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約束の未来へ

137話 ラストダンジョン

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 "大穴"に飛び込むために落下すること数十秒ほど。

 目隠しをしたままバンジージャンプをするような感覚だが、ようやく地表らしいものが見えてきたところでスラスターを噴射して姿勢制御、ゆっくりと着地する。
 ルナ、カノラ、メイプル、ジルダも順に着地してくる。

 辺りを見てみれば、これまでの遺跡の深部――祭壇の間の一歩手前の通路のように、冷ややかな印象のある石壁に囲われた道。

 しかし、データの破損が漏れ出している割には、この辺りにその崩れたテクスチャは見当たらない。

「まさにラストダンジョンって感じだね」

 メイプルがそう口にしたように、いかにもこの先で邪悪な魔王が待ち構えているかのような、おどろおどろしさがある。

「ラストダンジョンかどうかは知らないけど、用心に越したことは無さそうね」

 ジルダはミサイルのハッチを開き、弾頭を通常の炸薬に切り替える。

「よし……行こう」

 この先は何が待ち構えているか分からない。
 けれどフェルテのためには、行かねばなない。
 恐怖と緊張を腹の底に押し込んで、アロウは先頭に立って歩き出す。



 やはり道中にもモンスターはいるようで、闇の力を宿した『ブラックスライム』や『エビルゴブリン』、『ファントムナイト』、上空からは『ガーゴイル』『デスハーピー』『ヘルコンドル』が襲い来る。

 それら一体一体は大した強さではなく、苦戦することもない。

 問題なのは、

「さすがに、数が多いですね……!」

 スラスターウイングを翻しながらツインエナジーライフルを連射するルナは、ここまでに何十体もの飛行型モンスターを撃破している。

「うーん、これじゃなかなか進めないね……」

 そのルナの死角をカバーしつつも強化魔術を掛けて回っているカノラは、奥に進めば進むほどモンスターの数が増え、それに伴って自分達の足も進まないことを気にする。

「あーもうっ、邪魔邪魔!倒した端から出てくんなし!」

 魔獣系のモンスターの素材を多数使って強化した『ビーストクロウ』を振り回しながら縦横無尽にモンスターの群れを引き裂いていくメイプルは、倒しても倒しても後から涌いてくるような数のモンスターに辟易している。

「持久戦は望むところじゃ無いのよ……どれだけ弾薬代が掛かると!」

 金がかかると言いながらも、その弾薬を惜しみなく駆使してモンスターの群れをヘビーガトリングガンとミサイルで効率よく吹き飛ばしていくジルダ。

「フェルテが待ってるかもしれないんだ……邪魔を、するなぁッ!」

 ファントムナイトの振るう剣をドラゴニウムシールドで弾き返し、返す刀のプラズマソードで斬り裂き、周囲のモンスターをエナジーライフルで撃ち落としていく。



 アロウ達五人が進撃していく一方、カインとオーディンもまた大穴の底へ到着した。

「アロウ達はどこまで進んでいるんだ?」

 オーディンは四脚形態で地を踏み潰すように着地する。

「分からん、だがそこまで奥には進んではいないだろう。この地の調査は二の次、アロウ君達の無事の確認を最優先だ」

 蒼翼を羽ばたかせてふわりと柔らかく着地するのはカイン。

「そう言えば、フェルテが創造神の神子だのどうとか言っていたが……」

「創造神、神子……ふむ、彼女は異世界転生の女神から遣わされた存在なのかもしれないな」

「異世界転生の女神か、ますますメタ臭くなってきたな。……尤も、それが現実の仮想世界にまで侵食しつつあるなら、笑い話ではすまないが」

 まぁいい、とオーディンはグングニルを構え、カインもエナジーライフルをマウントラッチから取り出す。

 暗闇の向こう側から、魔物の群れが押し寄せてくる。

「行くぞオーディン!」

「応ッ!」
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