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第五章 凍て付いた里のツンデレ狩人

37章 異世界よ、俺は帰って来た!

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 ――アヤトによって浄化されたアリスは、どことも知れぬ、世界とさえ呼べぬ、"どこか"で魂と概念だけの存在になって漂っていた。

 恨みの声、怒りの炎、憎しみの光、悪意の闇……ありとあらゆる、"負の感情"が渦となり、混沌としたモノが、アリスを、"アリスだったモノ"を模っていた。

 その混沌の矛先にあるのは、しげねこ――画面の向こう側、どこの誰かも分からない『文豪家になろう』のユーザー――今となってはアヤトという名の青年の肉体を持った存在。

 奴が――しげねこが卑怯な手を使って『なろう大賞』を受賞して、それは間違っていると糾弾しただけで、自分が活動していた投稿サイトのユーザー達は次々に手のひらを返し、しげねこを糾弾したはずの自分が悪者であるかのように炎上させた。
 それどころか、一体どこから情報が漏れたのか、自分の現住所が特定され、連日カミソリ入りの不幸の手紙や汚物が投げ込まれた。
 挙句の果てには勤務先の上司が、しげねこの作品を気に入っていたらしく、それを糾弾した自分に対してあまりにも理不尽なリストラを告げた。

 自分はしげねこに全てを壊された。

 だからこの復讐は至極当然で筋が通っている、正義の行いなのに。

 ど う し て こ う な っ た ?
 
 何故。
 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。

 ナ ゼ
 
 許さない。
 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。

 ユ ル サ ナ イ

 殺してやる。
 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。

 コ ロ シ テ ヤ ル

「おやおや、随分とドス黒い魂がやって来たものだな」

 ふと、男にも女にも子どもにも老人にも聞こえる声が届く。
 混ざり過ぎた声色は、いっそ不協和音とさえ言える。

 アリスは振り向いた。

 そこに"在る"のは、『赤紫色をした炎のようなモノ』。

「ふむ、底知れぬ光によって存在を徹底的に浄化されたようだが……その"憎しみの塊"が辛うじて"ココ"へと誘ったか」

 何やら、アリスが"ココ"へ来てしまったことにも詳しいときた。

「貴様はアリスと言うのか。……ほう、ただの憎しみではない、時を越えて、他者を使い潰し、敵わずとも、なお復讐を遂げたいとする、実に愚かしく……実に素晴らしい魂だ」

 赤紫色の炎は愉快そうにユラユラと嗤った。

「アリスよ、その復讐は何がなんでも成し遂げたいか?」

 当然である。
 卑怯で阿漕なことを是とするしげねこと、それを盲信してイエスマンへと成り下がった愚物どもなど、存在してはいけないのだから。

「良かろう。ならばその願い、我が叶えてやろう」

 しげねこアヤトの希望が全て潰えるのを見届けてから、あの手この手でじっくりと嬲り殺すつもりだったが、誰かがそれを代わってくれるなら、それも良いかもしれない。

「さぁアリス、我に委ねよ――全てをな」

 アリスは、赤紫色の炎へと歩み寄り――その魂を投じた。

「おぉ……いいっ、いいぞ!この漲る殺意!滲み出る悪意!吐き気を催す邪悪!どうしようもないクズ!己が愚行を正義と信じて疑わぬ視野の狭さ!相手が悪なら思考停止で是非すら問わぬ無知蒙昧さ!アハハ!アハハハハハ!!素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい!!」

 アリスのドス黒い魂を喰らった赤紫色の炎は、激しく燃え狂う。

「無責任な異世界転生で物語をエタらせる神々よ、そして身勝手な都合でオリキャラを捨て置いた作者どもよ!我々――『エタられた者ら』の痛みと苦しみと悲しみ!その身を以て味わい、滅んで贖え!!クフッ、クッハハハハハハハハハハッ!!!!!」





 ………………

 …………

 ……

「知ってる天井だ」

「何言ってるの、天井なんて無いでしょ」

 目を開けば、久々に見た青空が眩しい。
 エリンにマジレスツッコミされるまでのワンセット、背伸びしながら起き上がる。

 エリン、リザ、クロナ、レジーナ、そしてクインズ。
 みんなドレスのまま転移したんだな。

「みんなも、無事に女神様に転移してもらえたようだな」

「いきなり声が聴こえた時は何かと思いましたが……アヤト様が仰るところの"女神様"だと言うので、安心しました」

 クロナがニコニコと頷いてくれる。

「私達が持っていた荷物や武器も全てあります」

 女神様が一纏めにしてくれたのだろう、荷物と武器の山をレジーナが指す。
 荷物とかも全部回収しますからって言ってたな。

「それで、ここは……あぁ、ハルカスの町の近くだな」

 最初にクロナと待ち合わせた時の町だ。
 馬車に乗ってここに来るまでの景色に記憶がある。
 よっこらしょ、と起き上がって。

「日の高さを見る辺り、まだ午前中のようですけど、一度ハルカスの町に寄りますか?」

 リザが意見を具申する。
 ハルカスの町からフローリアンの町の距離は、徒歩でも半日弱くらいだ、このまま帰っても夕暮れ前にはフローリアンの町に着くだろうが……

「いや、今日のところはハルカスの町で一晩過ごして、体内時計を整えよう」

 言うなれば、時差ボケの解消だ。

 最後にエスパーダ国にいた時の時間帯は夜だったが、いきなり十二時間くらい時が早回しされているのだ。
 体感的にはまだ夜の感覚に近い。

「そうしてくれるとありがたい。……今度は私が、『この世界にとっての異世界人になる』わけだからな」

 クインズ――銀髪なのは予想していたけど、瞳の色は艶やかな藤色だ――は堂々としてそうに見えるが……そうか、彼女は"この世界"に来るのは初めてだったな。

「よし。それじゃぁ今日のところはハルカスの町でゆっくりして、それからフローリアンの町に向かうとしようか」

 とりあえずの方針を決定し、すぐ近くに見えているハルカスの町へ向かう。



 不思議なことに、時の進みは正常のままだった。

 つまりどういうことかと言うと、(クインズを除く)俺達は、四日間ほど、クインズがいた世界――シュヴェルト王国に滞在していたが、フローリアンの町で日付を確認すると、三日しか経っていない。
 ちょうど、ハルカスの町~アトランティカ間の海路での移動期間と同じだけの時間しか経っていないことになる。

 恐らく、帳尻合わせのために女神様が時を動かしてくれたのだろう。お手数おかけしてすいませんね。
 
 宿屋で部屋を借りて、ドレスから着替えては、この世界の常識に慣れていないクインズのために、説明がてら町を散策する。

「……なるほど。つまり、ただ単に魔物を討伐するだけでなく、植物や鉱物、魔物から剥ぎ取った素材等を集めるのも、冒険者の責務と言うかことか」

 クインズは得心したように頷く。
 彼女はこの世界における冒険者の概念を知らないので、触りだけ軽く説明しておき、冒険者登録はフローリアンの町のギルドで行ってもらう予定だ。

「クインズさんもわたし達のパーティに加入するとなると、六人になりますね」

 リザが、今現在の俺達の人数を再確認する。

「ちょうど偶数人数だな」

「大規模な依頼や、長距離を移動する必要のある依頼を受ける際は全員で赴く方がいいでしょうけど、そうでない場合は、人数を半分にして二組に分かれてもいいんじゃないかと思います」

 ふむふむ、受ける依頼の難度や状況によっては、二手に分けても良いかと言うわけだな。

「なるほど。クインズが冒険者生活に慣れてきた頃に、その案を組み込んでみてもいいかもな」

 今は不慣れなクインズを慣れさせるためにも、多人数で依頼を受けて、彼女の慣れ具合を見つつ段階的に組み込んでみようか。

「三人ずつ……つまり、その日のアヤト様の寵愛を受けられるのは、二人までということですね」

 レジーナが真剣な面持ちでそう言っているが、その真剣のベクトルがなんか方向音痴してる。

「レジーナちょっと落ち着こうか。確かに俺と同行する人数は二人に絞られるけど、その日の"夜"をどうするのかはまた別の話だからな?」

 いくらなんぼの俺でも、毎晩はちょっと身体が保たないよ?

「アヤト様、この間はエリンさんに独り占めされてしまいましたから、レジーナもアヤト様に抱いて欲しかったのですよ?」

 もちろん私もですが、とちょっと頬を膨らませるクロナ。かわいい。

「あっ、姉上っ!?そんな明け透けな……!」

「………………っ」

 その"この間"のコトを思い出したのか、エリンはポッと頬を赤くして俺から目を逸らした。

「あー、まぁ、うん、全員が全員同じだけに、と言うのは難しいけど、俺も頑張るから」

 英雄色を好むと言うが、その言葉が創られた頃の"英雄"と呼ばれた殿方達は、どのくらいの頻度でヤっていたのだろうか。
 かつて乱世の奸雄と呼ばれた男は、何十人ものの人妻とヤりまくって子を残していったそうだが……あの時代に異世界転生した時の俺には、そこまでヤるほどの余裕は無かったな。
 
「ア、アヤト。その"寵愛"の対象には、私も含まれるのか……?」

 今度はクインズもじもじし始めた。かわいい。

「もちろんだ」

 不安そうなので、優しいキメ顔とイケボで頷いてあげると。

「うっ、やはりそうか……ま、まだ覚悟は出来ていないが、"その時"は、その、や、優しくしてくれ……」

 何このかわいいがロケットスタートしてる生き物。

 さすがにコトをするのはフローリアンの町に帰ってきてからにしたいから、今夜はじっくり寝て、体内時計を整えるとしよう。



 ハルカスの町で一晩過ごして、朝一番で出立。
 馬車でも半日ほどの距離なので、途中で休憩を挟んでも、お昼過ぎ頃にはフローリアンの町に帰還できるだろう。

 その道中。

「そういえば、アヤトの剣って折れちゃったんだよね」

 エリンの視線が、俺の腰にあるロングソードの鞘に向けられる。今は折れたロングソードを鞘に戻している。

「壊れない程度には上手くセーブしていたつもりだったんだが……さすがにチート転生者の相手には保たなかったな」

 全くぁんのアリスめ、せっかくエリンが少ない所持金を叩いて買ってくれた銅の剣を台無しにしやがって。今からでもあの世に殴り込んで賠償金に利子と手数料を付けてふんだくって、払うモンがねぇなら身体で(物理的に)払ってもらおうか。

「そのアヤトさんの剣を折った相手って、前の世界でアヤトさんがデートのお誘いをしようとしていた相手ですか?」

 リザが、俺のロングソードが折れてしまった、そもそもの要因というか原因を訊ねる。

「あぁ……そのデートの相手な、とんでもないメンヘラ女で、しかも重度のストーカーだったからな。さすがの俺も削除ころすまでちょっと手間取ったよ」

「メ、メンへ……しかもストーカーって……アヤトさんにそんなことする勇気があるとか、一体どんな狂人ですか」

 微妙に失礼なことをしれっと言ってのけるリザ。狂人に変わりはないけど。



 まぁ、その手間取っている間にロングソードを折られちまったわけだが。

「ですが、それはそれとして、アヤト様の新たな剣が必要になりますね」

 そう、レジーナの言う通りなんだよ。
 剣が無くても、戦うには問題無いと言えば問題無いんだけど、やはり冒険者として『武装している』と言う分かりやすい目印は欲しいし、どこかで剣が必要になることもあるだろう。

 剣がカッコいいから持って歩きたいって理由もあるけどな!

「アトランティカにも武具の取り扱いを行っている店舗や鍛冶工を営んでいる方はおりますが……アヤト様のお力を十全に発揮出来るものをご用意出来るかは、分かりませんね」

 クロナはそう言ってくれるけど……"俺"が100%中の100%を発揮出来る武器は、多分誰も作れないと思うよ。

『最初からそのためだけに生み出され、そのためだけに朽ち果てる存在』でも無ければね。

「十全にとは言わないが、五割程度の力に追従してくれればそれで十分だな」

「普通の武器ではすぐに壊れてしまうと言う時点でどうかと思うぞ……」

 クインズが顔を引き攣らせている。
 どうかと思うぞと言われてもなぁ……最高純度のオリハルコンや、その亜種である『スラハルコン』、龍血結晶と鉱石が混ざって生み出された希少鉱物から作られる『ドラゴニュウム合金』、あとは"月の涙"って呼ばれる限りなく純度の高い『ルナクリスタル』とか、暗黒物質ダークマターとかで作られた武器でも、いつかは壊れてしまうんだからしゃーない。

「武器……鍛冶屋……そう言えば、冒険者の方々の間で小耳に挟んだことがあるのですが」

 ふと、物知ものしリザ先生がそのお知恵を貸してくださるようだ。

「フローリアンの町から見て、北方の山里――『スプリングスの里』に、古くも伝統ある名鍛冶師がいると聞いたことがあります」

 ほぅほぅ、伝統ある古鍜冶師とな。なんだか期待出来そうなフレーズだ。

「かつてSSランクだった冒険者の方々も、そこで一度はお世話になったことがある……と、ギルドマスターが言っていたのを端から耳にしただけですけど」

「北方の山里か……」

 海路の次は山道か、あっちへ行ったりこっちへ行ったり忙しないなぁ。

「あら、スプリングスの里と言えば、天然の温泉で有名な観光地でもありますよ?」

 補足するようにクロナがそう説明してくれる。

「私と姉上も、観光としてスプリングスの里に立ち寄ったことがありますが、様々な滋養強壮、美容効果のある温泉であると」

 温泉か……いいなぁ……

「観光地なら、きっと美味しいものもたくさんありそう……」

 エリンがキラキラと期待に満ちた目をしている。まだ色気より食い気って感じだ。

「よし。それなら、フローリアンの町に戻ったら、オルコットマスターに相談してみるか。向こうの冒険者ギルドとのツテもあるかもしれないし、悪いようにはならないだろう」

 次の目的は、伝統ある古鍜冶師のいる温泉里の旅になりそうだ。



 途中で休憩や食事を挟んで、予定通り昼過ぎ頃には、フローリアンの町に帰って来た。

 往復だけで一週間、アトランティカでの滞在期間に、転移した先のシュヴェルト王国に滞在していた期間も含めると、一ヶ月くらい(帰りの航行日数から逆算するとシュヴェルト王国での滞在期間はゼロになるため実際は24~25日程度だが)は空けていた計算になるなぁ。

 家に帰る前に、オルコットマスターに帰還の挨拶と、クロナとレジーナがフローリアン支部での預かりになる旨を伝えて、クインズの冒険者登録をしなくてはならないからね。

「ほほ……ご苦労じゃったの、アヤト殿。……何やら人数が増えているようじゃが?」

 相変わらず、ヨボヨボ歩き(に見えた暗殺者の足取り)のオルコットマスター。

「報告致します。アトランティカで起きていた異常気象や異変の解決を完遂致しました。それと……こちらの二人は、冒険者ギルド・アトランティカに所属する者です。向こうの、エリックマスターとの同意の上で、一時的にこちらの預かりになります」

 クロナとレジーナの二人に目配せすると、二人は一歩前に出て雅やかに一礼する。

「冒険者ギルド・アトランティカ支部所属の、クロナと申します。この度は、アヤト様のお力となるべく、一冒険者として馳せ参じました」

「同じく、アトランティカ所属のレジーナと申します。私達姉妹、共にアヤト様をお支えすべく、この地へ参りました」

「ほほ……期待しておるぞ」

 そしてもう一人――クインズだ。
 クロナとレジーナが一歩下がるの見てから、俺が「それともう一人」と挟む。

「こちらは、俺の推挙によって招聘した、冒険者希望の者です」

 推挙も招聘も嘘だけど、「削除された作品の異世界から連れて来ました」とは言いにくいので、それっぽいテキトーな理由をでっちあげる。
 クインズにも目配せすると、彼女はシュヴェルト王国騎士の作法でオルコットマスターに敬礼する。

「お初にお目にかかります。こちらのアヤト殿の推挙を受けました、クインズと申す者です。若輩者ではございますが、皆様には何卒お引き回しのほど、よろしくお願い致します」

「ほほ……よろしくなぁ」

 型式張った挨拶はこんなところにして、クロナとレジーナはギルドカードを受付嬢さんに提示して所属の変更を更新し、クインズは新規での冒険者登録だ。
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