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38話 オトナの時間
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リオがシャオメイを連れて宿屋に戻っている頃。
アンドリューは雑踏の中を縫うように歩みを進め、目当ての店へ向かっていた。
しかし、
「(最後にここに来たのは随分前だが、まるで別の町だな。歓楽街らしい活気がまるでない)」
今宵のネオライトの活気の無さに違和感を感じていた。
アンドリューが覚えている範囲なら、夜間帯のネオライトはもっと賑わっているはずだった。
明らかに人通りが少ないのだ。
何かあったのだろうかと疑問を抱きつつも、目当ての店を見つけた。
バー【ローザ・ロッサ】
一輪の赤い薔薇が派手に描かれた看板を見て、アンドリューはそこへ入っていく。
カランコロン、とドアベルを鳴らせば、そこは雰囲気のある古風なバーだ。
カウンターの向こう側にいるマスターは、薄紫色の髪を簪で纏め、胸元を見せつけるようにシャツの前を大きく開け、フリフリのエプロンドレスを着用した――『筋骨隆々とした男』。
「ハァ~イ♪いらっしゃ……って、あっらぁ!"アンちゃん“じゃないのぉ!」
筋骨隆々とした見た目を裏切らない野太いダミ声だが、その喋り口調は明らかに女性のものだ。
即ちこのマスター、"オネエ“である。
「おーぅ『ゴンザレス』。儲かってまっか?」
「ぼちぼちでんな。やぁだもぉ急に来ちゃってまぁ、八年ぶりかしらん?」
「ハッハハッ!それくらいになるなぁ。ちょうどこの街を通るから、ついでに顔を見に来たぞ」
アンドリューはマスターをゴンザレスと呼び捨てで、ゴンザレスはアンドリューを「アンちゃん」と愛称で呼ぶ。
昔の古い知り合いと言うだけあって、この関係は何十年と続いている。
「嬉しいわねぇ、アタシに会いに来てくれるなんて。ささ、座りなさいな」
「おぅとも」
ゴンザレスの正面のカウンター席につくアンドリュー。
「それじゃぁ、最初の一杯目はいつもの"アレ“で頼むわ」
「かしこまりよぉ」
アンドリューの"アレ“のオーダーを理解したゴンザレスは、戸棚から赤ワインのビンを取り出し開けて、丹念に熟成されたそれをグラスに注いでいく。
「おぉ、これこれ!【ローザ・ロッサ】に来たらやっぱこいつをな!」
「いつアンちゃんが来てもいいように、これだけは欠かしてないわぁ」
ではいただこう、とアンドリューはグラスを受け取り、一口啜る。
「んむ、旨い。変わらぬこの旨さ、まるで実家のような安心感で何よりだ」
「んふふ、アンちゃんったら相変わらず口が上手ねぇ」
ワインを一口してから、しばらくはお互い会っていない内に何があったかを語らう。
他愛のない語らいと共にアンドリューがワインを飲み進め――程よく酔ってきたところで。
「ゴンザレス、すまんが水を頼む。真面目な話がしたい」
「はいはーい」
氷嚢に保管している氷をたっぷり入れたコップに飲料水を並々と注ぐゴンザレス。
キンッキンに冷えた氷水を飲んで、酔いを覚ましてから、アンドリューは話を切り出す。
「なぁゴンザレス。ここ最近、街で何か変わったことは無かったか?」
「……さすがアンちゃん、気付いていたのねぇ」
「あのネオライトが、こんなに静かな訳がない。何かあったと思わない方がおかしいだろう」
アンドリューの真面目な顔を前に、ゴンザレスは「そうねぇ……」と唇に人差し指を添えて。
「この街の領主様、つい少し前に急病でお亡くなりになっちゃったのよぉ」
「急病とはまた穏やかじゃないな」
「それで新しい領主様が着任したんだけどねぇ、それがまたイヤ~なオトコなのよぉ。着任するなりいきなり税収を上げて、しかも街の若いオンナのコをお屋敷に連れ込んで、そのまま帰さないんだとか!」
一目見たことあるけど、全っ然アタシ好みのオトコじゃないのよぉ、と愚痴をこぼすゴンザレス。
「なんだなんだ、絵に描いたような悪徳領主じゃないか」
「しかもそれだけじゃないの。お客さんの噂だと、前領主様が亡くなるのと同じ頃に、街にも急病人が増えて、農作物の育ちも悪くなってるって」
街では病が流行り、新領主は悪徳領主、農作物の育ちも悪くなっていると聞けば。
「ふむ、魔物の仕業か?」
広範囲の生態系に影響を及ぼすような危険な魔物が現れたのかと考えたアンドリューだが。
「んー、冒険者のコ達から聞いても、そんな危険な魔物は確認されてないらしいって言うのよぉ」
「ますます訳が分からんな。だが、ネオライトに活気が無い理由は分かった。新領主がクソ野郎で、風土も悪化しているともなれば、街がこうなるのも頷ける」
税収の増加は、市民の生活の圧迫に比例する。
農作物の育ちが悪くなれば、それらの価格高騰と低質化は明白だ。
「せめて、増税さえ無ければいいんだけど、新領主様は武威を笠に着て、街でも好き放題。そのせいでネオライトの経済もズタズタよぉ」
この店もギリギリでなんとか経営してるんだからぁ、と腕組みするゴンザレス。上腕二頭筋がこれでもかと自己主張している。
「このままこの体制が続くようなら、この街もいずれおしまいねぇ……」
「…………ようは、そのクソ野郎をとっちめてしまえばいいんだろう?」
嘆くゴンザレスに、アンドリューはそう言った。
「そうねぇ、問題は色々あるけど、とりあえず増税だけでも止まればいいと思う。……アンちゃん、何か手があるの?」
「上手く焚き付けてやる必要はあるが……意外と何とかなるかもしれんぞ?」
アンドリューの中では、この事態を解決出来そうな人物が思い浮かんでいた。
アンドリューは雑踏の中を縫うように歩みを進め、目当ての店へ向かっていた。
しかし、
「(最後にここに来たのは随分前だが、まるで別の町だな。歓楽街らしい活気がまるでない)」
今宵のネオライトの活気の無さに違和感を感じていた。
アンドリューが覚えている範囲なら、夜間帯のネオライトはもっと賑わっているはずだった。
明らかに人通りが少ないのだ。
何かあったのだろうかと疑問を抱きつつも、目当ての店を見つけた。
バー【ローザ・ロッサ】
一輪の赤い薔薇が派手に描かれた看板を見て、アンドリューはそこへ入っていく。
カランコロン、とドアベルを鳴らせば、そこは雰囲気のある古風なバーだ。
カウンターの向こう側にいるマスターは、薄紫色の髪を簪で纏め、胸元を見せつけるようにシャツの前を大きく開け、フリフリのエプロンドレスを着用した――『筋骨隆々とした男』。
「ハァ~イ♪いらっしゃ……って、あっらぁ!"アンちゃん“じゃないのぉ!」
筋骨隆々とした見た目を裏切らない野太いダミ声だが、その喋り口調は明らかに女性のものだ。
即ちこのマスター、"オネエ“である。
「おーぅ『ゴンザレス』。儲かってまっか?」
「ぼちぼちでんな。やぁだもぉ急に来ちゃってまぁ、八年ぶりかしらん?」
「ハッハハッ!それくらいになるなぁ。ちょうどこの街を通るから、ついでに顔を見に来たぞ」
アンドリューはマスターをゴンザレスと呼び捨てで、ゴンザレスはアンドリューを「アンちゃん」と愛称で呼ぶ。
昔の古い知り合いと言うだけあって、この関係は何十年と続いている。
「嬉しいわねぇ、アタシに会いに来てくれるなんて。ささ、座りなさいな」
「おぅとも」
ゴンザレスの正面のカウンター席につくアンドリュー。
「それじゃぁ、最初の一杯目はいつもの"アレ“で頼むわ」
「かしこまりよぉ」
アンドリューの"アレ“のオーダーを理解したゴンザレスは、戸棚から赤ワインのビンを取り出し開けて、丹念に熟成されたそれをグラスに注いでいく。
「おぉ、これこれ!【ローザ・ロッサ】に来たらやっぱこいつをな!」
「いつアンちゃんが来てもいいように、これだけは欠かしてないわぁ」
ではいただこう、とアンドリューはグラスを受け取り、一口啜る。
「んむ、旨い。変わらぬこの旨さ、まるで実家のような安心感で何よりだ」
「んふふ、アンちゃんったら相変わらず口が上手ねぇ」
ワインを一口してから、しばらくはお互い会っていない内に何があったかを語らう。
他愛のない語らいと共にアンドリューがワインを飲み進め――程よく酔ってきたところで。
「ゴンザレス、すまんが水を頼む。真面目な話がしたい」
「はいはーい」
氷嚢に保管している氷をたっぷり入れたコップに飲料水を並々と注ぐゴンザレス。
キンッキンに冷えた氷水を飲んで、酔いを覚ましてから、アンドリューは話を切り出す。
「なぁゴンザレス。ここ最近、街で何か変わったことは無かったか?」
「……さすがアンちゃん、気付いていたのねぇ」
「あのネオライトが、こんなに静かな訳がない。何かあったと思わない方がおかしいだろう」
アンドリューの真面目な顔を前に、ゴンザレスは「そうねぇ……」と唇に人差し指を添えて。
「この街の領主様、つい少し前に急病でお亡くなりになっちゃったのよぉ」
「急病とはまた穏やかじゃないな」
「それで新しい領主様が着任したんだけどねぇ、それがまたイヤ~なオトコなのよぉ。着任するなりいきなり税収を上げて、しかも街の若いオンナのコをお屋敷に連れ込んで、そのまま帰さないんだとか!」
一目見たことあるけど、全っ然アタシ好みのオトコじゃないのよぉ、と愚痴をこぼすゴンザレス。
「なんだなんだ、絵に描いたような悪徳領主じゃないか」
「しかもそれだけじゃないの。お客さんの噂だと、前領主様が亡くなるのと同じ頃に、街にも急病人が増えて、農作物の育ちも悪くなってるって」
街では病が流行り、新領主は悪徳領主、農作物の育ちも悪くなっていると聞けば。
「ふむ、魔物の仕業か?」
広範囲の生態系に影響を及ぼすような危険な魔物が現れたのかと考えたアンドリューだが。
「んー、冒険者のコ達から聞いても、そんな危険な魔物は確認されてないらしいって言うのよぉ」
「ますます訳が分からんな。だが、ネオライトに活気が無い理由は分かった。新領主がクソ野郎で、風土も悪化しているともなれば、街がこうなるのも頷ける」
税収の増加は、市民の生活の圧迫に比例する。
農作物の育ちが悪くなれば、それらの価格高騰と低質化は明白だ。
「せめて、増税さえ無ければいいんだけど、新領主様は武威を笠に着て、街でも好き放題。そのせいでネオライトの経済もズタズタよぉ」
この店もギリギリでなんとか経営してるんだからぁ、と腕組みするゴンザレス。上腕二頭筋がこれでもかと自己主張している。
「このままこの体制が続くようなら、この街もいずれおしまいねぇ……」
「…………ようは、そのクソ野郎をとっちめてしまえばいいんだろう?」
嘆くゴンザレスに、アンドリューはそう言った。
「そうねぇ、問題は色々あるけど、とりあえず増税だけでも止まればいいと思う。……アンちゃん、何か手があるの?」
「上手く焚き付けてやる必要はあるが……意外と何とかなるかもしれんぞ?」
アンドリューの中では、この事態を解決出来そうな人物が思い浮かんでいた。
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