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第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
~母に律、罪に直訴なれば~
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ピューリーの我儘から始まり、瀬玲とキャロの暴走、そしてまさかのデュランと心輝の意気投合劇。
会議が纏まりも付かないままの騒動の連続に、真面目に参加しているメンツの不満は隠せず。
あのパーシィがマトモ勢に見えてしまうのだからしょうもない。
だがそんな苦境とも言える状況下で、とある人物が遂に痺れを切らす事となる。
「こらっ!! アンタ達もういい加減になさい!! 他の皆が困ってるでしょうが!!」
その時、オタク談義にかまけていた心輝とデュランの後腰部に凄まじい衝撃が。
パパァンッ!!!
「いってェ!!」
「うおおッ!?」
例え鍛えられた者でも、油断し緩んでいれば痛いものは痛い。
突如として走った痛みに驚き、二人揃って床に転がり行く。
それを成したのはなんと―――園部母。
母はやはり強し。
相手が天士だろうが救世同盟代表だろうがもはや関係無し。
オタクである息子を扱い慣れてるが故に、同類ならば容赦はしない。
「も、申し訳ない。 久しく見ない同志だったものでつい……」
「どうしてこういう所はシン君とそっくりなのかしらねぇ。 顔は良いのに」
「オタクは心で通じ合うんだよ。 顔じゃねぇんだよっていだだだ!!」
更に息子であればもう情け無用だ。
耳を引っ張り上げてはその屁理屈さえも問答無用に黙らせる。
これには隣のデュランも慄きを隠せず。
遂には心輝を犠牲にし、そそくさと自分の席へと戻るより他にない。
「やはり母は偉大だ。 こうして叱ってくれる親が居るシンキ=ソノベが羨ましいよ。 私の両親は若い頃に死別したからね」
おまけに苦し紛れの誉め言葉を残して。
しかも同情を誘う様な事実も添えて防備も万全。
アフターケアを忘れない辺りは、やはり猛者らしく心輝よりも一歩上か。
「さらっと重い事言うなよ。 俺はもうツッコまないからな?」
冷静な勇から見ればツッコミどころ満載には違いないが。
ゲームや漫画のライバルキャラクターは大抵、仲間になった途端に弱くなるのだという。
でもそれは敵対して見えていなかった弱点が露呈するからそう感じるもので。
こうしてデュランの様に弱点まみれならば、こうも抜けて見えるのはもはや免れない。
天は二物を与えず。
どうやらデュランの様な人物にもしっかりその法則は働いていた様だ。
『私達にその様な法則を造った覚えはありませんけどね』
例え創世の女神がこう答えようとも、残念な事実は揺るぎそうも無い。
そんな訳でようやく場が引き締まり、会議は粛々と進められる事に。
こうもなれば進みは実に速かった。
戦闘員の移籍こそ叶わなかったが、支援人材に関しては話は別で。
補給物資や武装なども合わせ、余剰分全てがグランディーヴァ側へと提供される事に。
救世同盟側による紛争鎮圧に、基本装備以上は必要無いと試算されたからだ。
その見返りとして、リッダ提案の下に国連の協力が確約へ。
デュラン達の移動や身の回りのサポートなどの支援をこぎつけるという。
半ば独断ではあるが、状況が状況なだけに四の五を踏んではいられない。
こんな時こそ彼女の強気が活きる時だと言えるだろう。
他にも、両陣営の戦闘力開示もが行われた。
今まではあくまでも限られた情報から予測したデータしか無く不明瞭で。
これを機にと、互いに持っている正式情報を交換する事となったのだ。
例えば身体能力の様な基礎的情報から、命力上限値を数値化したものなど。
他にも個々に持つ技術や特殊能力なども余す事無く。
仲間となった今なら、出し惜しみする理由など全く無いのだから。
なお、茶奈のデータを見た時のデュラン達の反応は言うに及ばないだろう。
それと、今後のフランス情勢に関しても一つ情報が。
デュラン曰く、フランスは順次鎖国状態を解除していくのだそうだ。
ただし、鎖国時に学んだ治安維持対策は据え置きのままで。
元々人権や移民問題で沸騰していた国ともあり、学べた事はあったらしい。
これを機に、国をあるべき形へと戻していくつもりなのだとか。
世界に誇れる大国フランス、その相応しくあるべき姿へと。
その話が落ち着きを見せた所で議題は落ち着き。
最後は勇とデュランが代表として握手を交わす。
こうしてしっかりと互いに納得する形で、今後を決める会議は終わりを告げたのだった。
緊張を伴った時間が終われば、本質の緩い彼等なら口を開くのは当然で。
「終わった終わったぁ」という心輝の声が自然と思える程に、周囲が活気で溢れ返る。
もちろんそれは勇もデュランも一緒だ。
「こうして互いの事を知れて良かったよ。 思ったよりもずっと親しみが持てそうな人達だったしね」
「まぁちょっと似過ぎるかなぁとは思ったけどな。 こうして騒がしい所とかさ」
そんな勇の一言を前には、デュランも思わず小笑いを返していて。
でも、視線を逸らして見える光景を前にすれば穏やかとならずにはいられないだろう。
既に双方の仲間同士でワイワイと話の華を咲かせていたのだから。
「このあと懇談会も予定してるし、ゆっくりしていくといいさ。 それくらいの時間は許されるだろ?」
「そうだね。 今は君達の好意に甘えたいと思う。 私もシンキとオタク談義をしてみたいしね」
昨日の敵は今日の友。
互いに想いと力をぶつけ合ったのであれば、腹を割って話したのと同義だ。
命力という心の力で戦ったからこそ、わかり合えばこんな絆さえ生まれるのだろう。
同じ志を得た今なら、彼等はもう親しき戦友なのかもしれない。
「ならさぁ、そのオタク談義の前に話さなきゃなんない相手も居るってぇもんじゃないのかい?」
するとそんな時、二人の背後から軽快な声が上がる。
唯一、命力では無く鉛弾で戦った人物の声が。
「……そうだったな。 デュランには事前に解決しないといけない事があったんだよな。 改めて紹介するよ。 コイツがリデルさんの夫のディクシー=フィンシス。 俺達はディックって呼んでる」
そう、ディックだ。
今回の戦いにおいて最も関わりが深く、人生をも賭ける事となった者である。
その身軽さは既に普段通りで。
戦いの時の勇猛さと打って変わり、ニヤニヤとした笑みを零して歩み寄ってくる。
でもその心はと言えば―――
「わざわざ紹介すまんねぇ。 が、生憎俺はまだアンタと馴れ合うつもりは無い。 少なくとも、俺とリデルが納得出来るまではね」
「ああ、それは当然だろうさ。 私と君の問題は心だけで解決出来ない事柄だろうから」
デュランとディックの因縁は深い。
例えそれが間接的な物なのだとしても。
そこから生まれた蟠りがある限り、二人が相容れる事は出来ないだろう。
例えデュランが謝罪の意をいくら述べようとも。
もはやその因縁は、彼個人だけでは解決出来ない程に広がっているのだから。
「ま、リューシィの一件は黒鷲―――ジェロールのクソ野郎が仕組んだ事だったからな。 結果的にゃアンタに非は無いのかもしれんがね」
ただそれが間接的な因縁だという事をディックも理解しているからこそ、こうして穏やかに話せるもので。
話し合いの余地がある以上、デュランもまたその〝誠意〟に応えずにはいられない。
〝冷静でいてくれる〟、そんなディックの誠意に。
「その一件に関しては私も興味がある。 出来れば訊きたい、黒鷲が何を言い残したのかを」
「とんでもないぜぇ? アンタの立てた予定が一日二日くらいズレちまいそうなくらいにな」
ディックがジェロールとの戦いで得たのは、救世同盟の根幹をも揺るがしかねない事実だ。
何せ、フランス政府との仲介役という立場を利用し、双方を騙していい様に操っていたというのだから。
その話はここに訪れる途中で、勇から少し事情を聴いてはいた。
でも現状、勇は聞くだけで事実確認が出来る立場ではなく。
宣った本人も死亡した以上、まだこれは未確認情報に過ぎない。
デュラン側もまだ半信半疑といった状況だ。
気付けないほど巧みに工作されていたから。
そんな事もあって公に語れず、会議では議題に挙がらなかったという訳だ。
でも今こうして個人として話すなら話は別である。
デュランも当然、相手の心の色を読む事が出来る。
そして相対し、話題を芯とすれば、相手が真実を語っているかどうかは読み取れる。
だからディックは今この時にデュランと直接話す事を決めたのだ。
己が聴いた事実が如何な事で、どれだけ複雑なのかという事を全て語る為に。
こうしてディックは語った。
ジェロールとの戦いで交わした話の内容を。
己の心と体を震わせて、溢れ出そうなまでの感情を抑え込みながら。
その想いはデュランにもしっかりと届いたのだろう。
とめどなく溢れるディックの話を前に、デュランも神妙な面持ちを隠せない。
まさか自分がそこまで操られていたなどとは思いもしなかったのだから。
「―――なるほど。 こう言われて見れば思い当たる節もある。 そういう事なら確かに大問題かもしれない。 早急にフランス政府と共に情報の洗い出しをするとしよう」
「頼むぜぇ。 それ次第でアンタを見直す事も吝かじゃねぇからよい」
「ああ。 信じて待っていて欲しい。 我々はそんな不正を良しとする程、薄汚れてはいないつもりだからね」
確かに、デュラン達は今まで争いを広げる為に奔走していただろう。
でもそれは彼等が自分達を正義だと思っていたからやっていた事で、誠実さは勇達と変わらない。
むしろ嘘は嘘と断罪して手を下すまでの徹底ぶりなのだ、むしろ不正とは無縁の立場と言える。
そんなデュラン達自身が不正をしていたなどとわかれば、黙っていられる訳も無い。
ならば是正するだけだ。
もしかしたら当時のやりとりは互いの記録として残っているかもしれない。
そこにディックの証言を照らし合わせれば、きっと真実が見えて来るだろう。
ただ、二年もの歳月分であれば膨大な量の記録が待っている。
それこそ、デュラン達が確認で何日も拘束されてしまいそうな程に。
しかもそこに発覚を恐れて張られたジェロールの罠が潜んでいるとも限らない。
ジェロールは全く以って厄介極まりない遺産を残していった様だ。
どうやらデュラン達の立てた予定は早速瓦解する事になりそうで。
これには頭を抱えずにはいられない。
しかし頭を抱える問題はそれだけに限らない。
ディックにとっての問題はジェロールの一件だけではないから。
愛する妻であるリデルの事は特に、彼にとっては何より重要だからこそ。
「それとだがぁ、リデルにした事も俺は忘れちゃいねぇぜ。 場合によっちゃタダじゃあ済まさねぇ。 殺す事は無くとも、相応の仕返しはさせて貰う」
「……その一件は、正直に言えば私の落ち度だ。 彼女にはもう夫は居ないと思い込んでいた。 彼女の父親からの推薦もあって、ろくに調べもしなかったからね」
リデルの策略から始まったとはいえ、今やデュランとは愛人同士。
その事実を知った以上、正夫であるディックが怒らない訳も無い。
彼らしくひょうひょうと振る舞ってはいるが、きっと内心の釜は煮え滾っている事だろう。
「リデルは素敵な女性だ。 あのひたむきさに心打たれてしまう程にね。 だから彼女の想いに応えようと思っていたのだが……どうやら君にはどうしても勝てなかったらしい」
とはいえ、今となってはリデルはもうディック寄りだ。
デュランの情報を勇達に提供する程に。
自分の行いが正しく無かったとはいえ、こうもなれば気落ちもしよう。
愛した女性に裏切られてしまえば、心が荒んでしまう事も無理は無いから。
でもその疎いは、ただの思い過ごしだったのかもしれない。
「デュラン……ッ!!」
そんな沈んだ雰囲気の中、突如として甲高い声が会議室に響き渡る。
この場の誰しもが知る、優しさと気高さを重ね揃えた彼女の声が。
「ッ!? リデルッ!?」
そう、リデルである。
会議が終わった事に気付いて乗り込んで来たのだ。
「さぁてそれじゃあ聞かせて貰おうじゃないの。 お前さんのリデルに向けた想いって奴をよ」
そしてディックもまた荒ぶる事も無く、腕を組んで静かに見守るのみ。
きっとディックはわかっていたのだろう。
リデルがこうしてデュランの下へと走り向かう事を。
二人の今持つ蟠りがどの様な形に落ち着くか、それを見届ける為に。
会議が終わっても、勇達のすべき事は終わらない。
例えそれが世界にしてみれば些細であっても、彼等にとっては掛け替えの無い事だから。
その中核であるディックとデュラン、そしてリデル。
三人が描く三角関係は果たしてどの様な終止符を打つのだろうか。
会議が纏まりも付かないままの騒動の連続に、真面目に参加しているメンツの不満は隠せず。
あのパーシィがマトモ勢に見えてしまうのだからしょうもない。
だがそんな苦境とも言える状況下で、とある人物が遂に痺れを切らす事となる。
「こらっ!! アンタ達もういい加減になさい!! 他の皆が困ってるでしょうが!!」
その時、オタク談義にかまけていた心輝とデュランの後腰部に凄まじい衝撃が。
パパァンッ!!!
「いってェ!!」
「うおおッ!?」
例え鍛えられた者でも、油断し緩んでいれば痛いものは痛い。
突如として走った痛みに驚き、二人揃って床に転がり行く。
それを成したのはなんと―――園部母。
母はやはり強し。
相手が天士だろうが救世同盟代表だろうがもはや関係無し。
オタクである息子を扱い慣れてるが故に、同類ならば容赦はしない。
「も、申し訳ない。 久しく見ない同志だったものでつい……」
「どうしてこういう所はシン君とそっくりなのかしらねぇ。 顔は良いのに」
「オタクは心で通じ合うんだよ。 顔じゃねぇんだよっていだだだ!!」
更に息子であればもう情け無用だ。
耳を引っ張り上げてはその屁理屈さえも問答無用に黙らせる。
これには隣のデュランも慄きを隠せず。
遂には心輝を犠牲にし、そそくさと自分の席へと戻るより他にない。
「やはり母は偉大だ。 こうして叱ってくれる親が居るシンキ=ソノベが羨ましいよ。 私の両親は若い頃に死別したからね」
おまけに苦し紛れの誉め言葉を残して。
しかも同情を誘う様な事実も添えて防備も万全。
アフターケアを忘れない辺りは、やはり猛者らしく心輝よりも一歩上か。
「さらっと重い事言うなよ。 俺はもうツッコまないからな?」
冷静な勇から見ればツッコミどころ満載には違いないが。
ゲームや漫画のライバルキャラクターは大抵、仲間になった途端に弱くなるのだという。
でもそれは敵対して見えていなかった弱点が露呈するからそう感じるもので。
こうしてデュランの様に弱点まみれならば、こうも抜けて見えるのはもはや免れない。
天は二物を与えず。
どうやらデュランの様な人物にもしっかりその法則は働いていた様だ。
『私達にその様な法則を造った覚えはありませんけどね』
例え創世の女神がこう答えようとも、残念な事実は揺るぎそうも無い。
そんな訳でようやく場が引き締まり、会議は粛々と進められる事に。
こうもなれば進みは実に速かった。
戦闘員の移籍こそ叶わなかったが、支援人材に関しては話は別で。
補給物資や武装なども合わせ、余剰分全てがグランディーヴァ側へと提供される事に。
救世同盟側による紛争鎮圧に、基本装備以上は必要無いと試算されたからだ。
その見返りとして、リッダ提案の下に国連の協力が確約へ。
デュラン達の移動や身の回りのサポートなどの支援をこぎつけるという。
半ば独断ではあるが、状況が状況なだけに四の五を踏んではいられない。
こんな時こそ彼女の強気が活きる時だと言えるだろう。
他にも、両陣営の戦闘力開示もが行われた。
今まではあくまでも限られた情報から予測したデータしか無く不明瞭で。
これを機にと、互いに持っている正式情報を交換する事となったのだ。
例えば身体能力の様な基礎的情報から、命力上限値を数値化したものなど。
他にも個々に持つ技術や特殊能力なども余す事無く。
仲間となった今なら、出し惜しみする理由など全く無いのだから。
なお、茶奈のデータを見た時のデュラン達の反応は言うに及ばないだろう。
それと、今後のフランス情勢に関しても一つ情報が。
デュラン曰く、フランスは順次鎖国状態を解除していくのだそうだ。
ただし、鎖国時に学んだ治安維持対策は据え置きのままで。
元々人権や移民問題で沸騰していた国ともあり、学べた事はあったらしい。
これを機に、国をあるべき形へと戻していくつもりなのだとか。
世界に誇れる大国フランス、その相応しくあるべき姿へと。
その話が落ち着きを見せた所で議題は落ち着き。
最後は勇とデュランが代表として握手を交わす。
こうしてしっかりと互いに納得する形で、今後を決める会議は終わりを告げたのだった。
緊張を伴った時間が終われば、本質の緩い彼等なら口を開くのは当然で。
「終わった終わったぁ」という心輝の声が自然と思える程に、周囲が活気で溢れ返る。
もちろんそれは勇もデュランも一緒だ。
「こうして互いの事を知れて良かったよ。 思ったよりもずっと親しみが持てそうな人達だったしね」
「まぁちょっと似過ぎるかなぁとは思ったけどな。 こうして騒がしい所とかさ」
そんな勇の一言を前には、デュランも思わず小笑いを返していて。
でも、視線を逸らして見える光景を前にすれば穏やかとならずにはいられないだろう。
既に双方の仲間同士でワイワイと話の華を咲かせていたのだから。
「このあと懇談会も予定してるし、ゆっくりしていくといいさ。 それくらいの時間は許されるだろ?」
「そうだね。 今は君達の好意に甘えたいと思う。 私もシンキとオタク談義をしてみたいしね」
昨日の敵は今日の友。
互いに想いと力をぶつけ合ったのであれば、腹を割って話したのと同義だ。
命力という心の力で戦ったからこそ、わかり合えばこんな絆さえ生まれるのだろう。
同じ志を得た今なら、彼等はもう親しき戦友なのかもしれない。
「ならさぁ、そのオタク談義の前に話さなきゃなんない相手も居るってぇもんじゃないのかい?」
するとそんな時、二人の背後から軽快な声が上がる。
唯一、命力では無く鉛弾で戦った人物の声が。
「……そうだったな。 デュランには事前に解決しないといけない事があったんだよな。 改めて紹介するよ。 コイツがリデルさんの夫のディクシー=フィンシス。 俺達はディックって呼んでる」
そう、ディックだ。
今回の戦いにおいて最も関わりが深く、人生をも賭ける事となった者である。
その身軽さは既に普段通りで。
戦いの時の勇猛さと打って変わり、ニヤニヤとした笑みを零して歩み寄ってくる。
でもその心はと言えば―――
「わざわざ紹介すまんねぇ。 が、生憎俺はまだアンタと馴れ合うつもりは無い。 少なくとも、俺とリデルが納得出来るまではね」
「ああ、それは当然だろうさ。 私と君の問題は心だけで解決出来ない事柄だろうから」
デュランとディックの因縁は深い。
例えそれが間接的な物なのだとしても。
そこから生まれた蟠りがある限り、二人が相容れる事は出来ないだろう。
例えデュランが謝罪の意をいくら述べようとも。
もはやその因縁は、彼個人だけでは解決出来ない程に広がっているのだから。
「ま、リューシィの一件は黒鷲―――ジェロールのクソ野郎が仕組んだ事だったからな。 結果的にゃアンタに非は無いのかもしれんがね」
ただそれが間接的な因縁だという事をディックも理解しているからこそ、こうして穏やかに話せるもので。
話し合いの余地がある以上、デュランもまたその〝誠意〟に応えずにはいられない。
〝冷静でいてくれる〟、そんなディックの誠意に。
「その一件に関しては私も興味がある。 出来れば訊きたい、黒鷲が何を言い残したのかを」
「とんでもないぜぇ? アンタの立てた予定が一日二日くらいズレちまいそうなくらいにな」
ディックがジェロールとの戦いで得たのは、救世同盟の根幹をも揺るがしかねない事実だ。
何せ、フランス政府との仲介役という立場を利用し、双方を騙していい様に操っていたというのだから。
その話はここに訪れる途中で、勇から少し事情を聴いてはいた。
でも現状、勇は聞くだけで事実確認が出来る立場ではなく。
宣った本人も死亡した以上、まだこれは未確認情報に過ぎない。
デュラン側もまだ半信半疑といった状況だ。
気付けないほど巧みに工作されていたから。
そんな事もあって公に語れず、会議では議題に挙がらなかったという訳だ。
でも今こうして個人として話すなら話は別である。
デュランも当然、相手の心の色を読む事が出来る。
そして相対し、話題を芯とすれば、相手が真実を語っているかどうかは読み取れる。
だからディックは今この時にデュランと直接話す事を決めたのだ。
己が聴いた事実が如何な事で、どれだけ複雑なのかという事を全て語る為に。
こうしてディックは語った。
ジェロールとの戦いで交わした話の内容を。
己の心と体を震わせて、溢れ出そうなまでの感情を抑え込みながら。
その想いはデュランにもしっかりと届いたのだろう。
とめどなく溢れるディックの話を前に、デュランも神妙な面持ちを隠せない。
まさか自分がそこまで操られていたなどとは思いもしなかったのだから。
「―――なるほど。 こう言われて見れば思い当たる節もある。 そういう事なら確かに大問題かもしれない。 早急にフランス政府と共に情報の洗い出しをするとしよう」
「頼むぜぇ。 それ次第でアンタを見直す事も吝かじゃねぇからよい」
「ああ。 信じて待っていて欲しい。 我々はそんな不正を良しとする程、薄汚れてはいないつもりだからね」
確かに、デュラン達は今まで争いを広げる為に奔走していただろう。
でもそれは彼等が自分達を正義だと思っていたからやっていた事で、誠実さは勇達と変わらない。
むしろ嘘は嘘と断罪して手を下すまでの徹底ぶりなのだ、むしろ不正とは無縁の立場と言える。
そんなデュラン達自身が不正をしていたなどとわかれば、黙っていられる訳も無い。
ならば是正するだけだ。
もしかしたら当時のやりとりは互いの記録として残っているかもしれない。
そこにディックの証言を照らし合わせれば、きっと真実が見えて来るだろう。
ただ、二年もの歳月分であれば膨大な量の記録が待っている。
それこそ、デュラン達が確認で何日も拘束されてしまいそうな程に。
しかもそこに発覚を恐れて張られたジェロールの罠が潜んでいるとも限らない。
ジェロールは全く以って厄介極まりない遺産を残していった様だ。
どうやらデュラン達の立てた予定は早速瓦解する事になりそうで。
これには頭を抱えずにはいられない。
しかし頭を抱える問題はそれだけに限らない。
ディックにとっての問題はジェロールの一件だけではないから。
愛する妻であるリデルの事は特に、彼にとっては何より重要だからこそ。
「それとだがぁ、リデルにした事も俺は忘れちゃいねぇぜ。 場合によっちゃタダじゃあ済まさねぇ。 殺す事は無くとも、相応の仕返しはさせて貰う」
「……その一件は、正直に言えば私の落ち度だ。 彼女にはもう夫は居ないと思い込んでいた。 彼女の父親からの推薦もあって、ろくに調べもしなかったからね」
リデルの策略から始まったとはいえ、今やデュランとは愛人同士。
その事実を知った以上、正夫であるディックが怒らない訳も無い。
彼らしくひょうひょうと振る舞ってはいるが、きっと内心の釜は煮え滾っている事だろう。
「リデルは素敵な女性だ。 あのひたむきさに心打たれてしまう程にね。 だから彼女の想いに応えようと思っていたのだが……どうやら君にはどうしても勝てなかったらしい」
とはいえ、今となってはリデルはもうディック寄りだ。
デュランの情報を勇達に提供する程に。
自分の行いが正しく無かったとはいえ、こうもなれば気落ちもしよう。
愛した女性に裏切られてしまえば、心が荒んでしまう事も無理は無いから。
でもその疎いは、ただの思い過ごしだったのかもしれない。
「デュラン……ッ!!」
そんな沈んだ雰囲気の中、突如として甲高い声が会議室に響き渡る。
この場の誰しもが知る、優しさと気高さを重ね揃えた彼女の声が。
「ッ!? リデルッ!?」
そう、リデルである。
会議が終わった事に気付いて乗り込んで来たのだ。
「さぁてそれじゃあ聞かせて貰おうじゃないの。 お前さんのリデルに向けた想いって奴をよ」
そしてディックもまた荒ぶる事も無く、腕を組んで静かに見守るのみ。
きっとディックはわかっていたのだろう。
リデルがこうしてデュランの下へと走り向かう事を。
二人の今持つ蟠りがどの様な形に落ち着くか、それを見届ける為に。
会議が終わっても、勇達のすべき事は終わらない。
例えそれが世界にしてみれば些細であっても、彼等にとっては掛け替えの無い事だから。
その中核であるディックとデュラン、そしてリデル。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
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