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第七節「絆と絆 その信念 引けぬ想い」
~Crushing <破砕>~
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剣聖による一方的な攻撃の数々。
遠くからその光景を見ていた福留達も唸らずにはいられない。
それだけの戦いを見せられていたのだから。
「もしかして勇君、殺されたりしませんかね……」
「わかりません。 剣聖は人の命にそこまで拘らない人物ですから。 魔者に襲われていた村を見つけても見向きもせず、簡単に見捨てた事もあるので」
レンネィも剣聖と幾度かの付き合いを経てそれなりに知っていて。
それでも断言出来ないのは、勇から聞いた意外な一面もあるからこそ。
加減をしてくれるという、僅かな可能性を拭いきれないからこそ。
「だが勇殿も勇殿でわからん。 何故こうまでして剣聖殿に歯向かうのか。 そのアルライの里という所にはそれだけの価値があるというのか!?」
対してフェノーダラ王は未だ懐疑的だ。
人間ならまだしも、魔者を守る為に命を張るその姿がとても信じられなくて。
先程の話が嘘ではない証明に足る行いが、更なる混乱を呼び込んでいたのだ。
しかしそれはフェノーダラ王だけの考えでは無かったのだろう。
その場に居る誰しもが応えあぐねいていて。
福留でさえも、不穏故の強張った表情を思わず晒す。
でも、どうやら彼女だけは違った様だ。
「それは勇様が誰にも負けない強い信念をお持ちだからでしょう」
こう返したのは、今しがた訪れたばかりのエウリィ。
その様子、その答えはまるで今の戦いを見ていたかのよう。
それでいて、自信たっぷりに胸を張った姿が日の下へと晒される。
彼女は今までのふれあいで勇から何かを感じ取っていたのだろう。
そう断言出来る程に確証出来る何かを。
そして今、勇に何が必要なのかも。
「だからこそ彼は絶対に諦めません。 そこに力の強弱など関係無いのです。 ただ真っ直ぐに信じる方々の為に戦う……それが誰にも勝るあの方の強さなのですから」
フェノーダラ王達がそう語るエウリィへと視線を向ける。
今勇が必要とするであろうそれをも、視界に納めながら。
エウリィがそんな彼等の横に並び立ち、その心と同じ真っ直ぐな眼差しを勇へと向ける。
その先に見るのは意思、そのカタチ。
跪こうとも折れないその心を。
たった今頭上を覆う、輝かんばかりの空色を。
ただ静かに―――両手を合わせて祈りながら。
◇◇◇
「……そんなの出来るわけ無いじゃないかッ!!」
エウリィ達が見守る中でも、二人のやり取りは続く。
互いの世界の理屈をぶつけ合う言い争いが。
全てを悟り、諦める事を促す剣聖。
それでも諦めずに抵抗を示す勇。
例え力が無くても、想いが弱くても。
それでも見捨てられない理由がある。
「逃げて諦めてッ!! それじゃあ何も得る意味なんて無いじゃないかッ!! だから決めたんだ! もう逃げる訳にはいかないって!! あの時の様な悔しい思いはもう沢山だッッ!!!」
統也を置いて逃げた事実を忘れた事なんてなかった。
力が足りなくて、何人もの自衛隊員を犠牲にした事だって。
例え不本意な事だったとしても。
それでも笑っていられるのは、頼ってくれる人が居るから。
そんな彼等の想いにも応えたいから。
死んでしまった人達の行為を無駄にしたくないから。
その意思が、想いが、勇を再び立ち上がらせる。
目の前の強大な敵を止める為に。
自分の想いをぶつける為に。
力の源である【エブレ】を真っ直ぐと、剣聖へと突き付ける為に。
「俺はもう逃げないッ!! それが俺の成したい責任で、今果たすべき事なんだッ!!」
これこそが魔剣を持つ理由なのだから。
そう叫ぶ勇を前に、剣聖は何を思ったのだろうか。
空へと顔を見上げさせていて。
虚ろにも足る細い目を浮かべ、小さく溜息を漏らすのみ。
「あぁそうか……そういう事かよぅ」
身構える事も無く、無防備を晒したままで。
それというのも、剣聖は後悔していたのだ。
ただ、それは決して勇に魔剣を与えたからという訳ではない。
自分の行いに半端さを持ち込んだ事への自責の念である。
勇の心などすぐに折れると思っていた。
ほんの少し叩けばすぐに逃げ出すと思っていた。
でも考えてみればそう簡単にはいかないなど明白で。
戦う勇とその成果を見て来たからこそ、予想する事など容易い。
だからこそ後悔したのだ。
〝まだまだ自分は甘い〟のだと。
そう認識した時、剣聖の表情が一変する。
無味だった顔に感情が過り、克明にその意思を表し始めたのだ。
そうして浮かび上がったのは―――単に言えば、闘志。
笑窪が下がり、歯を噛み締めて。
強張りを抱き、鋭い目を向ける。
そこに居るのはもはやいつもの緩い剣聖ではない。
明らかな戦意を向けた戦士としての剣聖。
覚悟を決めて戦いに挑む魔剣使いとしての剣聖がそこに居たのである。
ズズゥン!!
途端、剣聖がその背に背負ったバックパックを大地へずり落とす。
するとたちまち大地に揺れ、勇の姿勢さえも揺らさせていて。
そのまま慣れた手つきで、鞄に備えられた箱を一つ開けば―――
―――現れたのは、巨大な魔剣。
その仰々しいまでの魔剣を、勇は一度見た事がある。
いつかフェノーダラ王国に訪れた最初の日に見せた物だ。
あの力強さだけは心に今も残っている。
その魔剣を片手に携え、今―――勇へと向ける。
「これはおめぇをその気にさせた俺の罪だ。 そしてその罪が俺の障害になるのなら……今こそその贖罪をさせてもらうぜ」
その魔剣の存在感と威圧感は圧倒的。
人の背丈ともあろう物を片手で支えているにも拘らず、微動だにしていないのだから。
命力を扱えなかった当時の勇が全く持ち運べない程に重い魔剣を、である。
そしてその意匠は独特。
虹色を象った紋様と、見るだけで力を感じさせる力強い形状。
それだけでもはや特別性に溢れた物で。
力を付けたからこそわかる圧倒的存在感を前に、勇は焦りを隠せない。
余りにも【エブレ】と違い過ぎるから。
自分の持つ魔剣が玩具にも見える程に。
「う、うう……!?」
たったそれだけで―――勇の命力が委縮してしまう程に。
ただでさえ互いの差は天地程の差で離れていて。
それなのにこうして魔剣を持った事でその差は更に開くばかり。
もはやその強さの次元、勇の様な経験の浅い者に推し量れはしない。
でもハッキリしているのは一つ。
剣聖の見せる戦意、魔剣、その力強さ。
その力の象徴たるモノが勇には見えていたのだ。
自身を覆い尽くさんばかりの巨大な影が。
それは命力。
陽光を遮るまでに濃く、高く迸らせた、可視化される程に強い命力である。
もう逃がす気は無いのだろう。
全てのカタを付けるまで。
勇のその心がへし折れるその時まで。
「負けるもんか……!! あの時の様な思いをもう……ッ!!」
それでも勇は退かない。
両手に握った魔剣に力を籠めて。
守るべき者を守る為に。
「繰り返してたまるかあーーーーーーッッッ!!!!!」
今その力の全てを解き放つ。
「バカが……」
だがその瞬間、勇の世界が白と無音の逆風に包まれた。
それはまるで空気の塊を叩き付けられたかの様で。
何もかもが吹き飛んでしまいそうな感触と。
意識や闘志も流し去ってしまいそうな程の圧力。
そのいずれもが勇の感覚全てを押し流す。
そしてその全ての力が突如として渦の様に収束された時―――
―――【エブレ】の刀身は一瞬にして砕け散ったのだった。
幾多の破片を弾かせて。
珠の欠片も砂へと換えて。
勇の掴む柄だけを残して粉々に。
跡形も無く。
煌めく破片が宙を舞い、勇を避ける様にして散っていく。
次第に破片は大地へと落ち、「パラパラ」と乾いた虚しい音を立ていくのみ。
勇が認識した時、その全てはもう既に終わっていた。
それだけの事が今の刹那の中で行われていたのだ。
剣聖がただ一薙ぎしただけ。
たったそれだけで【エブレ】は容易く砕け散ったのである。
魔剣こそが、勇の戦いにおける唯一の心の支え。
支えが無くなれば、抵抗する事はもう出来ないだろう。
これが剣聖の導き出した答え。
きっと勇を傷つける事にはまだ抵抗があったのかもしれない。
少なくとも、その成長を見守って来たのは自分自身で。
今までに何度も助言を挺し、発展を促してきたから。
だから魔剣だけを砕いた。
それが今一番、この場を納める手っ取り早い方法だったのだ。
魔剣を失う事―――それこそが魔剣使いにとっての最後に等しいのだから。
遠くからその光景を見ていた福留達も唸らずにはいられない。
それだけの戦いを見せられていたのだから。
「もしかして勇君、殺されたりしませんかね……」
「わかりません。 剣聖は人の命にそこまで拘らない人物ですから。 魔者に襲われていた村を見つけても見向きもせず、簡単に見捨てた事もあるので」
レンネィも剣聖と幾度かの付き合いを経てそれなりに知っていて。
それでも断言出来ないのは、勇から聞いた意外な一面もあるからこそ。
加減をしてくれるという、僅かな可能性を拭いきれないからこそ。
「だが勇殿も勇殿でわからん。 何故こうまでして剣聖殿に歯向かうのか。 そのアルライの里という所にはそれだけの価値があるというのか!?」
対してフェノーダラ王は未だ懐疑的だ。
人間ならまだしも、魔者を守る為に命を張るその姿がとても信じられなくて。
先程の話が嘘ではない証明に足る行いが、更なる混乱を呼び込んでいたのだ。
しかしそれはフェノーダラ王だけの考えでは無かったのだろう。
その場に居る誰しもが応えあぐねいていて。
福留でさえも、不穏故の強張った表情を思わず晒す。
でも、どうやら彼女だけは違った様だ。
「それは勇様が誰にも負けない強い信念をお持ちだからでしょう」
こう返したのは、今しがた訪れたばかりのエウリィ。
その様子、その答えはまるで今の戦いを見ていたかのよう。
それでいて、自信たっぷりに胸を張った姿が日の下へと晒される。
彼女は今までのふれあいで勇から何かを感じ取っていたのだろう。
そう断言出来る程に確証出来る何かを。
そして今、勇に何が必要なのかも。
「だからこそ彼は絶対に諦めません。 そこに力の強弱など関係無いのです。 ただ真っ直ぐに信じる方々の為に戦う……それが誰にも勝るあの方の強さなのですから」
フェノーダラ王達がそう語るエウリィへと視線を向ける。
今勇が必要とするであろうそれをも、視界に納めながら。
エウリィがそんな彼等の横に並び立ち、その心と同じ真っ直ぐな眼差しを勇へと向ける。
その先に見るのは意思、そのカタチ。
跪こうとも折れないその心を。
たった今頭上を覆う、輝かんばかりの空色を。
ただ静かに―――両手を合わせて祈りながら。
◇◇◇
「……そんなの出来るわけ無いじゃないかッ!!」
エウリィ達が見守る中でも、二人のやり取りは続く。
互いの世界の理屈をぶつけ合う言い争いが。
全てを悟り、諦める事を促す剣聖。
それでも諦めずに抵抗を示す勇。
例え力が無くても、想いが弱くても。
それでも見捨てられない理由がある。
「逃げて諦めてッ!! それじゃあ何も得る意味なんて無いじゃないかッ!! だから決めたんだ! もう逃げる訳にはいかないって!! あの時の様な悔しい思いはもう沢山だッッ!!!」
統也を置いて逃げた事実を忘れた事なんてなかった。
力が足りなくて、何人もの自衛隊員を犠牲にした事だって。
例え不本意な事だったとしても。
それでも笑っていられるのは、頼ってくれる人が居るから。
そんな彼等の想いにも応えたいから。
死んでしまった人達の行為を無駄にしたくないから。
その意思が、想いが、勇を再び立ち上がらせる。
目の前の強大な敵を止める為に。
自分の想いをぶつける為に。
力の源である【エブレ】を真っ直ぐと、剣聖へと突き付ける為に。
「俺はもう逃げないッ!! それが俺の成したい責任で、今果たすべき事なんだッ!!」
これこそが魔剣を持つ理由なのだから。
そう叫ぶ勇を前に、剣聖は何を思ったのだろうか。
空へと顔を見上げさせていて。
虚ろにも足る細い目を浮かべ、小さく溜息を漏らすのみ。
「あぁそうか……そういう事かよぅ」
身構える事も無く、無防備を晒したままで。
それというのも、剣聖は後悔していたのだ。
ただ、それは決して勇に魔剣を与えたからという訳ではない。
自分の行いに半端さを持ち込んだ事への自責の念である。
勇の心などすぐに折れると思っていた。
ほんの少し叩けばすぐに逃げ出すと思っていた。
でも考えてみればそう簡単にはいかないなど明白で。
戦う勇とその成果を見て来たからこそ、予想する事など容易い。
だからこそ後悔したのだ。
〝まだまだ自分は甘い〟のだと。
そう認識した時、剣聖の表情が一変する。
無味だった顔に感情が過り、克明にその意思を表し始めたのだ。
そうして浮かび上がったのは―――単に言えば、闘志。
笑窪が下がり、歯を噛み締めて。
強張りを抱き、鋭い目を向ける。
そこに居るのはもはやいつもの緩い剣聖ではない。
明らかな戦意を向けた戦士としての剣聖。
覚悟を決めて戦いに挑む魔剣使いとしての剣聖がそこに居たのである。
ズズゥン!!
途端、剣聖がその背に背負ったバックパックを大地へずり落とす。
するとたちまち大地に揺れ、勇の姿勢さえも揺らさせていて。
そのまま慣れた手つきで、鞄に備えられた箱を一つ開けば―――
―――現れたのは、巨大な魔剣。
その仰々しいまでの魔剣を、勇は一度見た事がある。
いつかフェノーダラ王国に訪れた最初の日に見せた物だ。
あの力強さだけは心に今も残っている。
その魔剣を片手に携え、今―――勇へと向ける。
「これはおめぇをその気にさせた俺の罪だ。 そしてその罪が俺の障害になるのなら……今こそその贖罪をさせてもらうぜ」
その魔剣の存在感と威圧感は圧倒的。
人の背丈ともあろう物を片手で支えているにも拘らず、微動だにしていないのだから。
命力を扱えなかった当時の勇が全く持ち運べない程に重い魔剣を、である。
そしてその意匠は独特。
虹色を象った紋様と、見るだけで力を感じさせる力強い形状。
それだけでもはや特別性に溢れた物で。
力を付けたからこそわかる圧倒的存在感を前に、勇は焦りを隠せない。
余りにも【エブレ】と違い過ぎるから。
自分の持つ魔剣が玩具にも見える程に。
「う、うう……!?」
たったそれだけで―――勇の命力が委縮してしまう程に。
ただでさえ互いの差は天地程の差で離れていて。
それなのにこうして魔剣を持った事でその差は更に開くばかり。
もはやその強さの次元、勇の様な経験の浅い者に推し量れはしない。
でもハッキリしているのは一つ。
剣聖の見せる戦意、魔剣、その力強さ。
その力の象徴たるモノが勇には見えていたのだ。
自身を覆い尽くさんばかりの巨大な影が。
それは命力。
陽光を遮るまでに濃く、高く迸らせた、可視化される程に強い命力である。
もう逃がす気は無いのだろう。
全てのカタを付けるまで。
勇のその心がへし折れるその時まで。
「負けるもんか……!! あの時の様な思いをもう……ッ!!」
それでも勇は退かない。
両手に握った魔剣に力を籠めて。
守るべき者を守る為に。
「繰り返してたまるかあーーーーーーッッッ!!!!!」
今その力の全てを解き放つ。
「バカが……」
だがその瞬間、勇の世界が白と無音の逆風に包まれた。
それはまるで空気の塊を叩き付けられたかの様で。
何もかもが吹き飛んでしまいそうな感触と。
意識や闘志も流し去ってしまいそうな程の圧力。
そのいずれもが勇の感覚全てを押し流す。
そしてその全ての力が突如として渦の様に収束された時―――
―――【エブレ】の刀身は一瞬にして砕け散ったのだった。
幾多の破片を弾かせて。
珠の欠片も砂へと換えて。
勇の掴む柄だけを残して粉々に。
跡形も無く。
煌めく破片が宙を舞い、勇を避ける様にして散っていく。
次第に破片は大地へと落ち、「パラパラ」と乾いた虚しい音を立ていくのみ。
勇が認識した時、その全てはもう既に終わっていた。
それだけの事が今の刹那の中で行われていたのだ。
剣聖がただ一薙ぎしただけ。
たったそれだけで【エブレ】は容易く砕け散ったのである。
魔剣こそが、勇の戦いにおける唯一の心の支え。
支えが無くなれば、抵抗する事はもう出来ないだろう。
これが剣聖の導き出した答え。
きっと勇を傷つける事にはまだ抵抗があったのかもしれない。
少なくとも、その成長を見守って来たのは自分自身で。
今までに何度も助言を挺し、発展を促してきたから。
だから魔剣だけを砕いた。
それが今一番、この場を納める手っ取り早い方法だったのだ。
魔剣を失う事―――それこそが魔剣使いにとっての最後に等しいのだから。
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