時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
1,006 / 1,197
第三十五節「消失の大地 革新の地にて 相反する二つの意思」

~仲間を切り捨てられない優しさが貴方の弱みです~

しおりを挟む
「ディック、隙を見てここから逃げるんだ。 俺が逃げ道を作る……!!」

 女の様な言葉遣いと男らしい剛健な体格のパーシィ。
 修道女の装いにらしからぬ殺意を露わとするシスターキャロ。
 二人の刺客が勇達へと今まさに牙を剥く。

 そんな一触即発の状態が場を包む中、勇の方からジリジリと前に出ながら牽制を続けていた。

「さっさと天力転換ってヤツで逃げれないのかい!?」

「無理だ、これだけ敵意を向けられたら存在が引っ張られてしまって跳ぶ事が出来ないんだ」

 天力は希望の意思を基礎とする無限力。
 天力転換とは使用者当人の天力で自身と随伴者の存在を天力子てんりょくしという名のデータへと姿を換えるという事を差す。
 そして星の命脈ソウルラインに乗って一瞬でそのデータを別の地点に移すのが瞬間移動の原理である。

 しかし、この様に敵意を向けられれば、そのデータ化がまず不可能。
 存在を強く認識され、情報が固着ロックされてしまうからだ。

 だから戦闘時や敵が多い場所での天力転換による退避は出来ない。
 エイミーの時の様に戦意を理性で抑えて場合は例外であるが。

「だから戦えない二人が先にここから離れた方がいい」

「お前さん……クッ!」

 幸い、既に第一波の戦闘員は勇が蹴散らし済みだ。
 ただし増援が来ないとは限らない。
 長引けば長引く程、ディックもリデルも、そして勇自身も身の危険は免れないだろう。

 少なくとも、目の前の敵は生半可では無いのだから。

「あらぁん? 簡単に逃げられると思ったかしらぁん? 」

「残念ですが、関わる人物は漏れなく排除する事を申し付かっておりますので」

 でも二人は既に殺す気満々だ。
 このまま知り合いであるリデルさえも巻き込みそうな程に。

 グランディーヴァ側でまともに戦えるのは勇一人。
 対して【救世同盟】側は二人。
 例え勇が牽制しても、二人はただ互いの距離を離しながら囲む様に動くだけだ。

 状況は明らかに勇達の劣勢。

 ペースは相手側にあり、しかもどちらも油断ならない手練れ。
 恐らくその基礎能力はその戦いぶりからして―――心輝達と同格。
 命力と身体能力のミックスアップに成功した、才能と努力の枠を外れた存在という事だ。

 加えて勇側は一人で普通の人間を守らなければならないという制約が纏わり付いている。

 戦うだけならまだ対処は出来る。
 それだけの実力を勇は持ち得ているから。
 強引に押し切ってかつ倒す事さえ不可能では無いだろう。

 力を存分に発揮すれば、だが。

 勇が下手に全力を発揮すれば、その威力でディック達の身に危険が及ぶ。
 大地を割り、空を裂く力なのだ、並みの人間が耐えられる訳も無い。

 そう、二人の存在が勇の実力を加減させる要因ともなってしまっているのである。

「どうやら二人が居て力を出し切れない様ですね。 仲間を切り捨てられない優しさが貴方の弱みです」

「えっ!? やだぁ、本気で戦えってもらえないのぉん!?」

 どうやらその事もシスターキャロには見抜かれている様だ。
 反対側で再び体をくねらせているパーシィなど眼中に無く、その視線をチラリとディックへ向ける。

「そうそう、俺が居るとコイツが本気で戦えないってさぁ。 だから俺達を逃がしてくんないかねぇ……?」

 そしてその事をディック自身も痛い程理解出来たからこそ、そんなブラフを持ち掛けていて。
 あわよくばパーシィに加減をさせ、勇をダシにして逃げようという魂胆だ。
 もちろんそれは勇本人としても願ったりで、その事をわかっての提案である。

 だが―――

「仕方ないわねぇ……今回はデュラン様の為に諦めるゥ!!」

「どーしてそうなるんだってぇ!!」

 パーシィとしてもこのチャンスを逃す気は無い。
 おちゃらけたノリだが、間違いなく頭が回る相手という事だ。
 伊達に勇達の命を狙う為の刺客として訪れた訳ではないのだろう。

「茶番は終わりにしましょう。 ユウ=フジサキ、ここで死んで頂きますね」

 シスターキャロも遂に痺れを切らした様だ。
 そんな問答が終わるまでしっかり待ってくれていた訳だが、そこに乗っかる程お茶目では無く。
 
 途端、目にも止まらぬ高速移動で一気に勇達との距離を詰め始める。

 まるでその様子は忍者だ。
 小柄な体と、しなやかな足捌き。
 背丈が半分になる程までに屈みこみながら、体が一切上下しないスライド走法。
 おまけに膝の動きに吸い付かんばかりの長い裾がその動きの予測を妨げる。

 そこに生まれるのは二閃の残光。
 体の動きと同様、全くブレる事の無い真っ直ぐな軌跡が宙に刻み込まれていく

「ちいッ!?」

 そこまでの丁寧な残光を、勇は今までに見た事が無い。
 自身が描いて来た軌跡を除いては。

 それはまさに、かつて勇が今まで刻んで来た斬撃軌道と同じ。
 素直かつ単調、それでいて一心不乱。
 そんな動きを、シスターキャロが再現して見せていたのだ。

 その恐ろしさは相対するからこそわかる。
 素直過ぎて、それを更に素直で返せば手痛い反撃が待ち構えているのだという事を。

 更には反対側からパーシィまで突撃してきている。
 こちらは完全なるパワーファイター、心輝と同じ力で押し込むタイプだ。
 小細工無く、全力で真っ直ぐ振り被りながら。
 かつ、シスターキャロとのタイミングをずらし、激突を避ける程の冷静っぷり。

 完璧なるコンビネーション。
 この二人が再現するのはまさに、勇と心輝の共闘。

 それが出来る程の力を今、見せつける。
 


 しかしそうだとしても―――勇には一歩届かない。



「はあああッッッ!!!」

 その時、勇の両手に輝く剣が虹色の光を解き放つ。
 とめどない波動、敵意への反力を打ち放ちながら。

 そしてその光が遂には繭となり、弾けた中から物質剣が『創生』される。



 こうして生まれたのは片刃の双剣。

 名付けるならば―――【創世鋲そうせいびょう



 その姿はまるで【エスカルオール】。
 彼の心に残る亜月の思い出がその形を導き出したのだ。
 一対二という状況を打開する為に最も相応しいこの形を。

 その力が今、戦場で猛威を奮う。

「なッ!?」
「んですってぇ!?」

 この瞬間、二人はただそう驚くしか無かった。

 何故ならその時、二人には勇の姿が二つに分かれて見えていたのだから。

 まるで分身。
 それまでに高速。

 亜月が、ナターシャが示した高速移動の妙技を受け継いで。
 その双剣が天力の力を余す事なく利用しての神速運動を可能とさせたのである。

 同時に襲い掛かった二人の斬撃を同時に受け止め。
 同時にいなし、同時に跳ね上げる。

 全てが全て、同タイミング。

 相手が限界を超えた相手ならば、勇はその更に上を行く存在。
 天力転換が出来なくとも、彼の動きは物理を超え。
 かつ、大気を、大地を、揺らし揺さぶろうとも原理を超させず。
 傍に居るディックとリデルへの影響を最低限に抑え込む。

 全て天力を駆使しての物理逆転干渉。
 常識を超えた運動の影響を与えない様に天力で抑え込みながら最大限の防御を発揮するというもの。
 勇の培ってきた技能である鋭感覚と防御軌道を読み切る【極点閃ガードライン】の発展形。

 それを敢えて呼ぶならば―――【極天陣プロテクトスフィア

 この名の通り、自分を中心とした球状範囲を守り切る為の防衛壁が構築されているのである。
 しかも二人の強敵に対しても有効なまでの力を見せつけて。

 弾かれた二人も余りの力を前に驚愕を隠せない。

「ううッ!!」
「大丈夫かリデルッ!? 踏ん張るんだッ!!」

 それでも一般人であるリデルにはキツい程の突風が吹き荒れているが。
 加減をしてもそれが精一杯なのだ。
 
 怯む彼女ををディックが支え、大地へ伏させる。
 それしか今は出来る事が無いのだから。

 そう、それしか出来ない。
 この事こそが同時に【極天陣】の弱点でもある。

 もし下手に有効範囲から出れば、たちまち凄まじい動きに取り込まれて弾き飛ばされかねない。
 最悪の場合、それだけで死に至るだろう。

 しかも勇自身も防御に専念しなければならず、殆ど進む事も出来ない。
 このままでは当初言っていた「二人を逃がす」事など到底無理だ。

 それ故に勇には苦悩の表情が浮かぶ。
 彼が一番その事を理解しているからこそ。

「んでもぉ!!」

「防御するだけならば、攻め続ければよいだけです」

ガガガッ!!
ガガガガガッッッ!!!

 そして刺客の二人も留まる所を知らない。
 例え驚くべき相手でも、防御だけに徹するのであれば恐れる事は無い。
 ただひたすら攻め続ければいくら天士の勇と言えど消耗するだろう。
 後は集中力が落ちた隙を狙って必殺の一撃を撃ち込むのみ。



 たちまち、二人の凄まじい連撃が勇を襲い始める。
 四方八方上下、体裁などお構いなしにありとあらゆる手段を行使して。

 成されるがままの勇は二人の攻撃を自慢の神速で防ぐ事しか出来はしない。

 形勢逆転の糸口も見えない現状で、その焦りはただただ募るばかりであった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...