星の王〜能力覚醒で無双開始。もう遅いなんて事ないから首を洗って待ってろよ殺してやるからな。

草間保浩

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第三話

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「ステータスは浮浪者達よりは高いな。やっぱ良いもの食ってたら勝手に強くなれるのかな。スキルも悪くない。『算術』『奉仕』『床技』『料理』に『火魔法』『水魔法』。クソ女だったが最期に役に立って良かったよ。」

 依頼書を見ているフリをしながら、自身のステータスを見る。
 ステータスが全て幼児以下になったあの女は、他人とぶつかったり、躓いて地面に手をついただけでも死ぬくらい弱くなっている。
 依頼書を受け取る時に手を重ねて奪い取った。

「手で触れるのが条件なのか……肉体が接触するのが条件か……検証は悪くないが、それよりも今は力だな。」

 手に持った依頼書、『ゴブリン10体の討伐』は良くあるもの。
 大半の冒険者はこういったゴブリンやスライム、オークやウルフなどの魔物を狩って金を得る。
 それぞれの魔物は部位ごとに値段があり、ゴブリンであれば内蔵や持っている棍棒、牙や耳が売れるし、ウルフなんかは毛皮の剥ぎ方次第で売れる値段が変わる。

 依頼書としてゴブリンを討伐する場合は、右耳が1匹分として数えられる。もちろん、右耳をただ10個売るよりは、依頼として受けて納品することで得る報酬の方が、少しだけ色が付いていて良い。

「ゴブリンはたしか、森を根城にすることが多いんだっけ。」

 郊外には基本平地がつづく。森は数十分歩いたところにある小さな林のようなものしか無い。
 しかし、そこではかなりの確率でゴブリンが群生している。
そこまで歩くのすら、今までのセナだと厳しかっただろう。

「スライムか……売れるのは外皮と核だけ。」

 ぽよんぽよんと跳ねるその水色は、雑魚の中の雑魚、以前のセナでもギリ勝てるような魔物スライム。
 外皮は皮袋に、核は魔法の触媒に使える割の良い魔物。
1匹いたら他に5匹くらいはいることでお馴染みの軟体生物。

「……フンッ!!」

武器を持ってないセナは、渾身の蹴りをスライムにお見舞いする。
 コアのコリッとした感覚が足に伝わるが、ダメージは無さそうだ。

「ホントに物理に強いみたいだな。んじゃ、さっき奪ったこれで。」

 手を前に出す。
いつか見た、幼馴染が手から出した光。
 それが、炎として出るようにイメージして。

「火球!」

 ボゥッと火が出る。
しかし、それだけ。
発射されない。

「え、これ、どうすんの?」

 数秒の硬直。
セナの背筋にひんやりと冷や汗が垂れる。

「……もういいや、これで殴ろう。」

 手のひらで燃える火を、スライムに押し付けるように叩きつける。
 水の中で火が燃えるという珍しい光景ながら、スライムは苦しそうだ。

 体内の水分が蒸発し尽くして、核と皮だけを残して死んだ。

それぞれ、かなりの火力で熱されたが、水の中だったのが幸い、焦げ目はつかなかったようだ。

「絶対間違ってるよなこのやり方。」

 そう思いながらも、セナの『火球』はどうやっても発射されず、腕ごと振って投球する必要があるのを知ったのは7匹目のスライムを倒した辺りだった。

◇◆◇

 スライムは攻撃してこない。
だから数体くらいなら簡単に倒せた。
 しかし、ゴブリンは違う。
明確な敵意を持って、確実に殺しにくる。

「げぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!!」
「んぎぃぃぃ!!!んぎゃおおおおおお!!」

森に入ってすぐ、5匹のゴブリンと遭遇した。

「やっぱ、怖いな。」

セナの手は震えている。
 それは武者震いではない。恐怖から来る震え。
チート的な能力を持ったとしても、今までのトラウマが体を強張らせる。
 逃げたい、逃げたいと、心の奥底の自分が囁きかけてくる。

 思い出すのは、数ヶ月前。
濡れ衣を着せられたことで母国から逃げた時の道。
 あの時は、ウルフに襲われ、オークに殴られ、死ぬかと思った。ゴブリンから付けられた爪痕は、今でも腕に残っている。
 だが、今、生きている。

「俺は生きてる。だから!」

 震えを抑えるように、拳を固く握り締める。
震える足に力を入れて、ゴブリンを殴りつける。

「おおおおお!!!」

 ゴブリンの頬骨が砕ける感触がした。
自分の手の皮が捲れる感覚がした。

 それでも、2発、3発と殴りつける。

「死ね!死ね!死ねぇええええ!!ぶっ!?」

 ゴブリンを殴るのに気を取られていたセナは、他のゴブリンに棍棒で殴られた。
 殴っていたゴブリンは気絶しているらしいが、他のゴブリンは元気溌剌。仲間が死にかけているのも気に留めず、セナを殺すために近づいてくる。

「……ぁ」

 その死にかけのゴブリンの無様な姿が、セナには自分の姿に見えた。
 
「……ぁぁああ!!!『火球』!!!」

尻餅をついたまま投げる火の玉は、ピッチャーフライよりも軽い。
 しかし、ここは森で、ゴブリンの腰巻きや棍棒なんかも、燃える素材らしい。
 死に物狂いで投げつけた無数の『火球』は、ゴブリン達を火だるまにした。

「ぎぎゃぁぁぁあ!!!」
「ぎゃあっ!ぎゃあっ!ぎゃあっ!」

燃える体を叩いて、火を消そうと必死なゴブリン達。
腰巻きのや棍棒だけではなく、代表の油、不潔なゴブリンの体の垢や脂に飛び火して、全身を真っ黒に焦がす炎の完成。

 その場にいた気絶しているやつ以外のゴブリンは、火だるまになって死んだ。
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