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第四章 消えた世界の銀髪女騎士

36話 トモニユク

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 さぁ、本気の七割で相手するとしよう。

 両拳に蒼光を纏わせて、ファイティングポ……

「虚仮威しが!」

 すぐさまアリスはヴォーパルソードを振るってくる。
 振り抜かれたヴォーパルソードが俺を斬り裂いた――ように見せかける。

「は?」

 ヴォーパルソードの刃は確かに俺を捉えた。
 けれど、斬った感覚が無いだろう。

 何故なら、それは俺の残像だからだ。
 これは、フラッシュウイングによって放出される光子を俺自身に纏わせて、挙動の際に『俺を模った光子の集合体』だけがその場に残るという仕組みだ。

「よそ見してると危ないぞ?」

 かくいう俺はアリスの背後に回り込み、振り向いたアリスの頬に、アヤトパーンチ。

 ✕ 1 0 。

「ぶ がぐばぁっ!?」

 一度に十発分のマシンガンパンチを打ち込んでアリスを吹っ飛ばす。

 これに対抗するには、『自分を十体に分身させて受け止める』という小学生でも思い付かないような奇天烈技を必要とするんだけど。

 吹っ飛ばしたら縮地でアリスの吹っ飛び先に回り込んで、

「燃え尽きろ――『火炎龍王波』」

 右腕から巨大な火炎龍を放ち、ちょうど龍のあぎとに当たる部分からアリスを呑み込む。

「があァァァァァぁぁぁぁぁっ!?」

 普通ならこれで消し炭ひとつ残らないけど、どうやらアリスもなかなかのチートらしい、耐え切って見せている。
 とはいえそれも想定の範囲内だ、反撃される前に二の矢、三の矢を絶えず射ち込む。

 即座に氷属性魔法を詠唱し、

「――『アブソリュートゼロ』」

 瞬間、アリスの周囲にひょうが集まり始め――

「かっ」

 瞬間冷凍。
 大気中の水分の凍結という氷の獄にアリスを閉じ込める。
 めちゃくちゃ熱いものを一気に冷やしたら割れてしまうように、火属性ダメージを受けた直後に氷属性ダメージを与えれば、効果は倍増。

 しかしこれでも抜け出してしまう恐れがあるので、完全に削除ころすまでは手は緩めないようにしよう。

 瞬間冷凍パックされたアリスに近付いて、その表面の氷に手を当てて、

ッ!!」

 練気を流し込む。
 瞬間、氷の獄は粉々に砕け散り、同時にアリスの身体から血管が破裂したかのように血が吹き出した。

「ごっ、ぼっ、ぁっ」

 リザを助けた時に吹っ飛ばしたレッドボアとは違い、しっかりと『身体の外へ練気が逃げないようにして』打ち込んだから、与えるのは外傷ではなく、臓器などの内部損傷だ。

 立て続けのダメージに、ついにアリスが墜落した。
 俺も地上に降りて追撃だ。

 地上に墜ちたアリスは身体を引き摺るように起き上がろうとしていた。

「こっ……こ、この……卑怯者……っ!」

「なぁ、"卑怯"ってどう言う意味か知ってるか?」

 これ、本来は『比興』って書くらしいんだけどね。
 縮地で距離を詰めて、アリスの顔面をアイアンクローで鷲掴みにして持ち上げる。

「俺が怖いか?マオークやムルタをけしかけたように、自分の手を汚すのがそんなに怖いか?」

「がっ、あがっ、ぁぁぁぁぁ……っ!?」

 思い返せば、二つ前の世界の船の墓場にこいつがいたのも、俺から龍神の瞳を掠め取ろうとしたんだろう。

 ヨルムガンド湿地帯の神殿や、アトランティカの水の霊殿もそうだ、恐らく守り神や精霊を封じ込めて、俺がそれを解放し、勇気の翠玉や蒼海の護石を俺に授けさせ、それらをまとめて奪うためだったのだろう。

 まぁ、俺の力が予想外過ぎて目論見が外れまくっているみたいだけどな(自画自讃)。

 アリスアリスばかり言っていたのは、自分を不思議ちゃん系だと思わせて、俺に敵だと思わせないための演技か?

 ん?ちょっと待てよ。
 こいつはアリスCのために、アリスBへの復讐を目的としているんじゃなかったっけ?(名詞が全部"アリス"だから俺の勘違いの可能性もあるが)

 だとしたら、こいつは何故、誰のためにこんなことを?

 俺に対する憎悪、しげねこのハンドルネームを知っている、『ざまぁ』というラノベ語の認知、アリスと言う名前……

 ……もしかして?



「お前――『文豪家になろう』で、"しげねこさん"に悪質なメッセージを送りまくった、"アリスさん"か?」



 思い出したぞ。
 今朝見た夢でもそうだ、俺が『しげねこ』のハンドルネームでちょこっと活動していた時。

 とは言え、俺はもうとっくにその投稿サイトがある世界を完結させているんだが……恐らく、"アリスさん"もあの世界で死んでから異世界転生し、俺と言う"しげねこ"に復讐すべく追ってきた……と言ったところか?

「そ、うだ……っ!お……まえが、お前、の……せいで、わた、しは……っ」

 うん、やっぱりそうか。
 こいつからすれば、「しげねこが卑怯なことをして大賞を受賞したから糾弾したのに、それすらも無碍にされた挙げ句、しげねこの卑劣な手によって自分の人生を壊された」とでも勘違いしてるんだろうなぁ。

 まぁ、恫喝・脅迫紛いなことをした時点で、その正義の執行は悪の蛮行に成り下がるわけだが。

「ふむ……因果応報、自業自得、諸行無常の四文字熟語で片付けるのは容易いが、その底意地の汚さぐらいは認めてやらないでもないか」

 画面の向こう側、どこの誰とも知らぬ相手にそこまでの憎悪を抱き、転生までしてその魂を追って来る……尋常じゃねーな、ネットストーカーも次元レベルになればいっそ見事だわ。 

 が、それも今日これまでだ。

「神の国への引導を渡してやる前に、ひとつだけ教えておくよ、"アリスさん"」

 目の前でフェイスハングしているアリスにではない、文豪家になろうユーザーの"アリスさん"に向けて忠告。



「どんな理由があっても、誹謗中傷は絶対にやっちゃいけないことだ」



 それは創作者である以前に、人としての品性を疑う、唾棄すべき行いだ。
 そう言うことを平然と出来てしまう人間と、それを理解しようとしない人間が多過ぎたんだよ、あの世界は。

 言いたいことは言い終えたので、アリスの胸に貫手を突き込み、その心臓を引き摺り出して、握り潰す。

「――      」

 心臓を失ったアリスは、絶望に染まった顔のまま斃れる。
 普通ならこれで死ぬけど、死者を復活させるような力を使ってくるから、このまま放置してはいけない。

「――ジャッジメントレイ」

 マオークの時と同じ、ジャッジメントレイを照射、因子の欠片も残さずに浄化。

「さようなら、二度と出て来るなよ」

 ――これで、"アリスさん"との因縁もおしまいだ。

 さて、俺も早くみんなの元へ帰らないとな、長距離ジャンプぴょーーーーーん。

 ………………

 …………

 ……

 俺、みんなの前に着地。

「あ、アヤトおかえりー」

 すごい普通にエリンが応じてくれた。だいぶ感覚麻痺して来てるなぁ。

「ごめんエリン……せっかく買ってもらった剣が折れてしまった」

 鞘から半ばから折れたロングソードを抜いてエリンに見せる。
 彼女が怒るとは思わないが、申し訳ない気持ちはある。

「あー、うん。100ゴールドで買ったものだし、そんな落ち込まなくていいよ。……っていうか、今までよく壊れなかったよね?」

「壊れるまではこれで戦うつもりだったとはいえ、いざ折れるとけっこうショックだな……」

 剣士にとって剣は身体の一部そのものだ、片腕を失ったと言っても良い。
 いや、剣が無いなら拳と魔法でふっ飛ばせば済む話なんだが、武装していると言うポーズも含めて剣を使っていたからなぁ。

 元の世界に戻ったら、新しい剣を買わないと。


 
 シュヴェルト王国に帰還するなり、全員揃って丁重に玉座の間に通され、シュヴェルト王とアレックス第二王子に謁見。

 代表としてクインズが一歩前に出て報告する。

「報告致します。逆賊ムルタの誅伐任務、完遂致しました」

「うむ!クインズ、そしてアヤト殿と連れの者らよ、大義であった!」

 上機嫌に大仰に頷くシュヴェルト王。

「良かった……これで、シュヴェルトとエスパーダは争わずに済む」

 アレックス第二王子も安堵に胸をなでおろす。彼にしてみれば気絶している間に反乱が鎮圧され、あれよあれよの内に両国の同盟が決まったんだ、気が気でなかったろう。

「そして、アレックスとクリスティーヌ姫との婚約も決まる。ゴーマンがエスパーダへの武力侵攻を行うと言った時はどうなることかと思ったが、これで憂いは絶たれた」

 そう言えばゴーマンは、俺が気絶させたあとは衛兵らに連れて行かれていたけど、処遇はどうなるのだろうか。

 ――後にクインズから聞かされたが、アレックス第二王子はエスパーダの次期国王の座を戴くため、必然的にシュヴェルト王国の次期国王はゴーマンが戴くことになるのだが、個人財産や権力のほとんどを取り上げられて蟄居ちっきょの身となり、辛うじて王位継承権は剥奪されなかったものの、事実上は跡継ぎと言う名の傀儡を強いられることになるそうだ。ざまぁ・もう遅い――。

「今よりエスパーダに文を送り、事態の終息と、アレックスとクリスティーヌの婚約パーティーを開催する旨を伝える。アヤト殿達も、ぜひ参加してほしい」

 ふむ、パーティーか。
 女神様からの連絡と言うかサルベージもまだのようだし、時間を潰すと思って参加すべきか。
 問題があるとすれば、

「陛下、ご厚意はありがたいのですが、自分達は旅の者ゆえ、礼装などは所持しておりません。そう言ったものをお貸しいただけるのでかれば」

 スーツとかドレスなんて持ってませんよ、と言うことだ。

「うむ、礼装などはこちらで用意しよう。それと、パーティー開催の前後は、この王宮で寝泊まりしていただきたい」

 パーティーが終わるまではここで滞在してくれってな。
 まぁ今のところ、女神様にサルベージしてもらう以外に元の世界に帰る手立ては無いし、みんなも参加するだろう。

「承知致しました。では、男性一人と女性が四人、合計五人分の手配をお願い致します」

 出席。



 それから三日後に、エスパーダ王国の方で、婚約パーティーが開かれる運びとなり、クインズも俺達の護衛という名目で同行するそうだ。

 俺達全員分の礼装も支給され、ガラガラと馬車でエスパーダ王国へ向かい、到着。

 来賓者用の、男性用ゲストルームに案内され、男性は俺だけなので一人でそそくさとフォーマルスーツに着替えて。

 着替え終えたらゲストルームの外でちょっと待つ。

 ……何と言うか、このモノクロ世界にも慣れてきたなぁ。
 元の世界に戻ったら、しばらくは目が痛いだろうな。

 もう少しボケーッと待っていると、

「アヤト様、お待たせしました」

 クロナに呼ばれたので振り向くと、

 エリン、リザ、クロナ、レジーナの四人がドレス姿になっていた。

 うーむ、モノクロ世界なので色合いがハッキリ分からないのが残念だが、恐らくエリンは桃色、リザは水色、クロナとレジーナは二人とも黒基調のようだ。
 ……でも、クロナのドレスはちょっと胸元開けすぎじゃない?いくらバストを強調したい作りだろうとは言え、主役であるアレックス第二王子とクリスティーヌ姫より目立つんじゃなかろうか。

「色さえハッキリ分かれば完璧なんだが……でも四者四様、可愛いし綺麗だな」

 くそー、フルカラーで見たい!そう思うのは俺だけじゃないはずだ!

「……あれ、クインズさんはまだですね?」 

 今日はツインテールではなく、アップにして纏めているリザは、自分の後ろ――女性用ゲストルームのドアに視線を向ける。
 クインズもゲストルームにいたのか。でも、彼女は俺達の護衛として同行しているから、礼装のままでいるはず。
 俺達が見馴れている実戦も兼ねたものではなく、式典専用の特別仕様のものに着替えているのだろうか。

 ややあって、静かにドアが開けられると。

「わ……私がこんなに着飾って良いものだろうか………?」

 おぉぅ……まさかクインズもドレスだったとは思わなんだ!

 しかもすんごいめかし込んでる、これ絶対クインズのチョイスじゃないな、エリン達にドレスを用意したメイドさん達の仕業だろう。グッジョブメイドさんズ!

「わぁ……クインズさん、すっごく綺麗……」

「背も高いしスタイルもいいですし、う、羨ましいです……」

 エリンはクインズに見惚れ、リザはやっぱり胸を隠すように腕を組む。

「クインズさん、とっても素敵です。ねぇレジーナ」

「はい。給仕の方々の見る目は、誠に慧眼と言う他にありません」

 クロナとレジーナも感心して頷いている。

「うっ……そう褒められると、余計に恥ずかしい……」

 さて、俺も一言何か言うべきだな。

「そう恥ずかしがらなくてもいい。元々可愛い系よりも美人系だとは思っていたけど、こうして見ると想像以上に綺麗だ」

「~~~~~っっっっっ、ぁ……ありが、とぅ……」

 スラリとした体躯をもじもじさせて真っ赤になっているクインズかわいい。

 案内のスタッフさんに呼ばれたので、俺達も会場へ移動する。



 会場内は既に王族関係者らで溢れており、思い思いの形で談笑や食事に興じている。

 こういった社交の場に慣れていない(というか初めてだろう)エリンはそわそわしながらも、逆にこう言う場に慣れているリザに立ち振舞いや所作を教えてもらっている。

 クロナとレジーナはその美貌で早速何人もの男に言い寄られているが、どちらもやんわりと受け流している。この二人も社交の場には慣れているようだ。

 クインズはと言うと……いつの間に消えたと思ったら、グラスを片手に、壁の花――いや、壁の華とでも言うべきか?――になっていた。

 エリンとリザ、クロナとレジーナもなんだかんだとこの場に馴染みつつあるようだが、クインズだけは一人でこそこそしている。

 ――よし、ここはいっちょやってみるさ。

「クインズ」

「え……あぁ、アヤトか」

 一瞬動揺したように見えたが、相手が俺だと気付いてホッと息をつくクインズ。

「暇なら、俺と一曲踊ってくれないか?」

「は、へ?」

 俺が何を言ったのか理解できなかったのか、すんごい間抜けな声と顔をするクインズ。

「いや、待て、何故私なんだ。クロナやレジーナの方が、慣れているのではないか?」

「俺がクインズと一曲踊りたい気分だからな」

「な、ちょ、まっ、え、えぇ……っ?」

 有無を言わせずクインズの手を取って壇上まで連れて行くと、静かに響き渡るピアノの音に合わせてレッツダンスだ。

「まっ、待て待て待てっ、私はダンスなど踊れないぞ……!?」

「俺が全部リードするから、クインズは適当にそれっぽく合わせていればいいぞ」

「ひいぃぃぃぃぃっ……」

 オタオタしているクインズをクルンクルンと踊り回す。



 一曲終えたら、給仕の方から水を二人分いただき、そのままクインズを連れて外の空気を吸いにバルコニーへ出る。

「お疲れさんクインズ。初めてって言う割には、ちゃんと踊れていたじゃないか」

「普段の訓練よりも疲れたぞ……」



 苦笑しつつも、グラスの水を飲み干すクインズ。

 ――月明かりに照らされたその姿は、モノクロなのに幻想的とさえ思える。

「……そうだアヤト、訊きたいことがある」

「お?」

 一息ついてから、不意にクインズが神妙な顔つきになる。

「エリンが言っていたのだが……君は、四億年以上も生きていて、こことは違う世界を何度も行き来していると。私には、一体何のことなのか理解できなかった」

「あー、その話か。ってか、理解してくれなくていいぞ?何ぶん、普通の人間なら、頭のネジを何本か外さないと分からない話だから」

 俺は、"俺"についての事と、『俺達がこの世界に来てしまった理由』と、『この世界が削除されていること』も簡単に話した。

 おおよそ聞き終えたクインズは、苦虫を生きたまま飲み込んだような顔をした。

「……信じろと言われても、無理と言わざるを得ない。自分が、この世界が、誰かによって"創られた"存在であるなど」

「だろうなぁ」

「君がそう言うのならそうなのだろう。……だが、それでは私は、『この世界はどうなる』のだ?」

 どうなる、か。
 この世界は、この世界を創造した作者の記憶によって保たれている。
 俺達やムルタと言う"イレギュラー"が介入したため、このような結末になったが……

「分からない。この世界の作者の記憶が、どこまで物語を想像しているかによるが……恐らく、どこかを境目にこの世界は『物語の始めに戻る』」

 タイムリープみたいにな。

「物語の始めに戻る……つまり、君達との出会いも、私は忘れてしまうのか……?」

 クインズのその顔は、悲しげだった。

「それも分からない。記憶を持ち越せるかもしれないし、持ち越せないかもしれない」

『そう、持ち越せませんよ』

 ふと、聞き慣れた天の声――基、

「あぁ、女神様。お手数おかけしてすんません」



『アンタはコラァァァァァッ!!勝手に時空を切り開いた挙げ句こんな削除された世界に流れ着いてんじゃありませんッ!!』



 やっべ、めっちゃプンプンしてらっしゃる(汗)

「すんませんほんますんません。それについてはお説教でも天罰でもなんでも受けますから」

「な、なに、何の……どこからの声だ、アヤト、君は誰と話して……?」

 クインズが狼狽えているけど、その反応こそが至極正しい。エリンだったらフツーに「あ、女神様こんばんはー」ってなるし。

『いいからさっさとこの世界から帰りますよ!』

「あ、女神様。俺だけじゃなくて、エリン達も回収してくださいね?手荷物とかは、まとめてゲストルームにあるんで、それもお願いします」

『ハイハイハイ全部回収しますから!それとそこのクッころ系女騎士さんもハーレム入りですか!?』

「ちょっと待ってください。クインズ、俺達はこれから元の世界に戻るんだけど……お前も、来るか?」

 きっと、もう二度と会えなくなるから。

「私は……」

 そう言うと、クインズは戸惑い――考え――そして、

「十分……いや、五分でいい。私に時間を欲しい」

「だ、そうですよ、女神様」

『七分は待ってあげますから!それ以上はもう時間がありませんからね!』

「すまない……すぐに戻る!」

 クインズがその場から駆け出すのを見送って。

『ハァ……全く、全くもう、アカシックレコードにアクセスするだけでも一苦労でしたよ?その上から削除作品をひとつひとつ確認して……』

「ごめんなさい女神様、まさか俺も削除された世界に転移するとは思いませんでした」

 なんて話していると。
 クインズが目をこすりながら戻って来た。

「陛下に暇(いとま)をいただいてきた。せめて、これだけはしておきたかったのでな……」

 騎士としての最後の忠誠か。
 彼女の目がうっすら濡れている辺り、快く送り出してくれたんだろうな。

『もういいですね?ハイ、オープンザ異世界です!』

 カパッと時空が開かれると、ぴゅごーと吸いこまれていく。

「俺に掴まれ!」

 手を伸ばす。

「あ、あぁ!」

 しっかりと、クインズの手を掴む。

「これからよろしくな、クインズ」

「こ、こちらこそ……その……す、すえながく、よろしくたのむ……」

 消え入りそうな小さな声だったが、しかと聞き届けた。

 やがて時空に完全に吸いこまれ――閉じられた。エリン、リザ、クロナ、レジーナも同じように吸い込まれることになるだろう。

 やれやれ、ようやく帰れるな――
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