時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
455 / 1,197
第十五節「戦士達の道標 巡る想い 集いし絆」

~信念、それは変わり変わらぬモノ~

しおりを挟む
 ボノゴ族との戦いの後、2日程が経過した。
 作戦終了後日、彼等は無事日本へと帰国を果たしていた。

 帰国した彼等を待つのは作戦報告。
 とはいえ、赴いた全員がわざわざ報告に立ち寄る様な作戦内容でも無く……大きく動いた勇と心輝が代表者として魔特隊本部へ東京にある魔特隊本部へ訪れていた。

 事務所にある自分達の席に座り、事務員の女性『笠本ささもと 瑠海るみ」の記録の下で報告を行う。
 若作りで小柄ともあり、比較的若そうではあるが……実は魔特隊の所属員の中で福留とレンネィに次いで年齢の高い人物である。
 ショートのストレートヘアに黒縁の眼鏡を掛け、物静かともミステリアスともとれる雰囲気の彼女……以前は勇達の移動の手伝いなど以外目立つ様な動きはしていなかったのだが、魔特隊発足と共に主事務員として彼等の前で仕事を行う事が増えた様だ。

「―――んで、俺がワンツーを決めたら爺さんがヨロけて―――」
「あの……申し訳ありませんが、そのくだりは続くのでしょうか?」

 心輝の話が長くなると踏んだのだろうか、眼鏡を「クイッ」と上げながら笠本が話の腰を折る。
 照明の光が眼鏡のレンズを照らし、無表情の彼女の顔に一層の不穏さを醸し出させた。

「……あのね笹もっちゃん、ここはいわゆる俺の見せ場でさぁ、やっぱこう……派手に行きたい訳よ!?」

 笠本の歳は今年で31歳。 
 明らかに年上である笠本に対して心輝が遠慮なく話を連ねるが……彼女は表情一つ変える事無く淡々と一語一句パソコンへ記録していく。
 静かに、それでいて凄まじい速度のタイピングで打ち込まれていくさまに、思わず心輝が眉間を寄せ始めた。

「え、今の記録しちゃったの!?」
「はい、しました」
「ちょちょ……笹もっちゃぁん……」
「これも記録しましたので」

 そんなやり取りを行う二人を前に、机に肩肘を立てて待つ勇が僅かに微笑んでいた。



―――あ、今ちょっと笠本さんの口角が上がったな―――



 クールな様に見える彼女だが……実はちょっとした意地悪な性格だ。
 悪意は無いのだが、心輝の様にいじり易い相手は恰好の餌食と言える。
 もっとも、彼しかいじられていない様で……もっぱら彼女のお気に入りと仲間内で噂になる程。

 もちろん、心輝当人は知らぬ話……であるが。



 簡潔に纏めたい笠本と派手に飾りたい心輝の応酬は無駄に続き、時間だけが過ぎていく。



 すると玄関の扉が開く音が聞こえ、パタパタという音と共に福留が姿を現した。

「おやぁ、二人共まだここに居たのですか?」

 不思議そうな顔で3人を見る福留に、三人が揃って顔を向ける。

 その一人、勇があまりにも退屈そうな表情を見せる辺りを察したのか……福留は途端笑顔と共に「ハハハ」と小さな笑いを飛ばした。

 事務所内にあるハンガーへ上着を掛けていると、笠本が思わず不満を挙げる。

「園部さんがなかなか正確に報告して頂けないので長引いています。 申し訳ありません」
「いやいや……構いませんよ、今日は時間ありますし」

 福留はそう応えながら自分の席へと歩く。
 心輝の後ろを通ると、彼は笠本の言葉に反論するかの様に口を開いた。

「報告するならちゃんと報告するべきッスよぉ……必殺ブローとかやっぱ必要じゃないッスか!!」
「ハハ……勿論あっても構いませんよ。 笠本さん、彼が言う通りに書いてあげてください」
「……分かりました」
「報告書を見るのは、戦いに興味なんて全くありはしない総理大臣・・・・ですからねぇ……」

 その言葉を聞くや否や……心輝の表情が固まる。

「マ、マジすか?」
「えぇ、勿論」

 当然嘘ではない。
 今までは魔特隊の立案者であり、理解のある鷹峰総理であったからこそ細かい報告でもある程度融通が利いたという点がある。

 しかし現総理大臣は小嶋こじま 由子ゆうこという人物。
 彼女は魔特隊の存在に否定的であり、もし彼女の目に不備が映る様であれば魔特隊の存続にも関わる事に成り兼ねないのだ。
 彼女が魔特隊に否定的な事は勇達にも周知済みの事である。

「あー……笠本さぁん、続きの報告、始めて宜しいでしょうかぁ?」
「フフ、どうぞ」

 急にしおらしくなった心輝が慣れない丁寧口調で話し始めると……それがツボだったのだろう、笠本が笑いを零した。

「この後編集もあるので問題ありませんよ」
「んなっ……笹もっちゃぁん……!!」

 見事に遊ばれている心輝を前に、勇と福留も思わず笑いを零す。

「でも必要であれば、全文を印刷してボードに張り付けておきますので」
「ちょちょ……急に恥ずかしくなってきたぁー!!」

 頭をわしゃわしゃと掻き乱し恥ずかしがる心輝に対して再び笠本が笑顔を浮かべた。
 なんだかんだでこの二人のやりとりは絶妙にバランスが取れているのかもしれない。



―――福留さんの人選ってホント頭が切れる人ばっかりだよなぁ―――



 嫌という程の人では無いが、こう弄ばれるとなんだか別の意味で不安を感じる勇であった。





 心輝の報告が終わり、報告書を纏める笠本。
 特に勇からは大きな報告内容がある訳でもなく……。

「敵のボスを見つけ次第説得、成功したので現地オブザーバーに報告で作戦完了です。 侵入した一般人在り、注意を勧告。 それとボノゴ族への提供用ハンバーガー100個要求後解散となりました」

 たった3言……1分程度で報告を済ませると、笠本がそれに続き報告書に記録していく。
 すると……彼女が纏めている最中、思い立った様に福留が勇へと視線を向けた。

「勇君、相手のボスは結局悪人だったのですか?」
「初見ではそう感じました……ですが反省の余地ありという事で警告して聞き入れて貰えた筈です」
「そう……『筈』、ですか」

 そうぼそりと呟くと福留は「フゥー」と深く息を吐き出した。

「何か不味かったですかね?」

 その福留の反応が気に成ったのか、勇は不意に彼の意図を探ろうと問い掛ける。
 だが、勇の反応に対し……福留はゆるりと首を横に振り、にこりと優しい笑みを浮かべた。

「いえいえ、無駄な殺生を避けて頂いて安心したのですよ」
「そうですか……」

 その言葉を聞いて勇も安心したのか……勇は微笑みを浮かべ、座っている椅子の背もたれにドサリと背を当てた。

「報告書の整理が完了しました」
「はやっ!!」

 そう話をしていると驚異の編集力で作業を済ませた笠本が声を上げる。
 それを聞いた福留は「ウンウン」と頷くと、自身の席に備え付けられたパソコンをおもむろにいじり始めた。

「はい、確認出来ました、有難う御座います……ではこれで報告は終わりという事で」
「お疲れさまでした」
「お疲れっしたー!」
「お二人共ご苦労様でした」

 勇と心輝が「やっと終わったか」と言わんばかりの疲れた様な顔付で挨拶し席を立つ。
 戦うだけの時であればこんな雑務は無かったのだが……魔特隊に正式入隊後はこんな事も増えた。
 事務的な事となれば、面倒さも相まって疲れも溜まるもので。

 二人が帰宅準備を済ませて事務所から外へ出ていくと……その背中を追う様に福留が事務所の入り口をじっと見つめ続けていた。

「おう勇、飯くって帰ろうぜ」
「そうだな」

 既に時刻は夕刻……空は闇に覆われ、街灯が街を照らす。
 そんな他愛もない会話を交わしながら二人が事務所の前から去っていくと、事務所内に居る福留がぼそりと呟いた。

「……そうですか……やはり君は……」



―――君はいつだか
      『変わろうと望まない限り人の心は変わらない』
                          そう言いましたねぇ……



    ……でも、人の心というモノは……
        変えようと思っても、なかなか変わらないモノなんですよ―――





 福留の心の中で優しい言葉が響く……そんな事も分かる筈も無く、暗い空の下で二人の男が笑いを交わし夜の街に消えていった……。



 かつて少年は、守るべき者を守る為に青の少女との約束を捨てた。

 しかし彼は気付いていない。

 その約束は、捨てようと、忘れようと、ないがしろにしようと……心がそう在り続ける限り、決して、消える事は無いのだと。



 その事に気付くのは―――


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...