時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
762 / 1,197
第二十七節「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」

~そして見つかる《愛》~

しおりを挟む
 時間で言えばおおよそ3分程度。
 勇が広場で戦い始めてたったその時間だけで……全てのグリュダンは動きを止めた。
 広場の中央にはグリュダンだった残骸が山の様に積み重ねられ、全てを終えた勇はその頂きで【光の剣】を無へと還したのだった。

 勇の圧倒的な戦闘能力を前に、茶奈はへたり込みながら眺める事しか出来なかった。

 彼女が変化を迎えた後の勇の戦いを直に見るのは三回目。
 とはいえ……勇の身体能力は以前見た時よりも更に上がっている。
 茶奈が想像していた強さよりもずっと遥か高みに……勇は居たのである。

「さすが……勇さんですね……」



 いつからか、ずっと憧れていた。
 彼の様になりたくて。
 誰かを守れる様になりたくて。

 そんな彼に後を任されて。
 ずっと彼を追い越したつもりだった。
 でも、彼はこうしてまだ上に立っている。

 彼女はまた……こうして見上げる事が出来る。



 自身が最も信頼出来る人の背中を。



 茶奈の心が安堵に包まれ、自然に口元から笑みが零れる。
 戦いに勝利したからというのもあったかもしれないが……何よりも、勇という存在が未だ健在だという事が喜ばしかったから。



 勇が残骸の山の頂で周囲を見渡す。
 周囲の被害の事も心配だったが……何よりも、ボロボロだった茶奈が心配だったから。

 ゆっくりと振り向き、麓に居る茶奈に気付くと……迷う事無く視線を向けた。
 
 僅かな間……静寂の中で二人の視線が合い、互いに見つめ合う。
 いつもなら真っ先に駆け寄って来るはずの勇は未だ頂きに立ったまま。
 どこかいつもならない雰囲気の彼に、茶奈はキョトンとした表情を浮かばせる。

 太陽を背にした彼の顔は陰りを帯び、表情がよく見えない。

 その時、そんな勇の口からそっと……優しい声が響いてきた。
 
「俺……今までずっと……わかっていなかったんだ……人を守る事がどういう事なのかって……」

 それはどこか優しくも訴えたい様な、僅かに声を詰まらせた言葉。
 けれどその先がどこか気になって……茶奈は静かに彼の声に耳を傾けた。
 勇もまた、まるで彼女の好意に甘える様に……その言葉を連ねる。

「最初はただ、『守らなきゃいけない』ってそう思ってた。 家族だったり、仲間だったり……ただがむしゃらに、守る為に戦わなきゃいけないってさ」

 でも、それでも彼は守る事が出来なかった。
 彼の力が無かったから?

「そうやって、何でも守ろうとして、それでも届かなくて……ずっと後悔してきた」

 それは違う。
 彼は守ると言いながら、守っていなかったから。

「エウリィも、あずも……守ってあげる事が出来なかった……それはきっと、守るって事の本質をわかっていなかったから……」

 安全な所に置く事が守る事では無い。
 戦いから退けさせる事が守る事では無い。

「俺はやっとそれに気付いた気がする……誰を守りたいのか、どうして守りたいのか……」

 守るというがどういう事であるのか……その本質に気付けたから。
 今こそ彼は言える。



「俺はずっと……君を守りたかったんだ」



 ずっと勇の背中を茶奈が支えてきた。
 彼女を守り、守られて……一緒にここまで生きてきた。

 想いを交わし、共に過ごしながら、二人は知らず内に守ってきたのだ。



 互いの願いを……明日を。





「茶奈……俺は最初からずっと……君が好きだったんだ……!」





 山の頂で、勇がその手を茶奈へと向けてそっと差し出した。

 陰りを帯びたその手はどこか大きく見えて。
 そして僅かに傾いた顔に日の光が当たって覗く優しい微笑みが頼もしくて。

 そんな彼が目の前に居て。

 気付けば茶奈は立ち上がり、踏み出していた。
 山を登る事なんて苦じゃなかった。
 手足の痛みなんて苦じゃなかった。
 彼の下へ行く事なんて……何の抵抗もありはしなかった。

 差し出された手を取ると、彼女の小さな掌を彼の指が優しく包み込む。
 
 そっと優しく……その手を引いた。

 そんな時の茶奈にも大きな笑顔が生まれ、互いが顔を合わせた時―――





「私も……勇さんが好き……!」





 ―――二人は心を交わし、本当の≪想い≫に気付く事が出来た。











 知らせを受け、心輝・瀬玲・イシュライトが急ぎ現場へと姿を現した。
 壊れた建物などを横目に、現れたであろう敵を探しつつ……荒れた道を突き進んでいく。

 そんな折、先行したイシュライトが建物の先で何かに気付き……建物の影に隠れる様に頭を引かせた。

「どうした、イシュ?」

 不思議に思い、彼に続く様に心輝と瀬玲がそっと建物の影からその先を覗く。
 だが二人もまた、その先にある光景に気付くとすぐに頭を引き、建物の影へとそっと隠れた。

「フフ、どうか水を差さぬよう……心輝?」
「バァカ……それ程俺ァ無神経じゃあねぇよ、ったく……ようやくかよ、へへ」
「あの二人だけがずっと気付いていなかったからね……」

 三人が声を合わせ、壁に背を預けて空を見上げる。
 嬉しさを体現した笑顔を浮かべて。



 そんな建物の先、広場の中央。
 骸の瓦礫の山の頂で、互いの想いを交わし……二人の男女がいだき合う。





 青空の下、太陽の光に包まれて……唇を重ねる二人の姿は、まるで光り輝いているようであった……。











 その時にだけ手を差し伸べただけならば、それはただのにしかならない。

 人を守るという事。
 それはすなわち、『守り続ける』という事。

 簡単な様で、深く重い言葉。
 思う者が多ければ多い程、その手から砂粒の様に零れ、すり抜けていく。

 だからこそ、人は守ると決めた者と、こう誓うのだ。
 「「共に生き続けよう」」と。

 「君だけは必ず守る」という……それは一つのとある誓約。

 それは最初からずっと心に在ったのだろう。

 ずっと互いを想い続けて、でもそれが何であるかわからなくて。
 何度も擦れ違って、再び混じり合って……それでも気付けなかった。
 わからないまま、二人は離れ離れとなった。

 疎遠になったから、二人はやっとわかったのだ。



 それこそが、≪恋≫なのだと。



 この日、勇と茶奈は五年越しの≪恋≫に気が付いた。
 そして二人の募りに募った想いは≪恋≫を≪愛≫へと昇華える。



 
 
 今この時……二人は互いに守り合い続ける事を誓い、愛し合う事を受け入れたのだ。





第二十七節 完


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...