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第十四節「新たな道 時を越え 心を越えて」
~彼の背中を守る為に~
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3月の末……勇達が卒業を迎えた後の春休み初日。
茶奈は福留と共に白代高校へ足を運んでいた。
「……本当にいいんですね?」
「はい、もう決めた事ですから」
勇と同様に茶奈は自信に満ち溢れた表情を浮かべる。
しかしその瞳はどこか寂しさも感じさせ……眉を細めて校舎を見つめていた。
二階にある一般訪問者向けの玄関へ向かい、茶奈と福留が外の階段を登る。
その足取りはどこか重く……。
玄関から校内へ入ると、受付に座る事務員の女性が彼女達に気付き迎えた。
「こんにちは、どのようなご用件でしょう?」
「あの、この学校に在籍している田中茶奈と申します」
「あ、はい」
そう挨拶をすると……茶奈は自分の抱える鞄に手を伸ばし、一つの封筒を取り出した。
そっと差し出された封筒に書かれた文字を見た事務員が目を丸くして見つめながら受け取る。
そこに書かれているのは……「退学届」。
決して彼女は問題を起こした訳でもなければ、居づらい訳でもない。
むしろ本当であれば在籍したまま勇達と同じ様に卒業したかった……そういう思いもあった。
だが彼女の意思は固く……。
退学届を受け取った事務員が電話を取り、電話先の相手と話を交わすと……暫く後、校長と思われる老人が姿を現した。
お互いが一礼し、下履きをスリッパに履き替えて茶奈と福留が廊下へ上がると……校長に応接室へと誘われる。
中に入ると、彼女達の視界に横長の机とそれを挟む様に設置された二つの豪華そうなソファーが映り込んだ。
校長が奥側のソファーへ座る様二人を促すと、彼女達はそれに従い並び座る。
対面に校長が座ると、付いてきた事務員が受け取っていた退学届の封筒を彼に手渡し、一礼して部屋を出ていった。
3人だけとなった応接室に僅かな沈黙が包む。
重い雰囲気の中……校長が切り出す様にその沈黙を破った。
「さて……まずは、理由をお聞かせ願えますか?」
机に置かれた退学届の封筒にそっと指を添え、僅かに茶奈達へ向けて寄せられる。
その意図に気付き、茶奈が声を出そうとした途端……福留が彼女の手を取り、彼女の声を制止した。
そして代わりに福留がその重い口を開かせる。
「どうも初めまして……私、福留と申します……彼女の生活サポートをさせて頂いている者でして……」
懐から名刺入れを取り出すと、校長と名刺を交わす。
そこに刻まれていたのは、お馴染のカモフラージュ用団体の名とは異なるもう一つの団体名。
【総務省変容特区福祉事業部】と書かれた部署名を前に、校長も思わず喉を唸らせる。
「なるほど……彼女は変容地区出身でしたか……」
「はい……それで彼女が生活を出来る様サポートをしてきたのですが……実は先日、我々の職場へ就職したいと彼女からのたっての希望が有りましてね……」
「ほうほう……それはそれは……」
「間も無く年度の継ぎ目ですから……それで彼女の希望を汲んで、こうして参った訳です」
茶奈がその話を横で聞き頷く。
それを校長が見ると彼女の顔をじっと見つめた。
「なるほど……ですが、本当にいいのですか? 中退すれば今後の生活に支障が出る可能性もあります。 あと1年頑張れば―――」
だがその時、校長の促す言葉を遮る様に茶奈が声を上げる。
「私は……本当であればもうこの学校に居なかったかもしれないんです」
「―――え……?」
茶奈は過去を思い起こしていた。
勇と出会い、渋谷で変容事件に巻き込まれ……そして救われた事。
それが無ければ生き残る事すら困難だったかもしれない……。
生き残れても、彼女の居場所は無かったかもしれない……。
全ては勇に出会った事で今の自分が有るのだと彼女は心に想う。
「とある人に出会った事がきっかけで、私の人生は大きく変わりました。 その人は、ええと……今も職場働いていて、彼に憧れて私もお手伝いをしていたんです」
だが恐らく、彼女が学業に専念する事になれば……きっと彼を支える事は出来なくなるだろう。
出来たとしても、その頻度は限りなく少なくなる事は間違いない。
「でも今のままじゃ手伝う事が出来なくなりそうで……でも私はこれからもその人を支えていきたいんです。 だから……」
勇に守られ、守り、彼女は今日まで戦い続けてきた。
それは愛情にも近い恩……彼女は勇を信頼し、彼の背中を守る為に傍に居続ける事を選んだのだ。
「あとはこじつけかもしれませんが……なんか税金で学校に通わさせてもらっているのも悪い気がしてまして……あはは……」
「ハハ……」
その言葉を前に3人揃って微笑みを誘われる。
そんな笑いが……どこか重かった空気を払い除けていた。
「なるほど、その就職先でその人を助ける為に学校を辞めるですか……判りました、素敵ですねその想い……絶対に忘れないでくださいね」
「はいっ!!」
彼女の言葉はしどろもどろだったに違いない。
だが、その根幹はハッキリとした未来を見せつけていた。
それをしっかりと感じ取ったのだろう……校長はそんな彼女の在り方を受け入れ、笑顔で送り出したのだった。
二人は校長との話を終えると応接室を退室し……校長に一礼してその場を後にした。
玄関から二人が出てくると、おもむろに茶奈がスマートフォンを取り出し電話を掛け始める。
その相手は愛希……真っ先に彼女に連絡する事を決めていたから。
2回ほどコールすると、すぐさま通話が繋がり彼女の声が響いて来た。
「愛希ちゃん……全部終わったよ」
『ちゃ……茶奈ぁ……本当に……本当に辞めちゃったの!?』
「うん、ごめんね……」
愛希は事前に彼女から知らされていた。
学校を辞めて勇と共に仕事に励むという事を。
電話の先からは悲壮感漂うすすり泣き混じりの声が響く。
『あぁあぅう……やだよぉー茶奈ぁ!!』
「泣き過ぎだよ愛希ちゃん……会えなくなるわけじゃないんだし……むしろ今までより家にいる事が増えるからいつでも会えるよ」
『学校退屈じゃあん……もおぉ……わかった……茶奈、仕事……頑張ってね……ぐすっ』
「うん、愛希ちゃん……またね」
通話が終わり、電話を鞄へ納めると……それを待っていたかの様に横で佇む福留へ視線を移した。
「まぁ……家に居られる時間は増えますが……出張も増えますからいつでも会えるかどうかは分かりませんよ?」
「あはは……分かってます。 こうでも言わないと愛希ちゃんも判ってくれないでしょうし……」
これからは愛希の都合に合わせる事が出来なくなるのは理解していた。
少なくとも、今までの様な生活を送る事が難しくなる事は。
だからこそ彼女の視線は遠くを見つめ真剣な眼差しを向ける。
困難でも、乗り越えなければならない道があるから……。
それは勇達を助ける為に彼女が選んだ道筋……その先は険しく、遠く。
茶奈は福留と共に白代高校へ足を運んでいた。
「……本当にいいんですね?」
「はい、もう決めた事ですから」
勇と同様に茶奈は自信に満ち溢れた表情を浮かべる。
しかしその瞳はどこか寂しさも感じさせ……眉を細めて校舎を見つめていた。
二階にある一般訪問者向けの玄関へ向かい、茶奈と福留が外の階段を登る。
その足取りはどこか重く……。
玄関から校内へ入ると、受付に座る事務員の女性が彼女達に気付き迎えた。
「こんにちは、どのようなご用件でしょう?」
「あの、この学校に在籍している田中茶奈と申します」
「あ、はい」
そう挨拶をすると……茶奈は自分の抱える鞄に手を伸ばし、一つの封筒を取り出した。
そっと差し出された封筒に書かれた文字を見た事務員が目を丸くして見つめながら受け取る。
そこに書かれているのは……「退学届」。
決して彼女は問題を起こした訳でもなければ、居づらい訳でもない。
むしろ本当であれば在籍したまま勇達と同じ様に卒業したかった……そういう思いもあった。
だが彼女の意思は固く……。
退学届を受け取った事務員が電話を取り、電話先の相手と話を交わすと……暫く後、校長と思われる老人が姿を現した。
お互いが一礼し、下履きをスリッパに履き替えて茶奈と福留が廊下へ上がると……校長に応接室へと誘われる。
中に入ると、彼女達の視界に横長の机とそれを挟む様に設置された二つの豪華そうなソファーが映り込んだ。
校長が奥側のソファーへ座る様二人を促すと、彼女達はそれに従い並び座る。
対面に校長が座ると、付いてきた事務員が受け取っていた退学届の封筒を彼に手渡し、一礼して部屋を出ていった。
3人だけとなった応接室に僅かな沈黙が包む。
重い雰囲気の中……校長が切り出す様にその沈黙を破った。
「さて……まずは、理由をお聞かせ願えますか?」
机に置かれた退学届の封筒にそっと指を添え、僅かに茶奈達へ向けて寄せられる。
その意図に気付き、茶奈が声を出そうとした途端……福留が彼女の手を取り、彼女の声を制止した。
そして代わりに福留がその重い口を開かせる。
「どうも初めまして……私、福留と申します……彼女の生活サポートをさせて頂いている者でして……」
懐から名刺入れを取り出すと、校長と名刺を交わす。
そこに刻まれていたのは、お馴染のカモフラージュ用団体の名とは異なるもう一つの団体名。
【総務省変容特区福祉事業部】と書かれた部署名を前に、校長も思わず喉を唸らせる。
「なるほど……彼女は変容地区出身でしたか……」
「はい……それで彼女が生活を出来る様サポートをしてきたのですが……実は先日、我々の職場へ就職したいと彼女からのたっての希望が有りましてね……」
「ほうほう……それはそれは……」
「間も無く年度の継ぎ目ですから……それで彼女の希望を汲んで、こうして参った訳です」
茶奈がその話を横で聞き頷く。
それを校長が見ると彼女の顔をじっと見つめた。
「なるほど……ですが、本当にいいのですか? 中退すれば今後の生活に支障が出る可能性もあります。 あと1年頑張れば―――」
だがその時、校長の促す言葉を遮る様に茶奈が声を上げる。
「私は……本当であればもうこの学校に居なかったかもしれないんです」
「―――え……?」
茶奈は過去を思い起こしていた。
勇と出会い、渋谷で変容事件に巻き込まれ……そして救われた事。
それが無ければ生き残る事すら困難だったかもしれない……。
生き残れても、彼女の居場所は無かったかもしれない……。
全ては勇に出会った事で今の自分が有るのだと彼女は心に想う。
「とある人に出会った事がきっかけで、私の人生は大きく変わりました。 その人は、ええと……今も職場働いていて、彼に憧れて私もお手伝いをしていたんです」
だが恐らく、彼女が学業に専念する事になれば……きっと彼を支える事は出来なくなるだろう。
出来たとしても、その頻度は限りなく少なくなる事は間違いない。
「でも今のままじゃ手伝う事が出来なくなりそうで……でも私はこれからもその人を支えていきたいんです。 だから……」
勇に守られ、守り、彼女は今日まで戦い続けてきた。
それは愛情にも近い恩……彼女は勇を信頼し、彼の背中を守る為に傍に居続ける事を選んだのだ。
「あとはこじつけかもしれませんが……なんか税金で学校に通わさせてもらっているのも悪い気がしてまして……あはは……」
「ハハ……」
その言葉を前に3人揃って微笑みを誘われる。
そんな笑いが……どこか重かった空気を払い除けていた。
「なるほど、その就職先でその人を助ける為に学校を辞めるですか……判りました、素敵ですねその想い……絶対に忘れないでくださいね」
「はいっ!!」
彼女の言葉はしどろもどろだったに違いない。
だが、その根幹はハッキリとした未来を見せつけていた。
それをしっかりと感じ取ったのだろう……校長はそんな彼女の在り方を受け入れ、笑顔で送り出したのだった。
二人は校長との話を終えると応接室を退室し……校長に一礼してその場を後にした。
玄関から二人が出てくると、おもむろに茶奈がスマートフォンを取り出し電話を掛け始める。
その相手は愛希……真っ先に彼女に連絡する事を決めていたから。
2回ほどコールすると、すぐさま通話が繋がり彼女の声が響いて来た。
「愛希ちゃん……全部終わったよ」
『ちゃ……茶奈ぁ……本当に……本当に辞めちゃったの!?』
「うん、ごめんね……」
愛希は事前に彼女から知らされていた。
学校を辞めて勇と共に仕事に励むという事を。
電話の先からは悲壮感漂うすすり泣き混じりの声が響く。
『あぁあぅう……やだよぉー茶奈ぁ!!』
「泣き過ぎだよ愛希ちゃん……会えなくなるわけじゃないんだし……むしろ今までより家にいる事が増えるからいつでも会えるよ」
『学校退屈じゃあん……もおぉ……わかった……茶奈、仕事……頑張ってね……ぐすっ』
「うん、愛希ちゃん……またね」
通話が終わり、電話を鞄へ納めると……それを待っていたかの様に横で佇む福留へ視線を移した。
「まぁ……家に居られる時間は増えますが……出張も増えますからいつでも会えるかどうかは分かりませんよ?」
「あはは……分かってます。 こうでも言わないと愛希ちゃんも判ってくれないでしょうし……」
これからは愛希の都合に合わせる事が出来なくなるのは理解していた。
少なくとも、今までの様な生活を送る事が難しくなる事は。
だからこそ彼女の視線は遠くを見つめ真剣な眼差しを向ける。
困難でも、乗り越えなければならない道があるから……。
それは勇達を助ける為に彼女が選んだ道筋……その先は険しく、遠く。
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