1,068 / 1,197
第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
~効に率、童に克己を賭す~
しおりを挟む
「ではこれより、グランディーヴァと救世同盟による活動決議を行います」
勇とデュランのやり取りが終わり、間も無く会議室に緊張が走る。
遂に本懐とも言える話し合いが始まるのだ。
この会議を取り仕切るのは艦長である莉那。
艦長代理に龍を据え、修理などを任せての登壇で。
書記として笠本とミシェルが隣に座り、二陣営の間に据える様にして立つ。
グランディーヴァ側は勇を筆頭に、茶奈、心輝、瀬玲などの戦闘部隊員達は全員出席。
ただし、口を挟むつもりの無いイシュライトやバロルフといった者は部屋の隅で傍聴の姿勢だ。
戦闘員ではなくとも、カプロやレンネィ、ラクアンツェ、更にはアンディもが外枠席での出席となっている。
救世同盟側は当然デュラン筆頭の、エクィオ、アルバ、ピューリー、キャロ、パーシィの総勢。
加えて、彼等側の補佐として福留が傍に立つ。
それを見守るのは当然、国連代表であるリッダとアネット。
二人らしからぬ真剣な表情で会議の動向を静かに見守っている。
部屋の隅では仰々しい立体カメラリフトを操る千野とモッチの姿が。
後は住人側代表者である園部母などの一部同伴組も参加中だ。
そんな大人数の中、莉那の一言で始まった会議が早速その動きを見せ始める。
「まぁ堅苦しくやるつもりは無いから、リラックスして話そう。 とりあえず俺達グランディーヴァ側のスタンスとしてはアルトラン・ネメシスの捜索をメインに考えているんだけど……正直な所、宛ても無いから手探りから始めないといけない状況だ。 各国でも探してるみたいだけど、足取りはまだ掴めてないしな」
話し合いのスタートを決めたのは当然グランディーヴァ勢。
ただし、その内容はと言えばあまりパッとしないが。
何せアルトラン・ネメシス対策は人類・魔者の戦いを納めてからと決めていて。
その対策方法はまさにこれから考えようとしている所だったからだ。
もちろん各国にア・リーヴェの追跡情報を随時リークはしているのだが―――
やはり相手もしたたかで、なかなか尻尾どころか影をも掴ませてくれないのだそうな。
という訳で勇が簡単に伝えられるのはこの程度でしかない。
「そこで、俺達としてはまずデュラン達の意見を聞いてみたいと思ってる。 きっと今日に向けて何か提案を考えているんじゃないかって思ったからさ」
「そうだね。 そういう事なら私達から話す事にしようか。 といっても、考えて来たのはこれからの方向性の提案くらいだがね」
でもこれは多人数による話し合いだ。
これから話を進めて発展させる場だからこそ、話題は少なくても構わない。
後は出た意見から皆が考えて、導き出された答えの採決を取ればいいだけなのだから。
そしてこう対話のボールを渡されれば、デュランが黙っていられる訳もない。
「私達の考えだが、グランディーヴァの動きはそれで良いと思う。 ただし、アルトラン・ネメシス捜索に一本化して、だがね」
こうして打ち出されたのは、デュラン側から考えたグランディーヴァの動向で。
それも勇達側の意思に沿い、その上で条件を突き詰めたもの。
ただ、この意見にはまだ埋められていない穴がある。
勇達が懸念して止まない落とし穴が。
「救世同盟の残党とかはどうするつもりなんだ?」
それは人類・魔者側に残された問題だ。
確かに救世同盟の発足はデュランが祖であるが、その考えはもはや多様化していて。
例えデュランがこうして改心したとしても、全ての救世同盟信者が従うとは限らない。
実は今も、世界の至る所で犯行声明は上がり続けている。
世界各地では未だ救世同盟の名の下に争いを広げようとしている者達が居るのだ。
彼等を止めなければ、世界の意思を統一するなんて事は到底不可能だろう。
でも、デュランにそんな事を考慮出来ない訳が無い。
「強硬派の制圧は我々がやるつもりだ。 つまり、二手に分かれて行動するという事さ。 互いの行動を先鋭化する事でより鋭敏に動ける様になるはずだからね。 国連にも協力してもらって情報を共有すれば混乱する事も無いだろう。 いざという時はアルトラン・ネメシスを挟撃する事も可能かもしれないし」
救世同盟という巨大組織を動かしてきた手腕はやはり伊達ではない様だ。
どうやら相応に考えを巡らせてきたらしい。
デュランの意見はこれだけに留まらない。
「それに救世同盟の事は我々が一番良く知っている。 世界に散らばった関連団体の情報が全て揃っているからね。 だからどこで誰が何をしようとしているかもすぐにわかる。 それに、私達にはこの艦の様な足こそ無いが、各地を単独で動ける知識と経験がある。 その気になれば、私達が個々に紛争を鎮圧出来るだろうさ。 恐らくだが、今の私達に敵う団体はもう居ないからね」
つまり、各地の紛争鎮圧にわざわざ勇達の力を割く必要は無いという事だ。
それ程の規模も無ければ、彼等の手を煩わせる程の強者が居る訳も無く。
例え居たとしても、勇と同等に戦えたデュランなら一人でも戦えるだろう。
そのデュランでなくとも、エクィオ達の様な強者なら十分に対応可能だ。
彼等一人一人が各国の軍隊一個師団にも勝る戦力を誇っているのだから。
加えて、彼等はそんな戦いを今までずっと繰り広げて来た。
ならば後はその矛先を変えるだけ。
そこに国連の助けが加われば、行動力も格段に上がるだろう。
そして勇達はアルトラン・ネメシスの捜索に一本化出来る。
世界を救う事に専念出来るという訳だ。
これがデュランの考えた、最も効率的な役割分担なのである。
でも、どうやら話はそれだけでは済まなさそうだ。
「私の試算だと、敵性勢力の鎮圧には四~五人居れば十分だという結論が出た。 それも後方支援無しで。 そこでなんだけど、我々の戦力を一部グランディーヴァに預けても良いかなと思っていてね」
そう、デュランはグランディーヴァの戦力増強をも考えていたのだ。
然るべき日が訪れた時、少しでも有利に戦える様にと。
勇達もこの提案にはさすがに驚いた様だ。
戦力提供―――その期待と不安で。
先日あれ程の激戦を繰り広げた程の猛者であるデュラン達。
その一部が仲間になるのであれば、これ以上心強い増援は無いだろう。
ただ、粒揃いの人格者ばかりとあって不安もある、といった感じだ。
では派遣される仲間とは一体誰なのか。
そんな期待と不安が駆け巡る中で、遂にデュランがその口を開く。
「それで是非とも、君達にはピューリーを託したいと思っている」
デュランが選択したのはなんと、あの弾丸少女ピューリー。
最も気性が荒く、扱い辛そうな事この上無い人物だ。
その提案を前に、勇達は動揺を隠せない。
彼女の暴力性は元より、年端も行かない少女を預けようと思った魂胆が読めないからだ。
茶奈に至ってはもはや思考が真白で、くりんとした目を浮かべて固まる有様である。
あれだけの激闘を繰り広げ、しかもボッコボコにした相手なのだから。
その心境はとても複雑なことだろう。
だが、その一言で最も強い動揺を見せたのは他でもない―――ピューリー当人だった。
「ハァ!? ふっざけンなデュラン!! 何でだよ!? 何で俺なんだよッ!?」
たちまちその動揺が彼女らしい怒りへと変わり、怒号を撒き散らし始める。
他の仲間達が動揺を見せない辺り、彼等は事情を知っているのだろうか。
どうやら彼女だけが聴かされていなかったらしい。
「いいかいピューリー? 君は戦える力を持っていてもまだ子供だ。 本来は戦場に立つべきではない。 だったら我々と行動を共にするよりも、グランディーヴァの様な環境の良い場所で少しでも正しい考え方を学んだ方がいい」
「嫌だあッ!! 俺は行かないからな!! デュランと一緒じゃなきゃあ絶対に行かないからなあッ!!」
しかしそこはやはり子供らしく駄々を捏ねる様に。
遂には机へと必死にしがみ付き、「がるるる」と唸り声さえ上げる始末。
断固拒否の構えである。
ただしこのアルクトゥーン内にて机にしがみ付くというのは、つまりそういう事になる訳で。
そんな短絡的とも言える彼女らしい行動を前にして、デュランの顔に笑いを堪えた苦悶が浮かぶ。
「我儘を言わないでおくれピューリー。 それが君の為なんだ。 少しでも人らしい考え方を―――」
「デュランはいつもそうだッ!! 人の事考えたフリして何も考えてないじゃんかあッ!! デュゼローのオッサンが死んだ時だってえ!!」
ただ、当人はとても必死だ。
仲間達がその姿を見て戸惑う程に。
デュランとピューリーの関係は仲間達よりもずっと長い。
少しの間だけだったが、デュゼローの下で兄妹の様に育ってきたから。
だからこんな子供で口が悪くとも、ピューリーは誰よりもデュランの事を知っている。
良い所も悪い所もひっくるめて。
こうして優しさを押し付けようとしてくる所も何もかも。
「もう〝サヨナラ〟は嫌だあ!! みんな一緒じゃなきゃ嫌だあ!!」
「困ったな……どうしたものか」
こうもなってしまえば会議どころではなく。
デュラン達の困惑を前に、グランディーヴァ勢も揃ってお手上げ状態で。
喚き散らすピューリーのペースにしっかり嵌ってしまった様だ。
しかしそんな時、なおも机にしがみ付くピューリーの下に一人の人影が。
「えっと……ピューリー、ちょっといいかい?」
誰しもがそこで初めて、その人物に気付く。
皆が揃ってピューリーに釘付けになっていたが故に。
それはなんと勇。
こっそりと歩み寄っては、ピューリーの傍で身を屈ませていて。
互いの視線が合った時、再びその口が開く。
「デュランはきっとさ、全てが終わった後の事を考えているんだ。 〝サヨナラ〟もしないで世界が救われた後の事をね。 そうなったらもう戦う事も無いし、ピューリーも普通の人と同じ生活を送る事になると思うんだ」
「だ、だからなんだよ」
「でも、そんな我儘ばかり言ってたらデュラン達も困っちゃうだろ? 折角世界を救ったのに、ピューリーが救われてなかったらさ」
「それは……」
ピューリーの人生はフララジカによって大きく変わった。
良くも悪くも。
でもその代償として、こんな悪態を付く様な子に育ってしまって。
その上で戦いに塗れてしまえば、もう普通の生活に戻る事は難しいだろう。
例えそれを切望しても、このまま大人になってしまえば変わる事は難しくなる。
つまり、このままではピューリーが救われない。
社会の外側の人間として生きていくしかなくなってしまう。
デュランはそれを危惧しているのだ。
だからグランディーヴァに預けたいと願っているのだろう。
ここには同世代の者も居て、親の代わりになれる者も多い。
デュランの傍に居るよりもずっと人間らしく生きる事が出来るから。
「けどさ、もしも、もしもだよ? ピューリーがそんな我儘も言わずに、そんな口調も自分で直して、戦い以外では真面目に出来たら、多分何の心配も要らないんじゃないかなぁ」
「ッ!?」
「ユウ、それは……」
でもそれが解決に繋がるとは限らない。
必要なのはピューリー自身が変わる事で、環境が全てではないから。
ならば、その意識さえ変えてしまえばいい。
「ピューリーはもう自分で考えられるくらい色んな事を知っただろ? それなら、俺達の所に来なくてもよくなれる方法も考えられるし、学ぶ事も出来るハズさ。 ピューリーならそれくらい、出来るよな?」
「……ウン」
ピューリーはまだ子供でも、デュランと共にずっと多くの事を学んできた。
普通の子供では体験出来ない様な世界を、命力を通して心で感じて来た。
だから大人の様に考える事も出来るし、普通の子供よりもずっと現実的に見る事が出来る。
勇の言った通り、理屈で考える事だって。
「なら、何の心配も要らなさそうだ。 俺達は無理に君を連れて行くつもりは無いし、君が望まないならデュランと一緒に居るのを勧める事も出来る。 後は君次第だ」
「わ、わかった。 ワタシがんばる」
「よしっ、さすがだ!」
なら、こうしてキッカケさえ与えて、後は彼女自身で変わるだけ。
そうすれば、今すぐは無理でもいつかは変われるだろう。
まずはその一歩が出来たから上出来だ。
〝良く出来ました〟と褒める様に、勇がピューリーの頭をそっと撫でて見せる。
そうする事が彼女にとって一番の教育方法なのだと、まるでデュランへと諭す様に。
「……どうやら子供への教え方に関しても、ユウの方が一枚上手な様だね」
「昔親戚の子と遊んだりもしてたし、魔特隊の頃もこういう事があったからさ。 教え方も自然とね」
人というものは経験して初めて理解出来るものだ。
勇がこうして子供に教える事も、ピューリーが何を正しいと思って矯正するかも。
身の回りに近い者から影響を受けて、考えて学んでいくのだから。
心で直接理解出来る命力という媒体があるからこそ、その成長はきっと誰よりも速いことだろう。
勇がこう見せたから、デュランもきっと学んだはずだ。
ピューリーが進むべき道の見せ方を。
「まぁそういう訳で、教育を理由にしてピューリーと別れるのは無しにしといてあげてくれ。 本人もわかってくれたと思うからさ」
「ああ、そうだね。 ならピューリーは私達が責任を持って見守るとするよ。 この子は私達にとって掛け替えの無い大事な仲間なのだから」
きっとデュランも本当はピューリーと一緒に居たかったのかもしれない。
色々あっても想っても、それでもずっとずっと一緒に居続けた家族だから。
でももうこうして別れる必要も無くなったから。
二人の顔には、安堵に包まれた大らかな笑みが浮かび上がっていた。
勇とデュランのやり取りが終わり、間も無く会議室に緊張が走る。
遂に本懐とも言える話し合いが始まるのだ。
この会議を取り仕切るのは艦長である莉那。
艦長代理に龍を据え、修理などを任せての登壇で。
書記として笠本とミシェルが隣に座り、二陣営の間に据える様にして立つ。
グランディーヴァ側は勇を筆頭に、茶奈、心輝、瀬玲などの戦闘部隊員達は全員出席。
ただし、口を挟むつもりの無いイシュライトやバロルフといった者は部屋の隅で傍聴の姿勢だ。
戦闘員ではなくとも、カプロやレンネィ、ラクアンツェ、更にはアンディもが外枠席での出席となっている。
救世同盟側は当然デュラン筆頭の、エクィオ、アルバ、ピューリー、キャロ、パーシィの総勢。
加えて、彼等側の補佐として福留が傍に立つ。
それを見守るのは当然、国連代表であるリッダとアネット。
二人らしからぬ真剣な表情で会議の動向を静かに見守っている。
部屋の隅では仰々しい立体カメラリフトを操る千野とモッチの姿が。
後は住人側代表者である園部母などの一部同伴組も参加中だ。
そんな大人数の中、莉那の一言で始まった会議が早速その動きを見せ始める。
「まぁ堅苦しくやるつもりは無いから、リラックスして話そう。 とりあえず俺達グランディーヴァ側のスタンスとしてはアルトラン・ネメシスの捜索をメインに考えているんだけど……正直な所、宛ても無いから手探りから始めないといけない状況だ。 各国でも探してるみたいだけど、足取りはまだ掴めてないしな」
話し合いのスタートを決めたのは当然グランディーヴァ勢。
ただし、その内容はと言えばあまりパッとしないが。
何せアルトラン・ネメシス対策は人類・魔者の戦いを納めてからと決めていて。
その対策方法はまさにこれから考えようとしている所だったからだ。
もちろん各国にア・リーヴェの追跡情報を随時リークはしているのだが―――
やはり相手もしたたかで、なかなか尻尾どころか影をも掴ませてくれないのだそうな。
という訳で勇が簡単に伝えられるのはこの程度でしかない。
「そこで、俺達としてはまずデュラン達の意見を聞いてみたいと思ってる。 きっと今日に向けて何か提案を考えているんじゃないかって思ったからさ」
「そうだね。 そういう事なら私達から話す事にしようか。 といっても、考えて来たのはこれからの方向性の提案くらいだがね」
でもこれは多人数による話し合いだ。
これから話を進めて発展させる場だからこそ、話題は少なくても構わない。
後は出た意見から皆が考えて、導き出された答えの採決を取ればいいだけなのだから。
そしてこう対話のボールを渡されれば、デュランが黙っていられる訳もない。
「私達の考えだが、グランディーヴァの動きはそれで良いと思う。 ただし、アルトラン・ネメシス捜索に一本化して、だがね」
こうして打ち出されたのは、デュラン側から考えたグランディーヴァの動向で。
それも勇達側の意思に沿い、その上で条件を突き詰めたもの。
ただ、この意見にはまだ埋められていない穴がある。
勇達が懸念して止まない落とし穴が。
「救世同盟の残党とかはどうするつもりなんだ?」
それは人類・魔者側に残された問題だ。
確かに救世同盟の発足はデュランが祖であるが、その考えはもはや多様化していて。
例えデュランがこうして改心したとしても、全ての救世同盟信者が従うとは限らない。
実は今も、世界の至る所で犯行声明は上がり続けている。
世界各地では未だ救世同盟の名の下に争いを広げようとしている者達が居るのだ。
彼等を止めなければ、世界の意思を統一するなんて事は到底不可能だろう。
でも、デュランにそんな事を考慮出来ない訳が無い。
「強硬派の制圧は我々がやるつもりだ。 つまり、二手に分かれて行動するという事さ。 互いの行動を先鋭化する事でより鋭敏に動ける様になるはずだからね。 国連にも協力してもらって情報を共有すれば混乱する事も無いだろう。 いざという時はアルトラン・ネメシスを挟撃する事も可能かもしれないし」
救世同盟という巨大組織を動かしてきた手腕はやはり伊達ではない様だ。
どうやら相応に考えを巡らせてきたらしい。
デュランの意見はこれだけに留まらない。
「それに救世同盟の事は我々が一番良く知っている。 世界に散らばった関連団体の情報が全て揃っているからね。 だからどこで誰が何をしようとしているかもすぐにわかる。 それに、私達にはこの艦の様な足こそ無いが、各地を単独で動ける知識と経験がある。 その気になれば、私達が個々に紛争を鎮圧出来るだろうさ。 恐らくだが、今の私達に敵う団体はもう居ないからね」
つまり、各地の紛争鎮圧にわざわざ勇達の力を割く必要は無いという事だ。
それ程の規模も無ければ、彼等の手を煩わせる程の強者が居る訳も無く。
例え居たとしても、勇と同等に戦えたデュランなら一人でも戦えるだろう。
そのデュランでなくとも、エクィオ達の様な強者なら十分に対応可能だ。
彼等一人一人が各国の軍隊一個師団にも勝る戦力を誇っているのだから。
加えて、彼等はそんな戦いを今までずっと繰り広げて来た。
ならば後はその矛先を変えるだけ。
そこに国連の助けが加われば、行動力も格段に上がるだろう。
そして勇達はアルトラン・ネメシスの捜索に一本化出来る。
世界を救う事に専念出来るという訳だ。
これがデュランの考えた、最も効率的な役割分担なのである。
でも、どうやら話はそれだけでは済まなさそうだ。
「私の試算だと、敵性勢力の鎮圧には四~五人居れば十分だという結論が出た。 それも後方支援無しで。 そこでなんだけど、我々の戦力を一部グランディーヴァに預けても良いかなと思っていてね」
そう、デュランはグランディーヴァの戦力増強をも考えていたのだ。
然るべき日が訪れた時、少しでも有利に戦える様にと。
勇達もこの提案にはさすがに驚いた様だ。
戦力提供―――その期待と不安で。
先日あれ程の激戦を繰り広げた程の猛者であるデュラン達。
その一部が仲間になるのであれば、これ以上心強い増援は無いだろう。
ただ、粒揃いの人格者ばかりとあって不安もある、といった感じだ。
では派遣される仲間とは一体誰なのか。
そんな期待と不安が駆け巡る中で、遂にデュランがその口を開く。
「それで是非とも、君達にはピューリーを託したいと思っている」
デュランが選択したのはなんと、あの弾丸少女ピューリー。
最も気性が荒く、扱い辛そうな事この上無い人物だ。
その提案を前に、勇達は動揺を隠せない。
彼女の暴力性は元より、年端も行かない少女を預けようと思った魂胆が読めないからだ。
茶奈に至ってはもはや思考が真白で、くりんとした目を浮かべて固まる有様である。
あれだけの激闘を繰り広げ、しかもボッコボコにした相手なのだから。
その心境はとても複雑なことだろう。
だが、その一言で最も強い動揺を見せたのは他でもない―――ピューリー当人だった。
「ハァ!? ふっざけンなデュラン!! 何でだよ!? 何で俺なんだよッ!?」
たちまちその動揺が彼女らしい怒りへと変わり、怒号を撒き散らし始める。
他の仲間達が動揺を見せない辺り、彼等は事情を知っているのだろうか。
どうやら彼女だけが聴かされていなかったらしい。
「いいかいピューリー? 君は戦える力を持っていてもまだ子供だ。 本来は戦場に立つべきではない。 だったら我々と行動を共にするよりも、グランディーヴァの様な環境の良い場所で少しでも正しい考え方を学んだ方がいい」
「嫌だあッ!! 俺は行かないからな!! デュランと一緒じゃなきゃあ絶対に行かないからなあッ!!」
しかしそこはやはり子供らしく駄々を捏ねる様に。
遂には机へと必死にしがみ付き、「がるるる」と唸り声さえ上げる始末。
断固拒否の構えである。
ただしこのアルクトゥーン内にて机にしがみ付くというのは、つまりそういう事になる訳で。
そんな短絡的とも言える彼女らしい行動を前にして、デュランの顔に笑いを堪えた苦悶が浮かぶ。
「我儘を言わないでおくれピューリー。 それが君の為なんだ。 少しでも人らしい考え方を―――」
「デュランはいつもそうだッ!! 人の事考えたフリして何も考えてないじゃんかあッ!! デュゼローのオッサンが死んだ時だってえ!!」
ただ、当人はとても必死だ。
仲間達がその姿を見て戸惑う程に。
デュランとピューリーの関係は仲間達よりもずっと長い。
少しの間だけだったが、デュゼローの下で兄妹の様に育ってきたから。
だからこんな子供で口が悪くとも、ピューリーは誰よりもデュランの事を知っている。
良い所も悪い所もひっくるめて。
こうして優しさを押し付けようとしてくる所も何もかも。
「もう〝サヨナラ〟は嫌だあ!! みんな一緒じゃなきゃ嫌だあ!!」
「困ったな……どうしたものか」
こうもなってしまえば会議どころではなく。
デュラン達の困惑を前に、グランディーヴァ勢も揃ってお手上げ状態で。
喚き散らすピューリーのペースにしっかり嵌ってしまった様だ。
しかしそんな時、なおも机にしがみ付くピューリーの下に一人の人影が。
「えっと……ピューリー、ちょっといいかい?」
誰しもがそこで初めて、その人物に気付く。
皆が揃ってピューリーに釘付けになっていたが故に。
それはなんと勇。
こっそりと歩み寄っては、ピューリーの傍で身を屈ませていて。
互いの視線が合った時、再びその口が開く。
「デュランはきっとさ、全てが終わった後の事を考えているんだ。 〝サヨナラ〟もしないで世界が救われた後の事をね。 そうなったらもう戦う事も無いし、ピューリーも普通の人と同じ生活を送る事になると思うんだ」
「だ、だからなんだよ」
「でも、そんな我儘ばかり言ってたらデュラン達も困っちゃうだろ? 折角世界を救ったのに、ピューリーが救われてなかったらさ」
「それは……」
ピューリーの人生はフララジカによって大きく変わった。
良くも悪くも。
でもその代償として、こんな悪態を付く様な子に育ってしまって。
その上で戦いに塗れてしまえば、もう普通の生活に戻る事は難しいだろう。
例えそれを切望しても、このまま大人になってしまえば変わる事は難しくなる。
つまり、このままではピューリーが救われない。
社会の外側の人間として生きていくしかなくなってしまう。
デュランはそれを危惧しているのだ。
だからグランディーヴァに預けたいと願っているのだろう。
ここには同世代の者も居て、親の代わりになれる者も多い。
デュランの傍に居るよりもずっと人間らしく生きる事が出来るから。
「けどさ、もしも、もしもだよ? ピューリーがそんな我儘も言わずに、そんな口調も自分で直して、戦い以外では真面目に出来たら、多分何の心配も要らないんじゃないかなぁ」
「ッ!?」
「ユウ、それは……」
でもそれが解決に繋がるとは限らない。
必要なのはピューリー自身が変わる事で、環境が全てではないから。
ならば、その意識さえ変えてしまえばいい。
「ピューリーはもう自分で考えられるくらい色んな事を知っただろ? それなら、俺達の所に来なくてもよくなれる方法も考えられるし、学ぶ事も出来るハズさ。 ピューリーならそれくらい、出来るよな?」
「……ウン」
ピューリーはまだ子供でも、デュランと共にずっと多くの事を学んできた。
普通の子供では体験出来ない様な世界を、命力を通して心で感じて来た。
だから大人の様に考える事も出来るし、普通の子供よりもずっと現実的に見る事が出来る。
勇の言った通り、理屈で考える事だって。
「なら、何の心配も要らなさそうだ。 俺達は無理に君を連れて行くつもりは無いし、君が望まないならデュランと一緒に居るのを勧める事も出来る。 後は君次第だ」
「わ、わかった。 ワタシがんばる」
「よしっ、さすがだ!」
なら、こうしてキッカケさえ与えて、後は彼女自身で変わるだけ。
そうすれば、今すぐは無理でもいつかは変われるだろう。
まずはその一歩が出来たから上出来だ。
〝良く出来ました〟と褒める様に、勇がピューリーの頭をそっと撫でて見せる。
そうする事が彼女にとって一番の教育方法なのだと、まるでデュランへと諭す様に。
「……どうやら子供への教え方に関しても、ユウの方が一枚上手な様だね」
「昔親戚の子と遊んだりもしてたし、魔特隊の頃もこういう事があったからさ。 教え方も自然とね」
人というものは経験して初めて理解出来るものだ。
勇がこうして子供に教える事も、ピューリーが何を正しいと思って矯正するかも。
身の回りに近い者から影響を受けて、考えて学んでいくのだから。
心で直接理解出来る命力という媒体があるからこそ、その成長はきっと誰よりも速いことだろう。
勇がこう見せたから、デュランもきっと学んだはずだ。
ピューリーが進むべき道の見せ方を。
「まぁそういう訳で、教育を理由にしてピューリーと別れるのは無しにしといてあげてくれ。 本人もわかってくれたと思うからさ」
「ああ、そうだね。 ならピューリーは私達が責任を持って見守るとするよ。 この子は私達にとって掛け替えの無い大事な仲間なのだから」
きっとデュランも本当はピューリーと一緒に居たかったのかもしれない。
色々あっても想っても、それでもずっとずっと一緒に居続けた家族だから。
でももうこうして別れる必要も無くなったから。
二人の顔には、安堵に包まれた大らかな笑みが浮かび上がっていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる