時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第六節「人と獣 明と暗が 合間むる世にて」

~頼る相手を間違えました~

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 心輝達が帰宅してから間も無くの事。
 落ち着きを取り戻した勇の家に近づく一人の人影が。

 福留である。

 こうして訪れたのは心輝達の報告を疑ったからではない。
 もちろん彼なりの用事があっての事である。

「あら福留さんこんばんは。 突然どうなさったんですか?」

「夜分遅く訪ねてしまい申し訳ありません。 えぇ、実はこの近くで少し用事がありましてね。 折角でしたので寄らせて頂こうと」

 それは何かのついで、という事なのだろうが。
 でも用意周到な福留の事だ、何も持たずに訪れる訳も無く。
 それを察した母親は、ほんの少し不安の籠る声色で迎え入れる。

 という訳で突如来訪した福留だったのだが―――



 来て早々に問題を突き付けられたのは、他でも無い福留自身であった。

 

 丁度その頃、勇達は愛希の話題で盛り上がっていたという事もあって。
 直後に福留が訪れたので、これみよがしにと早速提案を持ち掛けたのだ。

 「愛希達にも真実を伝えたい」というお願いを。

 しかしこれには福留もさすがにタジタジだ。
 堪らず空笑いが飛ぶ程には。

 そんな反応を前にちゃなの期待は高まるばかり。

 だが―――
 
「申し訳ありませんが、さすがにこれ以上人数が増えるのはちょっと……」

 やはり無理があった様で。

 なんでも、心輝達の件は本当の意味で特例なのだそう。
 勇達と相談出来る相手が身近に居ないのも問題、という観点からだ。

 でも心輝達とは異なる関わりの輪が増えてしまうと話は変わる。
 管理の関係上、人数が多いと有事があった時に誰が原因か突き止めにくくなってしまう。
 そうもなれば隠し事など有って無い様なもので。

 つまり政府としてはこれ以上監視する人間を増やしたくないというのが本音なのである。

「愛希ちゃんにも教えたかったなぁ……残念」

「すいませんねぇ。 亜月さんが同年齢ですし、彼女と相談するようにして頂けますか」

 相変わらずの低姿勢で謝る姿を前にはちゃなも無理を言えず。
 ただ理由が理由ともあって、踏ん切りは付いた様子。

 でも勇としては逆に不安だ。
 「あずーはどちらかと言えば相談されるより、してくる側」という認識の方が圧倒的に強い。
 そんな彼女の真の性質を、こう答えた福留が本当に理解しているかも怪しい訳で。

 今更あずーがそんな「ポンコツ」であると、誘った側の勇が言えるはずも無く。

 諦めつつも、心の中でちゃなに謝らずにはいられない勇なのであった。





 その様な話もあっという間に終わりを告げ。
 ようやく福留の用意した話題が語られ始める。

 ―――とはいえ、今回はそれ程重要ではない様で。
 母親が流しで洗い物しながらの、勇とちゃなに向けての話である。

「今日お持ちした話は他でもない、今後の予定です」

「よ、予定……?」

 思い掛けない一句が勇達の疑問が浮かんでならない。

 何せ勇達としては今回の騒動変容事件の出来事は全て緊急的なものだと思っていたもので。
 それをまさかスケジュール化してしまうとは予想もしてなかったからこそ。
 
 そんな中で福留が差し出したのは―――日本地図。

 日本列島の輪郭を描いたモノクロの線状地図がA3サイズの紙にプリントアウトされていて。
 そこに幾つもの丸点が刻まれている。
 描かれている場所は東京、栃木、群馬、そして熊本。

 そしてそれだけでは留まらず。
 なんと、東北に一つ、四国に一つと、他にも丸点が刻まれていたのだ。

 これはつまり、その場所でも転移が起きたという事に他ならない。
 暗に示された事実を前に、勇達の緊張は高まるばかりで。

「ええ、そうです。 そしてお二人にお力添えをして頂く日は―――」

 東北か、四国か。
 その二択を前に二人が揃って唾を飲む。

 その中で満を辞して放たれた答えは―――





「これと言って特にはありません」





 予想もしえない一言。
 これには二人もただただ唖然とするばかり。
 キョトンとした丸い目を福留に向けるしかなく。
 台所で聞き耳を立てていた母親も同様だ。

 どうやらいつもの福留の話術にコロッと騙されてしまった様で。

「特にないって、もしかして日本に魔者はもう……」

 ただそんな答えを返されればこんな期待が生まれもするだろう。
 その期待が思わず勇の身を机上に「グイッ」と乗り出させる。

 だがその期待も虚しく、福留は首を横に振るだけだ。

「いやいや、そんな事はありません。 気付いているかもしれませんが、東北と四国、いずれも魔者の集落と断定しています。 なので有事の際にはお二人に力添えをお願いする事になるでしょうねぇ」

 途端に期待も外れ、堪らず勇の顔がしかめ上がり。
 落胆をその姿で現すかの様に、乗り出していた身を「バタン」と椅子へと預ける。
 先日の様な戦いが後二回も残ってると思えば気落ちもするのも当然な訳で。

 とはいえ、勇の思う以上に事は複雑ではない様子。

「ですが私が言った通り今の所予定はありません。 その理由としましては、現状そこの魔者達は今までの相手とは違って人的被害を及ぼしていないからです。 話を聞いてくれるという事で目下交渉中でして」

「「えっ!?」」

 勇達がこう驚くのも無理は無い。
 話が通じても聞き入れない魔者達ばかりで、対話するという事も半ば諦めていて。
 でも実はこうして裏で話し合いが進んでいたのだから。

 つまり魔者達にも話がわかる者達が居るという事に他ならない。

「それって相手に敵意が無いって事ですか?」

「決してそういう訳ではなさそうですけどねぇ。 ただ相手も混乱しているという事で一時的に争いを止めようと交渉した所、承諾を貰ったという事なのです」

 まさかとも言える状況に、もはや勇達も「おお~」という感心の声しか出ない。
 思わぬ状況の好転は、先程消えた期待を更に高めるには充分で。

 福留もそんな勇達の姿を前にまんざらでもなさそうだ。



 ちなみに、福留が他人事の様に語るのは、交渉しているのが彼自身ではないから。

 福留が率いる特事部は言わば変容事件に関する情報収集と解決に携わる団体だ。
 その行動の為に必要な上級権限を与えられているだけに過ぎない。
 現地活動は自衛隊などに任せる事が多く、今回の交渉もその一環なのである。

 

 つまり現状で暴れる魔者は国内においてゼロ。
 だから勇達が出張る必要も無く、こうして「予定無し」と告げる事が出来る訳だ。

「そんな訳で皆さんにはしばらくいつも通りに過ごして貰う事になりそうです。 なので学業もろもろ、いつも通りの生活を送るようお願いいたします。 何かある様でしたら一報入れますので」

「わかりました」

「えぇ、えぇ。 もう間も無く期末テストが控えていると思いますし、周りに置いて行かれないようしっかり勉強なさってくださいねぇ」

 そう、時期はもう七月。
 勇達学生からすれば間も無く夏休み前の期末テストで慌てる頃である。

 さすがに最後の一言は勇達にとっても耳が痛い話で。
 二人揃っての苦笑いが堪らず浮かぶ。
 きっと福留もそれをわかっていて敢えてこう言ったのだろう。

 何せ福留から提示された資料には、二人が通う白代高校の予定表カリキュラムまでがしっかりと添付されていたので。
 生徒どころか一部を除いた教師すら知らない秘密のスケジュールである。

 やはり彼も人の親で、二人の勉学を案じている様だ。
 それがこんな戦いに巻き込んだ者の責任でもあるのだから。



 こうして突如始まった話は終わりを告げ。
 福留は例によってそそくさと勇の家を後にしたのだった。










 その日の夜。

 福留から言われた事もあったからか、勇はベッドの上ではなく机に向かっていて。
 治癒も大事だが勉学も大事。
 この日はとりあえず方々から言われた通り自習する事に。

 瀬玲の寄越したノートを一枚一枚丁寧に眺める姿がそこにあった。

「こないだの休みの分もあるのか……助かるな」

 瀬玲の気遣いは事実を知った後の事だけに留まらない。
 ウィガテ戦の時に休んだ時の分もしっかり手書きで書き写した物を挟んでくれていたのだ。
 もちろんそれにも可愛い絵文字付きである。

 それが勇には妙に気になってしょうがなかった様で。
 好奇心が次の頁を開く意欲を掻き立てせ、ペンをいつもよりも素早く走らせる。
 夢中になり過ぎる所為でついついそんな絵文字までをも書き写す程に。
 歴史の授業ともなれば可愛い武将がお披露目となり、思わず頬がほころんでならない。

「アイツ、自分のノートにもこんなの書いてるのかな……つかここまでしなくてもコピーでいいんじゃないかぁ?」

 とはいえやはりこんな疑問も浮かぶもので。
 相手が親友でも、やはり勇に女心はわからない様だ。



 そんな勇の背後では、小さな折り畳み式机の前で正座をしながら勉学に励むちゃなの姿が。
 さすがに両親がテレビを見ているリビングで勉強する訳にはいかず。
 勇と一緒に勉強したかったという当人の意思を汲んでの事である。

 だがその成果と言えば―――

「……もう無理です……」

 開幕からおおよそ五分。
 たちまち机に突っ伏し、頭から煙を出す程の混乱に苛まれていた。

 それというのも、勇と同じ様にして渡されたのは―――あずーお手製ノート。
 当人は「愛希ちゃんのノート借りて書き写したから平気だよ!!」なんて自慢げに言ってたのだが。

 その惨状はもはや言うに堪えない。
 見るも無残な落書き祭りの会場と化していたのだから。

 「その日の授業は何だったのか」という疑問すら沸く程に悲惨。
 いっそコピーしたものが欲しかったと嘆いてならない程に凄惨。
 声にもならない呻き声が出てしまう程に酷いのである。

 愛希の書いたノートがどういう出来栄えだったかどうかは別として。

 当然あずーは別クラスで。
 彼女なりに頑張った成果である事には変わりないだろう。
 きっと瀬玲にそうしている事を聞いて真似しようとしたのだろう。

 でも例え事情を知っていても、別クラスの者に代筆を任せるのは如何なものか。



 そう頼んでしまった実の当人であるちゃなの後悔は尽きない。


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