時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
241 / 1,197
第九節「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」

~騒ぎ前のめり 序~

しおりを挟む
「藤咲センパーイ、早く早くー!」

「愛希ちゃんっ!? ちょ、ちょっと待って!!」

 東京の街を、お洒落な服装を纏う二人が駆ける。
 赤を基調とした明るい雰囲気の愛希が手招きをして。
 黒をイメージしたシックな様相の勇が翻弄されて。

 そうして楽しそうにはしゃぐ二人の姿はまるで―――



 これは勇とちゃな、そして愛希の勘違いから始まったお話。
 今までの経緯いきさつを知っているならばきっと気付くであろう、をキッカケとして。
 そんなキッカケが花を開いたのはほんの数時間前のこと。
 東京の片隅で始まったこの出来事は、多くの人々をも巻き込むまでに発展する。
 さて、そうなるとも知らずにネタを温めて来た勇達の運命や如何に。

 日本の中心で今、珍騒動がそっと幕を上げる。



――――――
――――
――




 時は九月中旬。

 例年よりも早く、夏が過ぎた。
 残暑を思わせぬ涼風が、ほんの少し青い枯れ葉を纏って緩やかに流れ行く。
 一時的な気候変化ではあろうが、秋の訪れを悟らせるには充分だった。

 しかしそんな季節の報せなんて、学生からしてみれば陰鬱を呼び込むだけか。
 楽しい夏休みも終わり、本分である学業に勤しむ毎日がやってきたのだから。

 とはいえ、その熱気は夏にも負けない。
 何せ、これからの季節はイベントが目白押しで。
 体育祭や文化祭、一部学年では修学旅行なども控えているのだから。

 もちろんそれは勇達も同様に。
 いざ休憩時間ともなれば、大事を忘れて話題に華を開かせる。
 勉強や遊びの事、イベントの事も色々と。
 彼等にとってはこうして言葉を交わす事もまた本分なのだ。
 それがお休みの日ともなれば、夏の熱気冷めやらずに遊ぶ学生達も多いだろう。



 しかし勇とちゃなに限っては別のお仕事がある訳で。
 二人に与えられる至福の休日は、さほど多く無い。



 そんな貴重な休日である日曜の今日。
 勇が一人、リビングのテレビ前でくつろぐ姿がそこに。

 両親は買い物へとお出掛け中。
 ちゃなも愛希達の下へと遊びに。
 お陰でゆったりとした時間を満喫し、本人は凄く満足そう。
 いつも忙しいから、たまにはこういう時間があってもいいのかもしれない。

『月曜日に行われる予定の首脳会談ですが、各国の代表が続々と入国し始め、早速空港を賑わせています』

『しかしまた珍しいものですね、ここまで素早く訪れるというのは。 異例ではないでしょうか』

 といっても、テレビが映す情報は割とせわしない。
 二人のキャスターが語りながらの映像は実に物々しくて。
 多くの要人が次々と空港を出ていく姿を淡々と、連々と。

「やっぱあの事を話し合う為なのかなぁ……」

 やはり勇も気になっていたのだろう。
 彼等が何の為に集まっているのかを。
 なまじその事情を知っているからこそ。



 あれは先日の【オンズ族】との戦いの折。
 勇とちゃなは移動中に、福留からとある事を打ち明けられた。
 〝魔者の事を世界に公表する〟という情報を。

 世界はまだ変容事件で混乱している真っ最中だ。
 でも魔者の事は各国首脳同士で秘密を貫く事を決め、存在は正式公表されていない。
 精々混乱に乗じたジャーナリストがそれらしい映像を流しているくらいか。
 それも間も無く立ち消え、噂が残るだけだが。

 しかしそれがようやく公表されるという。
 恐らくは公開に向けて必要な情報が纏まってきたのだろう。



 世界中の人々を不安にさせない、有用的な情報が。



 その情報を真っ先に公開する事が混乱を収める最善策なのだと、福留は語っていた。
 だからこそ期待せずにはいられない。
 買い物にも付き合わず、こうしてテレビへ好奇心を寄せてしまう程に。

 その期待の素とはすなわち―――魔剣使いだ。

「でも、そういえば変容事件って世界規模だったよなぁ。 じゃあもしかして、海外にも俺みたいな魔剣使いが居るのかな?」

 公表される情報がどの様な事かは勇も知らない。
 だから魔剣使いという存在もが公になる可能性も捨てきれない。
 そうなればきっと、自分も無関係ではいられないだろうと。

 そうなると自然と思い浮かんだのだ。
 自身と同じ境遇を持った者が居るのではないかと。
 それも剣聖やレンネィ達とは違う、現代人の魔剣使いが。

 魔剣を手に入れ、死ぬ事無く戦い続けた者が居るかもしれないのだと。

 考えてもみよう。
 どうやって世界が一律して魔者を封じ込められているのかと。
 これだけの時間があれば魔者に侵略された国があってもおかしくない。
 幾ら転移規模が小さくとも、彼等は人類の兵器では歯が立たない存在なのだから。

 でももし各国で生まれた魔剣使いが勇の様に魔者を退けているのだとしたら?
 世界の安定の為に戦い続けているのだとしたら?
 だとすれば今の世界の安定ぶりが説明付くだろう。
 もしそんな存在が居ないのなら、とても実現成し得ない事だからこそ。

 もちろん勇が事実を知らないという事もある。
 もしかしたら本当に魔者に支配された国があるかもしれないから。

 けど少なくとも、世間が騒ぐ程の大きい出来事は起きていない。

 火の無い所に煙は立たない。
 福留という情報源があってもなお届かないのは、きっとそういう事なのだろう。

 ただ単に福留が話していないというオチもあり得るが。

「世界は広いからなー、居そうな気はする。 福留さんは何か知ってそうだ」

 テレビを前に一人言をぼやき、ソファーの背もたれにどさりと倒れ込む。
 更にはその勢いのまま首をも乗させて。

 知らない事を悩むなど、無意味だとわかっていても止まらない。
 いっそ福留に訊いてしまおうかと思ってしまう程に気持ちが収まらない。
 そんな悩みを削り取らんが如く、堪らず首をぐりぐりとソファーに擦り付ける姿がここに。

 するとそんな時―――

ヴヴヴヴ……

 机上のスマートフォンが振動する。
 まるで図ったのかと言わんが如く。

 噂をすれば影―――福留からの着信である。

『こんにちは勇君。 オンズの件の時はどうもありがとうございました』

「こんにちはー。 何かあったんですか?」

 とはいえ、もはや手馴れたもので。
 気張る事も無く受けてはこう返してみせる。

 内容を確認するのももう社交辞令の様なものだ。
 そうしないで油断すると、直ぐ口調を変えて驚かせにくるので。
 ならいっそ自分から聞いてしまえという、経験から生まれた知恵である。

 けれど、今回ばかりはどうやら悪い予感が的中しなかったらしい。

『いえ、要件自体はそれ程大した事ではありませんよ。 ただ突然で申し訳ないんですが、これからちゃなさんを連れて特事部本部まで出向いて頂きたいのです』

「本部ですか? あー、でも田中さんは今友達の家に遊びに行ってて……」

 返って来たのは穏やかな、それでいてほんの少し申し訳なさそうな声で。
 やっぱり福留も勇の休みを削る事に乗り気では無い様子。

 しかしこうして電話を掛けて来るという事はやはり、相応に重要な要件なのだろう。
 となれば勇としても蔑ろにする訳にはいかない。

『参りましたねぇ……今日でないとダメなんですよ。 なんとかなりませんか?』

「うーん、仕方ないですよね。 清水さんには悪いけど田中さんを呼び戻しますよ」

『すみませんねぇ本当に。 では、本部で待っていますねぇ』

 半ば貧乏くじを引かされた気分になりながらも、こう応えて電話を切る。

 なんだかんだで福留との距離が縮まったのは事実だろう。
 その代わり、無理難題を押し付けられる事が多くなった様な気がしないでもない。
 先程の魔剣使いに関する悩みといい、こうして相談出来ない事も多いので尚更だ。

「福留さんから呼び戻してくれれば面倒無いんだけどなぁ。 まぁでもこういう時の田中さんって、凄い哀しそうな声出すから辛いのはわかるんだけどさ」

 そんな新たな悩みを独り愚痴ごとに換え、ささっとスマートフォンを操作して。
 そうして現れたのは、『ちゃなちゃん』と表示された連絡先。
 思春期の残滓を前に少し躊躇うも、意を決してゆっくり指を添える。

 いつもは【RAIN】で連絡するのだが。
 福留との応対もあって、この時だけは自然と電話操作に。

 そう、『ちゃなちゃん』の連絡先へと。



トゥr―――



『もっ、もしもし……?』

 にしても出るのが恐ろしく速い。
 ワンコールさえさせない程に速い。
 尋常じゃない反応速度である。

 それでいて聴こえてきたのは、ほんの少し声高な控えめ声で。
 ぱっと聴いただけだと、ちゃなではないとは気付けない雰囲気だ。

「あ、俺だけど。 ごめん、ちょっと福留さんから急用が発生したって」

『え、ええ?』

 更に電話越しで余計なノイズも有るから尚の事。
 恐らくは外出先なのだろう、声の雑音どころか音楽さえも聴こえて来るから障害は多い。

 だからか、勇は全く気付いてない様子。

「それで、これから上野に行くんだけど、行けるかな?」

『えっ……あ、はぃ』

「ごめんね、いきなり。 遊んでる最中だったのに」

『う、ううん。 じゃ、じゃあちょっと準備かかりますので……さ、先に行っててくださぃ』

「うん?? ああ、わかった。 じゃあ先に上野に行って待ってるよ」

 最後だけちょっと気付きかけたのだけれども。
 残念ながらそこで会話が終了。

 結局キッカケをそれ以上得る事も出来ず、終始気付かぬまま。
 勇が魔剣を入れた鞄を肩に掛け、軽快に家を出ていく。

 その姿はどこか嬉しそうで。



 でも勇はこの後、心から思い知る事となる。
 重要な会話にはキチンと主語・述語を交えて要点を必ず伝えるべきなのだと。

 こんな些細な失敗から始まった珍騒動。
 果たしてその結末や如何に。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...