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第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
~真に救、世に最後の抗いを、一縷の望みをその手に賭して~
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アルトランの計画、それは即座の世界崩壊。
待つ事も無く、眺め続ける事も無く。
相手が諦めるのを待つ事無く、最後の一手を自らが差す。
もはやそこに慈悲は無い。
いや、これがアルトランなりの慈悲なのかもしれない。
世界がこれ以上無駄な怨恨で覆い尽くされない為の。
自身を育てたこの世界への手向けとして。
呪われし 怨恨世界に 祝福を
穢れし 嫌忌世界に 愛之手を
滅命こそが 救いならば 今こそ成そう
全てを遡りて 滅しよう 其が使命なれば
果てに世界の 終わりと 始まりを
永遠世界 無情界を以って 真始を築こうか
『一つ、皆さんに伝えねばならない事があります』
それはア・リーヴェさんから逆襲計画が伝えられて間も無い時。
浮かれる心輝達の釘を刺す様に、心の声が一帯へと響き渡る。
それが彼女にとって、最も伝えねばならない事だったから。
『確かに、アルトラン・ネメシスを倒せば世界は救われます。 その逆転方法も、ただそれだけを成す事を考えれば、そこまで可能性は薄く無いでしょう。 ですが―――』
その先は、ア・リーヴェさんにとってもとても伝え難い事実でしかない。
でも今はビーンボールも居なければ、勇も伝えられそうにないから。
だから彼女自身が伝えなければならない。
例え、どの様な結果をもたらす事になろうとも。
それがどんな悲劇を生む事になろうとも。
『―――それはすなわち、茶奈さんを殺すという事に他なりません』
そう伝えられた瞬間、管制室が沈黙に包まれる事となる。
それも当然だ。
あれだけ浮かれたその結果もたらされるのが、茶奈の死だと言うのだから。
世界の救いが、茶奈の死に繋がる。
こんな運命があるのだろうか。
こんな結末があっていいのだろうか。
勇が項垂れていたのは、この所為だったのだ。
世界を救えば茶奈は死ぬ。
茶奈を救えば世界が死ぬ。
究極の二択。
しかもどちらも救われない。
何もかもが救われない。
何故なら―――
『茶奈さんを斬れるのは勇だけです。 しかし茶奈さんを自身の手で斬り裂けば、勇は間も無く天士ではなくなるでしょう。 そうすれば世界融合は止まっても、解除する事は出来なくなります。 デュランでは力が届かないでしょうから』
そう、茶奈が死ねば世界は真に救われない。
フララジカを停滞させるだけで、完全な解決にはならないのだ。
勇が天士でなくなれば、【創世の鍵】を解除出来る者が居なくなってしまうから。
『茶奈さんを斬れずにアルトラン・ネメシスを生かした場合はもう言う必要もありませんね。 つまり、どちらに転んでも完全に世界を救えるとは言い難いのです』
「それじゃあ……それじゃあどうしろって言うんだよ!? 俺達に茶奈を殺せって言うのかよぉ!?」
「世界を救う為に……あの子を殺せって、そんなの無理に決まってるじゃない! 勇にそんな事出来る訳が無い……!!」
瀬玲の言う通り、きっとそれも難しい。
勇が素直に茶奈を斬る事なんて。
あれだけ愛し合っていたのだ。
あれだけ求め合っていたのだ。
そんな人を斬る事など出来る訳が無い。
「ふむ、ではつまり……逆に言えば完全に世界を救える方法があると?」
だがその時、ふと福留がポツリと漏らす。
それもまるで周囲の喧騒を押し留めるかの様に、合間を縫う様にして。
福留は気付いていたのだ。
ア・リーヴェさんが語る話に裏があるのだと。
秘められた可能性がまだ残されている事に。
「〝そこまで可能性は薄く無い〟とおっしゃられたという事は……すなわち。 可能性が薄い、でも間違いなく世界を救う方法があるという事でしょう?」
『……はい。 あります』
「「「ッ!?」」」
その秘められた可能性こそ、ア・リーヴェの知る最高の救い。
世界が救われ、勇が天士のままに勝利し―――そして茶奈もが救われる。
誰にも文句を言わせない完全勝利の手段が、勇達には存在する。
『それは、勇がアルトラン・ネメシスだけを斬る事です』
つまり、元凶だけを殺すという事だ。
憑代となった茶奈を傷付ける事無く。
『ただこれはとても成功確率が低いです。 茶奈さんを殺す場合の成功確率が四〇%程度に対して、アルトラン・ネメシスだけを殺す場合の成功確率は……一.〇二%。 それも相応の被害が予想されるでしょう』
「ちょ、それもう奇跡のレベルじゃん……」
それを数字に表してしまえば絶望しかないだろう。
成功確率一.〇二%……百回この世界を繰り返して一人茶奈が救えるという計算だ。
それこそまさに奇跡が起きなければ、その一人を導く事など出来はしない。
それに、この世界を二度も繰り返す事は出来ない。
やり直しが効くゲームでは無いのだから。
『もちろん斬り方を間違えれば茶奈さんの命はありません。 例えアルトラン・ネメシスを滅せても、移体を行った者は須らく死を迎えていますから。 そしてその正しい方法は私も見当が付きません。 あくまでも可能性でしかないのですから。 しかもそれを狙いながら戦うという事は相手に隙を見せる事にもなります。 それだけ不利は否めないでしょう』
「つまり一.〇二%は成功確率と同時に、正解誘引率も含まれているという事ですね。 はてさて、これは厳しい……」
しかもその手段がわからない。
一歩間違えただけならば四〇%の方の結果に滑り込むのだろうが。
保険としては充分だが、ア・リーヴェさんの言い方ではその確率さえも減るという事なのだろう。
つまり、頭打ちという事だ。
ただし、福留だけを除いて。
「さて、勇君。 今の話を聞いた上で、君に少しお聞きしたい事があります」
「え?」
そんな福留はと言えば、人差し指を「ピンッ」と立てていて。
いつもの様な緩い微笑みを勇へと向ける。
そう。
いつも通りの福留の姿がそこにあったのだ。
「君のそんな姿を見るのは久しぶりです。 エウリィさんの時でしたか。 あれは事後でどうしようもありませんでした」
「そうですね……また、同じ事を繰り返してる。 俺は―――」
「勇君ッ!!」
「ッ!?」
しかしその時、突如として怒号が響き渡る。
勇の弱音を断ち切る福留の怒鳴り声が。
「―――以前もこうして貴方の弱音を正した事があると記憶しています。 ええ、懐かしいですね。 そしてあの時、君はエウリィさんと同じ空色の瞳を宿し、獅堂君と戦いました。 己の信念に従ってねぇ」
「……はい」
ただその怒鳴り声は決して責め立てる様な理不尽なものではない。
むしろ、勇の心を奮い立たせんばかりの―――激励にも足る一声だ。
だからこそ今、勇は顔を上げていた。
その蒼の左眼を、福留に向けて。
「君の信念は今も繋がっています。 世界を救う為に色んな人に繋げ続けて来て。 そして本来有り得ない世界救済を成そうとしています。 あのアルトランにとってのイレギュラーとしてねぇ」
『そうですね。 勇はアルトランでも予測出来ない事をしてきました。 今回の事はそれさえも越せる様にと策を弄してきましたが、常にそうなるとも限りません』
「ええ。 でも勇君が居なければきっとこうさえならない。 つまり世界は間違い無く滅んでいたという訳です。 それならですね、どうせ世界が滅ぶハズだったのなら―――この際、賭けてみませんか?」
「「「へっ?」」」
するとそんな福留からはどうにも緩い一言が。
誰しもがキョトンとしてしまう程に。
でもこれはきっと福留の操心術の一つなのだろう。
この場で最も相応しい結論に運ぶ為の。
最も正しくあるべき答えに導く為の。
「勇君は言わばこの世界にとってのボーナスチャンス的な存在です。 すなわち、君がどうしようと勝手な訳です。 なら君が思う様にやっては如何でしょうか? 何、失敗しても仕方ありません。 それが元々の運命ですからねぇ」
『そう、なるほど。 確かにそうですね』
「深く考える必要はありませんよ。 君が茶奈さんを救いたいと思うなら、何としてでも救えばいい。 世界はそのついでで構いません。 世界なんておまけだと思えば良いのですよ」
「福留さん……俺は、俺は……ッ!!」
「そう、何たって君は―――」
そして福留は知っている。
勇がただ項垂れていた訳ではないという事を。
あの時と同じで、自分自身が出来る事を模索していたという事を。
「もう、茶奈さんを救う方法を導いているのでしょうから」
だから確信を以って指先を向けられる。
笑顔で安心して、そう言い切れる。
ずっとそうだった。
勇はずっとそうして答えを求めて来た。
諦めずに何度も思考を繰り返して。
例えわからなくても、悩んでも。
必ず答えを見つけだし、正しく進んで来た。
今もそれは変わらない。
変わらないから、皆が付いてきてくれた。
変わらないから、世界をここまで導けた。
そして最後のチャンスを与えてくれた。
その手で茶奈を救う為に。
過去に犯した過ちを繰り返さない為に。
だから勇は立ち上がる。
茶奈を救い、ついでに世界を救う為に。
最初からもう、それ以外に眼中は無いのだから。
「ありがとうございます福留さん。 俺、吹っ切れられそうです」
「いえいえ、今はこんな年寄りの言葉でも必要な時ですから。 だから何度でも言いましょう。 〝愚行を許さない正しき力を振るう者としての行いをしましょう〟とね。 それはすなわち、茶奈さんを見捨てる事もまた愚行なのです。 それを選ばなかった君はやはり〝勇君〟です」
ようやく前向きになれた勇の肩を、福留が「ポンポン」と手で叩く。
まるで「おかえり」と言わんばかりの優しい手付きで。
勇が思わず微笑んでしまう慈しみさえ込めて。
そうして立ち上がったから。
だから勇はもう、迷わない。
「ごめん皆、俺はやっぱり茶奈を救いたい。 その成功率が未だ低いのはわかってる。 俺の我儘だって事もわかってる。 けど、それでも何が何でも救いたいんだ! 俺が、この手で救いたいんだ!!」
「勇……」
「だから頼む、茶奈を救う俺を許してくれ!! その代わりに誓う。 必ず茶奈を救ってみせる。 そしてついでに世界も救う。 レンネィさんもだ!! 何もかも、俺が全部ついでに救ってやる!!」
「ヘッ、へへ……」
確率など、こうなれば何の意味も成さないだろう。
成功の可能性が見えるまで徹底する、その気概がある限り。
そしてそれを支えてくれる仲間がいる限り。
「だから皆、力を貸してくれ!! 茶奈を救う力を、俺に貸してくれぇッ!!!!」
この一心の想いを貫き続ける限り。
世界は、人は、彼に委ねるだろう。
希望を必然と出来る力を持つ者こそが、奇跡を呼び寄せられると信じられるから。
「よし、話は決まってぇだな。 なら奴をブッ飛ばそうぜ。 茶奈を救ってよォ」
「剣聖さん、人の話聞いてたんっすかぁ?」
「馬鹿野郎!!それ以外に何があるっつぅんだ!! 俺ぁ最初からそのつもりだったぜ?」
「はは、剣聖さんも相変わらずだ……ほんと、あの時みたいだなぁ」
誰も答えは返さない。
返す必要なんて無かったのだ。
皆、勇のそんな言葉を待っていたのだから。
誰も、茶奈を犠牲にするつもりなんて無かったのだから。
ならもう、誰も迷わない。
勇がこうして道を示し続けてくれている限り。
今の勇は、世界から闇を除く程に照らして導いてくれる―――太陽の如き存在なのだから。
こうして皆が見せた素顔はまるで五年前を彷彿とさせるかのよう。
あの時は打倒対象だった獅堂も、今では同じ仲間として奮い立つ。
そう、あの時とは何もかもが違う。
まだ失っていない、まだ諦めてはいない。
だから絶望なんて必要無い。
茶奈を救えば、それが結果的に世界を完全に救う事となるのだから。
ならばそれを成し遂げればいい。
それだけで、全ての人が笑うだろう。
それだけで、全ての人が納得するだろう。
だからついでに世界を救えばいい。
例えアルトラン・ネメシスが如何な策略を用いようとも打ち砕こう。
例え如何な強敵が待っていようとも叩き伏せよう。
勇と茶奈、二人を人として再び引き合わせるその為に。
今こそ、人と世界が―――奮い立つ時だ。
第三十七節 完
待つ事も無く、眺め続ける事も無く。
相手が諦めるのを待つ事無く、最後の一手を自らが差す。
もはやそこに慈悲は無い。
いや、これがアルトランなりの慈悲なのかもしれない。
世界がこれ以上無駄な怨恨で覆い尽くされない為の。
自身を育てたこの世界への手向けとして。
呪われし 怨恨世界に 祝福を
穢れし 嫌忌世界に 愛之手を
滅命こそが 救いならば 今こそ成そう
全てを遡りて 滅しよう 其が使命なれば
果てに世界の 終わりと 始まりを
永遠世界 無情界を以って 真始を築こうか
『一つ、皆さんに伝えねばならない事があります』
それはア・リーヴェさんから逆襲計画が伝えられて間も無い時。
浮かれる心輝達の釘を刺す様に、心の声が一帯へと響き渡る。
それが彼女にとって、最も伝えねばならない事だったから。
『確かに、アルトラン・ネメシスを倒せば世界は救われます。 その逆転方法も、ただそれだけを成す事を考えれば、そこまで可能性は薄く無いでしょう。 ですが―――』
その先は、ア・リーヴェさんにとってもとても伝え難い事実でしかない。
でも今はビーンボールも居なければ、勇も伝えられそうにないから。
だから彼女自身が伝えなければならない。
例え、どの様な結果をもたらす事になろうとも。
それがどんな悲劇を生む事になろうとも。
『―――それはすなわち、茶奈さんを殺すという事に他なりません』
そう伝えられた瞬間、管制室が沈黙に包まれる事となる。
それも当然だ。
あれだけ浮かれたその結果もたらされるのが、茶奈の死だと言うのだから。
世界の救いが、茶奈の死に繋がる。
こんな運命があるのだろうか。
こんな結末があっていいのだろうか。
勇が項垂れていたのは、この所為だったのだ。
世界を救えば茶奈は死ぬ。
茶奈を救えば世界が死ぬ。
究極の二択。
しかもどちらも救われない。
何もかもが救われない。
何故なら―――
『茶奈さんを斬れるのは勇だけです。 しかし茶奈さんを自身の手で斬り裂けば、勇は間も無く天士ではなくなるでしょう。 そうすれば世界融合は止まっても、解除する事は出来なくなります。 デュランでは力が届かないでしょうから』
そう、茶奈が死ねば世界は真に救われない。
フララジカを停滞させるだけで、完全な解決にはならないのだ。
勇が天士でなくなれば、【創世の鍵】を解除出来る者が居なくなってしまうから。
『茶奈さんを斬れずにアルトラン・ネメシスを生かした場合はもう言う必要もありませんね。 つまり、どちらに転んでも完全に世界を救えるとは言い難いのです』
「それじゃあ……それじゃあどうしろって言うんだよ!? 俺達に茶奈を殺せって言うのかよぉ!?」
「世界を救う為に……あの子を殺せって、そんなの無理に決まってるじゃない! 勇にそんな事出来る訳が無い……!!」
瀬玲の言う通り、きっとそれも難しい。
勇が素直に茶奈を斬る事なんて。
あれだけ愛し合っていたのだ。
あれだけ求め合っていたのだ。
そんな人を斬る事など出来る訳が無い。
「ふむ、ではつまり……逆に言えば完全に世界を救える方法があると?」
だがその時、ふと福留がポツリと漏らす。
それもまるで周囲の喧騒を押し留めるかの様に、合間を縫う様にして。
福留は気付いていたのだ。
ア・リーヴェさんが語る話に裏があるのだと。
秘められた可能性がまだ残されている事に。
「〝そこまで可能性は薄く無い〟とおっしゃられたという事は……すなわち。 可能性が薄い、でも間違いなく世界を救う方法があるという事でしょう?」
『……はい。 あります』
「「「ッ!?」」」
その秘められた可能性こそ、ア・リーヴェの知る最高の救い。
世界が救われ、勇が天士のままに勝利し―――そして茶奈もが救われる。
誰にも文句を言わせない完全勝利の手段が、勇達には存在する。
『それは、勇がアルトラン・ネメシスだけを斬る事です』
つまり、元凶だけを殺すという事だ。
憑代となった茶奈を傷付ける事無く。
『ただこれはとても成功確率が低いです。 茶奈さんを殺す場合の成功確率が四〇%程度に対して、アルトラン・ネメシスだけを殺す場合の成功確率は……一.〇二%。 それも相応の被害が予想されるでしょう』
「ちょ、それもう奇跡のレベルじゃん……」
それを数字に表してしまえば絶望しかないだろう。
成功確率一.〇二%……百回この世界を繰り返して一人茶奈が救えるという計算だ。
それこそまさに奇跡が起きなければ、その一人を導く事など出来はしない。
それに、この世界を二度も繰り返す事は出来ない。
やり直しが効くゲームでは無いのだから。
『もちろん斬り方を間違えれば茶奈さんの命はありません。 例えアルトラン・ネメシスを滅せても、移体を行った者は須らく死を迎えていますから。 そしてその正しい方法は私も見当が付きません。 あくまでも可能性でしかないのですから。 しかもそれを狙いながら戦うという事は相手に隙を見せる事にもなります。 それだけ不利は否めないでしょう』
「つまり一.〇二%は成功確率と同時に、正解誘引率も含まれているという事ですね。 はてさて、これは厳しい……」
しかもその手段がわからない。
一歩間違えただけならば四〇%の方の結果に滑り込むのだろうが。
保険としては充分だが、ア・リーヴェさんの言い方ではその確率さえも減るという事なのだろう。
つまり、頭打ちという事だ。
ただし、福留だけを除いて。
「さて、勇君。 今の話を聞いた上で、君に少しお聞きしたい事があります」
「え?」
そんな福留はと言えば、人差し指を「ピンッ」と立てていて。
いつもの様な緩い微笑みを勇へと向ける。
そう。
いつも通りの福留の姿がそこにあったのだ。
「君のそんな姿を見るのは久しぶりです。 エウリィさんの時でしたか。 あれは事後でどうしようもありませんでした」
「そうですね……また、同じ事を繰り返してる。 俺は―――」
「勇君ッ!!」
「ッ!?」
しかしその時、突如として怒号が響き渡る。
勇の弱音を断ち切る福留の怒鳴り声が。
「―――以前もこうして貴方の弱音を正した事があると記憶しています。 ええ、懐かしいですね。 そしてあの時、君はエウリィさんと同じ空色の瞳を宿し、獅堂君と戦いました。 己の信念に従ってねぇ」
「……はい」
ただその怒鳴り声は決して責め立てる様な理不尽なものではない。
むしろ、勇の心を奮い立たせんばかりの―――激励にも足る一声だ。
だからこそ今、勇は顔を上げていた。
その蒼の左眼を、福留に向けて。
「君の信念は今も繋がっています。 世界を救う為に色んな人に繋げ続けて来て。 そして本来有り得ない世界救済を成そうとしています。 あのアルトランにとってのイレギュラーとしてねぇ」
『そうですね。 勇はアルトランでも予測出来ない事をしてきました。 今回の事はそれさえも越せる様にと策を弄してきましたが、常にそうなるとも限りません』
「ええ。 でも勇君が居なければきっとこうさえならない。 つまり世界は間違い無く滅んでいたという訳です。 それならですね、どうせ世界が滅ぶハズだったのなら―――この際、賭けてみませんか?」
「「「へっ?」」」
するとそんな福留からはどうにも緩い一言が。
誰しもがキョトンとしてしまう程に。
でもこれはきっと福留の操心術の一つなのだろう。
この場で最も相応しい結論に運ぶ為の。
最も正しくあるべき答えに導く為の。
「勇君は言わばこの世界にとってのボーナスチャンス的な存在です。 すなわち、君がどうしようと勝手な訳です。 なら君が思う様にやっては如何でしょうか? 何、失敗しても仕方ありません。 それが元々の運命ですからねぇ」
『そう、なるほど。 確かにそうですね』
「深く考える必要はありませんよ。 君が茶奈さんを救いたいと思うなら、何としてでも救えばいい。 世界はそのついでで構いません。 世界なんておまけだと思えば良いのですよ」
「福留さん……俺は、俺は……ッ!!」
「そう、何たって君は―――」
そして福留は知っている。
勇がただ項垂れていた訳ではないという事を。
あの時と同じで、自分自身が出来る事を模索していたという事を。
「もう、茶奈さんを救う方法を導いているのでしょうから」
だから確信を以って指先を向けられる。
笑顔で安心して、そう言い切れる。
ずっとそうだった。
勇はずっとそうして答えを求めて来た。
諦めずに何度も思考を繰り返して。
例えわからなくても、悩んでも。
必ず答えを見つけだし、正しく進んで来た。
今もそれは変わらない。
変わらないから、皆が付いてきてくれた。
変わらないから、世界をここまで導けた。
そして最後のチャンスを与えてくれた。
その手で茶奈を救う為に。
過去に犯した過ちを繰り返さない為に。
だから勇は立ち上がる。
茶奈を救い、ついでに世界を救う為に。
最初からもう、それ以外に眼中は無いのだから。
「ありがとうございます福留さん。 俺、吹っ切れられそうです」
「いえいえ、今はこんな年寄りの言葉でも必要な時ですから。 だから何度でも言いましょう。 〝愚行を許さない正しき力を振るう者としての行いをしましょう〟とね。 それはすなわち、茶奈さんを見捨てる事もまた愚行なのです。 それを選ばなかった君はやはり〝勇君〟です」
ようやく前向きになれた勇の肩を、福留が「ポンポン」と手で叩く。
まるで「おかえり」と言わんばかりの優しい手付きで。
勇が思わず微笑んでしまう慈しみさえ込めて。
そうして立ち上がったから。
だから勇はもう、迷わない。
「ごめん皆、俺はやっぱり茶奈を救いたい。 その成功率が未だ低いのはわかってる。 俺の我儘だって事もわかってる。 けど、それでも何が何でも救いたいんだ! 俺が、この手で救いたいんだ!!」
「勇……」
「だから頼む、茶奈を救う俺を許してくれ!! その代わりに誓う。 必ず茶奈を救ってみせる。 そしてついでに世界も救う。 レンネィさんもだ!! 何もかも、俺が全部ついでに救ってやる!!」
「ヘッ、へへ……」
確率など、こうなれば何の意味も成さないだろう。
成功の可能性が見えるまで徹底する、その気概がある限り。
そしてそれを支えてくれる仲間がいる限り。
「だから皆、力を貸してくれ!! 茶奈を救う力を、俺に貸してくれぇッ!!!!」
この一心の想いを貫き続ける限り。
世界は、人は、彼に委ねるだろう。
希望を必然と出来る力を持つ者こそが、奇跡を呼び寄せられると信じられるから。
「よし、話は決まってぇだな。 なら奴をブッ飛ばそうぜ。 茶奈を救ってよォ」
「剣聖さん、人の話聞いてたんっすかぁ?」
「馬鹿野郎!!それ以外に何があるっつぅんだ!! 俺ぁ最初からそのつもりだったぜ?」
「はは、剣聖さんも相変わらずだ……ほんと、あの時みたいだなぁ」
誰も答えは返さない。
返す必要なんて無かったのだ。
皆、勇のそんな言葉を待っていたのだから。
誰も、茶奈を犠牲にするつもりなんて無かったのだから。
ならもう、誰も迷わない。
勇がこうして道を示し続けてくれている限り。
今の勇は、世界から闇を除く程に照らして導いてくれる―――太陽の如き存在なのだから。
こうして皆が見せた素顔はまるで五年前を彷彿とさせるかのよう。
あの時は打倒対象だった獅堂も、今では同じ仲間として奮い立つ。
そう、あの時とは何もかもが違う。
まだ失っていない、まだ諦めてはいない。
だから絶望なんて必要無い。
茶奈を救えば、それが結果的に世界を完全に救う事となるのだから。
ならばそれを成し遂げればいい。
それだけで、全ての人が笑うだろう。
それだけで、全ての人が納得するだろう。
だからついでに世界を救えばいい。
例えアルトラン・ネメシスが如何な策略を用いようとも打ち砕こう。
例え如何な強敵が待っていようとも叩き伏せよう。
勇と茶奈、二人を人として再び引き合わせるその為に。
今こそ、人と世界が―――奮い立つ時だ。
第三十七節 完
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