時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第二十三節「驚異襲来 過ち識りて 誓いの再決闘」

~絶 望 希 望~

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 既に夜の闇が周囲を包む中……一人の男が病院から姿を現す。

「うおああああーーーーーーー!!」

 奇声を上げながら病院を飛び出した心輝は一心不乱に東京の街を駆け抜けた。

 そこが何処だかわからない。

 道など関係ない。

 ただ叫び、走り抜けたかった。

 どうしようもなかったから。

 どうにかしたかったから。

 どうにかしてほしかったから。



「―――助けてくれぇ!! ……誰かぁ!! ……頼むぅ!!」

 

 奇声を発してそんな事を叫ぶ彼を見た者は、いずれも彼を避ける様に逃げ惑う。

 優秀な医者ですら助けられないと宣言した怪我人を助けられる者など居はしない。

 少なくともその辺りを練り歩く普通の人間達の中には。

 そんな事など誰にもわかる事だ。

 だがそんな事もお構いなしに、心輝は必死に駆け抜けた。



「お願いだぁ!! 助けてくれぇ!! 彼女を救ってくれぇーーーーーー!!」



 何が彼をそう揺り動かすのか。

 何故そうさせたのか。

 それは彼にもわからない。

 どうしようもないという事。

 その事実から逃げたくて。

 自責の念から解放されたくて。

 愛する者を失いたくなくて。



「うっ……うっ……だずげで……おねがい……だれがぁ……」



 悲しみが彼の心を支配し……詰まった鼻がその声すらも濁し、燻らせる。

 体力ももはや限界に近く、サイレンが鳴り響く街中……気付けば公園と思われる静かな場所に彼はへたり込んでいた。

「ハァ……ハァ……なんでもずる……だがらぁ……!!」

 なお諦める事の出来ない彼は……その絶え絶えの声を上げ、誰も居るはずの無いその場所で懇願を続ける。
 彼の意識が混濁し始め、その意識が朦朧とし始めた時……突然、彼の耳にはっきりとした人の声が入り込んで来た。



「……どうか……しましたか……?」



 突然の声に意識を取り戻した心輝が見上げると……その先に居たのは、一人のスーツ姿の男であった。

「あ……」

 そっと手を差し出す男……それに気付いた心輝が、思わずその手を取る。
 掴まれた手がおもむろに引き上げられると……不思議と疲れ切ったその体は自然に立ち上がり、そのスーツ姿の男と対峙した。

「あ……た、たすけて欲しいんだ……人の……命ッ……!!」
「ふむ……話を……聞きましょうか……」

 心輝の話を疑うどころか、まるで真摯に受け止めその話を聞こうとする姿がどこか不思議だったのか……気付けは彼は男に誘われるがままに側にあったベンチへと腰を掛けていた。
 男が彼の隣へと座り、顔を合わせる事無く……背筋を伸ばし、彼へと視線だけを横目で飛ばす。

 そんな中……心輝はゆっくりと話し始めた。

「俺……ある人に守ってもらって……でもその人は重傷を負って……もうすぐ死んじまうって……」
「はい」
「医者は助けられないって……もうダメだって……俺……その人が好きなのに、助けられなくてッ……」

 次第にその声は高くなり、高揚していく気持ちが抑えられず……彼の口はまるで自身を責め立てる様に荒くなっていった。

「ずぎな人がッ…… だずげられなぐでッ……!! どうじようもなぐっでぇ!!」

 醜く爛らせたその顔を涙と鼻水でドロドロにしたまま……ただ訴える。
 自身の不甲斐なさ、無念、絶望……ただそれだけをぶちまけた。

「どうすればよかったんだよぉぉおおーーーーー!! おっおっウッうううゥゥ……!!」

 自分の心の言葉を洗いざらいぶちまけた心輝は突然崩れ、大きな声を上げて悲しみのままに呻き始めた。
 ただ感情のまま……どうしようもない事実を受け入れ……悲しみに打樋がれる。

 彼の想いを止める者は居ない……横に座るスーツ姿の男ですら。



「ウグッ……フグッ……ハァ……アァ……」

 感情を全て出し切り、すすりか息継ぎかもわからない声が漏れる中……表情一つ変える事無く隣で座り続けていたスーツの男が、突然沈黙を破る様に口を開いた。

「わかりました……助けましょう」
「え……?」

 突然の一言。
 まるでそれは、心輝をあざ笑っているとすら捉えられてもおかしくない一言であった。

 だが……わらにもすがる思いの彼にはもはや、そんな言葉すら否定的な疑いを持つ程の余地など有りはしなかった。

「で、出来るのか……?」
「はい……出来ます……」



 全く迷う事無く発せられた彼の言葉に、心輝の目が見開かれていく。



 男の言葉は彼にとって何物にも代えがたい……希望だったのだ。

「ア、アンタ一体何者なんだ……?」

 ふと気になり、思わず男へと質問が飛ぶ。
 それに抵抗する事も無く、男はそっと心輝へと振り向き答えた。

「私は井出……といいます……普通のサラリーマンです……」

 普通のサラリーマンがレンネィを救うと公言する……これ程滑稽な事はそう無いだろう。
 だが出来ると即答した彼を信じた心輝は深く頷き、ゆっくりとベンチから立ち上がる。

「お願いします……彼女を……レンネィを助けてください……!!」

 心輝が井出へ向けて深々と頭を下げると……井出はおもむろに立ち上がり、その体を彼へと向けた。

「ただし条件があります……」
「条件……?」
「はい……私の事を詮索する者を……全力で排除してください」
「は、排除……」

 突然の条件提示は元より……その一言に、心輝が思わず驚き唖然とする。
 金銭的要求でも何でもなく……彼の存在の秘匿……それだけが井出の要求であった。

「方法はお任せします……私の一切を今後守る事を……誓って・・・ください」

 突拍子もない要求に心輝は戸惑うが……心はとうに決まっている。
 その結論を出す事に、時間は殆ど掛からなかった。

「わかった……俺は誓う……レンネィを生かす為に、そして井出さんの事を詮索する奴を全身全霊を以って排除する事を!!」

 心輝の口から発せられる力強い一言。
 それは彼が願う事から生まれた、心からの誓いの証であった。

 そんな彼の言葉を前に、頷く事も、表情を変える事も無く……井出はそっと口を開く。

「いいでしょう……では行きましょうか……彼女の元へ」
「あ……ありがとうございますッ!!」
「礼は助かってから……」

 こうして……心輝は井出を連れ、レンネィが居る病院へと向けて歩き始めた。



 誰もが彼等のやろうとしている事などに気付く訳も無く……。
 心輝が得た、ほんの一摘まみの希望は……果たして花開くのだろうか……。


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