、ユエンの隣で、建物に吸いこまれていく人々をながめた。このふしぎな建物は、ユエンにとって、なにか特別な意味を持っているのかもしれない。
「ねえ、この大きい建物はなに? どんな人が住んでいるの?」
「キーリはおもしろいことを考えるなあ。この建物に、人は住んでいないよ。これは博物館といって、価値のある古いものや、めずらしいものを集めて、飾っておくための施設なんだ。集めたものは、こうして人々に公開されるけれど……。なにしろ、私はバードだからね。とくに、税金を使って作られたこういった施設には、立ち入れないことが多いのさ」
ユエンは普段と変わらない調子で答えたが、そのまなざしは、博物館というらしいその建物の方に向けられたままだった。
博物館の前をはなれた二人は、そのあとも市場を見てまわった。たくさんおもしろいものを見て、たくさんおいしいものを食べた。けれども、博物館をはなれてから宿の客室で落ち着くまでの間、ユエンはずっと上の空だった。まるで、心をあの博物館においてきてしまったかのようだった。
◆
宿の客室内で眠っていたキーリは、ベッドの軋む音で目を覚ました。
隣のベッドで、ユエンが動く気配がする。ユエンは、ベッドから立ち上がり、部屋の出入り口へと向かった。ドアが開き、また閉じる音がしたかと思えば、扉をへだててくぐもった足音が、遠くなっていく。
キーリは、そっと体を起こした。夜はしんとして、いやに冷たい。部屋の窓を開け、宿の表通りを見下ろすと、宿を出て、どこかへと向かうユエンの姿があった。キーリを助けにきたときのように、マントをはおって、頭までフードでかくしている。
あんな格好をして、どこに向かうのだろうか。気になったキーリは、薄着の体にシーツを巻き付け、急いで靴をはいた。こっそり追いかければ、気づかれないはずだ。
夜の町は肌寒かった。シーツをかぶったキーリは、気づかれないよう注意を払いながら、ユエンを追いかけた。
ユエンは、キーリに気づくどころか、後ろを振り返ることもなく歩いていく。彼が選ぶのは、街灯のない、狭くて暗い道ばかりだった。誰かに見られることを、ひどくおそれているようだ。
暗い道をたどりながら、キーリは、ウィルと出会ったあの路地を思い出した。猫を追いかけていたキーリは気づかなかったが、あそこもまた、人目につかない場所だった。ユエンにも、なにか後ろめたいところがあるのだろうか。
ユエンを追いかけるうちに、キーリはいつの間にか、博物館のすぐそばに来ていた。キーリはとまどったが、ユエンの考えが知りたくて、なおも彼の背中を追った。
ユエンは、博物館の外周をぐるりと回ると、ひっそりとした裏口を見つけ、立ち止まった。裏口の扉の取っ手を引き、鍵がかかっていることをたしかめた彼は、あわてることなく、扉の前に屈みこんで鍵穴をいじりはじめる。やがて、この静けさの中では大きすぎる音とともに、鍵が開いた。ユエンは迷わず取っ手を引き、今度こそ、博物館の中に消えた。
キーリは、ユエンの姿が見えなくなってから、遅れて扉のほうに向かった。扉の鍵は開いたままになっている。昼間のユエンのようすを思い返したキーリは、彼の心をとりこにするものの正体が知りたくなり、重い扉を両手で引き開けた。
館内に足を踏み入れ、背後の扉を閉めてしまうと、周囲はまっくらになった。とはいえ、少し目が慣れてくると、足元のつやつやとした石の床が、どこかからの光を拾ってかがやいていることがわかった。障害物に注意さえしていれば、じゅうぶん歩き回れる程度の明るさだ。
すでに、あたりにユエンの姿はない。キーリは乾いた唇をなめ、シーツのすそをたくし上げた。
少ない灯火のはなつ光と、石床への反射光をたよりに、キーリは博物館内を調べてまわった。
博物館は、ユエンの言ったとおりの施設だった。暗闇の中に浮き上がる展示台の間を、キーリは注意深く進んだ。昼間であれば、展示物がキーリの目を引いただろう。だが、今のキーリは、それどころではなかった。
ふいに、緊張に研ぎ澄まされていたキーリの聴覚が、だれかの足音をとらえた。足音はじょじょにキーリの方に近づいてくる。ユエンの足音とはまるで違っていることに気づいたユエンの足音とはまるで違っていることに気づいたキーリは、そばにあった展示台のかげにかくれ、息をひそめた。
足音の主は、この博物館の警備兵だった。運悪く、カンテラを手にした警備兵が、かくれていたキーリの目前に現れる。一瞬、キーリを包むシーツが、カンテラの光の下にあらわになった。
けれども、警備兵はキーリの存在には気づかなかったらしく、キーリをとがめることなく、通り過ぎていく。緊張のとけたキーリは、大きなため息をもらした。
警備兵に注意しながらユエンを探し続けていたキーリは、とうとう、ある展示室にユエンの姿を見つけた。キーリは、展示室にしのびこみ、ユエンの近くにあった展示台の裏に身をかくした。
ユエンは、その展示室の中央奥にすえられたケースの前にたたずんでいた。きっと、あのケースの中身こそが、彼がここにやってきた理由なのだろう。そんなユエンのようすをうかがいつつ周囲を見回したキーリは、あたりに飾られている展示物を見て、ぞっとした。
展示ケースの中に並べられているのは、あらゆる種類のしっぽのはく製だった。ここは、しっぽの展示室なのだ。
キーリは、悲鳴を上げそうになった口を押さえ、ユエンの方を見た。ユエンが見つめている展示ケースの中身もまた、しっぽだった。暗いために色はわからないが、長毛の、猫のそれによく似た……。
しっぽの正体に気がついたキーリがユエンに声をかけようとしたとき、廊下からの靴音に、ユエンがびくっと反応した。キーリが見たあの人間かはわからないが、見回りの警備兵がすぐ近くまできているらしい。物陰にかくれたのか、ユエンの姿が見えなくなる。
足音は、二人のいる展示室の中に入ってきて、止まった。カンテラをかかげているのか、足元を濃く照らしていた明かりが、部屋中に広がる。見つかってはいないだろうかと思いながらも、キーリは、しっぽをにぎって息を殺した。
やがて、明かりがまた足元のほうに戻った。だが、警備兵の気配はまだそこにある。
そんな中、ユエンがかくれたあたりから、物音がした。警備兵の注意がそちらに向いたのを、キーリは肌で感じた。
このままだと、ユエンが見つかってしまう。そう思ったキーリは、ほとんど考えもせずに、かくれていた場所から飛び出した。そして、警備兵をユエンのいる展示室から遠ざけようと、来た道を一心不乱に走った。
警備兵が追ってはきたものの、小さくて身軽なキーリは、すぐに警備兵を突き放し、手ごろな展示物の裏へと逃れた。キーリをさがしているうちは、警備兵がしっぽの展示室に戻ることもないだろう。
そうして、しばらく時間をかせいだキーリは、ユエンのことを心配しながらも、入ってきたのと同じ裏口から博物館を出て、宿を目指した。冷えた夜風に吹かれながら、キーリは、あのおそろしい展示室と、しっぽを前にたたずんでいたユエンのことを思った。
◆
宿の客室に戻ったキーリは、ユエンのベッドのすぐそばで白い塊がうごめいているのを見て、ぎょっとした。
おそるおそる近づいてみると、白い塊は、うずくまった状態でシーツに身を包んだユエンであることがわかった。キーリより早く戻っていたらしい。
シーツに包まったユエンは、小さくふるえていた。
「ユエン……?」
「――だから! だからいやだったんだ! こんなところ、くるべきじゃなかった。見るべきじゃなかった! あんな、私の、私の……! ううっ」
突然、ユエンが怒鳴り声を上げる。キーリはびくっとしたが、ユエンの怒声が泣き声に変わってしまうと、さらにおどろいた。キーリは、おとなは泣かないものだと思っていたのだ。
ひどく取り乱したようすのユエンを前に、どうしていいかわからなくなったキーリは、少し迷ってから、泣きじゃくるユエンのとなりに腰を下ろした。そして、子どもがおとなをなぐさめるなんて変だと思いながらも、不慣れな手つきで彼の背中をさすった。
そうしているうちに、だんだんと、ユエンは落ち着きを取り戻していった。やがて彼は、シーツから顔を出した。その頬には、涙のあとが残っていた。
「見苦しいところを見せてしまった。おどろかせて、すまなかった」
ユエンはそう言うと、体を起こし、ベッドのサイドフレームにもたれかかった。普段の明るい彼からは想像もできない、つかれはてたような姿だった。
「私をつけていたんだね、キーリ。なんて危ないことを……。でも、何ごともなくてよかった。いいや、助けてくれてありがとうと言うべきかな。自分がおとりになって、時間をかせごうとしてくれたんだろう。かしこい子だ」
ユエンの言葉はキーリに向けられたものだが、そのまなざしはキーリに向けられることなく、何もない宙をさまよっていた。
キーリは、別人のようなユエンにとまどいながらも、彼に自分のしっぽを差し出した。それが、今のキーリにできる、精いっぱいのことだった。
「しっぽをさわると、ほっとするから……。さわっていいよ」
ユエンは無言のまま、キーリのしっぽを受け取った。ユエンの大きな手のひらが、キーリのしっぽの折れたあたりをなでる。キーリはこそばゆかったが、ユエンが少しでも落ち着くなら、それでよかった。
ユエンは、しばらくそうしてキーリのしっぽをさわっていた。やがて、キーリのしっぽから手をはなした彼は、おもむろにキーリの手を取った。
「さわってごらん、キーリ」
キーリは、ユエンに手を引かれるままに、彼の背中に触れる。すると、彼の背中――ちょうど、しっぽの生えるあたりに、不自然な突起があった。キーリが突起をなでると、突起のまわりのひふが、ぴくりとふるえる。
「これ……。もしかして、しっぽ?」
ユエンはうなずいた。だが、ユエンのしっぽは、キーリのしっぽとは似ても似つかなかった。しっぽと呼べるかどうかもあやしいほど短くて、うっすらとうぶ毛が生えているだけのものなのだ。
キーリは、ユエンが博物館で見ていたしっぽのことを思い出した。ユエンの不自然なしっぽと、あの長毛のしっぽが、キーリの中でつながった。
あれは、ユエンのしっぽだ。ユエンは、〈しっぽ人〉だったのだ。
「旅の途中、この町で〈しっぽ人〉のしっぽが展示されていると、うわさで聞いた。だから、もしかしたらと思ったんだ。目的地がこの町だと聞かされたときから、ずっと、しっぽのことが気にかかっていた。そうして見てみたら、やっぱりあれは私の……」
キーリは、信じられない思いで、首を横に振った。ユエンの体格は、ちっとも〈しっぽ人〉らしくない。
「でも、ユエンは人間みたいに大きいよ」
「大きくなったんだ。しっぽをなくしてから。それに、〈名付け〉の力も使えなくなった。〈しっぽ人〉を〈しっぽ人〉たらしめているのは、しっぽなんだ。〈名付け〉の力も、小さくてじょうぶな体も、しっぽがなくなれば失われる。私がそうだった」
ユエンは、突き放すように言った。
しっぽをなくした〈しっぽ人〉がどうなるかなんて、キーリは聞いたことがなかった。そのために、しっぽを失ったというユエンの苦しみを、想像することもできなかった。ただ、自分がユエンに投げかけた〈ユエンは、ある日とつぜん、しっぽが生えてきたらどう思う?〉という問いを思い出して、後悔におそわれた。
あのとき、ユエンはどんな気持ちで〈想像できないなあ〉と口にしたのだろうか? それすらも、キーリにはわからなかった。
「キーリ、君はどう思う。私は人間かい? それとも、〈しっぽ人〉?」
ユエンの唐突な問いに、キーリは黙りこんだ。
しっぽをなくした〈しっぽ人〉は、〈しっぽ人〉なのだろうか? 考えても不安になるばかりで、答えは出なかった。
「私の体はもうほとんど人間のそれだけれど、ずっと、心では自分のことを〈しっぽ人〉だと思っていた。けれど、故郷に戻ってみれば、しっぽを失った私の居場所はどこにもなかった。長老が……私の父が、〈ここにおまえの居場所はない〉と言うのを聞いたとき、ようやく理解したんだ」
ユエンは自嘲ぎみに笑いながら、ひとりごとのように言った。実際、ひとりごとなのかもしれない。彼は、ぼうっと宙を見つめたまま、言葉を続ける。
「バードという生き方のせいで居場所もなく、ついに帰る場所まで失った。そういう生き方を選んできた自覚はあったけれど、それでも……帰る場所はあると信じていたから、つらかったよ。そんな中で、君に出会った。おどろくほど小さいころの私によく似た、君に」
自分の話が出てくるとは思っていなかったキーリは、おどろいてしまった。一方のユエンは、キーリの反応など期待していないようすで、さらに話し続けた。
「君が集落の外へのあこがれを口にしたとき、私はうれしかった。この子も、同じような苦しみを味わうことになるのかもしれないとね。そうとも、私はひどいやつなんだ。けれど、君が苦しむのを望むのと同じだけ、君が私と同じ苦しみを味わわないでいてくれればいいのにとも思った」
ユエンの言っていることは、難しくてよくわからなかった。困ったキーリは、ユエンの手元に、ふたたびしっぽを差し出した。ユエンは、キーリのしっぽを手に取り、やさしくなでた。慈しむように、やさしく。
「私にも、私の気持ちがわからなかった。そんなとき、君がさらわれて……。自分でもおどろいたよ。私は、君を助けに行くことに、少しの迷いもなかったんだ。君を取り戻したあとも、無事でいてくれてよかったと、心から思えた。私は、私の勝手な事情から、君のことを大切に思っているし、できるかぎり助けたいと思う」
ユエンの視線が、やっとキーリの方に向けられた。キーリを見つめる彼のひとみは、いつものように、おだやかに凪いでいた。
ユエンは申し訳なさそうにほほえむと、一言、こう付けくわえた。
「すまない。こんな話、子どもに聞かせるべきじゃなかったね。いろいろあってとまどっていると思うけれど、今夜はもうおやすみ。私もきっと、明日になればいつも通りにもどれるだろうから」
取り残されたキーリは、ベッドにはい上がるユエンを見ながら、言葉にならない気持ちを抱えていた。
ユエンが〈しっぽ人〉であること、ユエンの苦しみ、しっぽの展示室。一度にたくさんのことを知りすぎて、キーリの頭の中はめちゃくちゃだった。
ベッドに身を横たえたユエンの背中は、大きくてしっぽがない。彼のしっぽは今、ぴんとのばされて、あの展示ケースの中に飾られている。
「ねえ、ユエン。ぼくは、ユエンのしっぽをあそこにおいたままにはしたくないと思う」
ユエンの反応はなかった。もう、眠ってしまったのかもしれない。それでもキーリは、決意をこめて、彼の背中に話しかけた。
「しっぽはぼくの心の一部だって、言ってたよね。それなら、ユエンのしっぽだって、そうでしょう。ぼく、ユエンのしっぽをあのままにしたくない。どうすればいいのかわからないけど、あのままほうっておくのだけは絶対にいやだ」
ユエンは、黙ったままだった。
キーリは自分のしっぽをにぎり、ベッドに入った。あちこちで引きずってしまったシーツは少し汚れていたが、今のキーリにはまったく気にならなかった。
キーリは、それから一晩中、ベッドの中で作戦を練った。もう一度、博物館にしのびこまなくてはならない。なんとかして、ユエンのしっぽを取りもどすのだ。
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