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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~真相、表す~
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「ば、馬鹿な、そんな事が出来るなんて……!!」
「俺達はお前達が思う程、力馬鹿じゃない。 必要ならば頭を使う事だってあるさ」
多くの困難を乗り越え、勇が遂にエイミーと対峙する。
決して一人では辿り着けなかった。
仲間達の協力と、アルクトゥーンの隠れた機能が彼をこの場へ導いたのである。
もう、二人の間に障害は―――無い。
「私の読みは間ちち違いなかったハズなのに! 何故ぜぜ……!!」
勇を前にしたエイミーが顔を震わせ冷や汗を流す。
自分の読みは的中するはずだった。
間違いなくアルクトゥーンは核弾頭によって撃ち落されたはずだった。
その確信が見事に打ち破られ、もはや彼女の自信は跡形も無く崩れ去る。
そんな自問自答で唖然とするエイミーを前に、勇は何を思ったのか構えていた左腕をそっと降ろした。
「そうか、お前はまだ気付いていないんだな」
「気付いて、いない? な、何を……?」
すると勇がイシュライトとバロルフの横を通り過ぎ。
その場に居る誰しもが注目する中で、エイミーとの距離をゆっくりと詰めていく。
「この作戦を考えたのは俺じゃない。 この作戦はとある人物がこの国を救う為に考えた一手なんだ」
「まさか……まさかブライアンか!!」
一歩、また一歩と踏み出す度に、エイミーが狭い指令室内を後ずさる。
しかし間も無く壁が彼女を阻み、その動きを止めさせていて。
「いや違う。 かといってその側近でも無ければ、専門家でもない。 当然俺の仲間でも無いし、国連の人間でも無い」
「じゃ、じゃあ誰が、誰がこんな作戦を立てたっていうのッ!?」
その時、勇の歩みもその動きを止め。
僅かに開かせた両足で力強く踏み込む。
そして左腕がゆるりと持ち上がり。
人差し指を伸ばした拳が真っ直ぐと、その人物へと向けられた。
「この作戦を立案したのはエイミー、貴女だ!!」
それを聴いたエイミーが、ロドニーが、高官達が。
背後のイシュライトやバロルフ、ボディガードもがその耳を疑う。
自信のままに打ち上げられた、衝撃の事実を。
「いや、厳密に言えば、お前の中に潜む本物のエイミーがだ」
「本物の私ですって!? それは一体どういう―――!?」
そう言い掛けた途端、彼女の顔が強張りを見せる。
勇が再び、握り締めた左拳を光り輝かせて彼女へと向けたのだ。
「どうもこうもないさ。 俺は一度会ってるんだ、本物のエイミーにな。 そう、あの会合の時に」
――――――
――――
――
―
そう、それは勇とエイミーとの非公式会合の最中の出来事である。
突如として頭痛に見舞われたエイミーは薬を服用し、その身を椅子に預けながら目を閉じ。
勇の心配を他所に、たちまち二人の間に沈黙が訪れていた。
……はずだった。
「―――ユウ=フジサキ、いいですか、時間がありませんからよく聞いてください」
その時沈黙を途端に破ったのはエイミー。
とはいえ頭痛に苦しむ余り顔に充てた手はそのまま。
項垂れる様に椅子へともたれ掛かった姿は何一つ変わってはいない。
「うん? 何を言ってるんだエイミー」
「お願いします、私の意思がいつ途切れるか知れません。 だから逐一私に大丈夫かどうかを尋ね、私が『いいえ』を貫く限りの間だけ、表情も感情も変えぬまま私の言葉に耳を傾けて頂きたいのです」
その語りはとても流暢で、聞き取りやすく。
とても苦しんでいるとは思えぬ、しかし緊張感を含んだ一声で。
「どういう事だ……」
「質問は?」
「え、あ、だ、大丈夫か?」
「いいえ。 いいですか、私は私であって今の私ではありません。 今まで表層に現れていたのは、私の意思に寄生し、私そっくりに作り上げられた黒い意識なのです。 私はその黒い意識の所為でずっと心の奥底に閉じ込められ、彼女の思うがままにする所をずっと見る事しか出来ませんでした」
そうして語られたエイミーの告白は予想を遥かに超えていた。
勇が驚き固まってしまう程に。
それ程までに唐突だったのだから。
しかし驚く事ですら許さぬかの様に、彼女の饒舌がピタリと止まる。
まるで勇の返しを催促するかの様に。
「―――大丈夫か?」
「いいえ。 黒い意識が願う先は国の未来ではありません。 何もかもをも滅ぼさんとする邪悪な意思。 それが私を偽り、この国を巻き込もうとしています。 それが苦しくて堪らないのです。 でも、止めようとしても見えない壁が阻み、私に何もさせてはくれなかった……!」
彼女の感情が本物の人と同様に色鮮やかと変わり、唇に震えを呼び込む。
その無念と、悔しさが、滲み出るかの様に。
そんな感情を受け取った勇はその歯を食いしばらせながらも、ゆっくりと相槌を打つ。
「いいえ。 でも貴方が来た時、突然心が軽くなった気がして。 今なら出られると。 そう思って飛び出したら、こうして話す事が出来たんです。 ようやく、こうやって話をする事が出来ました。 でもこれで終わりでは無いんです。 彼女を止めなければ何もかもが終わりを迎えてしまう!!」
感情を滾らせた彼女の声が強いトーンを帯び始めていて。
勇はそれに感情を揺れ動かさせる事の無いようコントロールし、深呼吸で息を整えながら語りの続きを求める。
「いいえ。 私は貴方がどの様な存在かを、彼女を通して知っています。 だからこそ貴方に頼みたい。 どうか彼女を、黒いエイミーを止めて下さい。 例え私が死ぬ事になろうとも。 これ以上国が歪んでいく所を観たくはないのです……!!」
それが彼女の望み、彼女の希望。
紛れも無く彼女は政治家であり、愛国者。
自己犠牲も厭わぬ、勇が見たままの愛に溢れた女性だったのだ。
「いいえ。 彼女を止めるにはブライアン大統領の協力が必要不可欠です。 どうか私の話を彼に要約して伝え、協力をこじつけてください。 もし軍を抑える事が出来れば私を容易に捕まえられるはずです。 ですが大統領が国を愛する以上、それを成す事はきっと難しいでしょう。 なので私の持つたった一つの切り札を貴方に教えます」
その一言に、勇の眉がピクリと動きを見せる。
彼女が提示するのは唯一の切り札。
今の状況を打破する事が出来る確実なる一手。
それは―――
「いいえ。 私は彼女と意思をある程度共有しています。 というよりも、一方的に彼女が私の意識を拾い、私らしさを演出しているだけですが。 ですが貴方の力で私の意識が表層に出れた今なら、私の意識がより強く反映させられる。 そうすれば認識をずらさせる事も出来るでしょう。 ここで質問です。 貴方が戦場で私の下に辿り着くなら、どうやって来ますか?」
「……俺なら真っ直ぐ行く。 大丈夫か?」
「いいえ。 わかりました。 では私が彼女に『ユウ=フジサキは真っ直ぐには絶対に来ない。 宇宙から必ずやってくる』と暗示を掛けます。 ですので、敢えてアメリカとの戦争という形で事を起こし、彼女を頭にする様に大統領へ伝えてください。 その上で幾つか伏線を置き、必ず彼女の下に真っ直ぐ来てください。 方法は問いません」
彼女が言うのはつまり、表層のエイミーを内側のエイミーが騙すという事。
嘘の認識をわざと与え、勇達への矛先を逸らすというものだ。
しかしこれは〝内側の彼女〟というだけの、何の確証も無い話。
普通なら疑うものだろう。
だが、エイミーの提案を前に勇はゆっくりと頷き返していた。
今の提案を潔く受け入れたのだ。
もしかしたら彼女は嘘を付いているかもしれない。
黒いエイミーとやらが演じているだけかもしれない。
本物のエイミーがそうやりきれないかもしれない。
そんな疑いすら持てる話を、信じる事に決めたのである。
何故彼は信じる事が出来たのだろうか。
初対面で、しかも実体の無いと言える相手を。
それは単に、今の彼女が放つ黄金色の願い意思が見えたから。
それは希望の光。
勇に伝える事が出来た事から生まれた安堵の輝きだったのだ。
目を覆っているから勇の頷きは見えてはいない。
勇も声を出す事無くただ頷いただけだ。
しかしそれでも彼女はきっと理解出来たのだろう。
その口元には微笑みが浮かんでいて。
「貴方と話せて本当に良かった。 彼女を止める事が出来れば私はもうそれだけで十分です。 ユウ=フジサキ……貴方に希望を託す事が……今の私の……出来る願い―――」
「……大丈夫か?」
「―――ええ、落ち着きました。 心配をお掛けして申し訳ありません」
こうして勇と本物のエイミーの会合が行われたのである。
彼女の黒い意識。
それは人の意思すら軽く捻じ曲げる、歪んだ意思から生まれたもの。
人知すら凌駕する怨念と憎悪に塗れし者が生み出した、漆黒の残滓。
その存在を知った時から、勇は本物のエイミーを信じ抜く事を決めたのだ。
―
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「俺達はお前達が思う程、力馬鹿じゃない。 必要ならば頭を使う事だってあるさ」
多くの困難を乗り越え、勇が遂にエイミーと対峙する。
決して一人では辿り着けなかった。
仲間達の協力と、アルクトゥーンの隠れた機能が彼をこの場へ導いたのである。
もう、二人の間に障害は―――無い。
「私の読みは間ちち違いなかったハズなのに! 何故ぜぜ……!!」
勇を前にしたエイミーが顔を震わせ冷や汗を流す。
自分の読みは的中するはずだった。
間違いなくアルクトゥーンは核弾頭によって撃ち落されたはずだった。
その確信が見事に打ち破られ、もはや彼女の自信は跡形も無く崩れ去る。
そんな自問自答で唖然とするエイミーを前に、勇は何を思ったのか構えていた左腕をそっと降ろした。
「そうか、お前はまだ気付いていないんだな」
「気付いて、いない? な、何を……?」
すると勇がイシュライトとバロルフの横を通り過ぎ。
その場に居る誰しもが注目する中で、エイミーとの距離をゆっくりと詰めていく。
「この作戦を考えたのは俺じゃない。 この作戦はとある人物がこの国を救う為に考えた一手なんだ」
「まさか……まさかブライアンか!!」
一歩、また一歩と踏み出す度に、エイミーが狭い指令室内を後ずさる。
しかし間も無く壁が彼女を阻み、その動きを止めさせていて。
「いや違う。 かといってその側近でも無ければ、専門家でもない。 当然俺の仲間でも無いし、国連の人間でも無い」
「じゃ、じゃあ誰が、誰がこんな作戦を立てたっていうのッ!?」
その時、勇の歩みもその動きを止め。
僅かに開かせた両足で力強く踏み込む。
そして左腕がゆるりと持ち上がり。
人差し指を伸ばした拳が真っ直ぐと、その人物へと向けられた。
「この作戦を立案したのはエイミー、貴女だ!!」
それを聴いたエイミーが、ロドニーが、高官達が。
背後のイシュライトやバロルフ、ボディガードもがその耳を疑う。
自信のままに打ち上げられた、衝撃の事実を。
「いや、厳密に言えば、お前の中に潜む本物のエイミーがだ」
「本物の私ですって!? それは一体どういう―――!?」
そう言い掛けた途端、彼女の顔が強張りを見せる。
勇が再び、握り締めた左拳を光り輝かせて彼女へと向けたのだ。
「どうもこうもないさ。 俺は一度会ってるんだ、本物のエイミーにな。 そう、あの会合の時に」
――――――
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そう、それは勇とエイミーとの非公式会合の最中の出来事である。
突如として頭痛に見舞われたエイミーは薬を服用し、その身を椅子に預けながら目を閉じ。
勇の心配を他所に、たちまち二人の間に沈黙が訪れていた。
……はずだった。
「―――ユウ=フジサキ、いいですか、時間がありませんからよく聞いてください」
その時沈黙を途端に破ったのはエイミー。
とはいえ頭痛に苦しむ余り顔に充てた手はそのまま。
項垂れる様に椅子へともたれ掛かった姿は何一つ変わってはいない。
「うん? 何を言ってるんだエイミー」
「お願いします、私の意思がいつ途切れるか知れません。 だから逐一私に大丈夫かどうかを尋ね、私が『いいえ』を貫く限りの間だけ、表情も感情も変えぬまま私の言葉に耳を傾けて頂きたいのです」
その語りはとても流暢で、聞き取りやすく。
とても苦しんでいるとは思えぬ、しかし緊張感を含んだ一声で。
「どういう事だ……」
「質問は?」
「え、あ、だ、大丈夫か?」
「いいえ。 いいですか、私は私であって今の私ではありません。 今まで表層に現れていたのは、私の意思に寄生し、私そっくりに作り上げられた黒い意識なのです。 私はその黒い意識の所為でずっと心の奥底に閉じ込められ、彼女の思うがままにする所をずっと見る事しか出来ませんでした」
そうして語られたエイミーの告白は予想を遥かに超えていた。
勇が驚き固まってしまう程に。
それ程までに唐突だったのだから。
しかし驚く事ですら許さぬかの様に、彼女の饒舌がピタリと止まる。
まるで勇の返しを催促するかの様に。
「―――大丈夫か?」
「いいえ。 黒い意識が願う先は国の未来ではありません。 何もかもをも滅ぼさんとする邪悪な意思。 それが私を偽り、この国を巻き込もうとしています。 それが苦しくて堪らないのです。 でも、止めようとしても見えない壁が阻み、私に何もさせてはくれなかった……!」
彼女の感情が本物の人と同様に色鮮やかと変わり、唇に震えを呼び込む。
その無念と、悔しさが、滲み出るかの様に。
そんな感情を受け取った勇はその歯を食いしばらせながらも、ゆっくりと相槌を打つ。
「いいえ。 でも貴方が来た時、突然心が軽くなった気がして。 今なら出られると。 そう思って飛び出したら、こうして話す事が出来たんです。 ようやく、こうやって話をする事が出来ました。 でもこれで終わりでは無いんです。 彼女を止めなければ何もかもが終わりを迎えてしまう!!」
感情を滾らせた彼女の声が強いトーンを帯び始めていて。
勇はそれに感情を揺れ動かさせる事の無いようコントロールし、深呼吸で息を整えながら語りの続きを求める。
「いいえ。 私は貴方がどの様な存在かを、彼女を通して知っています。 だからこそ貴方に頼みたい。 どうか彼女を、黒いエイミーを止めて下さい。 例え私が死ぬ事になろうとも。 これ以上国が歪んでいく所を観たくはないのです……!!」
それが彼女の望み、彼女の希望。
紛れも無く彼女は政治家であり、愛国者。
自己犠牲も厭わぬ、勇が見たままの愛に溢れた女性だったのだ。
「いいえ。 彼女を止めるにはブライアン大統領の協力が必要不可欠です。 どうか私の話を彼に要約して伝え、協力をこじつけてください。 もし軍を抑える事が出来れば私を容易に捕まえられるはずです。 ですが大統領が国を愛する以上、それを成す事はきっと難しいでしょう。 なので私の持つたった一つの切り札を貴方に教えます」
その一言に、勇の眉がピクリと動きを見せる。
彼女が提示するのは唯一の切り札。
今の状況を打破する事が出来る確実なる一手。
それは―――
「いいえ。 私は彼女と意思をある程度共有しています。 というよりも、一方的に彼女が私の意識を拾い、私らしさを演出しているだけですが。 ですが貴方の力で私の意識が表層に出れた今なら、私の意識がより強く反映させられる。 そうすれば認識をずらさせる事も出来るでしょう。 ここで質問です。 貴方が戦場で私の下に辿り着くなら、どうやって来ますか?」
「……俺なら真っ直ぐ行く。 大丈夫か?」
「いいえ。 わかりました。 では私が彼女に『ユウ=フジサキは真っ直ぐには絶対に来ない。 宇宙から必ずやってくる』と暗示を掛けます。 ですので、敢えてアメリカとの戦争という形で事を起こし、彼女を頭にする様に大統領へ伝えてください。 その上で幾つか伏線を置き、必ず彼女の下に真っ直ぐ来てください。 方法は問いません」
彼女が言うのはつまり、表層のエイミーを内側のエイミーが騙すという事。
嘘の認識をわざと与え、勇達への矛先を逸らすというものだ。
しかしこれは〝内側の彼女〟というだけの、何の確証も無い話。
普通なら疑うものだろう。
だが、エイミーの提案を前に勇はゆっくりと頷き返していた。
今の提案を潔く受け入れたのだ。
もしかしたら彼女は嘘を付いているかもしれない。
黒いエイミーとやらが演じているだけかもしれない。
本物のエイミーがそうやりきれないかもしれない。
そんな疑いすら持てる話を、信じる事に決めたのである。
何故彼は信じる事が出来たのだろうか。
初対面で、しかも実体の無いと言える相手を。
それは単に、今の彼女が放つ黄金色の願い意思が見えたから。
それは希望の光。
勇に伝える事が出来た事から生まれた安堵の輝きだったのだ。
目を覆っているから勇の頷きは見えてはいない。
勇も声を出す事無くただ頷いただけだ。
しかしそれでも彼女はきっと理解出来たのだろう。
その口元には微笑みが浮かんでいて。
「貴方と話せて本当に良かった。 彼女を止める事が出来れば私はもうそれだけで十分です。 ユウ=フジサキ……貴方に希望を託す事が……今の私の……出来る願い―――」
「……大丈夫か?」
「―――ええ、落ち着きました。 心配をお掛けして申し訳ありません」
こうして勇と本物のエイミーの会合が行われたのである。
彼女の黒い意識。
それは人の意思すら軽く捻じ曲げる、歪んだ意思から生まれたもの。
人知すら凌駕する怨念と憎悪に塗れし者が生み出した、漆黒の残滓。
その存在を知った時から、勇は本物のエイミーを信じ抜く事を決めたのだ。
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