実家が先行実装ダンジョンだった俺、同級生の女子に誘われたので今度は正式実装版で無双をやってみた。え、配信された攻略動画がバズってるって!?

第94話 魔拳闘法

「プッゲエエエエエエ!?!?」

　きっと奴には何が起きたかわからなかっただろう。
　一瞬にして視界外から俺が現れ、かわす間も無く殴りつけられたのだから。

　しかし当てたからにはただでは済まさん！

「おおおおおッッッ!!!!!」
「――エエギャブオッ!!!??」

　ゆえに拳でえぐる！
　奴の顔に打ち込んだ拳を、ねじ込み、押し込み、引き千切るようにして！
　全身の筋肉を余すことなくひねり、全身全霊でッ！

　よって直後、奴の体が大地へ打ち付けられた。
　あまりの威力で叩き落とされた事により、地面にまで亀裂が走る。

　だがこれで終わらせはしない！

「彼方が奴を捉えよったあっ!?」
「なんなんだよあの跳躍力はッ!!?」
「あんな力をまだ隠していたっていうの!?」

　悪いが今はみんなに構っている余裕などない！
　巻き込まれたくなければ――自分で判断して逃げろよおッ!!!

「うおあああああーーーーーーッッッ!!!!!」
「なんやて!?　あの輝きは――マナ、やとおっ!?」
「無職がなんで魔法を使えるのよッ!?」
「いやそれどころじゃねぇ、やべぇぞあの圧力ゥ！　逃げろおおおーーー!!!!!」

　――魔・力・解・放ッ!!

　拳に溜めた力が解き放たれ、両掌より爆光。
　天井を破砕すると共に、カエル目掛けて急降下。

　奴のどてっぱらに右肘打ちをブチ込んだ！

「ゲッゴォオオオオ!!?!?――」

　さらには連拳。力を溜めた左拳を奴へと解き放つ。
　その途端、奴の顔がひしゃげるほどに激しく爆光。
　周囲の地面をえぐるほどにすさまじい衝撃が周囲へと走った。

「うわアアアアアアア!!?」
「冗談じゃねえぞおおおおおお!!?」

　だがそれでもまだ生きているか！
　ならトコトンぶちこんでやるッ!!

　すかさず奴の目玉を掴み、瞬時に持ち上げる。
　その瞬間にトゥーキックをかまし、さらに爆光。
　超圧力によってカエルが一瞬にして天井へと叩きつけられた。

　奴の体が深々と埋もれて見えなくなるほどに。

「フゥゥゥゥゥゥ……！　マナリチャージまであと、三秒……！」

　ただやはり後が続かないなコレは。
　爆発力はあるが、なにぶん〝仕様外〟過ぎて使い勝手が悪い。

　でも、使える。
　これもまた軒下と同じだ。問題はない。

「間宮ァ、一体何したんだよてめぇ!?」
「ちょっとした裏技だよ。僅かな魔力を爆発力に転換するっていうね」
「「「んなっ!?」」」

　できればこれは使いたくなかった。
　体への負担も大きいし、マナの制御をしくじれば俺自身にも危険が及ぶ。
　最悪、マナオーバーロストで一瞬にして気絶しかねないしな。
　それを軒下とは違う仕様下で使うのはリスクが大き過ぎると思って。

　けれどもう、そうは言っていられないんだ。
　たとえ危険だろうと、やらなければ守れないというならば。

　大事な人達を守るためならば、俺はこの輝拳さえ躊躇いなく奮おう。

「その名も〝魔拳闘法〟。俺が戦いの中で編み出した独自の技だ」

　――人の体には必ずマナが存在する。現実だろうと。
　軒下やダンジョンに入る事によってそれがただ可視化されたに過ぎないんだ。

　そしてそれは職業が変わっても無くならない。
　つまり、魔法を使えない職業であろうと微量だが有している事になる。

　なので俺はそこに着目した。
　ならその僅かなマナを力に転換できないか、と。

　それで二年以上もかけ、両親やコンにも手伝ってもらいながら答えを導き出した。

　幸いにも絆ライディングはもう使えていたから理屈は簡単だったよ。
　あえてコツを言うならば、自分自身にライドするようなイメージだから。

　ただこれを編み出した時、父さんも母さんも驚いていたな。
〝実用性は薄いけど起死回生には充分すぎる〟ってね。

　なにせこの技は爆発力があるくせに使用回数制限がない。
　自然回復と同等のマナしか消耗しないからな。
　強いて言うなら、コントロールを間違えたら即気絶or死亡というだけで。

「ゲ、ゲゴオ……」
「しぶとい奴だ、まだ生きているかよ」

　……どうやら仲間にこれ以上説明する余裕はないらしい。
　ようやく奴が天井の穴から顔を覗かせた。

　まぁいいさ、なら今度こそ奴を叩き潰すだけだ。
　仲間達に語るのはそれからでいい。

「ゴッゲェェェ!!!」
「来るかッ!?」

　奴もまだやる気らしい。
　穴から飛び出し、こっちへとやってくる。
　だからこそ俺も迎え撃つ為にと、再び拳へマナを込めた。

　だが。

「ウッゲェ！」
「なっ!?」

　まただ、また奴は足を膨らませて一瞬早く動作を行った！
　それもまたしても、俺から離れるようにバックステップで。

　けど今の俺なら追い付く事なんて造作も――ううっ!?

　しかしこの時、俺は気付く。
　奴が決して逃げるために離れた訳では無いのだと。

　なんと奴の跳んだ先に、つくしがいたのだ。

　奴は最初にもう察していたんだろう。
　俺がこの中で最も驚異的な相手なのだと。
　だからこそずっと目を付け、様子をうかがっていた。

　俺の弱点を見抜くために。

「く、くっそおおおーーーーーーッ!!!」

　その末に、奴は俺の弱点がつくしなのだと知ってしまった。
　大事な人を失わせれば動揺を引き起こす事など容易だと理解した。

　そう察して即座に飛び出したが、もう遅かった。
　奴の跳躍力はすさまじく、すでにつくしを捉えそうになっていたのだから。

「ッゲェェェーーーーーー!!!」
「やめろおおおおおお!!!!!」

　その最中、無情にも奴の顎が膨らみ舌先が撃ち放たれる。
　それも弾丸のように速く鋭く躊躇いなく。



　そしてあろう事か、彼・女・は儚くもその胸を貫かれてしまったのだ。
　俺の手が一歩も二歩も届かない、目の前のすぐその先で。