時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
143 / 1,197
第五節「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」

~創痍 笑顔 続く明日へ~

しおりを挟む
 その時、突如として光が麓全体を覆い尽くす。
 自衛隊本陣の一部も同様にして。
 魔者達が全て、光となって消えていったから。

 そして何一つ残す事無く、光の粒子が空へと上がっていく。

 その様子は福留達が見惚れてしまう程にとても幻想的で。
 先程まで戦いに明け暮れた自衛隊員達の心を洗うくらいに美しくて。

 遥か彼方の市民達でさえも惹かれてしまう程に強く強く輝いていた。



「なるほど、そういう事ですか……通りでダッゾやウィガテの残党が見つからない訳です」

 福留はこの現象を前にようやくその仕組みに気付いた様だ。

 王が消える事で兵士も消えるのだろう。
 その仕組みの詳細こそ理解は出来ないが。

 それでも現にこうして今、目の前で消えていて。
 変わり果てた大地だけが残されている。
 これは今までとなんら変わりは無い事で。
 そう結論付けるには充分な程の証拠となったのだ。

 未だ空に瞬き続ける光達の存在が。

「か、勝ったの……?」

「ゆ、勇君は?」

「安心してください、ほら―――」

 心配な様子を浮かべる二人を前に、福留がそっと傾斜の先へと指を差す。
 その先では既に自衛隊員達が動き始めていて。
 当然、心輝も一緒だ。

 魔者達が消えた事でもう脅威は晴れたから。
 その足取りは皆揃って堂々としたもので。

「きっと大丈夫、だからこうして魔者達は消えたのです。 我々の、いや勇君達の勝利ですよ」

 そうして見せる顔には健やかな程の微笑みが浮かんでいて。

 福留も内心は不安を隠せないだろう。
 それでも大丈夫だと信じているから。
 瀬玲達に心配を掛けさせない様に、敢えてこう言い切った。

 だから麓に降りて来る風を一身に受けながらも、穏やかに見上げる事が出来ていたのだ。





 心輝が辿り着いた頃には勇は地面に伏していて。
 その様子を前に、心輝は慌てて駆け寄っていく。
 脚が重くて震えていようがお構いなしに。

「大丈夫か勇ッ!! 死んでないよなあっ!?」

 ただただそれが心配だったから。

 でもどうやらその心配は取り越し苦労だった様だ。
 勇は倒れていても、意識はまだ残っていて。
 背けて見える顔は今にも眠ってしまいそうな程に気怠そう。
 それでも意識を飛ばさない様にと保たせ、面倒そうな声を上げる。

「生きてるよぉ……し、死ぬもんかっての」

 息は絶え絶えだが、減らず口を叩けるくらいの余裕はある様子。
 これには心輝も感動と呆れが入り混じった「へ」の口を浮かべずには居られない。
 もちろん泣き出しそうなまでにプルプルと震えていたのはご愛敬だ。

「藤咲勇氏の生存を確認、これより保護して下山する。 以上!」

 勇の生存を報告すれば、彼等の仕事は完了。
 けれどそれ以上の事をせずには居られなかった様で。

 自衛隊員達も疲れているはずだ。
 傷を負った者達も少なくは無い。
 犠牲者も多く出た。

 それでも彼等は勇達に感謝せずには居られない。
 この様に窮地を脱する一手を掛けてくれたから。

 だから彼等は喜んで勇を抱え上げる。
 それが彼等の出来る唯一の感謝の気持ちなのだから。





 一方でちゃなはと言うと―――
 やはりあれだけの掃射を行ったのだ、疲労は隠せない。
 命力はともかく、杖を支える力でさえも限界で。
 立ち続ける事もままならずに地面にぺたりと座り込む姿が。

「背負いましょうか?」

「いえ、自分で歩きます」

 そんな彼女も勝利出来た事に高揚していた様だ。
 自衛隊員の進言を前に、首を横へと振っていて。
 でもその顔はどこか誇らしげな笑みが浮かんでいて。

 やりきった事で自信が付いたのだろう。
 少し休むと自らの足で立ち上がり、山を下りて行く自衛隊員達の後を追っていた。





 こうして長い様で短い戦いは幕を閉じ。
 傷だらけとなった戦士達が自陣へと帰還する。

 生還を果たした勇達を瀬玲達が暖かく迎え。
 興奮冷めやらぬ中、五人は一足先に帰路へと就く事となったのだった。





◇◇◇





 軍用ヘリが青い空の下を舞う。

 急行した出発時とは違い、帰りともなればその進みは緩やかにも見えていて。
 まるで中に乗せる勇達を労わるかの様に。

 行きは小型ジェット機を経由しての移動だったが、帰りはこのまま直接の帰還だ。
 ルートも大きく変わり、窓を覗けば海面がチラリと覗く。

 既に外は赤みを帯びていて。
 穏やかな波がそんな光をてらてらと照り返して落ち着かない。
 でもそれも今の和やかさを演出するかのよう。
 


 激戦を乗り越える事に成功したが、勇の受けた傷は決して軽くは無い。
 肌の至る所が焼けてただれ、少し鼻を「スン」と嗅がせれば焦げた臭いが僅かに届く。
 外面的な部分でそれなのだ、内面的な部分はもはや何が起きていても不思議ではない訳で。
 当人はこうしてまだ生きていて意識もあるのだが、それだけでは不安を拭えない。

 何せ雷に打たれたのだ。
 本来高電圧に晒された場合、内臓の機能停止などを引き起こして即死する事が多い。
 それでもこうして生きていられるのは魔剣使いだからだと思わざるを得ない程に奇跡と言える。

 とはいえ、そんな勇も疲れ果てて動く事も叶わない。

 現在は機体側面に設けられた長椅子に固定されて寝かされていて。
 それに寄り添う様に心輝達が囲む。
 幸い、ゆったりとした航行が彼等に着席する必要性すら感じさせなかった様だ。

「ごめんな、大丈夫なんて言っといてこのザマで」

「本当よ、もう。 無茶しすぎじゃない……」

 瀬玲の不満そうな顔にはさすがの勇も堪えてならない。
 弱っていようがお構いなしなのは彼女だからこそか。

「で、でもよ、こうして無事に戻ってきた訳だし―――」
「全ッ然無事じゃないし。 つかアンタも!」

 心輝に至っては自分のしでかした事に反省する様子すら無くて。
 たちまち瀬玲の怒りを買い、耳をぐい~っと引っ張られる始末だ。
 「んがが!!」と悲鳴を上げるも、抵抗すら出来はしない。

「あたしは勇君の事信じてたよ!!」

「はいそこ、適当な事言わないの!!」

 果てには兄妹揃って耳を引っ張られてされるがまま。
 こんな時の瀬玲にはさしもの二人も敵わない。

 でもそんな瀬玲もどこか楽しそうで。
 きっと勇が生きて帰ってきた事がよほど嬉しいのだろう。
 もしかしたらこの中で一番勇の事を心配してたのは彼女かも知れないから。

 瀬玲がそれだけ優しい子だという事は勇もわかっている事だ。
 ほんの少し口が悪くても、それも彼女の持ち味なので。
 でもやっぱりこういう時は頼りになる人物なのだと。

 半目で眠たそうではあるが、彼等の姿を見逃すまいとその目を凝らす。
 どんなに騒がしくても、コントの様なやりとりが面白おかしくて。
 笑みを零さずにはいられない。



 勇達の対面側には福留とちゃなが座る。
 ちゃなはどうやらもう限界だったのだろう、福留にもたれ掛かって寝ていて。
 起こさない様にと、その肩その腕で彼女を支える姿が。

 そんな福留も勝利の余韻に浸るかの様に、穏やかな笑みを向ける。
 苦難の連続だったとはいえ、二人の活躍はその時生まれた感情を打ち破る程に鮮やかで。

 加えての成果を前に、安堵を得るには十分過ぎたのだ。

「福留さん、勇寝ちまった」

「そうですか。 では起こさない様にお願い致しますねぇ。 今はゆっくりさせてあげてください」

 勇にもとうとう限界が訪れた様子。
 三人のコントを前に気持ちが落ち着いたのかもしれない。
 今の彼にはこれほど効果抜群な睡眠導入剤は無いだろう。

「勇っていつもこんな感じなんスか?」

「いやいや、ここまで苦戦したのは今回が初めてです。 やはり戦いというものはこうなりえるから恐ろしい」

 その時福留から放たれたのは、まるで戦いを経験した事がある様な口ぶり。
 とはいえ彼程の歳ならば争いに巻き込まれた事があっても不思議ではない訳で。
 そんな話を耳にした三人もそれ程気にはならなかった様だ。

「しかしこの様子ですと、暫く学校はお休みしないといけませんね。 心輝君と瀬玲君、その件ではフォローの方よろしくお願いいたします」

「ウス、任せてください」

 その願いを受け、心輝達が頷きながら応える。

 三人とも、こうして晴れて当事者となったのだ。
 例え軽い人間性だとしても、ここまでの事を見せられて守らない訳は無い。
 先程までの心輝とは思えぬ真剣な答えを前に、福留の不安はもう皆無と言えるだろう。

「とはいえ顔の方の火傷も術後には跡が残りそうですし、どうやって隠し通すべきか―――」
「その事は……俺に考えがあります」

 するとその時、眠っていたと思われていた勇の口が動く。
 まだほんの少し意識が残っていて、話を聞いていたのだろう。

「後で……福留さん……話を―――」

 たったそれだけを言い残し、再びその口が動きを止める。
 これが本当の限界だった様で。

 瀬玲がプニプニと鼻を押しても、もう何の反応も見せなくなっていた。

「ふむ、では目を覚ました後にでも話を伺うとしましょうか」

 その一言を最後に、福留が「ウンウン」と頷きを見せる。
 もう何も心配は要らないと踏んだのだ。

 勇に考えがあるのなら、必ず意味があるのだと。



 それに何より、そう言い終えた後の勇の寝顔がとても穏やかだったから。



 勇もちゃなも今までに経験した事が無い程の激闘をこうしてやり遂げて。
 揃って安堵の寝顔を惜しげも無く晒す。
 でもその寝顔はどっちもまだまだ子供のようだったから。

「フフッ。 全く、こんな可愛い顔されたらほっとけないじゃん」

 そんなギャップが瀬玲に何かを思わせ。
 勇の唇の筋にその細い指先をなぞらせる。

 そうして見せたのはただの悪戯か、それとも―――




 
 赤く照らす太陽の光が、黒い機体に赤みを呼ぶ。
 穏やかさを機内へと取り込みながら。

 悠々と空を舞う揺り籠はただただ緩やかに。
 それでいてごうごうと轟音を轟かせ、空の彼方に吸い込まれていく。

 彼等を送る大空もずっと穏やかで。
 二人を起こさせんとばかりに静かに見送り続けていた。





第五節 完


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...