523 / 1,197
第十九節「Uの世界 師と死重ね 裏返る力」
~U の せ 界~
しおりを挟む
―――なん……だ……? 体が……急に重く……―――
まるでそれは先程の光景が始まる前の状態。
身動きが出来ない訳じゃない。
先程とは違い、意識はハッキリしている。
けれど、とても重く……少しだけ動かそうにも動く間隔に体が付いてこない。
だが抵抗がある訳ではない。
浮いた様な感覚と、周囲が均等に引かれあう様な不思議な感覚……それが全てを不自由にする。
そして……今度は灰色の光が徐々に広がり始めた……。
ボツボツボツ……
この音はまるで……傘に落ちた大粒の雨の音。
パパパパッ……
否、これは雨そのものの音。
サァァァァァーーー……―――
周囲の光景がハッキリしていく。
そこはビルに囲まれた大通りの真ん中……。
雨が激しく降りしきり、肩を叩いて「パタタ」と音を鳴らす。
だが不思議と冷たさは感じない。
まるで雨自体が熱を持っているかの様に衝撃だけが体を通し、温もりすら感じる。
すると不意に彼の背後に違和感を感じた。
ゆっくりと振り向いていく……そこに見えるのは赤熱の炎の塊、そして轟々と遡っていく黒い煙……。
―――ああこれは……そうか、茶奈が……―――
あの時、雨なんて降ってはいなかった。
何故こうなっているのか、そんな事などわかる訳無い。
だがその炎を見た時、そして熱を感じた時……確かにそれに命力の迸りを感じたのだ。
ダッゾ族へ攻撃を仕掛ける事に成った二日目のあの日、茶奈が初めて魔剣を使った日。
初めてにも拘らず大きな火球を放ち、数百とも言えるダッゾ族達を丸焼きにした出来事。
その光景を見て、勇はそう直感した。
「ウッ……ウゥウ……」
だがその途端……うめき声の様な、喉の奥から持ち上がる声が聞こえた気がした。
炎に注視していた意識が周囲へ広がり始めると……炎を介した向こう側に微かに見えた光景。
そこに映った光景を前に……彼はその目を疑った。
膝を突き、雨に紛れた涙を流しながら大きく口を開けて唸り声を上げる統也の姿。
彼の足元に一人の人影の倒れる姿が見える。
その胸元は大きく赤いシミを作り、そこを通る雨が赤く染まった水流となって周囲に広がっていた。
「カハッ……エホッ……ウゥ……嫌だ……死に……たく……ない……」
「勇……ウゥァァ……」
「死にた、く……エホッ……母、さん……ヒュー……死に、たくないよぉ……」
その言葉を最後に……倒れた人影は動かなくなった。
ドクッ……ドクッ……!!
彼の心臓の鼓動が高鳴り、呼吸が荒くなっていく。
「ハァッ……ハァッ……」
それを見届けた瞬間……胸が締め付けられる様な痛みが走り、心臓を掴んで止めたいと思う程に己の胸を力強く掴み力を篭める。
|己の死|を見届けたのだ。
気が狂ってしまうのではないか……そう思える程に気が動転していた。
過呼吸が始まり「ヒュー、ヒュー」という上手く息を吸う事の出来ない掠れた音が口から洩れ出してくる。
涙とも雨とも思えない熱い感情が頬を伝い流れていくのを感じ取っていた。
大地を叩く雨の音だけがその場を支配する。
彼等の傍らには倒れた茶奈の姿も見える……あの時と同じ、命力の消耗からの気絶なのだろう。
雨曝しの中に倒れている彼女の体調を気遣う者は誰一人としていない。
すると……統也がおもむろに立ち上がり、彼へと向かってゆっくりと歩み始めていく。
顔は依然下に俯いているが……明らかに上目遣いで見つめているのが彼にはハッキリ見えた。
その顔に浮かぶ表情はまるで怒り……その瞳は睨み付けるかの如く鋭く……。
「何故だ……どうしてだァ!!」
歩み寄ってきた統也が突然、叫び声を上げて彼の服の胸倉を片手で掴み持ち上げてきた。
「どうして作戦通りに動いてくれなかったッ!? アンタがァ!!」
胸倉を掴む手には命力が籠り、彼の体が服に引っ張られて僅かに持ち上がる。
「ヴェイリィ!! 何故だァ!!」
「ヴェイリ……だと!? 何を言って……!?」
ヴェイリ、それはかつて……いや今この瞬間何も知らない勇を騙して囮にしようとした男の名前。
何故か自分をヴェイリと呼ぶ統也に戸惑い息を詰まらせる。
その様子から勘違いをしている様には見えない。
「落ち着け統也、俺はヴェイリじゃない!!」
「何を訳のわからない事を……そうやって誤魔化して誤魔化しきれる程俺達は馬鹿じゃねェ!!」
途端、統也のエブレを掴んだ右拳が弧を描いて襲い掛かる。
だがその瞬間……彼は左手に持つアラクラルフを手放し、襲い掛かる拳を掌で受け止めた。
ガララァァン!!
アラクラルフがアスファルトに落ち、けたたましい金属音を鳴り響かせる。
その直上では……二人の男の拳が互いに負けじと押し合っていた。
「アンタが言った事をちゃんと実行していれば勇は死ななかったんだ……アンタが殺したんだ!! アンタが勇を殺したんだーーッ!!」
右手に籠る命力が高まり力を上げていく。
抑えきれない程では無かったが……統也という男のポテンシャルを肌で感じ、勢いに押された彼の腕が徐々に圧されていく。
「ウゥ……!?」
「償わせてやるッ!! 俺がッ!! アンタにッ!!」
統也が鬼気迫る表情を浮かべ、力の限りに拳を押し込んでいく。
そして握られたエブレの刃が徐々に勇の顔へと接近していった。
グググッ……!!
「や……め……ろ……統也ァ!!」
「殺してやる!! ウォォォ!!」
―――これが統也の怒りなのか……こんな統也を……俺は知らない!!―――
統也はなまじ何でも出来てしまうから……怒る事など無かった。
大概はどんな苦境でも跳ね除けてしまうし、基本は大らかな人柄だから……。
怒ったとしても、冗談を言って終わってしまう様な人間だった。
だからこそ、初めて見る本気の怒りを前に……彼は戸惑いを隠せなかったのだ。
まるでそれは先程の光景が始まる前の状態。
身動きが出来ない訳じゃない。
先程とは違い、意識はハッキリしている。
けれど、とても重く……少しだけ動かそうにも動く間隔に体が付いてこない。
だが抵抗がある訳ではない。
浮いた様な感覚と、周囲が均等に引かれあう様な不思議な感覚……それが全てを不自由にする。
そして……今度は灰色の光が徐々に広がり始めた……。
ボツボツボツ……
この音はまるで……傘に落ちた大粒の雨の音。
パパパパッ……
否、これは雨そのものの音。
サァァァァァーーー……―――
周囲の光景がハッキリしていく。
そこはビルに囲まれた大通りの真ん中……。
雨が激しく降りしきり、肩を叩いて「パタタ」と音を鳴らす。
だが不思議と冷たさは感じない。
まるで雨自体が熱を持っているかの様に衝撃だけが体を通し、温もりすら感じる。
すると不意に彼の背後に違和感を感じた。
ゆっくりと振り向いていく……そこに見えるのは赤熱の炎の塊、そして轟々と遡っていく黒い煙……。
―――ああこれは……そうか、茶奈が……―――
あの時、雨なんて降ってはいなかった。
何故こうなっているのか、そんな事などわかる訳無い。
だがその炎を見た時、そして熱を感じた時……確かにそれに命力の迸りを感じたのだ。
ダッゾ族へ攻撃を仕掛ける事に成った二日目のあの日、茶奈が初めて魔剣を使った日。
初めてにも拘らず大きな火球を放ち、数百とも言えるダッゾ族達を丸焼きにした出来事。
その光景を見て、勇はそう直感した。
「ウッ……ウゥウ……」
だがその途端……うめき声の様な、喉の奥から持ち上がる声が聞こえた気がした。
炎に注視していた意識が周囲へ広がり始めると……炎を介した向こう側に微かに見えた光景。
そこに映った光景を前に……彼はその目を疑った。
膝を突き、雨に紛れた涙を流しながら大きく口を開けて唸り声を上げる統也の姿。
彼の足元に一人の人影の倒れる姿が見える。
その胸元は大きく赤いシミを作り、そこを通る雨が赤く染まった水流となって周囲に広がっていた。
「カハッ……エホッ……ウゥ……嫌だ……死に……たく……ない……」
「勇……ウゥァァ……」
「死にた、く……エホッ……母、さん……ヒュー……死に、たくないよぉ……」
その言葉を最後に……倒れた人影は動かなくなった。
ドクッ……ドクッ……!!
彼の心臓の鼓動が高鳴り、呼吸が荒くなっていく。
「ハァッ……ハァッ……」
それを見届けた瞬間……胸が締め付けられる様な痛みが走り、心臓を掴んで止めたいと思う程に己の胸を力強く掴み力を篭める。
|己の死|を見届けたのだ。
気が狂ってしまうのではないか……そう思える程に気が動転していた。
過呼吸が始まり「ヒュー、ヒュー」という上手く息を吸う事の出来ない掠れた音が口から洩れ出してくる。
涙とも雨とも思えない熱い感情が頬を伝い流れていくのを感じ取っていた。
大地を叩く雨の音だけがその場を支配する。
彼等の傍らには倒れた茶奈の姿も見える……あの時と同じ、命力の消耗からの気絶なのだろう。
雨曝しの中に倒れている彼女の体調を気遣う者は誰一人としていない。
すると……統也がおもむろに立ち上がり、彼へと向かってゆっくりと歩み始めていく。
顔は依然下に俯いているが……明らかに上目遣いで見つめているのが彼にはハッキリ見えた。
その顔に浮かぶ表情はまるで怒り……その瞳は睨み付けるかの如く鋭く……。
「何故だ……どうしてだァ!!」
歩み寄ってきた統也が突然、叫び声を上げて彼の服の胸倉を片手で掴み持ち上げてきた。
「どうして作戦通りに動いてくれなかったッ!? アンタがァ!!」
胸倉を掴む手には命力が籠り、彼の体が服に引っ張られて僅かに持ち上がる。
「ヴェイリィ!! 何故だァ!!」
「ヴェイリ……だと!? 何を言って……!?」
ヴェイリ、それはかつて……いや今この瞬間何も知らない勇を騙して囮にしようとした男の名前。
何故か自分をヴェイリと呼ぶ統也に戸惑い息を詰まらせる。
その様子から勘違いをしている様には見えない。
「落ち着け統也、俺はヴェイリじゃない!!」
「何を訳のわからない事を……そうやって誤魔化して誤魔化しきれる程俺達は馬鹿じゃねェ!!」
途端、統也のエブレを掴んだ右拳が弧を描いて襲い掛かる。
だがその瞬間……彼は左手に持つアラクラルフを手放し、襲い掛かる拳を掌で受け止めた。
ガララァァン!!
アラクラルフがアスファルトに落ち、けたたましい金属音を鳴り響かせる。
その直上では……二人の男の拳が互いに負けじと押し合っていた。
「アンタが言った事をちゃんと実行していれば勇は死ななかったんだ……アンタが殺したんだ!! アンタが勇を殺したんだーーッ!!」
右手に籠る命力が高まり力を上げていく。
抑えきれない程では無かったが……統也という男のポテンシャルを肌で感じ、勢いに押された彼の腕が徐々に圧されていく。
「ウゥ……!?」
「償わせてやるッ!! 俺がッ!! アンタにッ!!」
統也が鬼気迫る表情を浮かべ、力の限りに拳を押し込んでいく。
そして握られたエブレの刃が徐々に勇の顔へと接近していった。
グググッ……!!
「や……め……ろ……統也ァ!!」
「殺してやる!! ウォォォ!!」
―――これが統也の怒りなのか……こんな統也を……俺は知らない!!―――
統也はなまじ何でも出来てしまうから……怒る事など無かった。
大概はどんな苦境でも跳ね除けてしまうし、基本は大らかな人柄だから……。
怒ったとしても、冗談を言って終わってしまう様な人間だった。
だからこそ、初めて見る本気の怒りを前に……彼は戸惑いを隠せなかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる