時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十五節「消失の大地 革新の地にて 相反する二つの意思」

~それだけこの世界は好奇心に満ちている~

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 勇達がカナダにて謎の現象の調査を行っている頃。
 とある海域―――

 そこはどの海かさえもわからない場所。
 周辺に島一つさえ見当たらず、あるのは名も無き小さな岩礁のみ。
 その内の一つに座る一人の人影があった。

 小野崎紫織である。

 しかしそこに居るのは彼女だけ。
 周囲には日本を発った時に乗っていた肉蕾の姿さえ無い。
 ただただボーっとしたまま岩の上に座り続け、波飛沫が当たろうとも目も暮れず。
 ほとんど動かず、雲掛かった空を見上げたままだ。

 するとそんな時、紫織の視線の先とは違う空の彼方に黒点が浮かび上がる。

 それは飛翔体、いや飛翔生物と言うべきか。
 身の丈の二倍ともあろう巨大な翼を羽ばたかせ、空を悠々と飛んでいたのである。

 そしてあろう事か、空飛ぶ存在は一直線に彼女の下へと滑空していき―――

「おや、こんな所に貴方がいるとはね……」

 近くへと寄った途端、まるでさも紫織の事を知っているかの様にポツリと呟いていて。

 そんな存在を前に、今まで微動だにもしなかった紫織が遂に反応を見せる。

「……ギオか」

 ただし、返したのはたったその一言だけではあるが。

 そう、紫織の下に現れたのはあのギオ。
 三年ほど前に剣聖が呼び付け、勇と激戦を交わした男だ。

 魔者でありながら人間とほぼ変わらず容姿端麗。
 瀬玲のみならず多くの人間の女性を魅了した程の。
 スラっとした細い輪郭を有した美形の顔付きのみならず、体付きも細身ながら広い肩幅で力強い。
 それでいて紳士の様な優しい口ぶりは紫織の前でも相変わらずである。

 敢えて違う点を挙げるとすれば―――両腕が無い事か。

 戦いで失ったのだろうか。
 締められた筋肉には生々しい傷跡が浮かんでいて。
 しかし痛がっている様子すら見せず、軽快な笑みを紫織へ向ける。

「久しぶりだね創造主。 貴方に造られて、そして捨てられてから一体何年経った事か」

 しかもこの様な驚くべき発言までをも口にしながら。

 あろう事か、ギオはアルトラン・ネメシスと深い関わり合いがあったのだ。

 でも、その正体が何者か知っていながらも臆する気配は無い。
 それどころかその態度は顔馴染みか友人と言わんばかりに軽快。
 ひょうひょうとその周りを飛び回り、その姿はまるで遊んでいるかのよう。

「あれからずっと貴方には逢えなかったけれども。 でもこうしてこの世界でまた逢えたのは偶然かな? それとも必然かな?」

 しまいには「ハハッ」と笑いまで上げていて。
 静かに座り続ける紫織を煽っている様にさえ見えなくもない。



 だがその時、紫織の目が突如として「ギョロリ」とギオへと向けられる。

 

「間も無く……この世界は終わりを迎える。 でも貴方は……資格がある。 こちらに来なさい……そうすれば原初を超えた先でも……生き続けられるでしょう」

 そう満を辞して開いた口が告げたのは―――いわゆる勧誘。

 理由こそ知らないが、アルトラン・ネメシスがギオの一族ダゴニア族を捨てたのは確かだ。
 彼等を生み出し、そして放置した。
 その事実はギオの記憶にも残る出来事だったから。

 それでも今、紫織は自身の眷属として相応しいとして認めた。
 その理由こそ、ギオがフララジカ成就に伴う行動の過程で生まれた産物だったから。 

「確かに……貴方達ダゴニアは失敗作。 命力反転と細胞活性能力を……生み出す為に造ったけれど……すぐに壊れてしまった。 でも貴方だけは違う。 貴方は今もここに……フフ……それが私は嬉しい。 そして貴方達が壊れたお陰で……我が子達の今があるのよ……」

「なるほどね、それが僕達を捨てた理由ですか。 でもまぁそういう事なら仕方ないでしょうね。 僕も一族に対してそれほど感慨は持ってないので、どうでもいい事なんですけど」

 しかしそんな残酷な現実も、ギオの前では何の意味も成しはしなかった様で。
 まるで興味無さそうに両手をひらひらと上げ、「ハハ」と笑いを上げる始末だ。
 その淡泊さがギオらしい一面であり、今まで一人で生きて来たが故の在り方なのだろう。



「けど、残念ですが僕は貴方の計画に乗るつもりはありませんよ」



 でもその在り方が―――紫織の意思を否定する。

 それは決して見捨てられたからでもない。
 一族をけなされたからでもない。

 それはたった今、ギオ自身に想う事があるからこそ。

 その答えが途端に紫織の睨む瞳へ殺意を纏わせ。
 突き刺さる様な視線をギオへと向けさせる。

 そしてその意思を感じ取れない程ギオは鈍くない。
 たちまち嫌がる様に「バサリ」と翼を一扇ぎしてぐるりと舞いながら大きく距離を取る。

 ただその顔には相変わらずの笑みが浮かんだままであるが。

「待ってくださいよ創造主。 だからといって貴方に敵対する意思はありませんから」

「……ほう?」

 ギオがその時見せた意思は敵意でも殺意でも反意でもない

 それはいわば―――無関心。

「正直に言いますとね、僕はつい最近まで生きている事さえ退屈でしょうがなかったんですよ。 こんな特別な力を貰った所で何の役にも立ちはしないし。 だから世界を滅ぼすなんて話には全く興味が無いんです。 生き延びたって退屈が続くだけだし、滅んでも退屈な毎日が終わるだけだからね」
 
 ギオは『あちら側』の世界の在り方にずっと嫌気を差して生きて来た。
 敵意、殺意……余りにも後ろ向き過ぎる者達の生きる世界が退屈でしょうがなくて。
 それで無限にも等しい肉体と寿命を与えられては、自ら死を望む事さえ出来はしない。

 だから彼はいつも欲していた。
 生を感じる程の痛みと争いを。

 勇や剣聖はその望みを叶えてくれたから友好的な意思を見せられたのだ。
 退屈を凌がせてくれる数少ない人物として敬意を込めて。

 でも、今は違う。

「でもね、この世界に来てからその認識が全く変わりましたよ。 この世界はとても面白い。 いっそ世界が元に戻らないでこのままで居て欲しいって思うくらいにね?」

 こう答える辺り、ギオも今の勇達の活躍を良く知っているのだろう。
 彼等の目的さえも。

 それを知っててもなお、紫織を前にして語りは止まらない。
 それ程までに今、ギオは〝興奮〟しているのだ。

「それだけこの世界は好奇心に満ちている! 皆がそんな好奇心を見せるものだから、僕も嬉しくてしょうがないんだ」

 剣聖と出会って、勇達と出会って、この世界の人間達と出会った。
 そして彼は沢山受け取ったのだ。
 この世界で生きる為に前を進もうとしている人々の意思を。

 殺伐としていただけの『あちら側』では見る事の叶わなかった、生の安寧を。

 それこそギオがずっと求めていた物。
 ずっと願って止まなかった人との関わり方なのである。

「だけど僕は貴方を裏切りたいとも思わない。 例え捨てられても親みたいなものだからね。 だから僕は貴方の事を誰にも教えていないし、その目的に関しても口にしてはいない」

 ただその望みとは別に、ギオには強いポリシーがあるのだろう。
 自身に課せられた責務を果たそうという責任感が。

 彼の持つ情報は言わばアルトラン・ネメシスさえも予想していなかった抜け道。
 死ぬと思って見捨てた者が生きて抱え続けた、計画の綻びにもなり得る極秘情報だ。

 それをこうして守り続けた事、それこそがギオの生き様。
 自身を産んでくれたアルトラン・ネメシスへの感謝の形なのである。

「なので静観させてもらいますよ。 世界が元に戻ろうと、滅びようとも、僕はどちらでも構わないですから」

 その一言を最後に、ギオは再び空の彼方へと還る。
 紫織の体を揺らすまでの凄まじい突風を引き起こしながら。



 ギオの言葉が紫織に届いたかどうかはわからない。
 殺意こそ向けてはいたが、語っている間はずっと微動だにしていなかったから。

 いや、むしろ聞いていればそれこそ奇跡だろう。
 アルトラン・ネメシスにとって、ギオの残した言葉は言わば毒。
 ア・リーヴェに対する悪意と同じで、その身を構成する力と相反する意思なのだから。



 紫織が再び同じ空の先を見据え、その動きを再び止める。
 もはやそこにギオへと向けていた殺意も敵意も無い。

 ただただ―――石の様にこの場で在り続けるのみ。


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