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第一章 ふつかわ系少女勇者
9話 喰らえ王様!アヤト憤怒のドロップキック
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一夜を明けて。
日が昇り始めた頃に、魔王城の探索を終えたガルチラ達は、戦利品や財宝を船に詰め込んでから、ルナックスへの帰路を辿る。
朝食時に、ガルチラに呼び出された俺とエリンは、三者で食事を共にしていた。
「お前達が魔物を排除してくれたおかげで、探索も随分早く進んだ。礼を言わせてくれ」
「こちらこそ、手間を掛けさせた」
ガルチラと俺は、多分に本音の混ざった社交辞令を交わす。
「報告は昨夜にも聞いたが……お前達二人が討伐したのは、確かに魔王だったのだな?」
「あ、はい。本人も魔王って言ってたから、間違いないかと思います」
エリンも頷く。
あんな豚さんが魔王だったから、第二形態から急に強くなるのかと思ってたらそうでも無かったし、正直拍子抜けだったな。
「ふむ……まぁいいだろう。これよりルナックスへの帰路を取る。今しばらくは退屈かもしれんが、これでも食って適当に過ごしてくれ」
ガルチラが指すのは、目下にある少し豪勢な食事。
いただきます。
食事を終えたあとは、クルーの皆さんとあれこれ話したり、掃除や雑用を手伝ったりして(エリンのお尻に手を出そうとした奴はポイッとスッ転がして)、のんびりと過ごして。
ガルチラの予測通り、昼頃になってルナックスへ帰港した。
「世話になったな、キャプテン・ガルチラ」
「ありがとうございました」
タラップを降りて、俺とエリンはガルチラと別れを告げていた。
「なぁに、勇者の魔王討伐に貢献したというのも、悪くはなかったぞ。いずれまた会うこともあるだろう、その時は見返り無しで船に乗せてやろう」
「ありがとう。それじゃぁ、またな」
出会いがあれば別れもある。
ここ数万年の異世界転生って、一箇所に留まるストーリーが多かったからなぁ、あちこち冒険して色んな人達と出会っては別れる人生は久しぶりだ。
ルナックスで休憩がてら昼食を摂ったあとは、エコールの町に戻るために海底洞窟を通る。
ヌシであるオチューがいなくなっても魔物は普通に出てくるが、大体鎧袖一触と言った感じで接敵した瞬間排除していく。
躓きも滞りもせずに海底洞窟を抜ければ、そろそろ夕暮れが近く、日が沈む前にエコールの町に辿り着く。
明日は城下町に入り、王様に魔王討伐の報告――から、どうなるかだな。
エコールの町の宿で一夜を過ごしたら、マイセン王国の城下町へ向かう。
門番兵にはエリンが応対して城下町入りし、さすがに俺まで王宮に入るわけにはいかないので、王宮前からはエリンが一人でいかなくてはならない。
「それじゃぁ、すぐ戻ってくるね」
「なんかあったら助けを呼んでくれよ。すぐに壁をぶち抜いて助けに行くからな」
「も、もうちょっと穏便に出来ないかなぁ……?」
苦笑しながらも、エリンは足取り軽く王宮へ入っていく。
ちょっと手持ち無沙汰だなぁ。
王宮前でアヤトと別れたエリンは、衛兵に連れられて玉座の間へ向かう。
「おぉ、勇者エリンよ!よくぞ魔王討伐を成し遂げた!」
玉座の間に入るなり、国王は興奮気味に出迎えてくれた。
玉座の隣には、金髪碧眼の青年――彼の子息たる王子も控えている。
「はい、確かに魔王を倒しました」
エリンは国王の前に立って一礼する。
「しかし、随分早かったのだな?てっきり何ヶ月もかかると思っておったのだが……」
「港町ルナックスの沖に現れるという噂の幽霊船……それが魔王城で、現地の方々に協力してもらい、突入に成功しました」
本当はアヤトがガルチラ達海賊団と交渉し、よもや投石器で投げ飛ばしてもらって突入することになるとは思っていなかったのだが。
「なるほど、人々の力を借りてのことであったか」
まぁそれはそれとして、と国王は深く頷いた。
「勇者エリン、実に大義であった。マイセン王国を代表し、その偉業を賛えたい」
「ありがとうございます」
ぺこりと目を伏せるエリン。
何か望みがあるかと言われたら、「また旅に出たい」と答えよう。
そう思っていたエリンであったが。
「だが……そなたは勇者と呼ぶにはあまりにも若い。そんなそなたに勇者の業を背負わせて良いものかと、ワシは悩んでいたのだ」
その言葉を聞く限りなら、国王は苦心に苦心を重ねてエリンを送り出したとも聞こえるだろう。
だが、一週間という短い時間ながら、アヤトという"規格外"の手腕を見て来たエリン。
彼の手腕を見て、我知らず自分なりにその怪物的な"力"を取り込んでいた彼女は、国王の言葉に"裏"があることを感じ取った。
「エリンよ、そなたには勇者の重荷を下ろし、穏やかに生きてほしい。後のことは全て、我が息子に任せてくれ」
我が息子と言う国王の言葉に、王子は微笑を浮かべて頷いた。
けれどエリンの目には、その微笑にも"裏"が含まれているように見えた。
「――それは、私のことは何もなかったことにする、ということですか?」
ふと、エリンの声のトーンが下がった。
「ふむ。確かに、表向きのことはいずれそうなるであろう。後世の歴史書に、そなたの名前は遺らぬかもしれん。だが、今を生きる者達は、そなたの偉業を忘れはすまい。無論、このワシもな」
それは違う、とエリンはそう思い浮かべた。
"解放と自由"を餌に体よく自分を追放し、『魔王討伐』という功績だけを王子のものに挿げ替えるつもりなのだろう。
上辺と綺麗事を並べて、都合のいい道具のように仕立て、役目を成せばすぐに捨てて。
「(私は、こんな人達のために戦ったの?)」
「そうじゃ、エリンよ。この国の、未来の王妃になるつもりはないかね?そなたのことはワシも王子も認めている。どうかね、そなたにとっても悪い話ではなかろう」
さらに国王はそんなことまで告げる。
功績を横から奪い取る相手と結ばれろと?
そんなことまっぴらごめんだ、とエリンは考えていた断りの台詞を言おうとするが、
「エリン、あなたはとても可愛らしく美しい、聡明な女性だ。僕の伴侶としても、申し分ない」
玉座の隣に控えていた王子が、甘い言葉をかけながら歩み寄ってくると、エリンの肩を掴む。
「っ、わ、私は!この後でまた旅に出たいと……!」
「そんな必要はもう無いんだ。これからは僕とここで、穏やかに過ごしてほしい」
冗談じゃない、誰がこんな胡散臭くにやついた優男などに身も心も捧げるか!
肩だけでなく、背中にも手を回されて抱き寄せられ、顔を近付けられる。
「やっ、いやっ!離して……!」
力で抜け出せるはずなのに、魔物との戦いとは違う恐怖で身体に力が入らない。
無理矢理ファーストキスを奪われる――その寸前、
――なんかあったら助けを呼んでくれよ。すぐに壁をぶち抜いて助けに行くからな――
思い浮かんだのは、アヤトの顔と言葉。
もう、迷いは無かった。
「助けてっ、アヤトー!!」
瞬間、ズガァンッ!!と言う轟音と共に、玉座の間の壁がぶち抜かれた。
「呼ばれた気がした」
パラパラと大理石の破片と共に、最愛の彼が来てくれた。
お呼びとあらば即参上、滅殺抹殺一撃必殺、アヤトさんのご登場です。
なーんか嫌な気配を感じたから、気配を消して城内に侵入して、エリンが助けを求めてきたので、壁を粉砕玉砕大爆砕しました。
「なっ、なんだい君は!というかどうやってここに……」
エリンにキスしようとしてた王子様っぽいガキがなんか喚いてるけど、縮地で距離を詰めてポイッと部屋の隅へボッツシュート。
「アヤトぉっ!」
飛び込んできたエリンを抱き止めて、頭をなでなでしてあげる。なでなで。
「よしよし、俺がいてよかったな」
「うんっ、うんっ……無理矢理キスされそうになって、怖くて……」
エリンの頭をなでなでしながら、俺は王様っぽい人に向き直る。なでなで。
「き、貴様!何者だ!?」
顔から怯えと狼狽えが明らかになっている王様。なでなで。
何者だと訊かれたから素直に名乗るとしよう。なでなで。
「お初お目にかかります、陛下。俺はアヤト、旅の途中で勇者エリンと出会い、彼女のために微力を尽くしておりました」
俺の懐でエリンが「微力ってどういう意味だっけ……?」とか呟いてるけどそんなことはいい。なでなで。
「そんなことは訊いておらん!もしや、勇者エリンを誑かしおったか!」
何者だって訊いてきたのに「そんなことは訊いてない」って、理不尽だわぁ。なでなで。
しかも、エリンを誑かしたって、とんでもない言い掛かりだ。なでなで。
「誑かしたとは心外です。俺は彼女の心の拠所として、その想いに応えていたに過ぎません」
「よくもそのような詭弁をペラペラと……!衛兵!この賊を捕らえよ!」
すると、壁の破壊音を聞き付けたか、衛兵達がわらわらと玉座の間にやって来る。なでなで。
だ か ら な に ?
「――『ロックブレイク』」
土属性の中級魔法で赤絨毯の床を地中から隆起させ、岩の障壁を作り上げて衛兵達を足止めする。なでなで。
エリンの前だからね、無駄な殺生はしないで済ませよう。なでなで。
なでなでの手を止めて、王様に向き直る。
「さて、陛下。先程のお話を聞いていたところ、エリンの功績を取り上げて、そこの部屋の隅で寝転がっているご子息殿に挿げ替える、という辺りまでは理解出来ました」
「何を言う!勇者エリンにはこれからは穏やかに生きてほしいというせめてもの……」
「いいでしょう」
王様が何か喚いているようだけど、その内容に興味はない。
「彼女はこのまま俺が攫って行きます。もう二度とこの国に現れることは無いでしょう。『勇者エリンなど最初から存在しなかった』……そうですね?」
「ま、待て!貴様ごときに勇者エリンを渡しはしな……」
「何故、です?『勇者エリンが魔王討伐を成し遂げた』という事実はあなた方にとって都合が悪いはずだ。このまま俺が彼女を攫ってしまえば、あとは残された者達で好き勝手に出来るでしょう?「王子が魔王討伐を成し遂げた」などとデタラメを吹聴したところで、誰もそれを疑いはしない」
いつか前に転生したことあったわ。
何だっけな、『魔王討伐を成し遂げたけど、顔があまりにもブサイク過ぎるから、王子に功績を挿げ替えられた最強のおっさん勇者が、今度は魔王になって人間に復讐する』って感じの創作小説。
それとどことなくケースが似てるんだよなぁ、コレ。
「あぁ、それとも……欲しいのは功績だけじゃなくて、『勇者の血』ですか?血筋などに何の意味もありませんよ?エリンが魔王討伐を成し遂げられたのは、彼女の死物狂いの努力の結実。勇者の子が勇者になれるとは限りませんよ?」
確かに、素人同然だったエリンが、たかが数日の鍛錬だけであそこまで強くなれたのは、勇者の素質があったからというのもあるだろう。
だが、何度俺にポイポイ投げられても、何度喘ぎ苦しんで泣きそうになっても、決して諦めなかったから、素質の"芽"が出たのだと、俺は思っている。
「それは違う!」
不意に、部屋の隅から声が聞こえたと思ったら、俺に投げられて蹲っていた王子が主人公ボイスで喚いてきた。うっせーな、その口縫い合わすぞ。
――少なくとも、こいつがエリンと同じことをやろうとしても無理だろうな。二、三回投げられてすぐ音を上げてやめたがるに違いない。
「僕は彼女に真実の愛を見つけた!お前のような"悪魔"に、エリンを幸せになど出来るものか!」
はっはっはっ、"悪魔"か。
褒め言葉にしてはちょっと控えめだな。
「――なら、試してみるか?」
「ひゃんっ」
俺はエリンの腰に手を回して抱き寄せ、王子に向き直る。
「惚れた女のためなら、何でもするのが男という生き物だろう。ほら、功績だけでも勇者のつもりなら悪魔からお姫様を救い出して見せろよ、王子様?」
「くっ……卑怯な!」
「そうだろう、悪魔は"卑怯"な存在さ。その真実の愛の力とやらで、卑怯な悪魔を浄化してみたらどうだ?出来るか知らんけど」
卑怯も何も、俺はそもそも何もしてないんだけど。
ついでに言えば、この王子が本当に『真実の愛パワー』を使ってきたとしても、俺は愚か、あの魔王にすら及ばないだろうよ。
「アヤトは卑怯なんかじゃない!」
っと、いきなり大声出すなよエリン、耳と心臓に悪いから。
「無力だった私を導いてくれて!……その、特訓は容赦無かったけど、でもそのおかげで、私だって少しは強くなれた!アヤトが頑張ってくれたから、私だって頑張れた!それを、自分だけ安全なところで何もしていない、アヤトの頑張りを横から取り上げようとする、あなたの方がよっぽど"卑怯"だ!!」
「ッ……」
拒絶。完全なる拒絶。
もうエリンが、万が一つでもこの王子に心を許すことはなくなった。
「それでも私を無理矢理奪うつもりなら、私にだって考えが!」
「はい、そこまで。感情の激化こそが最も動きを鈍らせる、って俺の教えを忘れたか?」
腰のショートソードを抜こうとしたエリンを、やんわりと止める。
「それに、もうエリンは勇者じゃなくていいんだ。俺がこれから攫うのは、エリンって言う、ただのかわいい女の子。それだけだ」
「アヤト……」
彼女を落ち着かせるために、再度頭をなでなでする。
「わわっ……え、えへへ……」
「ということで陛下。『魔王討伐を成し遂げたご子息殿』のために、国を挙げてお祝いなさってください。それでは、失礼致します」
王様に一礼してから、エリンの手を引いて俺がぶち抜いた壁へ――
「――あ、忘れてた」
ちょっと待ってて、とエリンから手を離して、王様に向き直って、
「喰らえ、顔面ドロップキック!!」
「ぐぼぇ!?」
鼻血を吹き出しながらぶっ飛んでいく王様。
そうそう、コレを忘れてたんだよ、『王様の顔面にドロップキック』。
よし、すっきりした。
内壁、外壁をぶち抜いて脱出だ!
王宮の外へ出たら、エリンをお姫様抱っこにして、長距離ジャンプ。
それを何度か繰り返せば、もう王宮は遥か遠くだ。
「もう、帰れなくなっちゃった……」
見えるかどうかも怪しいほどの距離の王宮に、エリンは寂しそうに呟いた。
「ごめんな、エリン。本当なら、孤児院の院長先生にも挨拶しに行きたかったけど、こうなるとそれも難しいな」
恐らく王宮は、俺を――或いはエリンも"反逆者"として指名手配するだろう。
城を破壊し、国王と王子に暴力を振るい、衛兵にも害を加えたのだ。普通ならこれだけの罪など赦されるはずがない、捕まったら即日処刑だ。
そうなれば、エリンの出身である孤児院にもガサ入れが入るだろう、ゆっくり挨拶している場合ではない。
「うぅん、アヤトのせいじゃないよ。アヤトが助けに来てくれなかったら、私はきっとひどいことをされたと思うから」
「それはまぁ、そうかもしれんけど」
それでも、慌てて国外逃亡をしなければならないような状況を作ったのは俺だ。
ほとぼりが冷めた頃を見計らって、こっそり孤児院に伺わせてもらおうか。
「――さて、これからどうするかね」
「どこかの町とか村でお世話になるとか?」
「やっぱりそうだよなぁ」
スローライフと言うと聞こえはいいけど、手っ取り早く稼げるような生活が出来ないのがなぁ。
うーむ、所持金は潤沢とは言え、無限にあるわけじゃない。
早いところ腰を落ち着けて、地に足を付けた生活基盤を作らなければ。
『そんなあなたにご朗報です♪』
「は?」
今なんか、聞き覚えのあり過ぎる声が聴こえたような気が……俺もついに末期か?
「え、なに……今の、アヤトの声じゃないよね?」
「俺はそんなファンシーかつアヴァンギャルドな声してないぞ?」
演じようと思えば出せなくはないだろうが。
「というか、エリンにも聞こえたのか」
「う、うん……幻聴?じゃないと思うけど」
「まさか……女神様か?」
もしやと思って呼び掛けてみたら。
『はい、一週間ぶりです。休暇は……あまり楽しめてないようですね?』
いやいやいや、ナニしに来たんですかあんたは!暇なのか!?
「まぁ、はい。たった今、国外逃亡をしてきたところですけど」
努めて落ち着こうとしている俺の隣で、エリンは目を回して混乱している。
『そうでしたか。しかし……まだ一人しかいないのですね?』
「一人?エリンのことですか?」
『そうです。ふむ……この世界がちょっと古過ぎたようですね。ハーレムなんて概念も、まだ無さそうですし』
「いや、その。エリン一人がいれば十分なんですが」
なんか嫌な予感しかしないんだけど……
『何を言うのですか!男たる者、異世界転生にハーレムを夢見てしかるべきでしょう!力も金も女も、己の手で勝ち取ってみせなさい!』
「なに勝手に人の休暇にちょっかい出してんだ!?適当な世界に放り込んだら、あとは勝手にしますんでって言ったでしょうが!?」
俺の反論なんて華麗にスルー。
というわけで!と勝手に話を進めていく女神様。
『世界を変えましょう』
は?
「世界を変えましょうって、どういうことです?」
『ですから、こんな80年代みたいな世界じゃなくて、生成AIが作り出すような美女・美少女ヒロインがたくさん出てくる、イマドキの異世界ヘ行きましょう、ということです』
メタ発言が過ぎませんかね女神様ァ!?
さっきからエリンがゲシュタルト崩壊したような目をしているんですけど、どないしてくれるんですかね。
「ハァー(クソデカ溜息)……あ ほ く さ 。(俺はこの世界でエリンと一緒に暮らしますから異世界転生からさらに異世界転生するつもりは)ないです」
『ハイ、オープンザ異世界です』
カパッ、と何もない空間が"開く"と……問答無用で吸い込み始めやがったぞオイィ!?
「ちょっ、おまっ!人の話聞、いてないですねチクショー!」
ふざけんな!このままエリンとお別れなんて冗談じゃねー!
「アヤトッ!!」
すると、エリンは俺の腕にしがみついた。
「よく分からないけど、全然よく分かんないけどっ、このままアヤトとお別れなんて、嫌だよ!」
だって、とエリンは――
「私、アヤトのことが好きだから!これからも一緒にいてくれるって、約束してくれたから!」
だから――
「お願い女神様!私も一緒に連れて行ってください!」
エリン……そんなに俺のことを……思わず泣いちゃいそう。
『いいですよ。というか、元々そのつもりでしたから、ご安心を』
「そっか!なら大丈夫です!」
えぇんかーい!?いや、俺もそれは嬉しいんだけど。
あーもー!こうなりゃなるようになれだ!俺は悪くねぇ!
「エリン!しっかり掴まってるんだぞ!」
「うんっ!」
ぴゅごぉぉぉぉぉ、と掃除機のごとく吸い込まれていく俺とエリン。
視界が暗転し、意識が遠くなる――。
………………
…………
……
日が昇り始めた頃に、魔王城の探索を終えたガルチラ達は、戦利品や財宝を船に詰め込んでから、ルナックスへの帰路を辿る。
朝食時に、ガルチラに呼び出された俺とエリンは、三者で食事を共にしていた。
「お前達が魔物を排除してくれたおかげで、探索も随分早く進んだ。礼を言わせてくれ」
「こちらこそ、手間を掛けさせた」
ガルチラと俺は、多分に本音の混ざった社交辞令を交わす。
「報告は昨夜にも聞いたが……お前達二人が討伐したのは、確かに魔王だったのだな?」
「あ、はい。本人も魔王って言ってたから、間違いないかと思います」
エリンも頷く。
あんな豚さんが魔王だったから、第二形態から急に強くなるのかと思ってたらそうでも無かったし、正直拍子抜けだったな。
「ふむ……まぁいいだろう。これよりルナックスへの帰路を取る。今しばらくは退屈かもしれんが、これでも食って適当に過ごしてくれ」
ガルチラが指すのは、目下にある少し豪勢な食事。
いただきます。
食事を終えたあとは、クルーの皆さんとあれこれ話したり、掃除や雑用を手伝ったりして(エリンのお尻に手を出そうとした奴はポイッとスッ転がして)、のんびりと過ごして。
ガルチラの予測通り、昼頃になってルナックスへ帰港した。
「世話になったな、キャプテン・ガルチラ」
「ありがとうございました」
タラップを降りて、俺とエリンはガルチラと別れを告げていた。
「なぁに、勇者の魔王討伐に貢献したというのも、悪くはなかったぞ。いずれまた会うこともあるだろう、その時は見返り無しで船に乗せてやろう」
「ありがとう。それじゃぁ、またな」
出会いがあれば別れもある。
ここ数万年の異世界転生って、一箇所に留まるストーリーが多かったからなぁ、あちこち冒険して色んな人達と出会っては別れる人生は久しぶりだ。
ルナックスで休憩がてら昼食を摂ったあとは、エコールの町に戻るために海底洞窟を通る。
ヌシであるオチューがいなくなっても魔物は普通に出てくるが、大体鎧袖一触と言った感じで接敵した瞬間排除していく。
躓きも滞りもせずに海底洞窟を抜ければ、そろそろ夕暮れが近く、日が沈む前にエコールの町に辿り着く。
明日は城下町に入り、王様に魔王討伐の報告――から、どうなるかだな。
エコールの町の宿で一夜を過ごしたら、マイセン王国の城下町へ向かう。
門番兵にはエリンが応対して城下町入りし、さすがに俺まで王宮に入るわけにはいかないので、王宮前からはエリンが一人でいかなくてはならない。
「それじゃぁ、すぐ戻ってくるね」
「なんかあったら助けを呼んでくれよ。すぐに壁をぶち抜いて助けに行くからな」
「も、もうちょっと穏便に出来ないかなぁ……?」
苦笑しながらも、エリンは足取り軽く王宮へ入っていく。
ちょっと手持ち無沙汰だなぁ。
王宮前でアヤトと別れたエリンは、衛兵に連れられて玉座の間へ向かう。
「おぉ、勇者エリンよ!よくぞ魔王討伐を成し遂げた!」
玉座の間に入るなり、国王は興奮気味に出迎えてくれた。
玉座の隣には、金髪碧眼の青年――彼の子息たる王子も控えている。
「はい、確かに魔王を倒しました」
エリンは国王の前に立って一礼する。
「しかし、随分早かったのだな?てっきり何ヶ月もかかると思っておったのだが……」
「港町ルナックスの沖に現れるという噂の幽霊船……それが魔王城で、現地の方々に協力してもらい、突入に成功しました」
本当はアヤトがガルチラ達海賊団と交渉し、よもや投石器で投げ飛ばしてもらって突入することになるとは思っていなかったのだが。
「なるほど、人々の力を借りてのことであったか」
まぁそれはそれとして、と国王は深く頷いた。
「勇者エリン、実に大義であった。マイセン王国を代表し、その偉業を賛えたい」
「ありがとうございます」
ぺこりと目を伏せるエリン。
何か望みがあるかと言われたら、「また旅に出たい」と答えよう。
そう思っていたエリンであったが。
「だが……そなたは勇者と呼ぶにはあまりにも若い。そんなそなたに勇者の業を背負わせて良いものかと、ワシは悩んでいたのだ」
その言葉を聞く限りなら、国王は苦心に苦心を重ねてエリンを送り出したとも聞こえるだろう。
だが、一週間という短い時間ながら、アヤトという"規格外"の手腕を見て来たエリン。
彼の手腕を見て、我知らず自分なりにその怪物的な"力"を取り込んでいた彼女は、国王の言葉に"裏"があることを感じ取った。
「エリンよ、そなたには勇者の重荷を下ろし、穏やかに生きてほしい。後のことは全て、我が息子に任せてくれ」
我が息子と言う国王の言葉に、王子は微笑を浮かべて頷いた。
けれどエリンの目には、その微笑にも"裏"が含まれているように見えた。
「――それは、私のことは何もなかったことにする、ということですか?」
ふと、エリンの声のトーンが下がった。
「ふむ。確かに、表向きのことはいずれそうなるであろう。後世の歴史書に、そなたの名前は遺らぬかもしれん。だが、今を生きる者達は、そなたの偉業を忘れはすまい。無論、このワシもな」
それは違う、とエリンはそう思い浮かべた。
"解放と自由"を餌に体よく自分を追放し、『魔王討伐』という功績だけを王子のものに挿げ替えるつもりなのだろう。
上辺と綺麗事を並べて、都合のいい道具のように仕立て、役目を成せばすぐに捨てて。
「(私は、こんな人達のために戦ったの?)」
「そうじゃ、エリンよ。この国の、未来の王妃になるつもりはないかね?そなたのことはワシも王子も認めている。どうかね、そなたにとっても悪い話ではなかろう」
さらに国王はそんなことまで告げる。
功績を横から奪い取る相手と結ばれろと?
そんなことまっぴらごめんだ、とエリンは考えていた断りの台詞を言おうとするが、
「エリン、あなたはとても可愛らしく美しい、聡明な女性だ。僕の伴侶としても、申し分ない」
玉座の隣に控えていた王子が、甘い言葉をかけながら歩み寄ってくると、エリンの肩を掴む。
「っ、わ、私は!この後でまた旅に出たいと……!」
「そんな必要はもう無いんだ。これからは僕とここで、穏やかに過ごしてほしい」
冗談じゃない、誰がこんな胡散臭くにやついた優男などに身も心も捧げるか!
肩だけでなく、背中にも手を回されて抱き寄せられ、顔を近付けられる。
「やっ、いやっ!離して……!」
力で抜け出せるはずなのに、魔物との戦いとは違う恐怖で身体に力が入らない。
無理矢理ファーストキスを奪われる――その寸前、
――なんかあったら助けを呼んでくれよ。すぐに壁をぶち抜いて助けに行くからな――
思い浮かんだのは、アヤトの顔と言葉。
もう、迷いは無かった。
「助けてっ、アヤトー!!」
瞬間、ズガァンッ!!と言う轟音と共に、玉座の間の壁がぶち抜かれた。
「呼ばれた気がした」
パラパラと大理石の破片と共に、最愛の彼が来てくれた。
お呼びとあらば即参上、滅殺抹殺一撃必殺、アヤトさんのご登場です。
なーんか嫌な気配を感じたから、気配を消して城内に侵入して、エリンが助けを求めてきたので、壁を粉砕玉砕大爆砕しました。
「なっ、なんだい君は!というかどうやってここに……」
エリンにキスしようとしてた王子様っぽいガキがなんか喚いてるけど、縮地で距離を詰めてポイッと部屋の隅へボッツシュート。
「アヤトぉっ!」
飛び込んできたエリンを抱き止めて、頭をなでなでしてあげる。なでなで。
「よしよし、俺がいてよかったな」
「うんっ、うんっ……無理矢理キスされそうになって、怖くて……」
エリンの頭をなでなでしながら、俺は王様っぽい人に向き直る。なでなで。
「き、貴様!何者だ!?」
顔から怯えと狼狽えが明らかになっている王様。なでなで。
何者だと訊かれたから素直に名乗るとしよう。なでなで。
「お初お目にかかります、陛下。俺はアヤト、旅の途中で勇者エリンと出会い、彼女のために微力を尽くしておりました」
俺の懐でエリンが「微力ってどういう意味だっけ……?」とか呟いてるけどそんなことはいい。なでなで。
「そんなことは訊いておらん!もしや、勇者エリンを誑かしおったか!」
何者だって訊いてきたのに「そんなことは訊いてない」って、理不尽だわぁ。なでなで。
しかも、エリンを誑かしたって、とんでもない言い掛かりだ。なでなで。
「誑かしたとは心外です。俺は彼女の心の拠所として、その想いに応えていたに過ぎません」
「よくもそのような詭弁をペラペラと……!衛兵!この賊を捕らえよ!」
すると、壁の破壊音を聞き付けたか、衛兵達がわらわらと玉座の間にやって来る。なでなで。
だ か ら な に ?
「――『ロックブレイク』」
土属性の中級魔法で赤絨毯の床を地中から隆起させ、岩の障壁を作り上げて衛兵達を足止めする。なでなで。
エリンの前だからね、無駄な殺生はしないで済ませよう。なでなで。
なでなでの手を止めて、王様に向き直る。
「さて、陛下。先程のお話を聞いていたところ、エリンの功績を取り上げて、そこの部屋の隅で寝転がっているご子息殿に挿げ替える、という辺りまでは理解出来ました」
「何を言う!勇者エリンにはこれからは穏やかに生きてほしいというせめてもの……」
「いいでしょう」
王様が何か喚いているようだけど、その内容に興味はない。
「彼女はこのまま俺が攫って行きます。もう二度とこの国に現れることは無いでしょう。『勇者エリンなど最初から存在しなかった』……そうですね?」
「ま、待て!貴様ごときに勇者エリンを渡しはしな……」
「何故、です?『勇者エリンが魔王討伐を成し遂げた』という事実はあなた方にとって都合が悪いはずだ。このまま俺が彼女を攫ってしまえば、あとは残された者達で好き勝手に出来るでしょう?「王子が魔王討伐を成し遂げた」などとデタラメを吹聴したところで、誰もそれを疑いはしない」
いつか前に転生したことあったわ。
何だっけな、『魔王討伐を成し遂げたけど、顔があまりにもブサイク過ぎるから、王子に功績を挿げ替えられた最強のおっさん勇者が、今度は魔王になって人間に復讐する』って感じの創作小説。
それとどことなくケースが似てるんだよなぁ、コレ。
「あぁ、それとも……欲しいのは功績だけじゃなくて、『勇者の血』ですか?血筋などに何の意味もありませんよ?エリンが魔王討伐を成し遂げられたのは、彼女の死物狂いの努力の結実。勇者の子が勇者になれるとは限りませんよ?」
確かに、素人同然だったエリンが、たかが数日の鍛錬だけであそこまで強くなれたのは、勇者の素質があったからというのもあるだろう。
だが、何度俺にポイポイ投げられても、何度喘ぎ苦しんで泣きそうになっても、決して諦めなかったから、素質の"芽"が出たのだと、俺は思っている。
「それは違う!」
不意に、部屋の隅から声が聞こえたと思ったら、俺に投げられて蹲っていた王子が主人公ボイスで喚いてきた。うっせーな、その口縫い合わすぞ。
――少なくとも、こいつがエリンと同じことをやろうとしても無理だろうな。二、三回投げられてすぐ音を上げてやめたがるに違いない。
「僕は彼女に真実の愛を見つけた!お前のような"悪魔"に、エリンを幸せになど出来るものか!」
はっはっはっ、"悪魔"か。
褒め言葉にしてはちょっと控えめだな。
「――なら、試してみるか?」
「ひゃんっ」
俺はエリンの腰に手を回して抱き寄せ、王子に向き直る。
「惚れた女のためなら、何でもするのが男という生き物だろう。ほら、功績だけでも勇者のつもりなら悪魔からお姫様を救い出して見せろよ、王子様?」
「くっ……卑怯な!」
「そうだろう、悪魔は"卑怯"な存在さ。その真実の愛の力とやらで、卑怯な悪魔を浄化してみたらどうだ?出来るか知らんけど」
卑怯も何も、俺はそもそも何もしてないんだけど。
ついでに言えば、この王子が本当に『真実の愛パワー』を使ってきたとしても、俺は愚か、あの魔王にすら及ばないだろうよ。
「アヤトは卑怯なんかじゃない!」
っと、いきなり大声出すなよエリン、耳と心臓に悪いから。
「無力だった私を導いてくれて!……その、特訓は容赦無かったけど、でもそのおかげで、私だって少しは強くなれた!アヤトが頑張ってくれたから、私だって頑張れた!それを、自分だけ安全なところで何もしていない、アヤトの頑張りを横から取り上げようとする、あなたの方がよっぽど"卑怯"だ!!」
「ッ……」
拒絶。完全なる拒絶。
もうエリンが、万が一つでもこの王子に心を許すことはなくなった。
「それでも私を無理矢理奪うつもりなら、私にだって考えが!」
「はい、そこまで。感情の激化こそが最も動きを鈍らせる、って俺の教えを忘れたか?」
腰のショートソードを抜こうとしたエリンを、やんわりと止める。
「それに、もうエリンは勇者じゃなくていいんだ。俺がこれから攫うのは、エリンって言う、ただのかわいい女の子。それだけだ」
「アヤト……」
彼女を落ち着かせるために、再度頭をなでなでする。
「わわっ……え、えへへ……」
「ということで陛下。『魔王討伐を成し遂げたご子息殿』のために、国を挙げてお祝いなさってください。それでは、失礼致します」
王様に一礼してから、エリンの手を引いて俺がぶち抜いた壁へ――
「――あ、忘れてた」
ちょっと待ってて、とエリンから手を離して、王様に向き直って、
「喰らえ、顔面ドロップキック!!」
「ぐぼぇ!?」
鼻血を吹き出しながらぶっ飛んでいく王様。
そうそう、コレを忘れてたんだよ、『王様の顔面にドロップキック』。
よし、すっきりした。
内壁、外壁をぶち抜いて脱出だ!
王宮の外へ出たら、エリンをお姫様抱っこにして、長距離ジャンプ。
それを何度か繰り返せば、もう王宮は遥か遠くだ。
「もう、帰れなくなっちゃった……」
見えるかどうかも怪しいほどの距離の王宮に、エリンは寂しそうに呟いた。
「ごめんな、エリン。本当なら、孤児院の院長先生にも挨拶しに行きたかったけど、こうなるとそれも難しいな」
恐らく王宮は、俺を――或いはエリンも"反逆者"として指名手配するだろう。
城を破壊し、国王と王子に暴力を振るい、衛兵にも害を加えたのだ。普通ならこれだけの罪など赦されるはずがない、捕まったら即日処刑だ。
そうなれば、エリンの出身である孤児院にもガサ入れが入るだろう、ゆっくり挨拶している場合ではない。
「うぅん、アヤトのせいじゃないよ。アヤトが助けに来てくれなかったら、私はきっとひどいことをされたと思うから」
「それはまぁ、そうかもしれんけど」
それでも、慌てて国外逃亡をしなければならないような状況を作ったのは俺だ。
ほとぼりが冷めた頃を見計らって、こっそり孤児院に伺わせてもらおうか。
「――さて、これからどうするかね」
「どこかの町とか村でお世話になるとか?」
「やっぱりそうだよなぁ」
スローライフと言うと聞こえはいいけど、手っ取り早く稼げるような生活が出来ないのがなぁ。
うーむ、所持金は潤沢とは言え、無限にあるわけじゃない。
早いところ腰を落ち着けて、地に足を付けた生活基盤を作らなければ。
『そんなあなたにご朗報です♪』
「は?」
今なんか、聞き覚えのあり過ぎる声が聴こえたような気が……俺もついに末期か?
「え、なに……今の、アヤトの声じゃないよね?」
「俺はそんなファンシーかつアヴァンギャルドな声してないぞ?」
演じようと思えば出せなくはないだろうが。
「というか、エリンにも聞こえたのか」
「う、うん……幻聴?じゃないと思うけど」
「まさか……女神様か?」
もしやと思って呼び掛けてみたら。
『はい、一週間ぶりです。休暇は……あまり楽しめてないようですね?』
いやいやいや、ナニしに来たんですかあんたは!暇なのか!?
「まぁ、はい。たった今、国外逃亡をしてきたところですけど」
努めて落ち着こうとしている俺の隣で、エリンは目を回して混乱している。
『そうでしたか。しかし……まだ一人しかいないのですね?』
「一人?エリンのことですか?」
『そうです。ふむ……この世界がちょっと古過ぎたようですね。ハーレムなんて概念も、まだ無さそうですし』
「いや、その。エリン一人がいれば十分なんですが」
なんか嫌な予感しかしないんだけど……
『何を言うのですか!男たる者、異世界転生にハーレムを夢見てしかるべきでしょう!力も金も女も、己の手で勝ち取ってみせなさい!』
「なに勝手に人の休暇にちょっかい出してんだ!?適当な世界に放り込んだら、あとは勝手にしますんでって言ったでしょうが!?」
俺の反論なんて華麗にスルー。
というわけで!と勝手に話を進めていく女神様。
『世界を変えましょう』
は?
「世界を変えましょうって、どういうことです?」
『ですから、こんな80年代みたいな世界じゃなくて、生成AIが作り出すような美女・美少女ヒロインがたくさん出てくる、イマドキの異世界ヘ行きましょう、ということです』
メタ発言が過ぎませんかね女神様ァ!?
さっきからエリンがゲシュタルト崩壊したような目をしているんですけど、どないしてくれるんですかね。
「ハァー(クソデカ溜息)……あ ほ く さ 。(俺はこの世界でエリンと一緒に暮らしますから異世界転生からさらに異世界転生するつもりは)ないです」
『ハイ、オープンザ異世界です』
カパッ、と何もない空間が"開く"と……問答無用で吸い込み始めやがったぞオイィ!?
「ちょっ、おまっ!人の話聞、いてないですねチクショー!」
ふざけんな!このままエリンとお別れなんて冗談じゃねー!
「アヤトッ!!」
すると、エリンは俺の腕にしがみついた。
「よく分からないけど、全然よく分かんないけどっ、このままアヤトとお別れなんて、嫌だよ!」
だって、とエリンは――
「私、アヤトのことが好きだから!これからも一緒にいてくれるって、約束してくれたから!」
だから――
「お願い女神様!私も一緒に連れて行ってください!」
エリン……そんなに俺のことを……思わず泣いちゃいそう。
『いいですよ。というか、元々そのつもりでしたから、ご安心を』
「そっか!なら大丈夫です!」
えぇんかーい!?いや、俺もそれは嬉しいんだけど。
あーもー!こうなりゃなるようになれだ!俺は悪くねぇ!
「エリン!しっかり掴まってるんだぞ!」
「うんっ!」
ぴゅごぉぉぉぉぉ、と掃除機のごとく吸い込まれていく俺とエリン。
視界が暗転し、意識が遠くなる――。
………………
…………
……
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