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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」
~物質と精神 次元を超えて~
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キュンッ―――
おおよそ十分程度の間を置いて、勇とアルディが再びアルクトゥーンの講演室へと姿を現した。
アルディにももはや疑う余地は無く、信頼の証として勇と強く握手を交わす。
一つの感謝の意も込めて。
アルディ自ら拘束を求めるかの様に腕を再び腰裏に回す中、勇もまた壇上へと上がる。
彼もまた話の続きを少しでも早く聞きたかったから。
信じた上で世界の真実を耳にしたかったから。
それに応え、勇もまた間も無くその口を開かせる。
「今、アルディ氏が信じてくれるであろう場所に行ってきました。 そしていつかの敵でありながらも彼は納得し、信じてくれました。 これでようやく次のステップに移れます」
行ってきた場所を公表しないのは、まだアルディの表の顔を知られていないから。
もしそれが公になってしまえば、彼の作った会社にとって大きなマイナスと成ってしまう。
だから勇は敢えて伏せたのだ。
再出発しようとしている会社に罪は無いのだから。
「次はその話の根源でもある、世界の成り立ちに関する説明ですが……正直これは俺からじゃ上手く説明出来る自信がありません。 余りにも膨大過ぎる情報量なんで」
途端、周囲に騒めきが生まれる。
当然だ、説明すると言った矢先に自信が無いと言われれば動揺もするだろう。
しかしそう言った矢先でも、騒めきが包む中でも、勇の顔は崩れる事の無い微笑みを見せたままだ。
語る自信は無くとも語れる自信がある……そう言わんばかりの風体に、自然と騒めきが収まっていった。
「俺からではね。 なのでこういった事にきっと長けてる彼女に話してもらおうと思います。 え、長けてないって? いや今更そんな事を言われても……ああ、そういう事か」
そんな時、突如始まる一人相撲。
一部の者達が思わず目を見張り、彼の挙動に首を傾げる。
刺さる様な視線を向けられた勇は、まるで誤魔化すかの様に「なはは」と苦笑を零していた。
「失礼しました。 それじゃ早速―――」
勇が両手を自身の前に掲げる。
すると……突如としてその両手に光が集まり始めた。
多くの人々が注視する中で、驚きの声がその場を包む。
集まった光はたちまち霧散し……その中から一つの物質剣が姿を現した。
それは【創世剣】。
しかし先日ゴトフの里で見せた物とは違い、虹色の光は放っていない。
純白の外装と半透明な空色の刀身を有した、落ち着きのある様相を見せていた。
「これが先程話に出た【創世の鍵】の力の一端、【創世剣】です」
無から生み出された物質剣を前に、傍聴人達の驚きが止まらない。
創作物ならば当然の様に行われる事だが、現実ならばそうはいかない。
物理法則を無視した物質の形成……それは無限創造を意味するにも等しい行為だからだ。
「今から紹介するのはア・リーヴェという天士。 『あちら側』の伝説に語られる【創世の女神】とも呼ばれた人物となります」
「「「ッ!?」」」
途端、【創世の女神】の事を知る者達がその耳を疑う。
バロルフもまた例外では無く……剣聖同様にその目を見開かせる姿があった。
そんな中、勇が剣を僅かに下へ傾ける。
それと同時に柄から講演台上へ向けて一筋の閃光が走り始めた。
閃光が不規則に軌道を描きながら迸り。
それはまるで3Dプリンタの様に光を照射し、何かを形成していく。
そして全てが終わった時、その場に居た者達がまたしても驚愕する事となる。
壇上に……人形の様に小さなア・リーヴェがその姿を現したのだから。
本当に人形の様だった。
それでいて生物とも思える柔らかさを持った、小さな人。
するとア・リーヴェは人形ではない事を証明せんばかりに、その一歩を踏み出した。
傍聴人達が驚き目を見張る中……台の上の端に立った彼女が遂にその口を開く。
『私が今紹介に与りました、ア・リーヴェと申します』
まるで頭の中に直接響く様な声だった。
体付きから声が小さいはずにも拘らず、ハッキリと聞こえていたのだ。
小さな彼女の姿がしっかりと見えない程に遠く離れた者の耳にもである。
「創世剣を通して彼女の姿を具現化しました。 とはいっても天力体なので、皆さんの目にしか見えません。 多分千野さんと望月さんにはその意味がすぐわかるんじゃないでしょうか」
その間にも千野とモッチが頭を動かし、しきりにカメラと実物への視線を行き来させている。
勇の言った事がどういう意味か、言わずともわかる事だったのだ。
そう……ア・リーヴェの姿は彼等の目には映っているが、カメラには映っていないのだ。
そして当然声も、である。
「今のア・リーヴェは精神物質で構成されていて、心でしか見る事も聞く事も出来ません。 だから機械を通すと、途端に存在が抜け落ちてしまうんです」
これが世界に一斉に伝える事の出来ない要因。
いざ彼女の話す姿を撮ろうものなら、傍聴人や勇が静かに佇んでいる様にしか見えない。
カメラで撮ろうにも姿や声が録れないので存在を証明出来ないのである。
「今、精神物質と言いましたが、精神と物質は相反する物なのでは?」
そんな中、福留が堪らず質問の声を上げる。
きっと勇はその質問も想定していたのだろう……そっと頷き、ア・リーヴェを見ていた顔を正面へと向けた。
「厳密に言うと、俺の言う『精神』は人類がまだ認識出来ない領域の物体という意味です。 実際にそれは有るけど認識出来ないから無いと思っている、物理現象の外にあると思い込んでいるに過ぎません。 しかしいつか科学技術が発達すればその領域もいずれ見えるようになり、物理法則の一つに加わるかもしれないですね」
例えば、現実世界が四次元で構成された世界だという話がある。
縦・横・奥行、そして時間……そういった概念のある世界が今の世界なのだと。
だがこの世界を四次元と決めつける事は決して出来ない。
何故なら、その四次元と定義したのは他ならぬ人間そのものだから。
人間だけが認識出来る次元を数え加えただけに過ぎないのだ。
もしかしたら人間の知らない次元領域がこの世界にはまだいくつもあるかもしれない。
そうも考えれば、この世界が五次元か、六次元か十次元か。
しかし人類はまだそれを証明する事は出来ないのである。
勇が見せたのは人類が本来見る事の出来ない次元の姿。
それを天力によって可視化させたに過ぎない。
「電話が命力を乗せた声を通さないのと同じだと思ってください。 機械じゃどうしても心を送るには限度がありますからね」
そうも言われれば理解出来る人間も少なくはない。
この場に居る関係者で命力に関する欠点を知る者が大半だからだ。
「話が逸れました。 それじゃ、頼むよア・リーヴェ。 世界の真実を君自身から話してほしい」
『わかりました』
勇は最初からこのつもりだった。
難しくて話せないというのは内一つの理由に過ぎなかったのだろう。
ただ彼女の方がよく知り、よく考え、より語りたいと願う想いが強かったから。
そして彼女もまた勇の想いに応え、その声を上げる。
彼女の口から語られるのは世界の発端。
そこから始まった世界は……その場に居合わせた人々をただ驚愕させる他無かった。
おおよそ十分程度の間を置いて、勇とアルディが再びアルクトゥーンの講演室へと姿を現した。
アルディにももはや疑う余地は無く、信頼の証として勇と強く握手を交わす。
一つの感謝の意も込めて。
アルディ自ら拘束を求めるかの様に腕を再び腰裏に回す中、勇もまた壇上へと上がる。
彼もまた話の続きを少しでも早く聞きたかったから。
信じた上で世界の真実を耳にしたかったから。
それに応え、勇もまた間も無くその口を開かせる。
「今、アルディ氏が信じてくれるであろう場所に行ってきました。 そしていつかの敵でありながらも彼は納得し、信じてくれました。 これでようやく次のステップに移れます」
行ってきた場所を公表しないのは、まだアルディの表の顔を知られていないから。
もしそれが公になってしまえば、彼の作った会社にとって大きなマイナスと成ってしまう。
だから勇は敢えて伏せたのだ。
再出発しようとしている会社に罪は無いのだから。
「次はその話の根源でもある、世界の成り立ちに関する説明ですが……正直これは俺からじゃ上手く説明出来る自信がありません。 余りにも膨大過ぎる情報量なんで」
途端、周囲に騒めきが生まれる。
当然だ、説明すると言った矢先に自信が無いと言われれば動揺もするだろう。
しかしそう言った矢先でも、騒めきが包む中でも、勇の顔は崩れる事の無い微笑みを見せたままだ。
語る自信は無くとも語れる自信がある……そう言わんばかりの風体に、自然と騒めきが収まっていった。
「俺からではね。 なのでこういった事にきっと長けてる彼女に話してもらおうと思います。 え、長けてないって? いや今更そんな事を言われても……ああ、そういう事か」
そんな時、突如始まる一人相撲。
一部の者達が思わず目を見張り、彼の挙動に首を傾げる。
刺さる様な視線を向けられた勇は、まるで誤魔化すかの様に「なはは」と苦笑を零していた。
「失礼しました。 それじゃ早速―――」
勇が両手を自身の前に掲げる。
すると……突如としてその両手に光が集まり始めた。
多くの人々が注視する中で、驚きの声がその場を包む。
集まった光はたちまち霧散し……その中から一つの物質剣が姿を現した。
それは【創世剣】。
しかし先日ゴトフの里で見せた物とは違い、虹色の光は放っていない。
純白の外装と半透明な空色の刀身を有した、落ち着きのある様相を見せていた。
「これが先程話に出た【創世の鍵】の力の一端、【創世剣】です」
無から生み出された物質剣を前に、傍聴人達の驚きが止まらない。
創作物ならば当然の様に行われる事だが、現実ならばそうはいかない。
物理法則を無視した物質の形成……それは無限創造を意味するにも等しい行為だからだ。
「今から紹介するのはア・リーヴェという天士。 『あちら側』の伝説に語られる【創世の女神】とも呼ばれた人物となります」
「「「ッ!?」」」
途端、【創世の女神】の事を知る者達がその耳を疑う。
バロルフもまた例外では無く……剣聖同様にその目を見開かせる姿があった。
そんな中、勇が剣を僅かに下へ傾ける。
それと同時に柄から講演台上へ向けて一筋の閃光が走り始めた。
閃光が不規則に軌道を描きながら迸り。
それはまるで3Dプリンタの様に光を照射し、何かを形成していく。
そして全てが終わった時、その場に居た者達がまたしても驚愕する事となる。
壇上に……人形の様に小さなア・リーヴェがその姿を現したのだから。
本当に人形の様だった。
それでいて生物とも思える柔らかさを持った、小さな人。
するとア・リーヴェは人形ではない事を証明せんばかりに、その一歩を踏み出した。
傍聴人達が驚き目を見張る中……台の上の端に立った彼女が遂にその口を開く。
『私が今紹介に与りました、ア・リーヴェと申します』
まるで頭の中に直接響く様な声だった。
体付きから声が小さいはずにも拘らず、ハッキリと聞こえていたのだ。
小さな彼女の姿がしっかりと見えない程に遠く離れた者の耳にもである。
「創世剣を通して彼女の姿を具現化しました。 とはいっても天力体なので、皆さんの目にしか見えません。 多分千野さんと望月さんにはその意味がすぐわかるんじゃないでしょうか」
その間にも千野とモッチが頭を動かし、しきりにカメラと実物への視線を行き来させている。
勇の言った事がどういう意味か、言わずともわかる事だったのだ。
そう……ア・リーヴェの姿は彼等の目には映っているが、カメラには映っていないのだ。
そして当然声も、である。
「今のア・リーヴェは精神物質で構成されていて、心でしか見る事も聞く事も出来ません。 だから機械を通すと、途端に存在が抜け落ちてしまうんです」
これが世界に一斉に伝える事の出来ない要因。
いざ彼女の話す姿を撮ろうものなら、傍聴人や勇が静かに佇んでいる様にしか見えない。
カメラで撮ろうにも姿や声が録れないので存在を証明出来ないのである。
「今、精神物質と言いましたが、精神と物質は相反する物なのでは?」
そんな中、福留が堪らず質問の声を上げる。
きっと勇はその質問も想定していたのだろう……そっと頷き、ア・リーヴェを見ていた顔を正面へと向けた。
「厳密に言うと、俺の言う『精神』は人類がまだ認識出来ない領域の物体という意味です。 実際にそれは有るけど認識出来ないから無いと思っている、物理現象の外にあると思い込んでいるに過ぎません。 しかしいつか科学技術が発達すればその領域もいずれ見えるようになり、物理法則の一つに加わるかもしれないですね」
例えば、現実世界が四次元で構成された世界だという話がある。
縦・横・奥行、そして時間……そういった概念のある世界が今の世界なのだと。
だがこの世界を四次元と決めつける事は決して出来ない。
何故なら、その四次元と定義したのは他ならぬ人間そのものだから。
人間だけが認識出来る次元を数え加えただけに過ぎないのだ。
もしかしたら人間の知らない次元領域がこの世界にはまだいくつもあるかもしれない。
そうも考えれば、この世界が五次元か、六次元か十次元か。
しかし人類はまだそれを証明する事は出来ないのである。
勇が見せたのは人類が本来見る事の出来ない次元の姿。
それを天力によって可視化させたに過ぎない。
「電話が命力を乗せた声を通さないのと同じだと思ってください。 機械じゃどうしても心を送るには限度がありますからね」
そうも言われれば理解出来る人間も少なくはない。
この場に居る関係者で命力に関する欠点を知る者が大半だからだ。
「話が逸れました。 それじゃ、頼むよア・リーヴェ。 世界の真実を君自身から話してほしい」
『わかりました』
勇は最初からこのつもりだった。
難しくて話せないというのは内一つの理由に過ぎなかったのだろう。
ただ彼女の方がよく知り、よく考え、より語りたいと願う想いが強かったから。
そして彼女もまた勇の想いに応え、その声を上げる。
彼女の口から語られるのは世界の発端。
そこから始まった世界は……その場に居合わせた人々をただ驚愕させる他無かった。
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