時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十一節「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」

~放力命曲〝光葉〟~

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 その時、宇宙に一つ……瞬きが生まれた。
 茶奈の撃ち放った五つの光が、魔剣ミサイルを見事撃墜したのだ。

 バラバラに引き裂かれたミサイルは途端に分解を始め、周囲にゆっくりと破片を散らせ始める。
 魔剣の切断力は機体そのものに圧迫感を与えない程に鋭利。
 未だミサイルの形がそれとなく維持し続けられたまま……その技は芸術の域とも言える。

 これでもう、ミサイルがタイへ到達する事は無いだろう。

 全ては解決し、後は地上帰るだけ。
 そう認識した茶奈に浮かぶのは安堵から生まれた笑顔。

 そして茶奈ははミサイルから離れる様にゆっくりと軌道を変え始めた。



 その時、彼女の意識の外で異変が起きる。
 形を維持し続けていたミサイルが突如、爆砕を起こしたのだ。



 残っていた燃料が電気部品のショートを受けて爆発を引き起こしたのである。
 それはとても小規模な物だった。
 彼女に届くどころか、気付きもしない程に。

 しかし……その爆発は取り巻く破片を周囲にばら撒かせた。

 巨大な魔剣ミサイルの破片なのだ。
 例え細切れにされたとしても、その破片一つ一つが人間を覆い隠す程に大きい。
 無数の破片がたちまち周囲に舞い飛び、ゆっくりと回りながら拡散していく。
 その内の一つがあろう事か……茶奈へと目掛けて舞っていった。

 茶奈がそこで初めてそれに気付く。
 音も無く近づくその物体が……彼女に衝突しようとしていた時に。



 それが当たった時も……無音だった。



 フィールド内に水中で水を掻いた様なぼんやりとした音が響いただけ。

 ただそれが……途端に茶奈を弾き飛ばした。

 抵抗の無い世界がどれほど地上と異なるのかを、その時彼女は理解する。
 いつもなら石の様に耐える事が出来る彼女でも……まるで無防備の時の様に、されるがまま破片に押し出されてしまったのだから。

 茶奈自身に当たった訳ではない。
 展開していたフィールドが障壁となって、身体への直撃は避けられた様だ。
 しかしフィールドそのものを押し出した事で、意思に反する強い衝撃を受けてしまっていた。

 たちまち彼女の体は大きなきりもみを起こし、地球から遠ざかる様に流されていく。

 バランスを崩し、自身の位置すら見失う。
 回っているという認識も無い。
 地球が自分を中心に動いている……そういう風にしか見えていないのだ。
 
 巡りめく光景が惑わし焦りを呼ぶ。
 それでも茶奈は諦めず……その手に握り締めたままの魔剣に再び跨ろうと拳を引き寄せた。
 魔剣に力を篭めて推進力を生み出せば、すぐにでもバランスを取り戻す事は出来るだろう。
 それをおのずと理解していた彼女は、不安定な体勢のまま力を篭め始めた。



 だが……その時、茶奈が初めて自身の異変に気付く。



 力が……出ないのだ。
 先程までに溢れていたはずの命力が。
 無限にあるはずの命力が。

 まるで全身から吸い取られていくかの様に……その力を急激に失い始めていたのである。

 それが彼女の体に脱力を促し、体の動きを芳しくさせる。
 なお失いつつある力はもはや炎どころか火花すら起こせぬ程に減衰しきっていた。

 ここまでの航行で力尽きたのだろうか?
 先程の破片が彼女にダメージを与えていたのだろうか?

 いずれも違う。
 ほんのつい先程までは、地上に降下する意気込みすらある程に力に満ちていた。
 破片の衝撃も完全にフィールドが防ぎ、フィールドが圧されただけで彼女自身には伝わっていない。

 なら何故か?

 わからない。

 彼女には全く……わからなかったのだ。

 ただ、力を失い掛け……今、意識すらぼんやりとさせ始めていた。



 それが茶奈に……一つの意識をもたらす。



「私……このまま死んじゃうのかな……」



 周囲には何も無い。
 誰も居ない。
 誰も来れない。
 声も届かない。
 そんな現実が……彼女にそう思わせていた。



 しかし不思議と、恐怖は無かった。



 彼女の中にあるのは、一つの安堵感。
 魔剣ミサイルの撃墜をやり遂げた事。
 勇の訴えを叶えたきった事。
 それが彼女に大きな満足感を与えていたのだ。



 力を失った事で、彼女を覆うフィールドも徐々に崩壊を始めていた。
 表皮が破れ、解れ、めくれていく。
 その姿はまるで、ちいさな珠を幾重にも包む葉野菜のよう。

 一枚、一枚……ゆっくりと剥け、支えを失った膜が離れていく。
 主を失った葉は、途端に光の粒へと溶けて消えていった。



 茶奈という珠を抱いた光の葉が、地球の淡い光を受けて煌めきを放つ。
 音も無く、僅かずつ……その実を露わとさせながら。



 そんな中、大きな地球が視界を覆う度に……彼女は想う。



―――勇さん……私……やりきりましたよ―――



 そんな声にならない声が……彼女を包む小さな空間に囁かれた。



―――勇さん……喜んでくれるかな……私……役立ったかな―――



 薄れていく意識の中で、その想いはとうとう心だけに留まっていく。



―――勇さん……ごめんなさい……私もう……ここまでみたい―――



 彼女にはもう、どうする事も出来ないと悟ってしまったから。

 想いを連ねるくらいしか、出来なかったから。

 彼を想う事しか……出来なかったから。



 幾度と無く、想いが募り、心だけに響く。

 無数の星に見守られながら。

 御許の青星おほしに願いを馳せて。



 連ねた想いは、消える事無く。

 その胸に在り続けよう。

 想い人の……面影と共に……。


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