時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」

~講話と余興 意味を伝える為に~

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 機動旗艦アルクトゥーンの帰還。
 このニュースが日本中のメディアを通して伝えられたのは必然とも言えるだろう。
 しかしその目的は未だ知らされておらず、要人達が集まっている事だけが大々的に報じられていた。

 要人とは詰まる所、鷹峰総理代理を含めた日本の政界を担う者達。
 福留を通したグランディーヴァの要請によって、信頼出来る人物をこうして呼び寄せたのである。
 そこにもはや政党や派閥など関係は無い。
 勇の提示する真実がどういう事なのか……そこに興味を持つ者だけを選りすぐっただけに過ぎないのだから。

 勇側としてもそれは願ったりの事だ。
 
 元々、勇としては自身の語る全てを全世界に広めるつもりだった。
 ただがあるからこそ、段階を踏んで説明する事を望んだ。
 その足掛かりが詰まる所の日本。
 自分を最も信頼してくれている人が多く居る祖国を選んだという訳である。



 アルクトゥーンが動きを止めた場所……そこは前回と同じ相模湖上空。

 時刻は既に昼を過ぎた時間帯。
 湖畔には既に多くの関係者が集まり、グランディーヴァの到着を待つ姿があった。
 当然その中には、日本に残る事を望んだ愛希の姿も。
 御味に連れられ、アルライの里からジヨヨ村長やバノもが訪れている。
 ジョゾウもまたカラクラの代表として馳せ参じていた。
 しかしレンネィや池上といった面々はおらず、一般人と言えば彼女だけだ。

 レンネィは家庭の事情もあって今は居ないが、遅れて来る手筈。
 池上は試合が近い事もあって来れないのは目に見えており、興味も無いだろうと呼んではいない。

 顔見知りがほぼ居ないのと、著名人ばかりの中ともあって、さすがの愛希も緊張を隠せない。
 しかしそこは気さくな鷹峰が笑いを取り、彼女の緊張を解す姿が見られた。

 そんな中、勇達がとうとうアルクトゥーンから舞い降りる。
 彼等の旅は日数で言えば僅か十数日。
 とはいえ久しい再会に各々が挨拶を交わす姿があった。

 その後間も無く、要人達が浮遊エレベータを経由してアルクトゥーン内部へ。
 艦内へと訪れた要人達は揃って勇達に案内されながら内部を歩き進む。

 こうして……全ての関係者が居住区地下、講演室へと集められたのだった。





 壇上に立つのは当然の事ながら勇本人。
 壇下、周囲へ並べられた椅子に座るのはグランディーヴァのメンバー達。
 そこには剣聖や、大きな布で体を覆われたまま車椅子に座るラクアンツェ、バロルフ、拘束されたアルディなども座っている。
 横からは千野とモッチがカメラの傍に立ち、映像を記録する姿が。
 そして勇の前に並び座るのは……その他全ての関係者達。
 勇の声が聞こえるよう壇上にはマイクが設置されており、部屋の隅々にまで彼の声が響く様になっていた。

「えっと、それじゃあ……待ちきれない人が沢山居ますので、早速ですが事の一部始終から説明させて頂きます。 出来れば静かに聞いて頂けるとありがたいです」

 今回は福留の助けも無く、勇当人が語る事となる。

 以前の彼ならば物怖じの一つもしていただろう。
 だが今、彼は真実を知った。
 何一つ褪せる事の無い本当の出来事を。
 
 それは自信となり、心から恐れを取り除く。
 恐れを拭い去った勇の口からは、もはや戸惑いの色一つ見られはしなかった。



 勇が語り始めたのはタイでの出来事からだった。

 勇達がゴトフの里へと辿り着いた事。
 ゴトフの里の長ヤヴが、地球の中心に創世の鍵があるという事実を教えてくれた事。
 【アストラルストリーム】がいわゆる地球そのものの精神世界であるという事。
 その話を聞いた後、異形が襲い掛かって来た事。

 そして勇が【創世の鍵】の力の一端である【創世剣】を使ったという事。

 途中までは話の流れとしては辻褄があっていた。
 しかし【創世剣】が出て来た事に関してだけは傍聴者一同が揃って首を傾げさせざるを得ない。
 当然だろう……まるで間の事柄が抜け落ちたかの様に、前触れも無く突然出て来たのだから。

 それはもちろん勇もそうなる事を理解した上の発言であった。

「恐らく皆さんは、俺がどうやって【創世剣】を得たのか、そう疑問に思っているはずですね」

 もちろん【命脈ソウルライン】や【|星の中心<アストラルストリーム》】、精神世界などと言われてもわからない様な事の方が多い。
 それを手っ取り早く説明するならば……を兼ねて説明する必要があるから。

 だから勇は……この説明をする事から始めたのだ。



「実はですね……俺、この間にタイから一度、日本へと渡っているんです」



 この発言を前に驚きを見せぬ者など居ようか。
 精々居るとすれば、事情を知るジヨヨ村長くらいだ。

 他人感覚からしてみれば、その時間的間隔はおおよそ一時間あるか無いかといったもの。
 その間に日本へ訪れていたなど、どの様な奇跡かと思われる程だろう。

「その時、俺はゴトフのヤヴさんの手によって【命脈】を通して日本へ移動させられました。 そしてジヨヨ村長に誘われて、星の中心に行く事となったんです。 そこで俺は一人の女性と出会い、【創世の鍵】を委ねられました。 俺が今持つ、過去の記憶と共に」

 未だ誰しもが猜疑心を隠せない。
 核心に至る様子が無いからこそ。

 だが次の瞬間……彼等は知る事となる。

「俺は全てを知る事で……こんな事が出来る様になりました」



キュンッ―――



 その瞬間、なんと勇が彼等の目の前でその姿を消したのである。



 余りにも一瞬の事で、誰しもが目を疑った。
 一瞬にして勇は光の粒子へと姿を変え、空気に混じる様に消えたのだ。
 現実主義を詠うアルディでさえ……思わず目を幾度も瞬きさせる程に衝撃的な出来事であった。

「皆さん、俺はこっちですよ」

 そんな中、突如勇の声が講演室に響き渡る。
 傍聴人達が咄嗟に振り向くと……講演室の後ろに立つ勇の姿が。

キュンッ―――

 そしてまたしても勇の姿が消え……再び壇上へと姿を現した。

「これは簡単に言えば瞬間移動みたいなもんですけど、厳密に言えばほんの少し違います」

 傍聴人が勇の姿を追いきれずに顔を振り向かせる中、勇は一つ指を立たせる。

「俺は今、命脈を通って移動したんです。 いわゆる【天力】と呼ばれる力そのものになってね。 これは理論上、命力を使う人なら誰でも出来る事です。 ですが、そうしてはいけないからこそ、敢えて出来ない様にしているに過ぎません」

「―――それぁつまり、星の意思に飲み込まれるからだな?」

 その時、思わず剣聖が口を挟んだ。
 しかしそれも勇にとっては好都合で……ニコリと笑みを浮かべる。

「そうです。 厳密に言えば、今皆さんが認知している命力は実は自身の持つ命力ではなく、星の命力を借りているに過ぎません。 だからその力でもし今みたいな事をしてしまえば、たちまち命脈を通して星の意思に飲み込まれ、同化して帰って来れなくなってしまうんです」

「ああ、似た様な事を試そうとした奴を見た事がある。 当然帰ってこなかったがな」

「ですが、俺の得た力は【天力】、人間が本来持つべき、人自身の命力です。 これを得る事で星とは別の個体として認識され、一部とならずに命脈を通る事が出来るんです。 そこはいわば時間的概念から外れた領域。 殆どラグの無い移動が出来る様になります」

 剣聖もその一言で勇の見せた力のからくりに気が付いたのだろう、「ウム」と頷きその口を閉じる。
 これ以上の口出しも邪魔になると感じたのか、振り向いた勇に無言のまま顎を「クイッ」と上げて催促する様を見せていた。

「理論上はこのアルクトゥーンの乗る全員ごと天力転化する事での移動も可能です。 もちろんそれ相応の場所が移動先にあればですけどね。 無ければ悲惨な事になるのでやりませんが……」

「悲惨な事って?」

 剣聖に続き、千野からの質問が飛ぶ。
 まるで予定調和であるかの如く、勇はそれに自身の言葉を乗せて繋げた。

「皆さんは世界転移が始まった直後の世界を見た事がありますか? コンクリートと同化した植物や動物などを。 他にも、魔者達の王を倒す事で兵士達と共に消えていく様を」

「それってもしかして―――」

「ええ、世界転移や集団帰失もまた俺がやった瞬間移動と同じ原理なんです。 そして『こちら側』と『あちら側』が混ざり合ったのは移動元の物質と移動先の物質が重なったから、という訳です」

 勇達もこの長い年月でそんな光景を幾度となく見て来た。
 中には同化した人間すら居た程だ。

 千野の声が途端に詰まる。
 その結末を察してしまったから。

「ちなみにこの瞬間移動は万能って訳じゃありません。 例えば、俺が知らない所には行けないし、同伴する人が居ても、その人が強く意識に残る様な場所じゃないと移動は出来ないんです。 その代わり映像などで『そこに居る』っていうのがわかれば、即時に移動出来ますけど」

 さすがに口を挟む者はもうおらず、僅かな静けさを呼ぶ。
 勇はそんな中で福留を彷彿とさせる様に、そっと人差し指を上げて注目を集めた。

 「簡単に言えば……人の下へ向かう事は出来ても、物や場所に向かう事は出来ないんです。 そう、意思を感じる場所にしか、ね」

 命力や天力はいわば心の力。
 そして相手と繋がろうとする力。
 だからこそ心で感じ、心を道標にして移動が出来る。
 思い出に残る程の場所なら人の心の残滓が残るから、それを辿れられる。

 便利な様で便利ではない……それが勇の得た瞬間移動の正体だった。

「先程言った通り、この力は人が誰しも持てる力です。 条件を挙げるならば、前向きな性格である事。 この力の根源は希望。 何事にも負けず取り組み、未来を創造しようとする心から生まれます。 そこに妬みとか恨みとかそういった負の感情がある限り、天力は生まれない」

 勇もまたここに至るまでに多くの感情を心に重ねて来た。
 希望だけではない。
 恐怖や絶望や恨み、妬みといった感情までをも幾度と無く。

 しかしそれを乗り越え、彼は今ここに居る。
 それらを受けて心の糧として成長を遂げて。
 そんな彼がこう至ったのは必然だったのだろう。

 前向きに生きるという事。
 例え盲目的であろうと、信じる先に希望があるのならば……突き進む事が進歩の証。

 それを繰り返して、人類もまたここまで成長を遂げたのだから。

「この力に目覚めたのは東京事変の時、親友の園部亜月さんの死がキッカケです。 本来ならデュゼローを怨むべきだったんですが、その時俺は怨む事よりも、復讐する事よりも、心の奥底では彼女が助けに来てくれた事に感謝していました。 だから土壇場で天力に目覚める事が出来たんです」

 そして今に繋がり、全てを知る事が出来た。

「そして今、その力の根源を説明出来たから自信を持って言い切れます。 彼女の死には意味があった、と。 彼女のお陰で今があるのだと」

 その一言はきっと、彼なりの園部母への言葉メッセージ
 亜月に贈る事が出来ないからこその……彼女の死が決して無駄死にではなかったという事の証明。

 亜月が来なければきっと勇は死んでいただろう。
 亜月が居なければ勇はあの場に居なかったかもしれない。
 亜月の死が、天力を勇の体に呼び寄せたのだろう。

 そして彼女の思い出が勇に一歩を踏み出させたから……今、ここに居られる。

 そんな僅かな一言にその全てが集約されていた。

 それを天力を通して感じ取った園部母の目から涙が零れ落ちる。
 穏やかな笑みを浮かべたままで……。



 今この時……彼女の心は、ようやく娘の死から真に解放されたのだ……。


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