1,084 / 1,197
第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
~山に災、剛に堅牢抗えず~
しおりを挟む
遂に剣聖が内包せし力を解き放つ。
巨大化しながらも若々しさに満ち溢れたその身体を。
底知れぬ命力をも蓄えたまま。
その様子は空の上からでも一目瞭然だった。
余りにも強烈な力が解放されたが故に。
そして打ち放たれた力の奔流が茶奈達に畏れをも誘う事となる。
「莉那さんッ!! 今すぐアルクトゥーンを上昇させてくださいッ!!」
「えっ?」
その畏怖がこれ以上に無い危機感さえも呼び込む。
非戦闘員ではわからない、命力を持つ者だからこそ抱ける危機感を。
ズズズ……
その直後、僅かな振動と共に景色が上下に揺れ始める。
ブライアン達がついその眼で追ってしまう程に大きな揺れが。
でも決して世界が揺れているのではない。
アルクトゥーンが揺らされているのだ。
茶奈がこう退避を叫ぶのも無理は無いだろう。
剣聖が力を解き放っただけでこれなのだから。
戦いが始まれば―――もう、どうなるかわからない。
「これから行われるのはもう戦いなんかじゃありません!! 例えるなら……災害ですッ!!」
茶奈ももうこれ以上の言葉が見つからない。
例えようもなかったのだ。
茶奈は勇とデュランの戦いをも目の当たりにして。
そこで天士の戦いが如何に人知を超えたものかを知った。
そしてきっと、勇と剣聖との戦いはそれをも超越するだろうと理解してしまったから。
ならば恐れない道理など無い。
剣聖の力をここまで引き出せなかった彼女達ならば特に。
故に間も無く、アルクトゥーンが上昇を始める。
これから始まる〝災害〟に巻き込まれない為にも。
ブライアンがただ一人惜しむ中で。
巻き込まれてしまえば最後、アルクトゥーンはきっと無事では済まされないだろうから。
剣聖が両手に携えしは二本の大剣型魔剣【アラクラルフ】。
並の人間であれば抱える事すら困難な程に重く。
かつ魔剣使いでも一本を両腕で扱わねばならぬ程に極幅長大。
でも今の剣聖にそんな制約など何のデメリットにもなりはしない。
今の姿と比べれば、そんな魔剣もまるで軽い小剣のよう。
手軽く指先でクルクルと振り回して見せ、まるで小物扱いだ。
その様子は肉体解放の小手調べと言わんばかり。
『いいですか勇、【第五の門 ズ・ケェベ】の慣性相殺も限度があります。 もしそれを超えてしまえば如何に貴方と言えど―――』
「わかってるッ!! なら俺も力をぶつけて上書きすればいいだけだッ!!」
対する勇ももう本気だ。
既に天力を空一杯に舞い上げる程に放ち、一帯を虹色へと変えていて。
つまり、もう【第四の門 ナ・ロゥダ】やその上位の力さえも開門しているのである。
そうでもしなければ、太刀打ちさえ叶わない。
直感がそうさせたのだ。
目の前の極人を前にして。
相応の力をぶつけなければ一瞬にして肉塊と化すのだと。
「いいぜ、その思い切り。 俺も力を出した甲斐があるってもんだ。 なら、早速行くとしよう」
こうして準備の整った相手を前にしたら、剣聖が動かぬはずも無い。
今まで抑え込んで来た欲求に従う様に、遂にその一歩を踏み出す。
バギンッ!! ゴゴゴッ!!
だがその一歩さえももはや常軌を逸する。
一歩を踏み出し、足を突いただけで―――大地が割れたのだ。
亀裂が走り、軋みが響き、山全体を覆い尽くして。
その途端に、山が崩れ始めたのである。
ゴゴゴゴ―――!!
二人立つ頂上付近から突如として、山が無数の瓦礫と化して崩落していく。
それも二人すら巻き込みながら、大地に吸い込まれるかの様に。
先程の力の放出に山そのものが耐え切れなかったのだろう。
山一つ丸ごと崩壊する光景は異様そのもの。
その様子はまさに天変地異の如く。
しかしその崩落する瓦礫の中に在ろうとも、勇達は戦っている。
落ち行く瓦礫を足場にして飛び交い、ぶつかり合っているのだ。
互いに剣をぶつけ、その度に命力と天力が弾け飛ぶ。
力に晒された岩が弾け飛ぶ程の衝撃を伴って。
そうして刻まれるのは、心輝にも負けない二つの稲妻軌道。
それが土煙の中で瞬き、あっという間に彼方へ消えていく。
通った先の粉塵を掻き消しながら。
ドッゴォーーーンッ!!!
その直後、突然すさまじい衝撃音が響き渡り。
それと同時に、一筋の光が土煙の中より飛び出す。
勇だ。
ただしその身は激しくきりもみし、表情にも苦悶を浮かばせていて。
そして更にもう一つの光が土煙から凄まじい速度で追従する。
剣聖もが飛び出していたのだ。
二つの剣を広げて空を貫く姿はまるで戦闘機の如し。
その勢い、もはや空気抵抗どころか大気さえも退いていく程に豪胆。
ドッガァァァ!!
間も無く勇の体が隣の山肌へと打ち付けられる。
というよりも実際は「山を殴っていた」と言った方が正しいが。
自身の慣性を相殺する為に、直撃の寸前で創世拳を打ち込んだのである。
「ハッハアーーー!!!」
でもそんな無防備な相手を見逃す剣聖ではない。
飛び出した勢いのままに剣を突き出し、勇目掛けて突っ込んでいく。
「おおおッ!!!」
ただ勇も負けてはいられない。
この程度では。
咄嗟に両腕をクロスさせ、二つの創世拳で受け止める。
その身に秘めた力を一極集中させて。
ゴゴゴ―――
そうもなればその山もが崩壊するのも当然か。
剣聖の打ち出した一撃は、何千メートルの厚さを誇る岩壁をも貫き砕く威力だったのだから。
ただし、砕かれるのはその山一つとは限らない。
もう一つ、二つと、弾き飛ばされた勇の体が山々を打ち抜いていく。
むしろ、並み居る山々がクッションとしての役割を果たしているかのよう。
更には、全力で追い掛ける剣聖の力の波動が辺り一帯を揺らし、崩壊を招いていく。
その姿はまさに動く災害。
次々と砕けていく山々を前に、遠くで眺めるブライアンも唖然とするばかりである。
その惨状を前に、「魔剣使いの戦いとはこれ程までに常軌を逸しているのか」と。
でもこれはもう〝魔剣使い〟の戦いではない。
言うなれば現人神 対 超魔人。
まさに天変地異を招ける者同士の、神話級の戦いに他ならないのだから。
「無茶苦茶過ぎる!! このままだと何もさせてはもらえないぞッ!!」
それだけの攻防を実現出来る剣聖を前に、勇も焦りを隠せない。
ア・リーヴェの言った【第五の門 ズ・ケェベ】はいわば防御の門。
慣性を【創世の鍵】の力で自動相殺し、衝撃などの影響を無効化するものだ。
だから勇はこうやって弾かれてもなお平然と出来るし、思考も充分働かせられる。
ただその能力には当然、上限がある。
もし突破されれば、その時相殺していた全ての力が一挙に押し寄せる事となるだろう。
こうなればいくら天士と言えどひとたまりも無い。
最悪の場合、その時点で即死だ。
故にこのまま一方的に攻撃され続ければ、いつか限界突破の一撃が見舞われかねない。
だからこそ今にでも反撃を繰り出して流れを変えなければ。
「かあああーーー!!!」
こうして今にも迫る剣聖を止めなければ。
しかし、今の勇にはそれさえ容易だ。
【第四の門 ナ・ロゥダ】の力ならば。
ドッゴォ!!
その瞬間、剣聖の頭上で虹光が弾けて瞬いた。
勇のプロセスアウトによる急転直下の一撃が加えられたのだ。
それも創世拳の力を惜しみなく発揮した渾身の一撃を。
たちまち、勇へと真っ直ぐ突き抜けていたはずの剣聖が墜落していく。
その速度は凄まじく、間も無く目下遥かの大地から粉塵が巻き上がる程だ。
空からでも見てわかる程の亀裂を刻み、更には深く陥没までさせて。
でも、こんなもので終わる剣聖ではない。
そんな事など勇は誰よりも良く知っている。
だからこそ間も無く空より姿を消し、大地へと瞬時にして降り立つ。
そうして立つのは、粉塵のすぐ傍。
土煙の中で蠢く影を前にして、一定の距離を保たせて。
なんと、今の一撃は剣聖には全く通じてなかったのだ。
地面に叩き付けられてもなお、平然と立ち上がっていて。
突然現れた勇を前に、「ニヤァ」とした笑みを浮かべて返す。
「そいつがデュランをブッ飛ばした技かぁ。 面白ぇじゃあねぇかあ!!」
効かないのも当然だ。
今の剣聖にとって、土や岩の硬さなど布団と変わらない。
己の持つ体の硬度が余りにも極限に達しているから。
つまり、勇の慣性相殺と同レベルの防御力をナチュラルに有しているという事だ。
「ならきやがれッ!! デュランが突破出来なかったその力を、もっと俺にぶつけてみろッ!!」
「言われなくてもやってやるさあッッ!!!」
パキィィィィィィンッッ!!!
そう言い放った直後、剣聖の肩側部で再び虹光が弾け飛ぶ。
再び勇のプロセスアウトの拳撃が見舞われていたのだ。
それも肉体を貫かんばかりに鋭く突き抜ける一撃を。
その一撃、勇にとって最大最高。
幾重の虹光の円環さえも弾き出し、砂埃や瓦礫を一つ残らず消し飛ばす程に。
だが、この時勇は戦慄する。
その一撃がもたらした結果を前にして。
「なッ!?」
剣聖は―――全く動じてなかったのだ。
まるで大地に貼り付いているかの様だった。
それだけの一撃を前に、足を滑らせる事すら無く。
身じろぎどころか、衝撃が伝わっていないのではないかと思える程に。
それ程までに、堅牢。
「これが【剛命功】だ。 己の肉体、細胞一つ一つに命力を通わせ、繋げ、大地に根を張る。 深く深くな。 そうなればこの程度の一撃なんざどうにでもなる」
身体強化術の一つ、【剛命功】。
己の体を限界まで硬化させる防御術である。
これは瀬玲がアージ相手にして見せた技でもあり、決して珍しい技術では無い。
でも剣聖がこうして使えば、それはもはや不動不壊の肉壁と化す。
何故ならば、剣聖の宣った「根を張る」―――その深さが尋常ではない深度を誇るから。
その深さ、グランドキャニオンの山々でさえも一割に過ぎないという程。
それ程の地中奥深く、強固な岩盤にまで伸ばし、繋ぎ、一体化している。
簡単に言えばつまり、今の勇はまさに地球を殴っていたのと同義だという事だ。
「くうッ!! なら根幹から砕くだけだあッ!!」
ドガガガガッ!!
ならばと、勇が繰り出したのは無数の連撃。
全てがプロセスアウト、全てが全力。
何もかもが瞬時にして剣聖の胸中一点。
それをあらゆる方角から打ち込み、集中させる。
それも僅か一秒にも足らずの間に。
それでも、剣聖は―――無動。
それは、ただ地球と一体化しているだけではないから。
命力による究極の硬化が更に施され、創世拳の連撃すら無効化する。
すなわち、大地に付いている時の剣聖に生半可な攻撃は無意味だという事だ。
「言ったハズだ。 この程度では無理だと。 【剛命功】は全身くまなく張り巡らせる事が出来る。 そして受けた力を全て命力を通した場所へ散らせる事もな。 おめぇの一撃も全て大地へ受け流し相殺した。 例え全身を破壊する一撃であろうとも関係は無ぇ」
剣聖は今の連撃で創世の拳の仕組みを理解したのだろう。
その一撃が剣聖という存在そのものを破壊しようとする力なのだと。
それが逆に創世拳の弱点でもある事も。
創世拳の特性である存在破壊。
撃ち込んだ相手の全身にくまなく衝撃を与え、魔剣を粉々に砕く事さえ可能とした。
ただそれはつまり、力が均等に分散しているという事に他ならない。
ならば全身に散った威力をくまなく大地に流し込めばいい。
全身を【剛命功】によって包めば、そんな芸当など訳は無いのだから。
「おめぇが【剛命功】を貫くにゃ一点集中しかねーぜ。 って事はだ、その腕甲じゃあ無理ってこった」
「ぐッ!!」
「それにもう小細工は要らん。 抜きな、おめぇの一番を。 俺ぁそれにしか興味はねぇ。 それに言ったハズだ、本気を出さなけりゃおめぇは死ぬってよぅ」
どうやら今の連撃で勇の拳術練度を見抜いた様だ。
その練度が創世拳の威力に雑さをもたらしていた事も。
だからこそ望む。
創世剣を使う事を。
それが最も有効で、かつ満足に戦える唯一無二の武器なのだから。
剣聖の超防御力を前には、プロセスアウト攻撃すら無為に帰す。
通用する可能性があるのはもはや創世剣のみ。
でももしそれが通用しなかったならば―――
まだ始まったばかりにも拘らず、二人の戦いを暗雲が覆う。
果たして勇はどこまで剣聖と戦えるのか。
剣聖を打倒する事は出来るのか。
まだまだその答えは欠片も見えそうにない。
巨大化しながらも若々しさに満ち溢れたその身体を。
底知れぬ命力をも蓄えたまま。
その様子は空の上からでも一目瞭然だった。
余りにも強烈な力が解放されたが故に。
そして打ち放たれた力の奔流が茶奈達に畏れをも誘う事となる。
「莉那さんッ!! 今すぐアルクトゥーンを上昇させてくださいッ!!」
「えっ?」
その畏怖がこれ以上に無い危機感さえも呼び込む。
非戦闘員ではわからない、命力を持つ者だからこそ抱ける危機感を。
ズズズ……
その直後、僅かな振動と共に景色が上下に揺れ始める。
ブライアン達がついその眼で追ってしまう程に大きな揺れが。
でも決して世界が揺れているのではない。
アルクトゥーンが揺らされているのだ。
茶奈がこう退避を叫ぶのも無理は無いだろう。
剣聖が力を解き放っただけでこれなのだから。
戦いが始まれば―――もう、どうなるかわからない。
「これから行われるのはもう戦いなんかじゃありません!! 例えるなら……災害ですッ!!」
茶奈ももうこれ以上の言葉が見つからない。
例えようもなかったのだ。
茶奈は勇とデュランの戦いをも目の当たりにして。
そこで天士の戦いが如何に人知を超えたものかを知った。
そしてきっと、勇と剣聖との戦いはそれをも超越するだろうと理解してしまったから。
ならば恐れない道理など無い。
剣聖の力をここまで引き出せなかった彼女達ならば特に。
故に間も無く、アルクトゥーンが上昇を始める。
これから始まる〝災害〟に巻き込まれない為にも。
ブライアンがただ一人惜しむ中で。
巻き込まれてしまえば最後、アルクトゥーンはきっと無事では済まされないだろうから。
剣聖が両手に携えしは二本の大剣型魔剣【アラクラルフ】。
並の人間であれば抱える事すら困難な程に重く。
かつ魔剣使いでも一本を両腕で扱わねばならぬ程に極幅長大。
でも今の剣聖にそんな制約など何のデメリットにもなりはしない。
今の姿と比べれば、そんな魔剣もまるで軽い小剣のよう。
手軽く指先でクルクルと振り回して見せ、まるで小物扱いだ。
その様子は肉体解放の小手調べと言わんばかり。
『いいですか勇、【第五の門 ズ・ケェベ】の慣性相殺も限度があります。 もしそれを超えてしまえば如何に貴方と言えど―――』
「わかってるッ!! なら俺も力をぶつけて上書きすればいいだけだッ!!」
対する勇ももう本気だ。
既に天力を空一杯に舞い上げる程に放ち、一帯を虹色へと変えていて。
つまり、もう【第四の門 ナ・ロゥダ】やその上位の力さえも開門しているのである。
そうでもしなければ、太刀打ちさえ叶わない。
直感がそうさせたのだ。
目の前の極人を前にして。
相応の力をぶつけなければ一瞬にして肉塊と化すのだと。
「いいぜ、その思い切り。 俺も力を出した甲斐があるってもんだ。 なら、早速行くとしよう」
こうして準備の整った相手を前にしたら、剣聖が動かぬはずも無い。
今まで抑え込んで来た欲求に従う様に、遂にその一歩を踏み出す。
バギンッ!! ゴゴゴッ!!
だがその一歩さえももはや常軌を逸する。
一歩を踏み出し、足を突いただけで―――大地が割れたのだ。
亀裂が走り、軋みが響き、山全体を覆い尽くして。
その途端に、山が崩れ始めたのである。
ゴゴゴゴ―――!!
二人立つ頂上付近から突如として、山が無数の瓦礫と化して崩落していく。
それも二人すら巻き込みながら、大地に吸い込まれるかの様に。
先程の力の放出に山そのものが耐え切れなかったのだろう。
山一つ丸ごと崩壊する光景は異様そのもの。
その様子はまさに天変地異の如く。
しかしその崩落する瓦礫の中に在ろうとも、勇達は戦っている。
落ち行く瓦礫を足場にして飛び交い、ぶつかり合っているのだ。
互いに剣をぶつけ、その度に命力と天力が弾け飛ぶ。
力に晒された岩が弾け飛ぶ程の衝撃を伴って。
そうして刻まれるのは、心輝にも負けない二つの稲妻軌道。
それが土煙の中で瞬き、あっという間に彼方へ消えていく。
通った先の粉塵を掻き消しながら。
ドッゴォーーーンッ!!!
その直後、突然すさまじい衝撃音が響き渡り。
それと同時に、一筋の光が土煙の中より飛び出す。
勇だ。
ただしその身は激しくきりもみし、表情にも苦悶を浮かばせていて。
そして更にもう一つの光が土煙から凄まじい速度で追従する。
剣聖もが飛び出していたのだ。
二つの剣を広げて空を貫く姿はまるで戦闘機の如し。
その勢い、もはや空気抵抗どころか大気さえも退いていく程に豪胆。
ドッガァァァ!!
間も無く勇の体が隣の山肌へと打ち付けられる。
というよりも実際は「山を殴っていた」と言った方が正しいが。
自身の慣性を相殺する為に、直撃の寸前で創世拳を打ち込んだのである。
「ハッハアーーー!!!」
でもそんな無防備な相手を見逃す剣聖ではない。
飛び出した勢いのままに剣を突き出し、勇目掛けて突っ込んでいく。
「おおおッ!!!」
ただ勇も負けてはいられない。
この程度では。
咄嗟に両腕をクロスさせ、二つの創世拳で受け止める。
その身に秘めた力を一極集中させて。
ゴゴゴ―――
そうもなればその山もが崩壊するのも当然か。
剣聖の打ち出した一撃は、何千メートルの厚さを誇る岩壁をも貫き砕く威力だったのだから。
ただし、砕かれるのはその山一つとは限らない。
もう一つ、二つと、弾き飛ばされた勇の体が山々を打ち抜いていく。
むしろ、並み居る山々がクッションとしての役割を果たしているかのよう。
更には、全力で追い掛ける剣聖の力の波動が辺り一帯を揺らし、崩壊を招いていく。
その姿はまさに動く災害。
次々と砕けていく山々を前に、遠くで眺めるブライアンも唖然とするばかりである。
その惨状を前に、「魔剣使いの戦いとはこれ程までに常軌を逸しているのか」と。
でもこれはもう〝魔剣使い〟の戦いではない。
言うなれば現人神 対 超魔人。
まさに天変地異を招ける者同士の、神話級の戦いに他ならないのだから。
「無茶苦茶過ぎる!! このままだと何もさせてはもらえないぞッ!!」
それだけの攻防を実現出来る剣聖を前に、勇も焦りを隠せない。
ア・リーヴェの言った【第五の門 ズ・ケェベ】はいわば防御の門。
慣性を【創世の鍵】の力で自動相殺し、衝撃などの影響を無効化するものだ。
だから勇はこうやって弾かれてもなお平然と出来るし、思考も充分働かせられる。
ただその能力には当然、上限がある。
もし突破されれば、その時相殺していた全ての力が一挙に押し寄せる事となるだろう。
こうなればいくら天士と言えどひとたまりも無い。
最悪の場合、その時点で即死だ。
故にこのまま一方的に攻撃され続ければ、いつか限界突破の一撃が見舞われかねない。
だからこそ今にでも反撃を繰り出して流れを変えなければ。
「かあああーーー!!!」
こうして今にも迫る剣聖を止めなければ。
しかし、今の勇にはそれさえ容易だ。
【第四の門 ナ・ロゥダ】の力ならば。
ドッゴォ!!
その瞬間、剣聖の頭上で虹光が弾けて瞬いた。
勇のプロセスアウトによる急転直下の一撃が加えられたのだ。
それも創世拳の力を惜しみなく発揮した渾身の一撃を。
たちまち、勇へと真っ直ぐ突き抜けていたはずの剣聖が墜落していく。
その速度は凄まじく、間も無く目下遥かの大地から粉塵が巻き上がる程だ。
空からでも見てわかる程の亀裂を刻み、更には深く陥没までさせて。
でも、こんなもので終わる剣聖ではない。
そんな事など勇は誰よりも良く知っている。
だからこそ間も無く空より姿を消し、大地へと瞬時にして降り立つ。
そうして立つのは、粉塵のすぐ傍。
土煙の中で蠢く影を前にして、一定の距離を保たせて。
なんと、今の一撃は剣聖には全く通じてなかったのだ。
地面に叩き付けられてもなお、平然と立ち上がっていて。
突然現れた勇を前に、「ニヤァ」とした笑みを浮かべて返す。
「そいつがデュランをブッ飛ばした技かぁ。 面白ぇじゃあねぇかあ!!」
効かないのも当然だ。
今の剣聖にとって、土や岩の硬さなど布団と変わらない。
己の持つ体の硬度が余りにも極限に達しているから。
つまり、勇の慣性相殺と同レベルの防御力をナチュラルに有しているという事だ。
「ならきやがれッ!! デュランが突破出来なかったその力を、もっと俺にぶつけてみろッ!!」
「言われなくてもやってやるさあッッ!!!」
パキィィィィィィンッッ!!!
そう言い放った直後、剣聖の肩側部で再び虹光が弾け飛ぶ。
再び勇のプロセスアウトの拳撃が見舞われていたのだ。
それも肉体を貫かんばかりに鋭く突き抜ける一撃を。
その一撃、勇にとって最大最高。
幾重の虹光の円環さえも弾き出し、砂埃や瓦礫を一つ残らず消し飛ばす程に。
だが、この時勇は戦慄する。
その一撃がもたらした結果を前にして。
「なッ!?」
剣聖は―――全く動じてなかったのだ。
まるで大地に貼り付いているかの様だった。
それだけの一撃を前に、足を滑らせる事すら無く。
身じろぎどころか、衝撃が伝わっていないのではないかと思える程に。
それ程までに、堅牢。
「これが【剛命功】だ。 己の肉体、細胞一つ一つに命力を通わせ、繋げ、大地に根を張る。 深く深くな。 そうなればこの程度の一撃なんざどうにでもなる」
身体強化術の一つ、【剛命功】。
己の体を限界まで硬化させる防御術である。
これは瀬玲がアージ相手にして見せた技でもあり、決して珍しい技術では無い。
でも剣聖がこうして使えば、それはもはや不動不壊の肉壁と化す。
何故ならば、剣聖の宣った「根を張る」―――その深さが尋常ではない深度を誇るから。
その深さ、グランドキャニオンの山々でさえも一割に過ぎないという程。
それ程の地中奥深く、強固な岩盤にまで伸ばし、繋ぎ、一体化している。
簡単に言えばつまり、今の勇はまさに地球を殴っていたのと同義だという事だ。
「くうッ!! なら根幹から砕くだけだあッ!!」
ドガガガガッ!!
ならばと、勇が繰り出したのは無数の連撃。
全てがプロセスアウト、全てが全力。
何もかもが瞬時にして剣聖の胸中一点。
それをあらゆる方角から打ち込み、集中させる。
それも僅か一秒にも足らずの間に。
それでも、剣聖は―――無動。
それは、ただ地球と一体化しているだけではないから。
命力による究極の硬化が更に施され、創世拳の連撃すら無効化する。
すなわち、大地に付いている時の剣聖に生半可な攻撃は無意味だという事だ。
「言ったハズだ。 この程度では無理だと。 【剛命功】は全身くまなく張り巡らせる事が出来る。 そして受けた力を全て命力を通した場所へ散らせる事もな。 おめぇの一撃も全て大地へ受け流し相殺した。 例え全身を破壊する一撃であろうとも関係は無ぇ」
剣聖は今の連撃で創世の拳の仕組みを理解したのだろう。
その一撃が剣聖という存在そのものを破壊しようとする力なのだと。
それが逆に創世拳の弱点でもある事も。
創世拳の特性である存在破壊。
撃ち込んだ相手の全身にくまなく衝撃を与え、魔剣を粉々に砕く事さえ可能とした。
ただそれはつまり、力が均等に分散しているという事に他ならない。
ならば全身に散った威力をくまなく大地に流し込めばいい。
全身を【剛命功】によって包めば、そんな芸当など訳は無いのだから。
「おめぇが【剛命功】を貫くにゃ一点集中しかねーぜ。 って事はだ、その腕甲じゃあ無理ってこった」
「ぐッ!!」
「それにもう小細工は要らん。 抜きな、おめぇの一番を。 俺ぁそれにしか興味はねぇ。 それに言ったハズだ、本気を出さなけりゃおめぇは死ぬってよぅ」
どうやら今の連撃で勇の拳術練度を見抜いた様だ。
その練度が創世拳の威力に雑さをもたらしていた事も。
だからこそ望む。
創世剣を使う事を。
それが最も有効で、かつ満足に戦える唯一無二の武器なのだから。
剣聖の超防御力を前には、プロセスアウト攻撃すら無為に帰す。
通用する可能性があるのはもはや創世剣のみ。
でももしそれが通用しなかったならば―――
まだ始まったばかりにも拘らず、二人の戦いを暗雲が覆う。
果たして勇はどこまで剣聖と戦えるのか。
剣聖を打倒する事は出来るのか。
まだまだその答えは欠片も見えそうにない。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる