時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
182 / 1,197
第七節「絆と絆 その信念 引けぬ想い」

~Indecision <迷い>~

しおりを挟む
 隠れ里の外にて、勇達が御味の迎えを静かに待つ。
 木々が騒ぐ中をただ静かに。

 巨大な魔者に何も言い返す事の出来なかった勇はただ項垂れるばかりだ。
 元気無く地面に座り込み、顔を俯かせていて。
 その姿はまるで激戦を繰り広げた後のよう。

 何時に無いそんな姿に、ちゃなも心配そうな目を向ける他無かった。

 ただ、勇自身はと言えば―――

「わかり合う理由……か……」

 先程までの落胆も薄れる程に考えを巡らせる様子が。
 そこは勇らしく、まだ諦めきれなかったのだ。



 理由なんていうのは何をするにしろ付き纏うものだ。

 例えば勇だったら、体を動かすのが好きだから筋トレをする。
 例えばちゃなだったら、家族との団欒に憧れていたから藤咲家に居ついている。

 大なれ小なれ、必ずそういった理由がある。
 「理由なんて無い」なんて言って何かを始めても、それは「興味がある」から始める訳で。

 でもそれを人に勧めるなら話は別だ。

 興味を持たせる理由を示さねば、相手が惹かれる事は無いだろう。
 余程好奇心に溢れた者か、奇人変人の類でなければ。

 それも今回の場合は特にシビアだと言える。
 何せ『あちら側』の非共栄文化という強い先入観バイアスが掛かっていて。
 おまけに天敵とも言える魔剣使いという立場がその意思を強固とさせるのだ。

 その強固さを前には、印象など微風程度の影響にしかなりはしない。

 そんな壁とも言える相手を崩す為の最もな理由が今の勇には必要不可欠。
 でなければ説得は愚か、話すらまともに聞いてはもらえないだろう。



 その理由を今、勇は必死に探している。



 少なくとも、可能性が無い訳では無く。
 今までの魔者と違い、最初から話で始められた相手だったからこそ。

 もっともらしい理由が無ければ取り付く島もない。
 だが逆に言えば、それさえあれば話を聞いてもらえる確証が存分にあるという事。

 だから諦めるには早い―――そう思ったのだ。

「俺が魔者と仲良くなりたい理由……それは戦いたくないから。 でも、それだけじゃダメなんだ。 戦いを持ち込もうとしていたのは俺で、あっちはずっと平和に暮らしてきた相手なんだから」

 きっと不干渉のままでも、互いに今まで通りの暮らしが送れるだろう。
 一部の土地を失った『こちら側』はともかくとして。

 でもこのままではいずれ人の目に晒され、彼等は平穏を失うかもしれない。
 そして魔者である立場を利用し、人里へ進出してくるかもしれない。

 そうならない為にも―――
 
 そう決めた時、勇にふと一つの考えが過る。
 理由とは言えないまでも、そのキッカケになりそうな小さな妙案が。

 その考えが思い付いた時、ふと勇は顔を上げ。
 迷いを振り切った真っ直ぐな瞳を、心配するちゃなへと向けていて。

「田中さん……悪いんだけど、明日の京都旅行は一人で行って来てもらっていいかな?」

「えっ?」

「俺、今日は一旦東京に戻るよ。 ちょっと取って来たい物があるからさ。 それで明日また戻ってきて、今度は一人でもう一回ここの人と話をしたいんだ。 だから田中さんはそれが終わるまで京都を楽しんでてよ。 終わったら俺も合流するから……」

 その話はただ唐突に。
 突然の事でちゃなも目を丸くするばかりだ。

 けれどそれは全て、妙案を実行に移す為。
 それでいて、ここまでに募ったちゃなの想いも無為にしない為に。

 そう決めた勇の眼差しには決意が灯っていて。
 先程までの落ち込んでいた姿はもうそこには無い。

 だからきっと、その強い気持ちはちゃなにも伝わったのだろう。

「そうなんですね……わかりました。 じゃあ私も、一緒に帰ります」
「ええっ!?」

 そこから生まれた予想外の答えに、またしても勇が驚きを見せつける。

 伝わったからこそ、ちゃなもそう決めたのだ。
 勇の優しさを受け取ったから。
 そして同じ様に勇にも優しくしたかったから。

「一人で歩き回っても寂しいだけだから……それなら帰った方が勇さんのお父さんとお母さんともお話できて楽しいですし」

「田中さん……」

「だから私も一緒に帰りたいです。 それでまた明日、一緒に行きましょう」

「うん……そうだね。 そうしよう」

 きっと明日一緒に行く事になったとしても、ちゃなはお留守番だろう。
 でもそんな事は関係無いのだ。

 今の二人はもう家族みたいな関係で、それでいて戦いのパートナーで。
 そこに決して人が言う様な愛情や恋心は無いけれど、一蓮托生にも近い関係性が生まれていて。
 そして行く所も帰る所も一緒だから。

 二人はこうして、純粋な気持ちで寄り添う事が出来るのである。










 その後、勇達は御味の車に拾われてそのまま京都駅へ。
 お土産など買う間も無く、東京への家路へ就く事になる。
 もちろん、明日までの予定や計画をしっかりと伝えた上でだ。



 薄暗くなった景色の中、帰りの新幹線が東京へと向けてひた走る。
 でも車内は行きの時と違って随分と物静かだ。
 
 さすがに移動しっぱなしとあって疲れたのだろう、ちゃなは既にウトウトと。
 勇も肘掛に立てた腕で頬杖を突きながら外の真っ暗な景色をぼーっと眺め観る。

「わかり合うって、結局の所なんなんだろうなぁ」

 それは考え過ぎるが故についつい漏れた独り言。

 それというのも、新幹線に乗り込んでから勇はずっとその事を考えていて。
 「最もらしい理由」に関してはまだ解決の糸口さえも手繰り寄せる事が出来ていないから。

 ただ、何回考えても強固な壁を打ち破る様なインパクトのある結論には辿り着かず。
 それどころかこの一言が何度となく過るばかりだ。

「平和になりましょうって事じゃないんですか?」

 するとそんな時、横から突拍子も無い一声が。

 どうやらちゃながその独り言を聞いていた様で。
 訊かれた様にも聞こえたから、ついつい答えてしまったのだろう。

 そうなれば、そんなつもりも無かった勇としては慌てるばかりだ。

「ああっ、ご、ごめん、今の独り言で……」

 無自覚だったという事もあって恥ずかしさ一杯で。
 たちまち「いやいや」と言わんばかりに両手を振り振り。
 おまけに隠しようも無い赤面が露わに。

「えっ、そうだったんですか? なんだぁ」

 もちろんそんな感情を読み取る事に疎いちゃなも相変わらずで。
 でも自分らしい答えが言えた事が良かったのか、どこか嬉しげだ。
 彼女らしいぷっくりとした微笑みを目の瞑られた顔に浮かべている。

「でも……平和になればいいんだろうな。 そうだよね、平和になれればみんな幸せだよな」

「うん、きっとそうですよ」

 そう、きっと皆ちゃなの様に単純であれば争いなんて起きなかったのだろう。
 たった一言、「平和になりましょう」というだけで何もかも片付いただろうから。

 けれど世界は……そこまで単純では無い。

 勇にとって戦いの無い世界が『平和』なのであれば。
 隠れ里の魔者達にとっては今のままでいる事が『平和』なのかもしれない。

 勇にとって話し合いで仲良くなる事が『平和』なのであれば。
 隠れ里の魔者達にとってはそんな人間と関わらない事が『平和』なのかもしれない。

 そう考えれば、『平和』という言葉は矛盾を孕む、独りよがりな意味合いで。
 容易には使えない、如何に単純チープな表現であるかを思い知らされる。

 人間という存在が個々に、高度に物を考えられる様になってしまったからこそ―――

 もちろんちゃなは自分の願いを言葉にしただけだ。
 決してその単純さを求めている訳ではない。
 彼女なりの優しさを声にしただけの、ただの思い付きに過ぎないのだから。

 でもそれがまたしても勇の心に引っ掛かり、迷いを複雑化させ。
 単純で、それでいて扱いの難しい『平和』という言葉が思考を乱す。

 ―――それは如何な皮肉であろうか。

「彼等にとっての本当の平和って何なんだろうな……」

 答えを導き出せない今の勇にとって、その迷いは出口の無い迷宮に閉じ込められたのと同義。
 巡り巡る思考に苛まれ、果てには頭痛を催させていて。

 気付けば二人揃ってうつらうつらと頭を垂れる姿が。




 そんな願いや想いを乗せたまま、新幹線が夜の闇に沈んでいく。
 ただただ静かに、それでいて速やかに。

 彼等が今享受している〝平和〟の下へ。

 だから今はただ、毛糸玉の様に絡み上がった思考を解きほぐすのみ―――


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...