時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第一節「全て始まり 地に還れ 命を手に」

~藤咲勇 と 司城統也~

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 特別とは何だろうか?

 優れた能力を持つ事だろうか。
 自分だけの力を持つ事だろうか。
 それとも、誰かにもてはやされる事だろうか。

 そんな特別になりたいと願う自分がいる。
 でも自分は特別ではなく、そう思える対象が目の前にいて。
 相手の存在感が大きければ大きいほど自分が酷く醜く感じてしまう。

 だとすれば特別になりたいという想いは、実は浅ましい事なのかもしれない。
 その対象そのものになりたいという、醜い自分から生まれた願望だからこそ。



―――だから、俺は……―――










 体育館に竹刀の叩打音が高らかと響いた。
 学生達が多様に動くその中で。

 でも音が続き激しくなるにつれ、学生達の視線は次々と奪われて。
 遂には足も留め、目に映る光景に釘付けとなる。

 とある二人の少年が得物しないを交えていたからだ。

 きっと彼等が普通の生徒だったらこうもいかない。
 この二人だから、周りの者達は思わず惹かれてしまったのだろう。
 彼等が学校の誇る〝期待の星〟だったからこそ。

 一人はとても背が高い。
 周りと比べて明らかに頭肩が抜きん出ている。
 そうでありながら動きはとてもしなやかで。
 頑とした相手から回り込んでは、瞬時に隙を狙い打って出てみせるという。
 更には長身を生かした押し付けにより、鍔迫り合いでの優位性を見せつける。
 自分の体格をよく理解した器用な戦い方だ。

 その相手はと言えば、頭一つ分ほどに背が低い。
 しかしそれでもまるで動かない、硬い石かと思える程の体幹だ。
 それどころか合わせた剣を押し返し、弾いてみせていて。
 拍子に横薙ぎされた竹刀は、余りに迷い無き水平を刻み込んでいた。
 誰しもが見惚れてしまう程にとても鋭く美しい剣筋として。
 
 空かさずどちらも有効打を取れないまま距離を取る。
 切っ先を揺らして牽制を仕掛けながら。
 それでも誘いに乗らないのは、互いに手の内が読めているからだろう。

 時には軽く打ち、弾いては離れ、回り込んで。
 まるでリズムを刻むかの様に乾いた打音を幾度も響かせる。
 そんな様子は、はたから見れば膠着状態。
 誰しもが「決着は長引きそうだ」とでも思っていそうな戦況で。

 けれど実の所は違う。
 この時、二人はただ笑み向き合っていたのだから。

 互いに〝この瞬間を待っていた〟のだと。

 その笑いが噛み締めへと変わった時、それは起きた。
 小さい方が飛び出したのである。
 それもかなりの腰の低さで。
 まるで座りながら飛び込んでいくかの様に。

 強靭な体幹を生かした圧巻の突撃だ。

 恐らく背の高い方にとっては顎下を突かれた様にさえ見えていた事だろう。
 それだけ動きも鋭く素早く、迷い一つ無かったから。

 しかしそれでも見えてはいた。
 どう動いて来るかも予測出来ていた。
 だからこそ今だと剣を振り下ろす。
 それはもはや打つと言うよりも圧し掛かるといった様に。

 全身全霊を以て迎え撃たんとして。

 その瞬間を誰が追えただろうか。
 否、誰もが認識する事は叶わなかった。

 それだけあっという間の決着だったから。



ズダァーーーンッ!!



 たちまち鈍い音が館内に響き渡る。
 多くの者達の驚声と共に。

 小さい方が尻もちを突いていたのだ。
 その面頂へと竹刀を抑え付けられたまま。

「くぅ~、今日は上手く行くかと思ったんだけどなぁ!!」

 充てられた竹刀が面から離れていく。
 そうして遂には背中までもが床を打つ事に。
 悔しさの余り、身体で大の字を描きながらバタリと。

「いや、今のは結構ヤバかった。 一瞬判断が遅れたら逆の立場になってたかもしんねェ」

 するとそんな悔しさ滲ませる少年に、大きい方からの手が差し伸べられる。
 わざわざ片膝を付いてと、随分な礼節っぷりである。

「やっぱお前はすげェわ。 次やった時に勝てるか、正直不安しかねェ」

「にっしし、なら次こそは勝ってみせるよ。 覚悟してろよな?」

 というより、単に二人の仲が良いだけか。
 共に立ち上がるや否や笑い合っていたのだから。



 今の戦いは決して練習でも試合でも何でもない。
 二人がふと思い立ってやってみただけの、実戦形式の戯れの様なもので。
 だから剣道らしい掛け声も無いし、構えも戦い方も自由に。

 たまには思う通りに動いて戦ってみたい。
 そう提案し合ってからの〝二人だけの遊び〟だった。

 そんな事が容易と出来る程に、二人は強い絆を結んだ親友だったのだ。





 この時、六月中旬の週末。
 春が完全に過ぎ去り、初夏を迎えて気候が息苦しさを誘う頃である。

 なんて事の無い日常の風景が街を緩やかに彩って。
 人々はその風景の一部として溶け込み、世界を静かに回し続けている。

 もちろんこの二人の少年もまた同様に。

 二人は実家と同じ街にある公立白代はくだい高校に通う学生で、現在は二年生。
 中学から付き合いのある友達同士で、今は共に青春を謳歌中。
 その熱意を向けているのが剣道だという訳だ。

 では何故そんな普通そうな二人が注目を浴びたのか。
 それは少し深く説明しなければならない。

 なので、先ずは小さい少年の方から語るとしよう。

 彼の名は藤咲ふじさき ゆう
 東京の西外れに住む普通の少年だ。
 
 髪型はショートで、両脇にだけ頬程までの長髪を下げているのが特徴。
 ほんの少し地毛の茶色い所が隠れた自慢の一つである。

 ただその顔付きはと言えば、輪郭がほんのちょっと丸めか。
 幼さが抜けきれず、実年齢よりも若く見られる事が多いのだとか。

 だが体付きがその顔と同じだとは限らない。

 大きい少年と並んだから小さく見えていただけで、体格自体は平均並み。
 それどころか普通の人と比べて細くも引き締まっている。
 体育会系という一言では片付かない程に。

 というのも―――実は彼、相当な努力家なのだ。

 昔から体を動かす事が大好きで、種目に拘らず何でも楽しんでしまう。
 なのでどんなに難しくても、苦手でも、失敗しても、諦めずに立ち向かうという。
 愚直で考え無しとも言えるが、どちらにせよ持ち味として生かせているのだろう。

 しかしその努力があっても凡才の域は出ない。
 元々ふわっとした性格なのもあって天才とは程遠い人間性だから。
 どちらかと言えば、誰かに指示されたりする方が得意としている様な。

 でも才能への憧れはある。
 自分が凡人で何の取柄も無い事を知っているから。
 それに、天才が如何に凄いのかという事をよく識っているからこそ。

 そう、勇は身に染みて知っている。
 真の天才とはどれ程の者なのかと。

 何故ならその存在は常々傍に居るのだから。



 その存在こそが大きい方の少年、司城ししろ 統也とうやなのである。



 この少年、日本人には珍しい一九二センチという高身長でありながら比較的小顔で。
 それでいて面長であり、流れる様な輪郭がバランスを引き立たせてくれる。
 髪も柔らかで、短髪でありながら靡く様子はこの上ない清潔感さえ醸し出す。
 この面立ちに惹かれない女子は居ないという程の出来栄えイケメンだ。

 加えて風景から浮いて目立ち易い。
 少し首を引くだけで格好良さが押し出されるから。
 骨格が仕上がっているからだろう、基幹が綺麗な流線を描く為だ。
 きっとポーズを取ったりすれば何でも映える事間違い無しだろう。

 一方の性格も気さくと人当たりが良い。
 更には決して人を卑下しない人間性が男女問わず人気をも呼んで。
 お陰で女子からの支持は特に高く、告白される事など日常茶飯事である。

 ただこの天才少年の売りは容姿や性格だけに留まらない。
 勉学も運動も、ありとあらゆる分野でその才能を発揮しているのだ。

 学業成績は授業を受けるだけで常々同学年トップを競い合い。
 身体能力も優れ、さしたる努力も無く同年代と渡り合える。
 おまけに親が弁護士と恵まれていて、もはや非の打ちどころの無い人物と言えよう。

 故に彼は常々こう呼ばれている。
 万能人間・司城 統也と。

 でも統也は知っている。
 才能など所詮、人を象る為の指標でしか無いと。
 結局はその才能を生かす努力をしなければ、何事も実る事は無いのだと。

 だからだ。
 だからこそ統也は勇と共に居る。
 勇の見せてくれる努力こそが自身の目指す形なのだと信じているから。

 勇の努力は天才の統也でも舌を巻く程だった。
 最初は敵わなくても、次に対峙した時は拮抗していて。
 だからとまた突き放しては再び追いついて来る。
 
 その繰り返しがあったから二人は誰よりも強くなれた。
 去年の公式団体戦にて全国大会三位の成績を輝かせられる程に。
 これが他生徒達の好奇心を惹いた最たる要因だ。

 でも二人にとってこの成績はただのオマケに過ぎない。
 目的は別にあり、結果など欲していなかったから。

 二人で競い合い、技術を高める―――ただそれだけが二人の目的だったのだから。

 大会後、インタビューの中で勇は言った。
 〝統也に追いつきたいという目標があるからこそ今の様に強くなれた〟と。
 比類なき天賦の才能を持つ統也への憧れと尊敬を籠めて。

 けれど統也はこう返したものだ。
 〝そう言って強くなってくれる友が居るから自分はここに居られる〟のだと。
 その才能を千切らんばかりな勇への憧れと尊敬を籠めて。

 この様に二人は認め合っている。
 決して驕る事無く、嫉妬する事も無く。
 だからこそ唯一無二の親友になれたのだろう。
 切磋琢磨しあえる存在ほど心強いモノは無いのだから。

 将来なんて関係無い。
 今を生きる事に只ひたむきに。
 それだけ二人は今に夢中だったのである。



 でもそんな二人の心にはいつも渦巻き続けていた。
 憧れる存在に、特別になりたいという淡い願いが。
 互いに知られる事も無く、胸に留めたまま。

 その願いがいつか叶う事を信じて。





―――だから俺は、そんな存在にんだ―――





 これより語ろう。

 そんな願いを抱いた とある少年が

 世界の 残酷な運命 に抗い続ける〝現想げんそう〟を。


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