【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)

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第四章 消えた世界の銀髪女騎士

35話 マジキチヤンツンメンヘラオンナ

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 オバ太郎とオバ次郎の二人に案内されて、オキザリス村の片隅……その、朽ち枯れた大木へ。
 ……よく見ると、俺達がやって来た方向とは真逆の部分がくり抜かれており、ちょっとした小部屋のようになっていた。

 その小部屋の中には、石の台座に直立して突き刺さった、白い翼を模ったような形状の鍔を持った剣が一振り。



「なんか剣があるね?」

 エリンが目を丸くして小首を傾げている。
 なんだろう、引き抜いたら七年間魂だけが眠らされて、肉体が成長させられていた、ってアレだろうか?

「この剣は?」

 オバ太郎とオバ次郎に訊いてみよう。
 うっかり抜いたら七年間魂だけ眠らされて、気が付いたら浦島太郎状態にされるのも嫌だし。

『この剣はな、勇者にしか抜けないかもしれない聖剣『エクスカリバー』だ!』

 オバ太郎が、その聖剣――エクスカリバーの前でドヤ顔をしてみせる。かわいい。

 しかし、エクスカリバーか。
 勝利を約束する剣として、創作物でも有名な名前だ。大いなる秩序とかに出てくるかわいい騎士王さんが持ってるアレとかが特に有名だ。

 って、今なんか気になるワードが聞こえたんだが?

「『勇者にしか抜けないかもしれない』って、どう言うことだ?」

 勇者にしか抜けない、までは分かるとして、その後に『かもしれない』まで付いてしまったら、勇者でも抜けるか分からないじゃないか。

『今までこの剣を抜いた人がいないから、きっと勇者……自称勇者じゃない、"本物の勇者"にしか抜けないと思うんだ!』

 オバ次郎もドヤ顔をしてみせる。かわいい。

 自称勇者と言うと、「オレユーシャっすよチョーつえーんすよ?魔王(笑)の一人や二人、人生ナメプでヨユーっすわwww」とか言ってそうなチンチンでパンパン(意味深)させるチンパンみたいな奴だな。
 これまでに、そんな何人もの勇者チンパン(自称)がこのエクスカリバーを抜こうとして「は? (威圧)ちょおまwwwぬwけwなwいwクッソwワロタwww」って感じで雑草をおっ生やしてばかりで、今まで抜ける人がいなかったと。

『オレ達みたいなオバケのお願いだって聞いてくれた、あんたなら抜けるはずだ!』

 オバ太郎はくりくりしたお目々に期待を満ち溢れさせている。
 けどなぁ……

「あー……期待させてすまないんだが、俺は勇者じゃないんだ、ごめんな」

『じゃぁ勇者じゃなくてもいいや!抜いてみてよ!』

 勇者じゃなくてもえぇんかーい!?

 ま、まぁ、これはあくまでも『勇者にしか抜けないかもしれない聖剣』なので、このエクスカリバーに選ばれし者であれば、別に勇者じゃなくてもいいのだろう、多分。

「じゃぁ、抜いてみるぞ?」

『『ワクワク、ワクワク!』』

 そんなワクワクされても無理だと思うけど。
 石の台座に歩み寄り、柄を握って、グイッと。

 しかし、エクスカリバーはビクともしない。
 こう言うのって、力尽くで抜こうとしたら、台座ごと引っこ抜いてひどいことになるのがギャグの基本なので、無理はしない。

「やはり無理だな」

 どうやら俺はエクスカリバーに選ばれし者ではないらしい。

『『そっかー……』』

 オバケ二人はしょんぼり顔をする。期待させてごめんな。

『あんたが勇者じゃなかったら、一体誰がこれを抜けるんだ?』

『そうだよねー……』

「君達二人が言う勇者は、どういう存在なんだ?」

 世界観によって、"勇者"の存在意義や価値、立場は大きく変わる。
 オバ太郎とオバ次郎が言う、勇者とは。

『世界を魔物に溢れる魔界にしようと目論む、魔王を倒す奴だ!』

『強くて優しい、見た目も中身もカッコイイ人だよ!』

 わー、すっげぇ抽象的だ。

「そうか、それなら俺が勇者じゃないのも納得だ」

 魔王を倒すだけなら勇者じゃなくても出来ることだしな。

『何言ってんだよー、あんたは強くて優しいし、カッコイイだろ!』

『さては隠してるんだね?勇者は、おいそれと勇者であることを明かしちゃいけないもんね!』

 隠してねぇよ。つか、勇者じゃないから隠しようも無いんだが。

「いや、だから、俺は勇者じゃないんだよ。隠してないし、そもそもエクスカリバーを抜けないから、偽勇者みたいなものだろう」

『嘘つくなー!』

『本当は本物の勇者なんでしょー!』

 ふよんふよんと俺を疑うオバ太郎とオバ次郎。
 エクスカリバーを抜けないっていう確たる証拠は既に出てるんだけどなぁ、どうすれば俺が勇者じゃないことを信じてくれるんだ?
 どう説明したものかと頭を悩ませていたら、



「あ、抜けた」



「『『え?」』』

 慌てて振り返ったら、
 エリンがすんごい普通にエクスカリバーを引き抜いていた。

 その剣身は、光沢の消えた鈍い輝きを淡く反射する。

「抜けたよ、アヤトー」

 って待て待て待て、ちょっと待ちなさい!?

「エリン!?そんなお芋掘りをするような感覚でエクスカリバー抜いちゃったのかよ!?」

「え?うん、だって私、"元"だけど勇者だし。……勇者だよね?」

 ……そう言えばエリンって、神々から神託を受けて選ばれた、"本物の勇者"だったな?

「まぁ、エリンさんったらすごい」

 クロナはニコニコと拍手している。

「エリンさん、勇者だったのですね?」

 レジーナもクロナに続くように拍手している。

「あぁ、そう言えばエリンさんって勇者でしたね」

 すっかり忘れてました、と言うのはリザ。以前に一度話したっきりったな。

「勇者……?いや、しかし……うむ……?」

 クインズは何やらうむむと唸っている。

『すげー!ほんとに抜いたのか!』

『おめでとー!』

 オバ太郎とオバ次郎はエリンの元へ駆け寄る (?)と、彼女の周りをふよんふよんと踊る。

「えへへ、抜いちゃった」

 照れくさそうにはにかむエリン。ヌいちゃったとか言うんじゃありません(過剰反応)

「でもこれ、鞘とかはどこにあるの?」

 するとエリンは、このエクスカリバーが抜き身のままで台座に突き刺さっていることから、鞘が無いことに気付く。
 そう言えばあのマスターなソードも、鞘とかどこに保管されてたんだろう。

『ほら、あんたのそこにある』

 オバ太郎が棒切れみたいな手をエリンの腰へ指すと、そこには彼女が使っていたショートソードを懸架するベルトにもう一つ鞘が連なっていた。

「あ、いつの間に」

 不思議な紋様が描かれた鞘だ。白黒でよく分からないが。
 とりあえず戻しとこ、とエリンはエクスカリバーを鞘へ納める。

 エリン は エクスカリバー を装備した!



 オバ太郎とオバ次郎の"とっておきのお宝"こと、エクスカリバーを (エリンが)いただいたので、今度こそお別れだ。

『じゃーなー!』

『それじゃーねー!』

 二人に見送られる。
 きっと、ムルタに追い出されていた他のオバケ達も、いずれこの廃村に戻って来るのだろう。

 これにて一件落着だな。

「さぁ早く帰還しましょう、出来るだけ、可及的速やかに」

 レジーナが何食わぬ顔で背すじを伸ばしているが、語気が震えているからやっぱり怖いのだろう。

「レジーナ、あのオバケちゃん達はかわいいから大丈夫でしょう?」

 クロナの中では、あの二人は"かわいい"判定が下されている。実際可愛かったからその通りなんだが。
 もし実体があったら、なでなでしたかったなー。

「そ……それでも怖いものは怖いのです……ッ」

「もう、困ったちゃんねぇ」

 クロナは呆れているが、レジーナは呪術師なのにどうして呪いに関係してそうなオバケが怖いのかがちょっと分からない。
 多分、彼女の中では呪術とオバケは別カテゴリなのだろう。

 まぁ人間、どうしても無理って物事は誰にでもあるものだし、レジーナの怖がりを笑ってはいけない。

 それに、シュヴェルトとエスパーダの緊張状態を解くためにも、これ以上の寄り道は控えるとしよう。

 ……でも、ちょっと無視出来無さそうな案件があるので。

「あー、みんな悪い、先にシュヴェルトに戻っててくれ」

 全員の視線が俺に向けられる。

「どうしたのだ、アヤト?」

 当然、疑問に思ったクインズがそれは何故かと訊いてくる。

「"お客さん"がまだいるみたいなんでな。恥ずかしがりやさんのようだから、こっちからデートのお誘いをしてくる」

「もしかして、また女性絡みですか?」

 リザがものっそいジト目をしてきた。

「女性絡み……に、変わりはないか。でも、これまでとは少し事情が違うようでな」

 なんかさっきから気になる気配が頭の上から降り注いで来てるんだもの。
 アリスAちゃんの波長に近いんだけど、なんとなく変だ。

「もう、アヤト様。あなた様がとても魅力的で、な殿方なのは承知の上ですが、女遊びも過ぎると、私もレジーナもヤキモチを焼いてしまいますよ?」

「何故そこで私も引き合いに出すのですか、姉上……」

 クロナもなんか的外れなことを言ってるし、レジーナも口ではそう言うものの、目線は確かに物言いたげだ。
 あと、クロナの言う「精力的」が、すごく……いやらしく聞こえるのは何故だ。

「少しくらいなら妬いてもいいけどな。そこからヤンデレに派生されると……いや、それはそれでアリ……でもないな」

 姉妹でギッスギスのドロッドロの愛憎三角関係なんて嫌だぞ?

「なんでもいいけど、なるべく早く戻ってきてね」

 最後にエリンが簡単に締めてくれる。
 この場は深く聞かないでくれるのはありがたい、後でちゃんと理由を話してあげないとな。

「あぁ、すぐに戻る」

 トントンと靴の先を地面で鳴らして――



 ぴょーーーーーん と、空の上へアイキャンフライ。



「……あのすまん、彼は一体何者なんだ?」

「うーんと、"'487222760年生きた大魔王さま"……かなぁ?」

 クインズとエリンからそんな会話が聞こえた気がした。誰が大魔王さまやねん。



 アヤトが空の上へ飛び去ったのを見送ってから。

「四億……四億年ほど生きた大魔王と言ったが、どういうことなのだ?」

 クインズは、エリンにアヤトについて訊ねていた。

「んーと……アヤトが言っていたことをそのまま言うんですけど。私……というか、リザちゃんもクロナさんもレジーナさんも、『この世界で生まれた存在じゃない』んですよね。もちろんアヤトも」

「……ふむ、続けてくれ」

 この世界で生まれた存在じゃない、というエリンの言に、クインズは考えながらも続きを促す。

「私達がいた世界と、この世界。それぞれ異なる時空にあって、異世界転生の女神様の元に監視・管理されているんです。アヤトは、その女神様に仕えている天使みたいな人で、えーっと……エタった?世界に介入して、その世界の物語を完結させて、……テンセイトクテン?ポイントを回収している……って言ってました」

 かくいうエリンも、アヤトの身の上話に関しては恐らく半分も理解できていなかったりするのだが、何とかうろ覚えを思い出しながら。

 その続きを、リザが補足する。

「アヤトさんは四億年以上も色んな世界に転生しては、その世界で死んでから天界に戻って、また別の世界に転生して……を繰り返していています。なんか頭がおかしいくらい強いのは、それだけ生きて経験とか勉強とかしてるから、です」

 そんな途方に暮れるのも馬鹿らしくなるような長い――永い間、死ぬことはあっても、すぐにまた次の命を与えられて生きる……普通の人間ではない、『そのために創られた存在である』彼だからこそ、強く優しく生きられるのだろう。
 普通の人間なら、四億年以上も生きていられる命があったとしても、"器"があまりにも足りなさ過ぎるから。

 何故なら人間は、『そんな風に出来た』生き物ではないのだから。

 エリンが再び続きを引き継いで。

「多分ですけど、アヤト……『アヤトって名前を与えられてから』最初に出会ったのが私で。彼と一緒にブタさん……魔王討伐の旅をして、それが済んだら一度王国に帰還して、私が無理やり后妃にされそうになったところをアヤトに攫ってもらって、これからどうしようかって時に、女神様に吸い込まれて別の世界に飛ばされて。その別の世界で、リザちゃん、クロナさんとレジーナさんと出会って、みんなで一緒にアヤトと……け、結婚しようってなったところで……津波に呑み込まれる寸前に、アヤトが時空を切り開いて私達と一緒に世界を転移して、……この世界に放り込まれた、って感じです?」

「話の内容が濃密過ぎるな……つまり、私から見た君達は異世界の人間……ということでいいのか?」

 経緯はともかくとして、クインズが理解出来たのはそこだけだった。
 それ以外を理解しようとするのを放棄したとも言う。



 人間の肉眼ではまともに視認出来ないほどの高度まで飛び上がり、

「――『フラッシュウイング』」

 飛翔魔法を発動、背中から"光の翼"を顕現、ばさりと広げれば、蒼い……と思うんだけどモノクロ世界じゃ分からないが、とにかく輝く羽根が舞い散る。

 過去の異世界転生で、天使と悪魔の終末戦争ラグナロクにただ一人で介入するために会得した、光と重力の双属性魔法だ。
 尤も、この光の翼は実体が無いため、空力学やフラクタル構造に基づいたものではなく、重力崩壊現象を齎す光子フォトンを翼状に放出している……と、その時の魔導研究者は言っていたけど、ようするにSFすこしふしぎパワーってヤツだ。

 いつもの長距離ジャンプと違って、重力を無視して飛び回ることが出来るんだけど、これを使っている間は常に魔力を消費し続けるから、少し燃費が悪い。

 そんなフラッシュウイングを使ってまでどこへ行こうと言うのかと。

「グッドモーニングおはようアリス、会いに来たよ」

 "そこ"にいた、アリスAちゃんに声をかけた。

「!?」

 驚いたように振り返るアリスAちゃん。俺がこんな高度の上空まで飛んでくるとは思わなかったらしい。
 ということは、さっきの"気になる気配"は、彼女から発されたもので間違いなさそうだ。
 そして、ムルタとの背後関係を鑑みるところ、俺が持っている物を欲しがっているのはアリスAちゃん本人だろう。

「なぁアリス、ムルタから聞いたんだけど、俺が持ってる物が欲しいんだって?」

「……」

「それに、俺に対してなんか気配を放っていたようだけど、一体どうしたんだ?」

「……」

 んー?なんか今日はだんまりを決め込んでいるなぁ、いつもはもっとアリスアリス言っていてよく分からないのに……黙ってても黙ってなくてもよく分からない。

「あ、もういいや。何かと俺達の邪魔をしてるし、君もムルタと同じように"削除"しておこうか」

 もう彼女の言葉遊びにも飽きてきたし、そろそろ"始末"しておくとしよう。



「――ようやく本音が出たな、『しげねこ』!!」



 っと、なんか急にアリスの声色が別人みたいに強くなった。
 つーか、"しげねこ"って誰やねん。俺はアヤトだっちゅーの……

 あっ(思い出し)

「しげねこって……いや、どうして君がそのハンドルネームを知っているんだ?」

 しげねこ。

 それは、俺がいつかの異世界転生の中、『文豪家になろう』で活動していた時に使っていたハンドルネームだ。
 しげねこってナニって?文豪家になろうって、何かとハンドルネームに『猫』を使ったユーザーさんが多いから。

「ふふ……『ジャバウォック』の復活まで待とうと思っていたけど、こうして追ってきたんだし……たっぷり『ざまぁ』してから、殺してやる……!」

 いやいやいや、恐っわ!!
 なんか急にキャラ変わったぞ!?
 さっきクロナとレジーナにヤンデレがどうのこうのって言ったのがフラグだったのか、モノホンのヤンデレが出てきやがったぞおい!?

 デレがないヤンデレちゃん――ヤンツンなんて誰得だよ……さすがにそんなヒロインはお断りさせてほしいんだが。

「来い、『ヴォーパルソード』!」

 するとアリスAちゃん――いや、もうアリスでいいや、アリスは虚空から一振りの剣――ヴォーパルソードを顕現させて抜き放った。

 ヴォーパルソード……『鏡の国のアリス』の『ジャバウォッキーの詩』で、怪物ジャバウォックを倒した必殺の剣か。
 そう言えばさっき、ジャバウォックの復活を待つとかどうとか言っていたけど、

 ――って次の瞬間にはアリスがヴォーパルソードを上段から振り下ろして来たので、ロングソードを抜き放ちざまに受け流し、たけどふっ飛ばされた。
 姿勢制御して、と。

「……っ、あっぶねーなおい!」

 俺じゃなきゃ反応出来ないままに斬られてたね……!

「お願い、死んで?」

 ニッコリ笑いながら――けれど目は全く笑ってない――ヴォーパルソードを振り回してくるアリス。
 ヤン属性持ちは凶器を持つと途端に戦闘力が跳ね上がるからな。

 気狂いに刃物、いじめられっ子に銃、特攻隊に戦闘機、悪役聖女に狂信者、アリスにヴォーパルソードは同義語だってハッキリ分かんだね。

「ったく、さすがの俺もヤンツン系女子の相手は初めてなんだがな!」

 ヤンデレならちゃんと愛情を以て接してあげれば死ぬほど可愛くなるからいいんだが、病んでる上にツンツンしてばかりなのはちょっと読者・視聴者受けが悪いぞ?

 殺意マシマシの斬撃を受け流すなり躱すなりしつつ、なんとか反撃の糸口を……糸、口……い、と、ぐ、ち……

「ねぇ、死んでよ、しげねこ」

 糸口が見えねぇ。
 一秒で十回殺されてもおかしくない、やっぱりこいつただのヤンツンじゃないな。

 しゃーない、糸口が無いなら自分で作るまでだ。

 その場からフラッシュウイングを羽ばたかせ、飛び下がってイニシアティブを取り直そうとするが、アリスは俺の動きに合わせて張り付くように追従してきた。

「こいつ……うん、俺一人で来て正解だった」
 
 死に物狂いというか……『ちょっとおかしいくらいでは済まされないレベルで頭おかしい輩』だ。

 こんな奴をエリン達と戦わせるわけにはいかない、今ここで確実に始末しなければ。

「あんまり人に死ね死ね言うなよ、ほんとに死んだらどうするんだ?」

「ほんと、死んでいいからね?死んだほうがいいよ?」

 ウワー、ヤヴェーイ……

 マジキチ、ヤンツン、メンヘラとか、灰汁強すぎて地雷どころか、服着て歩いて人語を話す気化爆弾じゃねぇか!

「ハァ……ちょっと、無理。お前、生理的に無理。『女として受け入れられない』」

 過去の異世界転生で12人の(義)妹達を全員幸せにしてみせた俺でも、これはさすがに攻略できんな。

「死ね」

 ど直球!さすがにそれはひどない!?
 突き出されたヴォーパルソードの切っ先は確実に俺の急所を狙っている。
 ロングソードでこれを受け流して、



 ――バギィンッ!



 あ、今なんか嫌な音が聞こえたような……
 ちらりと手元を見てみると、

「……ウ ソ や ん ?」

 ロ ン グ ソ ー ド が 半 ば か ら 折 れ て い た 。

 うっっっっっわマジかぁ……せっかくエリンに買ってもらったのに。
 鉄製ですらない銅の剣だ、いくら手入れを怠らずにいたとは言え、消耗品に変わりはないとは言え、ここで折れちゃうかぁ……

「ちっ……」
 
 おもわず舌を打った。
 俺の算段は大幅に、現在進行系で狂いつつある。
 相対している敵――アリスは、("俺"がアヤトとして生を得てから)これまでにない強敵だ。

 だが単純な技量なら、俺が上回っているという確信はある。

 けれど、『決め手』がない。

 俺の動きに張り付くように追従し、なおかつ避けにくいように急所を狙ってこちらの動きを阻害する。
 まともに仕留めるにしても時間のかかる相手だな、こりゃ……

 よし。



「いいよ、――
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