時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」

~効に率、童に克己を賭す~

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「ではこれより、グランディーヴァと救世同盟による活動決議を行います」

 勇とデュランのやり取りが終わり、間も無く会議室に緊張が走る。
 遂に本懐とも言える話し合いが始まるのだ。

 この会議を取り仕切るのは艦長である莉那。
 艦長代理に龍を据え、修理などを任せての登壇で。
 書記として笠本とミシェルが隣に座り、二陣営の間に据える様にして立つ。

 グランディーヴァ側は勇を筆頭に、茶奈、心輝、瀬玲などの戦闘部隊員達は全員出席。
 ただし、口を挟むつもりの無いイシュライトやバロルフといった者は部屋の隅で傍聴の姿勢だ。
 戦闘員ではなくとも、カプロやレンネィ、ラクアンツェ、更にはアンディもが外枠席での出席となっている。

 救世同盟側は当然デュラン筆頭の、エクィオ、アルバ、ピューリー、キャロ、パーシィの総勢。
 加えて、彼等側の補佐として福留が傍に立つ。

 それを見守るのは当然、国連代表であるリッダとアネット。
 二人らしからぬ真剣な表情で会議の動向を静かに見守っている。

 部屋の隅では仰々しい立体カメラリフトを操る千野とモッチの姿が。
 後は住人側代表者である園部母などの一部同伴組も参加中だ。

 そんな大人数の中、莉那の一言で始まった会議が早速その動きを見せ始める。

「まぁ堅苦しくやるつもりは無いから、リラックスして話そう。 とりあえず俺達グランディーヴァ側のスタンスとしてはアルトラン・ネメシスの捜索をメインに考えているんだけど……正直な所、宛ても無いから手探りから始めないといけない状況だ。 各国でも探してるみたいだけど、足取りはまだ掴めてないしな」

 話し合いのスタートを決めたのは当然グランディーヴァ勢。
 ただし、その内容はと言えばあまりパッとしないが。

 何せアルトラン・ネメシス対策は人類・魔者の戦いを納めてからと決めていて。
 その対策方法はまさにこれから考えようとしている所だったからだ。

 もちろん各国にア・リーヴェの追跡情報を随時リークはしているのだが―――
 やはり相手もしたたかで、なかなか尻尾どころか影をも掴ませてくれないのだそうな。
 
 という訳で勇が簡単に伝えられるのはこの程度でしかない。

「そこで、俺達としてはまずデュラン達の意見を聞いてみたいと思ってる。 きっと今日に向けて何か提案を考えているんじゃないかって思ったからさ」

「そうだね。 そういう事なら私達から話す事にしようか。 といっても、考えて来たのはこれからの方向性の提案くらいだがね」

 でもこれは多人数による話し合いだ。
 これから話を進めて発展させる場だからこそ、話題は少なくても構わない。
 後は出た意見から皆が考えて、導き出された答えの採決を取ればいいだけなのだから。

 そしてこう対話のボールを渡されれば、デュランが黙っていられる訳もない。

「私達の考えだが、グランディーヴァの動きはそれで良いと思う。 ただし、アルトラン・ネメシス捜索に一本化して、だがね」

 こうして打ち出されたのは、デュラン側から考えたグランディーヴァの動向で。
 それも勇達側の意思に沿い、その上で条件を突き詰めたもの。

 ただ、この意見にはまだ埋められていない穴がある。
 勇達が懸念して止まない落とし穴が。

「救世同盟の残党とかはどうするつもりなんだ?」

 それは人類・魔者側に残された問題だ。

 確かに救世同盟の発足はデュランが祖であるが、その考えはもはや多様化していて。
 例えデュランがこうして改心したとしても、全ての救世同盟信者が従うとは限らない。

 実は今も、世界の至る所で犯行声明は上がり続けている。
 世界各地では未だ救世同盟の名の下に争いを広げようとしている者達が居るのだ。
 彼等を止めなければ、世界の意思を統一するなんて事は到底不可能だろう。

 でも、デュランにそんな事を考慮出来ない訳が無い。

の制圧は我々がやるつもりだ。 つまり、二手に分かれて行動するという事さ。 互いの行動を先鋭化する事でより鋭敏に動ける様になるはずだからね。 国連にも協力してもらって情報を共有すれば混乱する事も無いだろう。 いざという時はアルトラン・ネメシスを挟撃する事も可能かもしれないし」

 救世同盟という巨大組織を動かしてきた手腕はやはり伊達ではない様だ。

 どうやら相応に考えを巡らせてきたらしい。
 デュランの意見はこれだけに留まらない。

「それに救世同盟の事は我々が一番良く知っている。 世界に散らばった関連団体の情報が全て揃っているからね。 だからどこで誰が何をしようとしているかもすぐにわかる。 それに、私達にはこの艦の様な足こそ無いが、各地を単独で動ける知識と経験がある。 その気になれば、私達が個々に紛争を鎮圧出来るだろうさ。 恐らくだが、今の私達に敵う団体はもう居ないからね」

 つまり、各地の紛争鎮圧にわざわざ勇達の力を割く必要は無いという事だ。
 それ程の規模も無ければ、彼等の手を煩わせる程の強者が居る訳も無く。
 例え居たとしても、勇と同等に戦えたデュランなら一人でも戦えるだろう。

 そのデュランでなくとも、エクィオ達の様な強者なら十分に対応可能だ。
 彼等一人一人が各国の軍隊一個師団にも勝る戦力を誇っているのだから。

 加えて、彼等はそんな戦いを今までずっと繰り広げて来た。
 ならば後はその矛先を変えるだけ。
 そこに国連の助けが加われば、行動力も格段に上がるだろう。

 そして勇達はアルトラン・ネメシスの捜索に一本化出来る。
 世界を救う事に専念出来るという訳だ。



 これがデュランの考えた、最も効率的な役割分担なのである。



 でも、どうやら話はそれだけでは済まなさそうだ。

「私の試算だと、敵性勢力の鎮圧には四~五人居れば十分だという結論が出た。 それも後方支援無しで。 そこでなんだけど、我々の戦力を一部グランディーヴァに預けても良いかなと思っていてね」

 そう、デュランはグランディーヴァの戦力増強をも考えていたのだ。
 然るべき日が訪れた時、少しでも有利に戦える様にと。

 勇達もこの提案にはさすがに驚いた様だ。
 戦力提供―――その期待と不安で。

 先日あれ程の激戦を繰り広げた程の猛者であるデュラン達。
 その一部が仲間になるのであれば、これ以上心強い増援は無いだろう。
 ただ、粒揃いの人格者ばかりとあって不安もある、といった感じだ。

 では派遣される仲間とは一体誰なのか。

 そんな期待と不安が駆け巡る中で、遂にデュランがその口を開く。



「それで是非とも、君達にはピューリーを託したいと思っている」



 デュランが選択したのはなんと、あの弾丸少女ピューリー。
 最も気性が荒く、扱い辛そうな事この上無い人物だ。

 その提案を前に、勇達は動揺を隠せない。
 彼女の暴力性は元より、年端も行かない少女を預けようと思った魂胆が読めないからだ。

 茶奈に至ってはもはや思考が真白で、くりんとした目を浮かべて固まる有様である。
 あれだけの激闘を繰り広げ、しかもボッコボコにした相手なのだから。
 その心境はとても複雑なことだろう。

 だが、その一言で最も強い動揺を見せたのは他でもない―――ピューリー当人だった。

「ハァ!? ふっざけンなデュラン!! 何でだよ!? 何で俺なんだよッ!?」

 たちまちその動揺が彼女らしい怒りへと変わり、怒号を撒き散らし始める。

 他の仲間達が動揺を見せない辺り、彼等は事情を知っているのだろうか。
 どうやら彼女だけが聴かされていなかったらしい。

「いいかいピューリー? 君は戦える力を持っていてもまだ子供だ。 本来は戦場に立つべきではない。 だったら我々と行動を共にするよりも、グランディーヴァの様な環境の良い場所で少しでも正しい考え方を学んだ方がいい」

「嫌だあッ!! 俺は行かないからな!! デュランと一緒じゃなきゃあ絶対に行かないからなあッ!!」

 しかしそこはやはり子供らしく駄々を捏ねる様に。
 遂には机へと必死にしがみ付き、「がるるる」と唸り声さえ上げる始末。
 断固拒否の構えである。

 ただしこのアルクトゥーン内にて机にしがみ付くというのは、つまりになる訳で。
 そんな短絡的とも言える彼女らしい行動を前にして、デュランの顔に笑いを堪えた苦悶が浮かぶ。

「我儘を言わないでおくれピューリー。 それが君の為なんだ。 少しでも人らしい考え方を―――」
「デュランはいつもそうだッ!! 人の事考えたフリして何も考えてないじゃんかあッ!! デュゼローのオッサンが死んだ時だってえ!!」

 ただ、当人はとても必死だ。
 仲間達がその姿を見て戸惑う程に。

 デュランとピューリーの関係は仲間達よりもずっと長い。
 少しの間だけだったが、デュゼローの下で兄妹の様に育ってきたから。

 だからこんな子供で口が悪くとも、ピューリーは誰よりもデュランの事を知っている。
 良い所も悪い所もひっくるめて。

 こうして優しさを押し付けようとしてくる所も何もかも。

「もう〝サヨナラ〟は嫌だあ!! みんな一緒じゃなきゃ嫌だあ!!」
 
「困ったな……どうしたものか」

 こうもなってしまえば会議どころではなく。
 デュラン達の困惑を前に、グランディーヴァ勢も揃ってお手上げ状態で。
 喚き散らすピューリーのペースにしっかり嵌ってしまった様だ。



 しかしそんな時、なおも机にしがみ付くピューリーの下に一人の人影が。



「えっと……ピューリー、ちょっといいかい?」

 誰しもがそこで初めて、その人物に気付く。
 皆が揃ってピューリーに釘付けになっていたが故に。

 それはなんと勇。
 こっそりと歩み寄っては、ピューリーの傍で身を屈ませていて。

 互いの視線が合った時、再びその口が開く。

「デュランはきっとさ、全てが終わった後の事を考えているんだ。 〝サヨナラ〟もしないで世界が救われた後の事をね。 そうなったらもう戦う事も無いし、ピューリーも普通の人と同じ生活を送る事になると思うんだ」

「だ、だからなんだよ」

「でも、そんな我儘ばかり言ってたらデュラン達も困っちゃうだろ? 折角世界を救ったのに、ピューリーが救われてなかったらさ」

「それは……」

 ピューリーの人生はフララジカによって大きく変わった。
 良くも悪くも。

 でもその代償として、こんな悪態を付く様な子に育ってしまって。
 その上で戦いに塗れてしまえば、もう普通の生活に戻る事は難しいだろう。
 例えそれを切望しても、このまま大人になってしまえば変わる事は難しくなる。

 つまり、このままではピューリーが救われない。

 社会の外側の人間として生きていくしかなくなってしまう。
 デュランはそれを危惧しているのだ。
 だからグランディーヴァに預けたいと願っているのだろう。

 ここには同世代の者も居て、親の代わりになれる者も多い。
 デュランの傍に居るよりもずっと人間らしく生きる事が出来るから。

「けどさ、もしも、もしもだよ? ピューリーがそんな我儘も言わずに、そんな口調も自分で直して、戦い以外では真面目に出来たら、多分何の心配も要らないんじゃないかなぁ」

「ッ!?」

「ユウ、それは……」

 でもそれが解決に繋がるとは限らない。
 必要なのはピューリー自身が変わる事で、環境が全てではないから。

 ならば、その意識さえ変えてしまえばいい。

「ピューリーはもう自分で考えられるくらい色んな事を知っただろ? それなら、俺達の所に来なくてもよくなれる方法も考えられるし、学ぶ事も出来るハズさ。 ピューリーならそれくらい、出来るよな?」

「……ウン」

 ピューリーはまだ子供でも、デュランと共にずっと多くの事を学んできた。
 普通の子供では体験出来ない様な世界を、命力を通して心で感じて来た。

 だから大人の様に考える事も出来るし、普通の子供よりもずっと現実的に見る事が出来る。
 勇の言った通り、理屈で考える事だって。

「なら、何の心配も要らなさそうだ。 俺達は無理に君を連れて行くつもりは無いし、君が望まないならデュランと一緒に居るのを勧める事も出来る。 後は君次第だ」

「わ、わかった。 がんばる」

「よしっ、さすがだ!」

 なら、こうしてキッカケさえ与えて、後は彼女自身で変わるだけ。
 そうすれば、今すぐは無理でもいつかは変われるだろう。
 まずはその一歩が出来たから上出来だ。

 〝良く出来ました〟と褒める様に、勇がピューリーの頭をそっと撫でて見せる。
 そうする事が彼女にとって一番の教育方法なのだと、まるでデュランへと諭す様に。

「……どうやら子供への教え方に関しても、ユウの方が一枚上手な様だね」

「昔親戚の子と遊んだりもしてたし、魔特隊の頃もこういう事があったからさ。 教え方も自然とね」

 人というものは経験して初めて理解出来るものだ。
 勇がこうして子供に教える事も、ピューリーが何を正しいと思って矯正するかも。
 身の回りに近い者から影響を受けて、考えて学んでいくのだから。
 心で直接理解出来る命力という媒体があるからこそ、その成長はきっと誰よりも速いことだろう。

 勇がこう見せたから、デュランもきっと学んだはずだ。
 ピューリーが進むべき道の見せ方を。

「まぁそういう訳で、教育を理由にしてピューリーと別れるのは無しにしといてあげてくれ。 本人もわかってくれたと思うからさ」

「ああ、そうだね。 ならピューリーは私達が責任を持って見守るとするよ。 この子は私達にとって掛け替えの無い大事な仲間なのだから」

 きっとデュランも本当はピューリーと一緒に居たかったのかもしれない。
 色々あっても想っても、それでもずっとずっと一緒に居続けた家族だから。

 でももうこうして別れる必要も無くなったから。



 二人の顔には、安堵に包まれた大らかな笑みが浮かび上がっていた。


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