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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~恐怖、貪り~
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それはほんの一瞬の出来事だった。
見つかってから一分にも満たない攻防劇。
たったそれだけの間に、追跡の男は小野崎紫織によって命を奪われたのだ。
直後、男の仲間であろう者達がこぞって銃を構えながら駆け出していた。
その数、六人ほど。
それだけの人数が市民に紛して彼女を監視していたのである。
周囲の無関係な人間も、突如行われた銃撃に驚き逃げ惑う。
幾多もの悲鳴を打ち上げながら。
突如として場を殺伐とした空気が包み込む。
遠くの喧騒が未だ聴こえる中で、男達が敵意を剥き出しにしながら紫織を睨みつけた。
「小野崎紫織ィ!! いや、アルトラン・ネメシスゥ!!」
「今ここで貴様を倒して世界を救ってやるッ!!」
男達が紫織を取り囲み、銃口を向ける。
雄々しく叫び散らし、威嚇するかの様に。
だが、そんな彼等に紫織が向けていたのはあろう事か―――光悦な笑みだった。
「アハ、アハハ……わかる、わかるわ。 憤怒、畏怖……手に取る様にィ……!」
これらの感情はアルトラン・ネメシスにとってこれ以上に無い糧。
それがこうも向けられれば喜ばずにはいられなかった。
周囲で逃げ惑う市民達にも負けぬ程に、目の前の男達からもその感情が流れ込んでいたのだから。
畏れない訳など無かったのだ。
小野崎紫織という存在が見せた行動が余りにも不気味で、不可解で。
異質さをありありと見せつける彼女を前に、訓練された彼等にさえもその心の奥底に怯えを呼び起こさせていたのである。
「いい……いいわぁ。 もっともっと恐怖……して?」
「ふ、ふざけるなあッ!!」
男達の銃を構える腕に一層の力が籠る。
相手が人型であろうとも、もはや躊躇いは無い。
紫織を前に加減など不要だったのだ。
相手は人外で、世界の敵。
例え周囲の人々に危害が及ぼうとも、こうなった以上は止めねばならない。
その覚悟が彼等の一人が掴む銃の引き金を激しく引かせていた。
ドォンッ!!
再び銃声が響き、銃弾が放たれる。
一直線に、紫織の脳天へと向けて。
だがその時、突如として大きな影が彼女の前を覆い隠した。
ビスッ―――!
そして撃ち放たれた弾丸はその影の中へと突き刺さり、塞き止められる。
しかし、銃弾が塞き止められるよりも何よりも、男達は別の事にただただ驚愕する他無かった。
紫織の前に立ったのは、先程殺されたはずの追跡役の男だったのだから。
しかも銃弾を撃ち込まれたのにも拘らず、痛がる素振りすら見せぬまま。
腕をだらりと降ろしたまま、その場に立ち尽くすのみ。
「バ、バカな、お前どうして……」
かろうじて生きていたのだろうか。
気絶していただけなのだろうか。
それにしても銃弾を打ち抜かれても動じないのは何故なのか。
疑問は尽きない。
それでも男達が掛けようとしていた声が止まる。
まるで紫織を守る様に立ち上がったその身が、彼女同様に異様さを醸し出していたから。
この疑念をぶつけるのもおこがましい程に、気色悪さが前面に押し出ていたのだ。
そんな中、リーダーと思しき人物が睨みを利かす。
その顔に浮かぶのは決意の瞳。
目の前で起きた事よりも何よりも目的を優先させんとする、鉄の意思だった。
「構うな、撃て」
「で、ですが彼は―――」
「撃てェーーーーーーー!!!!」
ズドォンッ!!
間髪入れず銃声が鳴り響く。
だがそれは男達の放った銃弾では無い。
その時弾痕が刻まれたのは―――リーダー格の男の額。
なんとその銃弾を討ち放ったのは誰でもない、死んだはずの追跡役の男だったのだ。
リーダー格の男が弾丸に撃ち抜かれて背後へ吹き飛んでいく。
周囲に赤黒い体液を撒き散らしながら。
「何ぃ!?」
あろう事か、追跡役の男が味方であるはずの者を撃った。
この事実が他の仲間達にまで動揺を呼び込む。
唖然としてしまう程に強く激しいまでの動揺を。
「クッ!! 撃て、撃つんだッ!!」
怯む訳にはいかない。
そんな想いが一人の男にそう声を上げさせていたのだ。
その瞬間、凄まじい銃声の嵐がその場に響き渡った。
四方からの一斉攻撃。
普通の人間ならばたちまち蜂の巣と化すであろう所業である。
しかし、残念ながら相手は人間ではない。
常識に囚われた彼等の末路は……もう既に決まっていたのかもしれない。
幾多もの銃弾が敵目掛けて飛ぶ。
それを紫織が舞いながら躱し。
その最中で追跡役が銃弾に晒されながらも発砲し返す。
それはまるで高度な演劇のよう。
その場で起きた出来事のいずれもが多様な情報を見せつけていて。
全てが悲劇を鮮やかに彩る。
あっという間の出来事だった。
あっという間に―――男達は皆、額を撃ち抜かれて即死していた。
それは全て追跡役の男が正確に、確実に撃ち込んだ結果である。
その動きはまるで精密機械。
無駄の無い動き、寸分違わぬ目標への狙い、次点への切り替え……全てがスムーズに。
体を一回転させながら撃ち込み、一発も漏らす事無く撃ち込んだのである。
「フフ……脆い、脆過ぎる。 アッハハ……!!」
男達の遺体が無残に転がる中、無人となったその場に紫織の高笑いが響き渡る。
当然の如く、紫織の体には一発たりとも命中してはいない。
追跡役の男も、何発かの銃弾を受けたのにも拘らず微動だにもせず立ったままだ。
「帰りましょう……明日も学校が……あるのだから」
途端に高笑いが収まり、紫織がそれらしい一言を呟きながら踵を返す。
追跡役の男もまた同様に、彼女の後に付いて歩き始めていた。
男の首裏に浮かぶのは、紫色に変色した傷跡。
その表皮だけがうぞうぞと歪む様にして絶え間なく動く。
まるでそこだけが生きているかの様に。
その目は先程と変わらず、白目を剥いたまま。
そう、男の体そのものはまだ生きている。
心だけが死んだのだ。
首裏を貫いた時、彼の意思を消し飛ばしたのである。
彼の神経へアルトラン・ネメシスの黒い意思を流し込む事によって。
紫織の意思のままに、道具として、自由に動かす事の出来る肉塊にする為に。
一人の人影が遠くのビル屋上から、紫織が去っていく姿を双眼鏡で眺め見る。
たった今起きた惨劇を前に、無念に表情を歪ませながら。
彼女に向けられた視線をも外して。
彼の名は大迫令士。
唯一勇達と面識のある【影】の一員だ。
「あれだけ念を押していたのにな。 だがこれ程までに人知を超えているか、アルトラン・ネメシスは……」
勇達を最も近くから見ていた者として、良識を持っているつもりだった。
だがその知識も今の事態を見ただけで簡単に覆されて。
自分達の範疇を遥かに超えた存在を前に、諦めすら思い浮かぶ程。
彼が視線を下げたのは、意思を向けるだけで存在を察知される事に感づいたからだ。
「小野崎紫織に気付かれれば一瞬にして目の前に現れるかもしれない」
そんな想像すら容易に思い付く程に、彼女の存在は恐怖に溢れていたのだ。
いや、もしかしたらもう気付いているのかもしれない。
そうも思えば、手に震えを呼ぶのもいざ仕方のない事なのだろう。
「……J班に通達。 G班の追跡は失敗、存在を察知された。 作戦を第三に移して実行せよ、以上」
声も僅かに震えを乗せるが、それは恐怖からではなかった。
こうなってしまった以上はもう後戻りは出来ない。
その決意から生まれた―――覚悟の震え。
大迫令士が空を見上げ、恐怖に震えた拳を握り締める。
決意を胸に、想いを乗せて。
まだこの時、日本の片隅で起きた小さな戦いを……勇達が知る事はまだ無かった。
見つかってから一分にも満たない攻防劇。
たったそれだけの間に、追跡の男は小野崎紫織によって命を奪われたのだ。
直後、男の仲間であろう者達がこぞって銃を構えながら駆け出していた。
その数、六人ほど。
それだけの人数が市民に紛して彼女を監視していたのである。
周囲の無関係な人間も、突如行われた銃撃に驚き逃げ惑う。
幾多もの悲鳴を打ち上げながら。
突如として場を殺伐とした空気が包み込む。
遠くの喧騒が未だ聴こえる中で、男達が敵意を剥き出しにしながら紫織を睨みつけた。
「小野崎紫織ィ!! いや、アルトラン・ネメシスゥ!!」
「今ここで貴様を倒して世界を救ってやるッ!!」
男達が紫織を取り囲み、銃口を向ける。
雄々しく叫び散らし、威嚇するかの様に。
だが、そんな彼等に紫織が向けていたのはあろう事か―――光悦な笑みだった。
「アハ、アハハ……わかる、わかるわ。 憤怒、畏怖……手に取る様にィ……!」
これらの感情はアルトラン・ネメシスにとってこれ以上に無い糧。
それがこうも向けられれば喜ばずにはいられなかった。
周囲で逃げ惑う市民達にも負けぬ程に、目の前の男達からもその感情が流れ込んでいたのだから。
畏れない訳など無かったのだ。
小野崎紫織という存在が見せた行動が余りにも不気味で、不可解で。
異質さをありありと見せつける彼女を前に、訓練された彼等にさえもその心の奥底に怯えを呼び起こさせていたのである。
「いい……いいわぁ。 もっともっと恐怖……して?」
「ふ、ふざけるなあッ!!」
男達の銃を構える腕に一層の力が籠る。
相手が人型であろうとも、もはや躊躇いは無い。
紫織を前に加減など不要だったのだ。
相手は人外で、世界の敵。
例え周囲の人々に危害が及ぼうとも、こうなった以上は止めねばならない。
その覚悟が彼等の一人が掴む銃の引き金を激しく引かせていた。
ドォンッ!!
再び銃声が響き、銃弾が放たれる。
一直線に、紫織の脳天へと向けて。
だがその時、突如として大きな影が彼女の前を覆い隠した。
ビスッ―――!
そして撃ち放たれた弾丸はその影の中へと突き刺さり、塞き止められる。
しかし、銃弾が塞き止められるよりも何よりも、男達は別の事にただただ驚愕する他無かった。
紫織の前に立ったのは、先程殺されたはずの追跡役の男だったのだから。
しかも銃弾を撃ち込まれたのにも拘らず、痛がる素振りすら見せぬまま。
腕をだらりと降ろしたまま、その場に立ち尽くすのみ。
「バ、バカな、お前どうして……」
かろうじて生きていたのだろうか。
気絶していただけなのだろうか。
それにしても銃弾を打ち抜かれても動じないのは何故なのか。
疑問は尽きない。
それでも男達が掛けようとしていた声が止まる。
まるで紫織を守る様に立ち上がったその身が、彼女同様に異様さを醸し出していたから。
この疑念をぶつけるのもおこがましい程に、気色悪さが前面に押し出ていたのだ。
そんな中、リーダーと思しき人物が睨みを利かす。
その顔に浮かぶのは決意の瞳。
目の前で起きた事よりも何よりも目的を優先させんとする、鉄の意思だった。
「構うな、撃て」
「で、ですが彼は―――」
「撃てェーーーーーーー!!!!」
ズドォンッ!!
間髪入れず銃声が鳴り響く。
だがそれは男達の放った銃弾では無い。
その時弾痕が刻まれたのは―――リーダー格の男の額。
なんとその銃弾を討ち放ったのは誰でもない、死んだはずの追跡役の男だったのだ。
リーダー格の男が弾丸に撃ち抜かれて背後へ吹き飛んでいく。
周囲に赤黒い体液を撒き散らしながら。
「何ぃ!?」
あろう事か、追跡役の男が味方であるはずの者を撃った。
この事実が他の仲間達にまで動揺を呼び込む。
唖然としてしまう程に強く激しいまでの動揺を。
「クッ!! 撃て、撃つんだッ!!」
怯む訳にはいかない。
そんな想いが一人の男にそう声を上げさせていたのだ。
その瞬間、凄まじい銃声の嵐がその場に響き渡った。
四方からの一斉攻撃。
普通の人間ならばたちまち蜂の巣と化すであろう所業である。
しかし、残念ながら相手は人間ではない。
常識に囚われた彼等の末路は……もう既に決まっていたのかもしれない。
幾多もの銃弾が敵目掛けて飛ぶ。
それを紫織が舞いながら躱し。
その最中で追跡役が銃弾に晒されながらも発砲し返す。
それはまるで高度な演劇のよう。
その場で起きた出来事のいずれもが多様な情報を見せつけていて。
全てが悲劇を鮮やかに彩る。
あっという間の出来事だった。
あっという間に―――男達は皆、額を撃ち抜かれて即死していた。
それは全て追跡役の男が正確に、確実に撃ち込んだ結果である。
その動きはまるで精密機械。
無駄の無い動き、寸分違わぬ目標への狙い、次点への切り替え……全てがスムーズに。
体を一回転させながら撃ち込み、一発も漏らす事無く撃ち込んだのである。
「フフ……脆い、脆過ぎる。 アッハハ……!!」
男達の遺体が無残に転がる中、無人となったその場に紫織の高笑いが響き渡る。
当然の如く、紫織の体には一発たりとも命中してはいない。
追跡役の男も、何発かの銃弾を受けたのにも拘らず微動だにもせず立ったままだ。
「帰りましょう……明日も学校が……あるのだから」
途端に高笑いが収まり、紫織がそれらしい一言を呟きながら踵を返す。
追跡役の男もまた同様に、彼女の後に付いて歩き始めていた。
男の首裏に浮かぶのは、紫色に変色した傷跡。
その表皮だけがうぞうぞと歪む様にして絶え間なく動く。
まるでそこだけが生きているかの様に。
その目は先程と変わらず、白目を剥いたまま。
そう、男の体そのものはまだ生きている。
心だけが死んだのだ。
首裏を貫いた時、彼の意思を消し飛ばしたのである。
彼の神経へアルトラン・ネメシスの黒い意思を流し込む事によって。
紫織の意思のままに、道具として、自由に動かす事の出来る肉塊にする為に。
一人の人影が遠くのビル屋上から、紫織が去っていく姿を双眼鏡で眺め見る。
たった今起きた惨劇を前に、無念に表情を歪ませながら。
彼女に向けられた視線をも外して。
彼の名は大迫令士。
唯一勇達と面識のある【影】の一員だ。
「あれだけ念を押していたのにな。 だがこれ程までに人知を超えているか、アルトラン・ネメシスは……」
勇達を最も近くから見ていた者として、良識を持っているつもりだった。
だがその知識も今の事態を見ただけで簡単に覆されて。
自分達の範疇を遥かに超えた存在を前に、諦めすら思い浮かぶ程。
彼が視線を下げたのは、意思を向けるだけで存在を察知される事に感づいたからだ。
「小野崎紫織に気付かれれば一瞬にして目の前に現れるかもしれない」
そんな想像すら容易に思い付く程に、彼女の存在は恐怖に溢れていたのだ。
いや、もしかしたらもう気付いているのかもしれない。
そうも思えば、手に震えを呼ぶのもいざ仕方のない事なのだろう。
「……J班に通達。 G班の追跡は失敗、存在を察知された。 作戦を第三に移して実行せよ、以上」
声も僅かに震えを乗せるが、それは恐怖からではなかった。
こうなってしまった以上はもう後戻りは出来ない。
その決意から生まれた―――覚悟の震え。
大迫令士が空を見上げ、恐怖に震えた拳を握り締める。
決意を胸に、想いを乗せて。
まだこの時、日本の片隅で起きた小さな戦いを……勇達が知る事はまだ無かった。
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※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
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