時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
439 / 1,197
第十四節「新たな道 時を越え 心を越えて」

~彼の背中を守る為に~

しおりを挟む
 3月の末……勇達が卒業を迎えた後の春休み初日。
 茶奈は福留と共に白代高校へ足を運んでいた。

「……本当にいいんですね?」
「はい、もう決めた事ですから」

 勇と同様に茶奈は自信に満ち溢れた表情を浮かべる。
 しかしその瞳はどこか寂しさも感じさせ……眉を細めて校舎を見つめていた。

 二階にある一般訪問者向けの玄関へ向かい、茶奈と福留が外の階段を登る。
 その足取りはどこか重く……。

 玄関から校内へ入ると、受付に座る事務員の女性が彼女達に気付き迎えた。

「こんにちは、どのようなご用件でしょう?」
「あの、この学校に在籍している田中茶奈と申します」
「あ、はい」

 そう挨拶をすると……茶奈は自分の抱える鞄に手を伸ばし、一つの封筒を取り出した。
 そっと差し出された封筒に書かれた文字を見た事務員が目を丸くして見つめながら受け取る。



 そこに書かれているのは……「退学届」。



 決して彼女は問題を起こした訳でもなければ、居づらい訳でもない。
 むしろ本当であれば在籍したまま勇達と同じ様に卒業したかった……そういう思いもあった。

 だが彼女の意思は固く……。

 退学届を受け取った事務員が電話を取り、電話先の相手と話を交わすと……暫く後、校長と思われる老人が姿を現した。
 お互いが一礼し、下履きをスリッパに履き替えて茶奈と福留が廊下へ上がると……校長に応接室へと誘われる。
 中に入ると、彼女達の視界に横長の机とそれを挟む様に設置された二つの豪華そうなソファーが映り込んだ。

 校長が奥側のソファーへ座る様二人を促すと、彼女達はそれに従い並び座る。
 対面に校長が座ると、付いてきた事務員が受け取っていた退学届の封筒を彼に手渡し、一礼して部屋を出ていった。

 3人だけとなった応接室に僅かな沈黙が包む。
 重い雰囲気の中……校長が切り出す様にその沈黙を破った。

「さて……まずは、理由をお聞かせ願えますか?」

 机に置かれた退学届の封筒にそっと指を添え、僅かに茶奈達へ向けて寄せられる。
 その意図に気付き、茶奈が声を出そうとした途端……福留が彼女の手を取り、彼女の声を制止した。

 そして代わりに福留がその重い口を開かせる。

「どうも初めまして……わたくし、福留と申します……彼女の生活サポートをさせて頂いている者でして……」

 懐から名刺入れを取り出すと、校長と名刺を交わす。
 そこに刻まれていたのは、お馴染のカモフラージュ用団体の名とは異なるもう一つの団体名。

 【総務省変容特区福祉事業部】と書かれた部署名を前に、校長も思わず喉を唸らせる。

「なるほど……彼女は変容地区出身でしたか……」
「はい……それで彼女が生活を出来る様サポートをしてきたのですが……実は先日、我々の職場へ就職したいと彼女からのたっての希望が有りましてね……」
「ほうほう……それはそれは……」
「間も無く年度の継ぎ目ですから……それで彼女の希望を汲んで、こうして参った訳です」

 茶奈がその話を横で聞き頷く。
 それを校長が見ると彼女の顔をじっと見つめた。

「なるほど……ですが、本当にいいのですか? 中退すれば今後の生活に支障が出る可能性もあります。 あと1年頑張れば―――」

 だがその時、校長の促す言葉を遮る様に茶奈が声を上げる。

「私は……本当であればもうこの学校に居なかったかもしれないんです」
「―――え……?」

 茶奈は過去を思い起こしていた。
 勇と出会い、渋谷で変容事件に巻き込まれ……そして救われた事。

 それが無ければ生き残る事すら困難だったかもしれない……。
 生き残れても、彼女の居場所は無かったかもしれない……。

 全ては勇に出会った事で今の自分が有るのだと彼女は心に想う。

「とある人に出会った事がきっかけで、私の人生は大きく変わりました。 その人は、ええと……今も職場・・働いていて、彼に憧れて私もお手伝いをしていたんです」

 だが恐らく、彼女が学業に専念する事になれば……きっと彼を支える事は出来なくなるだろう。
 出来たとしても、その頻度は限りなく少なくなる事は間違いない。

「でも今のままじゃ手伝う事が出来なくなりそうで……でも私はこれからもその人を支えていきたいんです。 だから……」

 勇に守られ、守り、彼女は今日まで戦い続けてきた。
 それは愛情にも近い恩……彼女は勇を信頼し、彼の背中を守る為に傍に居続ける事を選んだのだ。

「あとはこじつけかもしれませんが……なんか税金で学校に通わさせてもらっているのも悪い気がしてまして……あはは……」
「ハハ……」

 その言葉を前に3人揃って微笑みを誘われる。
 そんな笑いが……どこか重かった空気を払い除けていた。

「なるほど、その就職先でその人を助ける為に学校を辞めるですか……判りました、素敵ですねその想い……絶対に忘れないでくださいね」
「はいっ!!」

 彼女の言葉はしどろもどろだったに違いない。
 だが、その根幹はハッキリとした未来ビジョンを見せつけていた。
 それをしっかりと感じ取ったのだろう……校長はそんな彼女の在り方を受け入れ、笑顔で送り出したのだった。

 二人は校長との話を終えると応接室を退室し……校長に一礼してその場を後にした。

 玄関から二人が出てくると、おもむろに茶奈がスマートフォンを取り出し電話を掛け始める。
 その相手は愛希……真っ先に彼女に連絡する事を決めていたから。

 2回ほどコールすると、すぐさま通話が繋がり彼女の声が響いて来た。

「愛希ちゃん……全部終わったよ」
『ちゃ……茶奈ぁ……本当に……本当に辞めちゃったの!?』
「うん、ごめんね……」

 愛希は事前に彼女から知らされていた。
 学校を辞めて勇と共に仕事に励むという事を。

 電話の先からは悲壮感漂うすすり泣き混じりの声が響く。

『あぁあぅう……やだよぉー茶奈ぁ!!』
「泣き過ぎだよ愛希ちゃん……会えなくなるわけじゃないんだし……むしろ今までより家にいる事が増えるからいつでも会えるよ」
『学校退屈じゃあん……もおぉ……わかった……茶奈、仕事……頑張ってね……ぐすっ』
「うん、愛希ちゃん……またね」

 通話が終わり、電話を鞄へ納めると……それを待っていたかの様に横で佇む福留へ視線を移した。

「まぁ……家に居られる時間は増えますが……出張も増えますからいつでも会えるかどうかは分かりませんよ?」
「あはは……分かってます。 こうでも言わないと愛希ちゃんも判ってくれないでしょうし……」

 これからは愛希の都合に合わせる事が出来なくなるのは理解していた。
 少なくとも、今までの様な生活を送る事が難しくなる事は。

 だからこそ彼女の視線は遠くを見つめ真剣な眼差しを向ける。
 困難でも、乗り越えなければならない道があるから……。

 それは勇達を助ける為に彼女が選んだ道筋……その先は険しく、遠く。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...