時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」

~世に継、環に信念の跡を~

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「見苦しい所を見せてしまったね。 すまない」

 ブライアンとアルバの意外な接点は勇達を大いに驚かせた。
 まさか二人が親戚同士だったなどとは思いもよらず。
 
 でもアルバが抱えた問題はなんて事無く解決したから。
 勇達は安心して送り出す事が出来た様だ。

「さぁて、では本題に入るとしようか。 なぁミスターフクトメ、どうだね? そろそろだと思うのだがぁ」

「えぇ、そうですねぇ。 私もそろそろかなと思っておりました」

「え……?」

 しかし、途端に始まったのは福留とブライアンによるアイコンタクトを交えた意味深な会話で。
 二人の思惑どころか、今回呼ばれた理由さえわからぬ勇はただ困惑するばかりだ。

 それだけ今のやりとりがわざとらしかったから。

「君は戦いを始めてからこの数年で数多くの人々を救ってきたね。 それも己の命を顧みず、君が願うままに。 そしてその戦いは今こうしてようやく世界の心を纏め上げるまでに至った訳だ。 これはまさに人類史上類を見ない偉業と言えるだろう」

「そ、そういうもんですかね?」

「そういうもんです。 勇君はもう少し貪欲でもいいくらいですよ? 貴方の功績はもう世界が認めています。 胸を張って言い切るのを待っているくらいにね」

 そして次に何が始まったかと思えば、勇を持ち上げる様な言動の数々。
 そのまま聴けば喜ばしい事なのだが。
 何かしらの意図が見え見えで、勇としてはどうにも素直になれない様子。

「ミスターフクトメの言う通りだよユウ。 世界はもう君を認めた。 世界救済を地で行く英雄としてね。 そこでは決めたのだ。 君が真実を知るべき者に相応しい人物だとね」

「真実……?」

「はい、真実です。 この世界には一般の人では知り得ない秘密が多い。 ア・リーヴェさんでさえも知らない、我々人間が創り出した秘密がね」

 するとそんな時、ブライアンが「パチリ」と指を鳴らして近くの椅子を示す。
 いつだかにも勇に座る事を誘った椅子だ。

 誘われるままに勇が席へ腰を掛けると、福留とブライアンはその対面へ。
 ふとそれに気付いた勇が福留に視線を向けてみれば―――

 そんな福留はいつもの様に人差し指を掲げていて。

「いつだか【福留コネクション】という名でお話した事があったでしょう? あれの続きの様なものです」

「え、あれに続きがあったんですか!?」

「なるほど。 ある程度は話していた、という訳か」

「ええ、触り程度を少し。 なぁに、私の遠い昔話止まりですよ」

 どうやら福留の話術は変わらず巧みなままの様だ。
 まさかの話に勇も驚きを隠せない。

 福留は若い頃、仲間達と結託して基金を創ったのだという。
 養父を苦しめてしまった事への罪滅ぼしとして。
 育ててくれた事への恩返しの意味も込めて。
 その基金を基に福留が勇達をサポートしていた事はもはや言うに及ばないだろう。

 だが、その基金の正体はまだ謎なままだ。
 勇としてはてっきり、福留達が創設した「預金口座」程度にしか思っていなかったのだが。

「かつてのミスターフクトメを始め、多くの賢人が世界の危機を予見した。 いつか未曽有の事態が起き、世界が混乱に陥るかもしれないと。 それが第三次世界大戦なのか、宇宙戦争なのかはわからんかったがね」

「未来では何が起きるかわかりませんからねぇ。 だからいざという時に世界は一致団結して困難に立ち向かう必要があったのです。 相手が何であろうとも」

「だから我々はその一歩始めとして、金を集める事にしたのだ。 それが一番人類に認知された共通の対価であり、指標ともなるからね」

「全ては世界平和のために、何て言えば少し胡散臭いですが。 でもそうする事が最も手っ取り早く、最も人を動かす原動力となりますのでねぇ。 なので私達はお金を集め続けたのです。 世界中に散らばり、輪を繋げ、広げ、大きくなりながら」

 その時福留が見せたのは、人差し指と親指を合わせて象った小さな輪。
 でもその環の中に入るのは、地球という壮大な大地。

 そしてそれが指し示す物こそ―――



「そうして出来上がった組織を、我々は【オーヴィタル】と呼んでいる」



 その名も、世界救済機構【オーヴィタル】。
 これが福留達の長年に渡って築き上げて来た〝基金〟の正体である。

「【オーヴィタル】、ですか」

「うむ。 ……まぁこの名前はいつの間にかこう呼ばれていただけで、正式名称では無いのだがね」

「その意味は【軌道】。 〝世界を救う為に集められた資産は平和という軌道に沿って世界へ巡る〟という事から自然とそう呼ばれる様になりました」
 
 始まりは、ただ争いを失くす為だけだった。
 些細な争いを失くす為の力になれればただそれだけで。

 しかしその想いを持つのは決して福留達だけでは無かった。
 彼等に関係した多くの者達もが賛同し、協力する事を願い出たのだ。

 そんな者達もが集まり、基金は膨れ上がっていく。
 当初では思いもしなかった規模にまで。
 組織が生まれ、秩序が生まれ、そしてこの【オーヴィタル】という名を冠する程に。 

「この基金はね、平和を願って行動する者に対して資金提供を惜しまないとしている。 例えば、今私が十億ドル欲しいと言えば、翌日には靴下に詰められた現金キャッシュの十億ドルが枕元に置かれている事だろう。 もちろん無利子でね」

「ちなみに上限もありません。 例え十兆円と言っても、きっと同様に現金で置かれている事でしょうねぇ。 靴下には入りませんので、せめてサンタさんのソリくらいは用意しないといけませんが」

 そう語る二人に堪らず微笑みが浮かぶ。
 これが二人なりの冗談ジョークのつもりなのだろう。

 でも勇としては圧倒的な金額の規模にただただ唖然とするばかりだ。

「ただし、使った者には必ず返済が求められる。 しかも提供額のざっと二倍の金額をね」

「に、二倍ッ!?」

 更にはそのルールを前にたじろぎさえ見せる。
 金額の規模もさることながら、返却するとなればもはやアテさえ思い付かないのだから。

 仮に二人の言う金額を提供してもらった場合、勇に返却出来る自信は全く無い。
 自分のしてきた行いにどれだけの価値があるのかわからない彼には。

「そう、二倍だ。 しかも返却期間こそ決められてはいないが、返済見込みの無い者に容赦はしない。 世界の全ての銀行との取引停止と、各国の信用を一挙にして失う事となるのだ。 まともにガム一つ買う事すら出来なくなるだろう。 信用は大事だよ? 失えば生活もままならなくなるからね」

「そう、つまり平和を求めて身切り出来る者にしか、この基金は扱えない様になっているという訳です。 それだけの覚悟と意思が無ければ成り立ちませんから。 なのでこの基金の事を知る者もまた、相応の人物でなければならないのです。 そう、今の勇君の様にね」

「俺が相応……?」

 けれどそれは勇が自分の行動に価値を求めていないからだ。

 勇はただ、これからの未来において茶奈と幸せに暮らしたいだけで。
 世界を救うのは、その未来を勝ち取る為に過ぎない。
 つまり端的に言えば自分の為なのだ。
 そこに価値を求める程、勇は己惚れていない。

 だが世界の見方は違う。
 世界はもう、勇達の戦いに価値を見出した。
 宇宙の行く末を決める天秤へ自らの命を賭ける勇達に。

「そうだ。 世界を救う為に自らを捧げた君達こそ、【オーヴィタル】の事を知るに最も相応しい。 そしてその恩恵に与る事もね」

 だから福留達は望んだ。
 勇が真実を知る事を。
 その恩恵に与る事も。

 勇達グランディーヴァこそが【オーヴィタル】の〝真価〟を受け取るべき存在だとして。

「ま、待ってください!! でも俺にはそんなお金を返す力なんて―――」
「いいえ。 そもそもそんな必要は無いのですよ、勇君」
「―――えっ!?」

 その時、またしても福留の人差し指が天を差し、ゆっくりと勇へと向けられる。
 まるで勇の顔を突かんばかりに真っ直ぐ伸ばしながら。

「返済制度はあくまでも集金活動の一環に過ぎません。 そうしないとお金は増えませんから。 ですがグランディーヴァに対しては違います。 グランディーヴァの活動こそ【オーヴィタル】が当初想定していた未曽有の危機回避活動であり、本懐とも言える行いです」

「つまり、【オーヴィタル】が今日までに集めて来た資金はグランディーヴァにこそ開放すべきだという事だ。 これはもう決定事項だよユウ。 我々はもう決めたのだ。 君達に全てを託すのだと。 我々には力が無いから、君達に頼るしか無いから……だからこそ受け取って欲しい。 我々の積年の想いを。 世界に真の平和をもたらしたいという願いを」

 そのまま福留の指が引かれた時、勇は見るだろう。
 福留とブライアン―――目の前に座るその二人を。

 その半生を【オーヴィタル】の下で過ごして来た、そんな二人が向ける期待の眼差しを。

「……率直に言えば、もう資金に困る事は無い、という事さ。 もちろん君達がその事を気に掛ける必要も無い。 我々がミスターフクトメを通して全てやるからね。 今後の戦いで出るかもしれない損害もきっとそこから保障されるから、後腐れなく思う存分やって欲しい。 もちろん世界を救う為にね」

「ちなみに金額で言えば、アメリカを丸ごと買ってお釣りが出るくらいの額は有ります。 なので残高の心配は要りませんよ」

「アメリカ丸ごと……ハハ……」

 更なる壮大なスケールに勇ももはや失笑気味だ。
 そしてその基金が全て勇達の力になるという事実もまた信じられなくて。



 でもそれは勇がそれだけの事をしてきたから。
 渋谷を救った事から始まって、ずっとガムシャラに戦い続け。
 世界を救う戦いを始めて、今こうしてその成果が遂に実と成った。
 
 だから今、世界は勇達を求めている。
 世界が救われる事を求めている。
 例え未だに反意を見せる者達が居ようとも。
 
 それこそが世界を繋ぐ者達オーヴィタルの意思。



 そこにもはや、迷いは無い。
 全ては、世界を危機から守り抜く為に。


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