時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
747 / 1,197
第二十七節「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」

~望み生まれし家族~

しおりを挟む
 勇の一言でアンディとナターシャが乗り気を見せつける様に両手を振り上げる。
 そんな二人の間で、レンネィは静かに笑みを覗かせていた。

「んふふ、そうねぇ……頑張らなきゃ。 頑張らなきゃねぇ……?」

「レンネィさん……まさか……」

 その話の振りを待っていたかのように……レンネィの目が怪しく光る。
 そんな彼女の様子を前に、勇は思わず首を引かせた。

「私もさすがにこの世界の教育関係はわからないからねぇ……という訳で、最近まで学生だった勇にこの子達の家庭教師をやってもらおうと思って!!」
「出たよ!! 最初からそのつもりだっただろ!?」

 レンネィの魂胆を前に、堪らず勇の本音の口調が漏れる。
 それに対し、レンネィの顔には相変わらずのいじらしい笑顔がにんまりと浮かび上がっていた。

「経費も掛からない、顔馴染みで信頼も厚い!! これ以上に無い家庭教師でしょ!!」

 レンネィが「オッホホ」と高笑いを上げる。
 彼女の様子が誰かさんに似ている事に気付き、思わず勇がその目を座らせた。

「なんかやけに明るいと思ったら……そうか、レンネィさんシンの奴に似てきたんだな」

「あら、そう思う?」

 途端きょとんとした顔付きになるレンネィ。
 どうやら当人は自覚が無かった様だ。

「半年前くらいから急に仲良くなってたもんな……アイツに感化されちゃったんじゃないか?」

「ふふ……そうかもねぇ」

 しかしレンネィはそれを否定するどころか受け入れるかの様に柔らかな笑みを浮かべる。
 勇はそんな彼女の態度が妙に感じ、ソファーの背もたれにもたれ掛かる彼女の姿を目で追う。

 そっと脚を組み、太ももを摩る様に両手を乗せる彼女。
 ……まるで見てくれと言わんばかりに……。

 それに誘われるかのように勇の視線が彼女の両手へと向けられ……そこにある違和感に思わずその目を見開かせた。



 彼女の左手の薬指には……金色に輝く指輪がはめられていたのだから。



「そ、それって……!!」

 思わず勇が身を乗り出し、レンネィの左手に熱い視線を注ぐ。
 ようやく事で、彼女はその左手をそっと見せつける様に持ち上げた。

「これね、例の最後の一週間の時、シンから受け取ったの。 『後悔するくらいなら、過程なんてすっ飛ばしてでもやらなきゃなんねぇ事がある』ってね。 それがプロポーズの言葉。 アイツらしいでしょう?」

 レンネィが重傷を負ってから二人の仲は親密になったのは周知の事実だ。
 でも二人が付き合っているという話は無かった。
 つまり心輝は自身が言った通り、交際期間をすっ飛ばして彼女と結婚を申し込んだのだ。

 そして結婚指輪がそこにあるという事が、その結果という訳である。
 衝撃の事実に、勇の口が塞がらない。

 だが……それは衝撃的でも、事実の一つに過ぎない。
 そこから導き出される新たな事実……それは―――



「じゃ、じゃあ……アンディとナターシャは……心輝の……子供ォ!?」



 その叫びと共に、レンネィとアンディ、ナターシャが揃ってピースサインをビシっとキメた。

 勇が余りの驚きで顔を引きつらせる。
 それも当然だろう……目の前で起きている事実がありえない程に衝撃的だったのだから。

 詰まる所、目の前に居るのは、園部レンネィであり、園部アンディと園部ナターシャという訳である。
 そして子供達は父親となった心輝とはほとんど歳の差は無い。
 現在21歳の心輝、そして推定14~16歳のアンディとナターシャ。

 歳の差おおよそ5歳。

 もはやこれは親子というより友達と言った方が早いくらいの年齢差だ。
 そんな奇想天外とも言える展開に……驚かないはずが無い。

「ま、シンは『二人が外面的に親子である必要は無いし、いつも通りでいい』って言ってたけどねぇ」

 予想通りの反応を見せた勇に満足したのだろう、レンネィがニコリと笑みを見せながら肩を悦びで震わせる。
 アンディとナターシャもまんざらではない様で……彼女の語る真実に笑顔で応えていた。

 しかしそんな時、ふと勇の脳裏に疑問が浮かぶ。

 例の一週間はおおよそ半月前の出来事だ。
 アンディとナターシャが養子になったのはそれよりも後の話である。

「……あれ、レンネィさん……二人が養子になった事、シンは知ってるんですか?」

「えぇ、もちろん。 この話が決まった時に話したし」

 もう既に魔特隊のメンバーには外出・外部との連絡は禁じられている。
 ではどうやってレンネィは彼と会話したのだろうか。

 答えは簡単だった。

「あぁ、言ってなかったわね……私、魔特隊は除隊になったけれど、実績を買われて今は本部付けの施設管理役員の一人になったのよ」

「あぁ……そういう事……」

 レンネィの元々の出自はフェノーダラ……今は亡き『あちら側』の国。
 政府の不手際で救う事が出来なかった国の出身ともあり、彼女に対する温情は厚い。
 それに伴って彼女の実績、功績、そして職務態度から信頼に値するとして……彼女は特別にそういった役割が与えられたという訳である。

「もちろん内部の事は一切話せないし、重要な情報の閲覧は禁じられているけども」

「なるほど……でも良かった。 小嶋総理の事、少しは見直したかな」

 たちまち勇の口から漏れるのは、安堵から来る溜息。
 ただ切るのではなく、その後も考える……そんな対応を行った小嶋総理の采配に、勇はほんの安堵感を憶えていた。

「そういう訳だからこれからの心配は要らないわ。 フララジカの事は気掛かりだけどね」

「それは俺達にはもうどうしようもないですからね……剣聖さん達に全てを委ねるしかない」

 フララジカの解決策を追って姿を消した剣聖とラクアンツェ。
 二人の行方は未だ知れず……魔特隊を離れた今、それを知る術すら持ちえない。
 勇にはそれが心残りであったが、剣聖達であればきっと大丈夫だろうと信じる他無かった。

「そうね……だから私はこうして貴方を呼んで、魔特隊OBお茶会でも開催しようかなぁってね」

 言われて見ればそうだ。
 この場に居るのは揃って魔特隊から除隊された者達ばかり。
 そんな彼女の気遣いに、思わず勇の口元がはにかむ。

「それならそうと早く言ってくださいよ……まぁ、二人の教育くらいなら俺に出来る事はやってみるのも吝かじゃないですけど」

 魔特隊の時からアンディとナターシャの教育は彼に一任されてきたからこそ、その責任は今でもあると彼は思っている。
 だからこそ……レンネィに家庭教師の話を振られた時、既に彼はそれを引き受ける事を決めていた。

「ふふ、じゃあ『善は急げ』ね。 今日からお願いしようかしら」

「でも無償っていうのがなんか引っ掛かりますけどね」

「安心して、せめてご飯くらいは御馳走するから……あ、そうだ、ご飯作ってる途中だったの忘れてた!!」

 話に夢中で忘れてたのだろう。
 レンネィが慌てる様に立ち上がると、ダイニングキッチンへと速足で向かっていく。
 そんな様を三人は笑顔で見送り、彼女が調理する様を遠くから静かに眺める姿があった。





 それからおおよそ半年、勇が二人の家庭教師として集中的に教育を行い、なんとか彼等を一般的なレベルの教養を習得させるまでに至る事が出来たのだった。

 こうして、二人は【東京事変】から一年と三か月後……無事、東京のとある高校へと入学を果たす。
 制約はあるものの……自ら望んだ道を進み始めたのだ。



 制約とは、ナターシャが臨時要員として時折魔特隊の手伝いをするというもの。
 アンディの分も含めて。



 アンディはもう戦う事が出来なくなっていた。

 【東京事変】において彼が受けた右腕の傷はイシュライトによる連鎖命力陣によって癒えている。
 しかしイシュライトが言い残した通り……彼の右腕は完治が厳しい状態に陥っていた。

 その原因は彼の心にあるという。
 どうやら操る魔剣の能力【共感覚】が不幸にも体の構造の記憶をも共有してしまい、その影響で体が壊れた腕の構造の記憶を忘れて完治が出来なくなってしまったのだそうだ。
 簡単に言えば、彼の右腕は今、アンディの物ともナターシャの物とも言えるまぜこぜの腕となっている。
 外見上は普通の腕で動かすだけなら問題無いが、命力は通わないという訳だ。

 彼の心が自身の記憶を取り戻せれば治るかもしれない……イシュライトはそう言い残した。
 


 それでもナターシャは受け入れた。
 自身が慕う兄貴分の為に。
 アンディも自身の状況を受け入れ、彼女に魔剣を託した。

 魔特隊の外でもこうして変化が起きている。

 願おうと、願わずとも……。



 世界はなお、崩壊する事無く……動き続けている。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...