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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~開戦、動す~
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開戦日の正午0:00。
遂に訪れるべき時がやってきた。
全面戦争と言う割には……砲弾一つ飛ばぬ、とても静かな始まり。
しかし突如として状況が大きな変化を迎える。
アメリカ軍艦隊が緊張を見せる中で、アルクトゥーンが動きを見せたのだ。
「対象が移動を開始!! 現在東に向けて後退中!!」
「後退だと……? 何を考えている!?」
最前線の駆逐艦の中で軍人達が声を唸らせる。
勇達の意図を読み取らんと、周囲の状況を確認しながら。
「指令本部より通達、攻撃開始の指示あり!!」
「よし、本艦はこれより敵勢力に向けて攻撃を開始する!!奴等を逃がすな!!」
その通達は全艦へと伝えられたもの。
間も無く、その駆逐艦のみならず周囲を固めるありとあらゆる戦艦が、アルクトゥーンを追う様に慌ただしい動きを見せ始めた。
そう、遂に戦争の始まりである。
アルクトゥーンもまた移動開始に続いて大きな動向を見せ始める。
後部から飛翔体が一つ、光の筋を伴いながら射出されたのだ。
飛翔体はその後も巨大な艦体を迂回する様に動き、光の軌跡を描いていく。
また、前面底部からも同時に動きを見せていた。
微かな日の光に当てられて輝く何かが海に目掛けて投下されたのである。
それは間も無く海へと消えたが。
そしてアルクトゥーンそのものもまた移動に変化を帯びる。
後退しつつ上昇も始めたのだ。
その進路にあるのは―――巨大な積乱雲。
「まさか雲に隠れてこの場をやり過ごすつもりか……追え、逃がすな!!」
この事実に気付いた時、艦長と思しき人物が声を荒げ。
操舵士達が指示に従って航行を開始する。
もし雲に埋まってしまえば、海上の艦隊はアルクトゥーンを視覚的に見失ってしまう事となるのだから。
既に他の戦艦も前進を開始。
陣形を崩さぬよう全ての艦が足並みを揃えてアルクトゥーンを追う。
艦載兵器の射程に収める為に。
その間にも空母から幾つものの飛翔体が空へと舞い上がっていく。
アメリカ軍が誇る最新技術の塊、戦闘機である。
最新鋭の戦闘機から大型攻撃ヘリ、果ては退役間近の旧式戦闘機までもが出撃し。
気付けば無数の航空戦力が空を埋め尽くす程に。
深い曇り空を黒く染め上げんばかりの量は、アメリカ軍の物量の凄まじさを証明するが如く。
すると、たちまち戦艦からも凄まじい爆風が打ち上がる。
とうとうアルクトゥーンが彼等の射程圏内へと入ったのだ。
激しい爆音を掻き鳴らし、対空ミサイルが次々と空へと向けて撃ち放たれていく。
そして戦場が一面、赤の逆雨によって覆い尽くされた。
まさにそれは空に向かう赤き雨の如く。
連装ミサイルの嵐が無数の艦隊から撃ち放たれたのである。
その数はもはや計り知れない。
間も無く遥か空の彼方、アルクトゥーンの胸元で爆発の光が幾つも巻き起こる。
撃ち放たれた弾頭が着弾したのだ。
とはいえ動きが止まらない辺り、まだ決定打とは言えないのだろう。
「対空ミサイル着弾を確認!!」
「よし!! 前進を継続、ロックオンを維持!! 一発たりとも外すなよ!!」
手応えを感じた軍人達が声を上げ、ミサイル発射を継続させる。
間も無く装填を果たした弾頭が炎の尾を引いて再び空へと舞い上がり、目標へと向けて真っ直ぐ飛んでいった。
戦いが始まった以上、勝敗が期さない限り彼等から攻撃を止める事はもう無いだろう。
◇◇◇
弾頭の嵐がアルクトゥーンへと到達し、表層部を爆風が包み込む。
今はまだ命力フィールドによって艦体の損傷は警備だ。
しかしこれが続けば当然エネルギーは尽きる事になるだろう。
その結果待つのは彼等の敗北、彼等の戦いの終わり。
そうならない為にも―――彼女達が居るのだ。
「正直、この物量洒落にならないと思うんだけどッ!!」
そう文句を言いながらも【カッデレータ】から矢弾を撃ち放ち、空に一閃を刻み込む。
矢弾は間も無く光を放って無数に分裂し。
一瞬にして空に列を成した軌道を描き出す。
アルクトゥーン前方へと突き抜けながら。
そして接近するミサイル群を次々と貫いていった。
まるでその姿はアルクトゥーンを守る盾を形成するかの如く。
空に描かれた様子はまさにそのもの言わんばかりに、無数の光跡が刻み込まれていたのだから。
しかしそれですらもまだ足りはしない。
矢弾の隙間をすり抜け、後続のミサイルの数発が旗艦を襲い掛かる。
ドゴォーーーンッ!!!
再びアルクトゥーン表層部に爆発が巻き起こり。
その様子を目の当たりにした瀬玲から堪らず舌打ちが飛ぶ。
「これを防ぎきるってさあッ!!」
それでも彼女は怯まない。
ただただ全力を尽くす為にその腕を引き絞るのみ。
瀬玲とナターシャの第二部隊の役割は航空戦力への対抗。
ミサイル攻撃からの防御と、戦闘機等による攻撃の阻止。
たった一人で無数の攻撃を防ぐという、無謀とも言える作戦だ。
それでも瀬玲とナターシャはやりきってみせると頷いて見せた。
自信があった訳ではない。
それだけの力を持っていると思っている訳でもない。
ただ自分がどこまで戦えるかわからないからこそ……全力で挑戦する事を決めたのだ。
そしてそれが成せるであろう力を預かったから、今彼女達は大空を舞う。
ナターシャが身に纏うのは【浮導オゥレーペ】の強化仕様。
瀬玲を下げて戦う事を考慮し、常にうつ伏せ状態になれる様に調整を施した物だ。
おまけに瀬玲を乗せる為の【鳥籠】を接続する金具も備えられている。
推進力は当然【エスカルオール・アルイェン】だ。
しかし魔装に手が加えられ、瀬玲の持つ弾倉と同じ仕組みを持った補助命力システムが推進力に使う命力を肩代わりしてくれるというもの。
長時間連続航行を目的とした、完全サポート仕様となっていた。
瀬玲も一風変わった仕様へと切り替わっている。
【カッデレータ】をメインとする所は変わりないが、大きな変化を見せたのは換装機構だ。
元々この魔剣は弾倉を交換する事で自身の命力を使わずに無数の矢弾を続けて放てる様にしていた。
しかし今回彼女が備えるのは、言わば「バッテリー仕様」。
換装部には少し形状の変わった弾倉が備えられ、そこからケーブルが伸びていて。
それが彼女の纏うコート型の追加魔装へと伸び、下半身を覆う裾の内側へと繋がっている。
その先に有るのは―――合計三十個の追加弾倉。
今までは精々十個が限度で、それ以上撃つ事も無ければただの重しにしかならなかった。
でも今回、それでは心もとないと急遽増産し、こうして全てを繋げたのである。
素早く動く場面ならば邪魔にしかならない装備だが、今回は移動をナターシャに預けているからこそ実現出来たと言えるだろう。
そしてその瀬玲が乗るのは【鳥籠】。
ナターシャがぶら下げる様に備え付けられた金属枠だ。
それに瀬玲の体を伸縮性のある紐で結び付ける事で、射撃をしながら乗る事が出来る様になるという代物。
すなわちこれらの仕様は二人で一つという事。
この戦いに向けて構築された、完全局地仕様なのである。
「埒が明かない!! ナッティ、アルクトゥーンの前に行って!!」
「わかたッ!!」
なお続くミサイルの嵐に恐れる事無く、二人が揃って突撃していく。
迫りくる敵意に向けて瀬玲が矢を撃ち放ちながら。
アルクトゥーンの前方へと躍り出た瀬玲達がミサイルを真っ向から迎え撃つ為に。
【カッデレータ】の矢弾は言う程精密なコントロールが出来ない。
魔剣が生成した矢弾そのものの練度が低く、全てに意思が乗りきらないからだ。
それはつまり、矢弾が無数に分かれれば分かれる程コントロールは非常に雑となってしまうという事。
矢弾の形状を変化させる特質を持たせた事で犠牲となった欠点なのである。
だから例え使用者が相手を捉えられても、矢弾の反応速度が伴わずに当てられない事が多い。
相手との相対速度があるのならなおさらだ。
その条件に加えて〝立ち位置〟もまた射撃には重要な要素となる。
見る位置によっては相手の位置や速度が掴みにくくなってしまうからだ。
相手との距離があればその分だけ精度は格段に落ちていく。
対人対決ならいざ知らず、今回の相手は超高速で機動する無数のミサイル。
常人では捉えるどころか反応する事さえ困難な相手なのだから。
魔剣のコントロール能力と距離感。
この二つが足を引っ張る今、瀬玲がこのままのスタンスで対処しきるのは無理に等しい。
例え自慢の『鷹の眼』があろうとも、それを補えない不利が彼女を取り巻いているのである。
だから瀬玲は正面に出る事を望んだのだ。
進行方向の前に立てば優位性が大きく変わるのだから。
なんと瀬玲はミサイルを正面から強引に迎え撃つ事にしたのである。
ミサイルは広域から離れて撃たれていても、アルクトゥーンを狙って集中していく。
ならばと正面に立ってしまえば全て引き受ける事が可能という訳だ。
こうなれば距離も操作能力も関係無い。
正面から来る物全てを押し返せばいいだけなのだから。
無数のミサイルが迫りくる中、瀬玲が魔剣を持たない右拳を強く握り締め。
途端、撃ち放たれ続けていた矢弾が突如としてアルクトゥーン前方領域へと集まっていく。
「アアアァァァァァァッッッ!!! ブッ千切れて消えろおッッッ!!!」
そして瀬玲達の正面を強い光が包み込んだ。
この時、彼女達の前に姿を現したのは―――巨大な光の〝網〟。
【幻光閃光陣】もう一つの可能性の形である。
これこそ今彼女が思い付く最大の防御。
ミサイルの進路に光を繋げ、全てを断つ為の。
これは壁では無い。
全てが攻撃意思の残滓。
鉄の塊すら引き裂く事が出来る―――刃の網。
一本一本は糸の様に細く仕立てられたもの。
だがその靭性は非常に強力かつ不動。
瀬玲の命力によって全てコントロールされた、物理現象に左右されない力の塊なのである。
この光の網の前に、現代兵器はもはや無力。
次々とミサイルが飛び込み、無残な姿に成り果てて残骸を散らせていく。
爆発一つ起こす事無く。
全てがバラバラに斬り裂かれたのだ。
まるでそれは魚籠に掛かった魚の如く。
全てが裂かれ、屑と化す。
「んんッ……アアッッッ!!!」
そんな情勢を前に、瀬玲が更なる一手を掛ける。
握り込んだ右拳に力を籠め、空を殴る様に振り抜いたのだ。
するとどうだろう、突如として網が動き始め―――
なんと前進を始めたのである。
なお魚群を飲み込み続けながら。
「まだ終わりじゃない! 続いていくよ!!」
「うんッ!!」
今撃ち放たれたミサイルはこれでほぼ全壊。
だが瀬玲の言う通り、アメリカ軍の攻撃が全て終わった訳ではない。
その時彼女達の眼に見えるのはミサイルとは違う別の物。
戦闘機の群れである。
彼等はミサイルとは違う。
個々が意思を持った攻撃兵器。
先程の瀬玲の広域攻撃が通用しない相手なのだ。
瀬玲達の空中戦はまだ始まったばかり。
これはまだアメリカ軍にとっても序の口に過ぎない。
強い閃光が幾度と無く瞬く中で、彼女達の雄叫びが戦場を貫く。
未だ混迷が先を覆い尽くす戦場は……なお激しさを増すばかりであった。
遂に訪れるべき時がやってきた。
全面戦争と言う割には……砲弾一つ飛ばぬ、とても静かな始まり。
しかし突如として状況が大きな変化を迎える。
アメリカ軍艦隊が緊張を見せる中で、アルクトゥーンが動きを見せたのだ。
「対象が移動を開始!! 現在東に向けて後退中!!」
「後退だと……? 何を考えている!?」
最前線の駆逐艦の中で軍人達が声を唸らせる。
勇達の意図を読み取らんと、周囲の状況を確認しながら。
「指令本部より通達、攻撃開始の指示あり!!」
「よし、本艦はこれより敵勢力に向けて攻撃を開始する!!奴等を逃がすな!!」
その通達は全艦へと伝えられたもの。
間も無く、その駆逐艦のみならず周囲を固めるありとあらゆる戦艦が、アルクトゥーンを追う様に慌ただしい動きを見せ始めた。
そう、遂に戦争の始まりである。
アルクトゥーンもまた移動開始に続いて大きな動向を見せ始める。
後部から飛翔体が一つ、光の筋を伴いながら射出されたのだ。
飛翔体はその後も巨大な艦体を迂回する様に動き、光の軌跡を描いていく。
また、前面底部からも同時に動きを見せていた。
微かな日の光に当てられて輝く何かが海に目掛けて投下されたのである。
それは間も無く海へと消えたが。
そしてアルクトゥーンそのものもまた移動に変化を帯びる。
後退しつつ上昇も始めたのだ。
その進路にあるのは―――巨大な積乱雲。
「まさか雲に隠れてこの場をやり過ごすつもりか……追え、逃がすな!!」
この事実に気付いた時、艦長と思しき人物が声を荒げ。
操舵士達が指示に従って航行を開始する。
もし雲に埋まってしまえば、海上の艦隊はアルクトゥーンを視覚的に見失ってしまう事となるのだから。
既に他の戦艦も前進を開始。
陣形を崩さぬよう全ての艦が足並みを揃えてアルクトゥーンを追う。
艦載兵器の射程に収める為に。
その間にも空母から幾つものの飛翔体が空へと舞い上がっていく。
アメリカ軍が誇る最新技術の塊、戦闘機である。
最新鋭の戦闘機から大型攻撃ヘリ、果ては退役間近の旧式戦闘機までもが出撃し。
気付けば無数の航空戦力が空を埋め尽くす程に。
深い曇り空を黒く染め上げんばかりの量は、アメリカ軍の物量の凄まじさを証明するが如く。
すると、たちまち戦艦からも凄まじい爆風が打ち上がる。
とうとうアルクトゥーンが彼等の射程圏内へと入ったのだ。
激しい爆音を掻き鳴らし、対空ミサイルが次々と空へと向けて撃ち放たれていく。
そして戦場が一面、赤の逆雨によって覆い尽くされた。
まさにそれは空に向かう赤き雨の如く。
連装ミサイルの嵐が無数の艦隊から撃ち放たれたのである。
その数はもはや計り知れない。
間も無く遥か空の彼方、アルクトゥーンの胸元で爆発の光が幾つも巻き起こる。
撃ち放たれた弾頭が着弾したのだ。
とはいえ動きが止まらない辺り、まだ決定打とは言えないのだろう。
「対空ミサイル着弾を確認!!」
「よし!! 前進を継続、ロックオンを維持!! 一発たりとも外すなよ!!」
手応えを感じた軍人達が声を上げ、ミサイル発射を継続させる。
間も無く装填を果たした弾頭が炎の尾を引いて再び空へと舞い上がり、目標へと向けて真っ直ぐ飛んでいった。
戦いが始まった以上、勝敗が期さない限り彼等から攻撃を止める事はもう無いだろう。
◇◇◇
弾頭の嵐がアルクトゥーンへと到達し、表層部を爆風が包み込む。
今はまだ命力フィールドによって艦体の損傷は警備だ。
しかしこれが続けば当然エネルギーは尽きる事になるだろう。
その結果待つのは彼等の敗北、彼等の戦いの終わり。
そうならない為にも―――彼女達が居るのだ。
「正直、この物量洒落にならないと思うんだけどッ!!」
そう文句を言いながらも【カッデレータ】から矢弾を撃ち放ち、空に一閃を刻み込む。
矢弾は間も無く光を放って無数に分裂し。
一瞬にして空に列を成した軌道を描き出す。
アルクトゥーン前方へと突き抜けながら。
そして接近するミサイル群を次々と貫いていった。
まるでその姿はアルクトゥーンを守る盾を形成するかの如く。
空に描かれた様子はまさにそのもの言わんばかりに、無数の光跡が刻み込まれていたのだから。
しかしそれですらもまだ足りはしない。
矢弾の隙間をすり抜け、後続のミサイルの数発が旗艦を襲い掛かる。
ドゴォーーーンッ!!!
再びアルクトゥーン表層部に爆発が巻き起こり。
その様子を目の当たりにした瀬玲から堪らず舌打ちが飛ぶ。
「これを防ぎきるってさあッ!!」
それでも彼女は怯まない。
ただただ全力を尽くす為にその腕を引き絞るのみ。
瀬玲とナターシャの第二部隊の役割は航空戦力への対抗。
ミサイル攻撃からの防御と、戦闘機等による攻撃の阻止。
たった一人で無数の攻撃を防ぐという、無謀とも言える作戦だ。
それでも瀬玲とナターシャはやりきってみせると頷いて見せた。
自信があった訳ではない。
それだけの力を持っていると思っている訳でもない。
ただ自分がどこまで戦えるかわからないからこそ……全力で挑戦する事を決めたのだ。
そしてそれが成せるであろう力を預かったから、今彼女達は大空を舞う。
ナターシャが身に纏うのは【浮導オゥレーペ】の強化仕様。
瀬玲を下げて戦う事を考慮し、常にうつ伏せ状態になれる様に調整を施した物だ。
おまけに瀬玲を乗せる為の【鳥籠】を接続する金具も備えられている。
推進力は当然【エスカルオール・アルイェン】だ。
しかし魔装に手が加えられ、瀬玲の持つ弾倉と同じ仕組みを持った補助命力システムが推進力に使う命力を肩代わりしてくれるというもの。
長時間連続航行を目的とした、完全サポート仕様となっていた。
瀬玲も一風変わった仕様へと切り替わっている。
【カッデレータ】をメインとする所は変わりないが、大きな変化を見せたのは換装機構だ。
元々この魔剣は弾倉を交換する事で自身の命力を使わずに無数の矢弾を続けて放てる様にしていた。
しかし今回彼女が備えるのは、言わば「バッテリー仕様」。
換装部には少し形状の変わった弾倉が備えられ、そこからケーブルが伸びていて。
それが彼女の纏うコート型の追加魔装へと伸び、下半身を覆う裾の内側へと繋がっている。
その先に有るのは―――合計三十個の追加弾倉。
今までは精々十個が限度で、それ以上撃つ事も無ければただの重しにしかならなかった。
でも今回、それでは心もとないと急遽増産し、こうして全てを繋げたのである。
素早く動く場面ならば邪魔にしかならない装備だが、今回は移動をナターシャに預けているからこそ実現出来たと言えるだろう。
そしてその瀬玲が乗るのは【鳥籠】。
ナターシャがぶら下げる様に備え付けられた金属枠だ。
それに瀬玲の体を伸縮性のある紐で結び付ける事で、射撃をしながら乗る事が出来る様になるという代物。
すなわちこれらの仕様は二人で一つという事。
この戦いに向けて構築された、完全局地仕様なのである。
「埒が明かない!! ナッティ、アルクトゥーンの前に行って!!」
「わかたッ!!」
なお続くミサイルの嵐に恐れる事無く、二人が揃って突撃していく。
迫りくる敵意に向けて瀬玲が矢を撃ち放ちながら。
アルクトゥーンの前方へと躍り出た瀬玲達がミサイルを真っ向から迎え撃つ為に。
【カッデレータ】の矢弾は言う程精密なコントロールが出来ない。
魔剣が生成した矢弾そのものの練度が低く、全てに意思が乗りきらないからだ。
それはつまり、矢弾が無数に分かれれば分かれる程コントロールは非常に雑となってしまうという事。
矢弾の形状を変化させる特質を持たせた事で犠牲となった欠点なのである。
だから例え使用者が相手を捉えられても、矢弾の反応速度が伴わずに当てられない事が多い。
相手との相対速度があるのならなおさらだ。
その条件に加えて〝立ち位置〟もまた射撃には重要な要素となる。
見る位置によっては相手の位置や速度が掴みにくくなってしまうからだ。
相手との距離があればその分だけ精度は格段に落ちていく。
対人対決ならいざ知らず、今回の相手は超高速で機動する無数のミサイル。
常人では捉えるどころか反応する事さえ困難な相手なのだから。
魔剣のコントロール能力と距離感。
この二つが足を引っ張る今、瀬玲がこのままのスタンスで対処しきるのは無理に等しい。
例え自慢の『鷹の眼』があろうとも、それを補えない不利が彼女を取り巻いているのである。
だから瀬玲は正面に出る事を望んだのだ。
進行方向の前に立てば優位性が大きく変わるのだから。
なんと瀬玲はミサイルを正面から強引に迎え撃つ事にしたのである。
ミサイルは広域から離れて撃たれていても、アルクトゥーンを狙って集中していく。
ならばと正面に立ってしまえば全て引き受ける事が可能という訳だ。
こうなれば距離も操作能力も関係無い。
正面から来る物全てを押し返せばいいだけなのだから。
無数のミサイルが迫りくる中、瀬玲が魔剣を持たない右拳を強く握り締め。
途端、撃ち放たれ続けていた矢弾が突如としてアルクトゥーン前方領域へと集まっていく。
「アアアァァァァァァッッッ!!! ブッ千切れて消えろおッッッ!!!」
そして瀬玲達の正面を強い光が包み込んだ。
この時、彼女達の前に姿を現したのは―――巨大な光の〝網〟。
【幻光閃光陣】もう一つの可能性の形である。
これこそ今彼女が思い付く最大の防御。
ミサイルの進路に光を繋げ、全てを断つ為の。
これは壁では無い。
全てが攻撃意思の残滓。
鉄の塊すら引き裂く事が出来る―――刃の網。
一本一本は糸の様に細く仕立てられたもの。
だがその靭性は非常に強力かつ不動。
瀬玲の命力によって全てコントロールされた、物理現象に左右されない力の塊なのである。
この光の網の前に、現代兵器はもはや無力。
次々とミサイルが飛び込み、無残な姿に成り果てて残骸を散らせていく。
爆発一つ起こす事無く。
全てがバラバラに斬り裂かれたのだ。
まるでそれは魚籠に掛かった魚の如く。
全てが裂かれ、屑と化す。
「んんッ……アアッッッ!!!」
そんな情勢を前に、瀬玲が更なる一手を掛ける。
握り込んだ右拳に力を籠め、空を殴る様に振り抜いたのだ。
するとどうだろう、突如として網が動き始め―――
なんと前進を始めたのである。
なお魚群を飲み込み続けながら。
「まだ終わりじゃない! 続いていくよ!!」
「うんッ!!」
今撃ち放たれたミサイルはこれでほぼ全壊。
だが瀬玲の言う通り、アメリカ軍の攻撃が全て終わった訳ではない。
その時彼女達の眼に見えるのはミサイルとは違う別の物。
戦闘機の群れである。
彼等はミサイルとは違う。
個々が意思を持った攻撃兵器。
先程の瀬玲の広域攻撃が通用しない相手なのだ。
瀬玲達の空中戦はまだ始まったばかり。
これはまだアメリカ軍にとっても序の口に過ぎない。
強い閃光が幾度と無く瞬く中で、彼女達の雄叫びが戦場を貫く。
未だ混迷が先を覆い尽くす戦場は……なお激しさを増すばかりであった。
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給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
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